log 2007 1 - 8
世界は不思議に満ちている 武蔵森・ビスケ / 「To Shine」主人公普通に、試合を終えて寮へと戻る途中だったはずだ。珍しいことといえば校外試合だったことぐらいで、でもそれだってたまにはあることだから大したことじゃない。いつものように三上と軽口を叩き合って、藤代が絡んできて、笠井がとめて、渋沢があまり騒ぐんじゃないぞ って苦笑して、そう、いつもどおり。なのに、この状況はなんだ?
「・・・有り得なくね?」
武蔵森のジャージに、武蔵森のエナメルに、スパイク袋を持った俺。別にこれは大してどうとかって話じゃない。だけど問題は、なんでそんな俺がバカみたいな森の中にいるかってことだ。しかも1人。三上たちは何処行ったんだよオイ。なに、俺もしかして突然倒れてコレ夢の中とかって話か?いやでも試合っつったって倒れるほど疲れてたわけじゃねぇし、まして睡眠不足とかってこともねぇだろ。じゃぁなんだよコレ。
まとまらない思考のままに周りを見渡してみても、360°視線を回したって、あるのは木、木、木。くそ、マジありえねぇ と小さく呟きながら、ちょうど手元にあった石をグっと握った。 ――― ビシっ!
「・・・・・、は?」
なんだ、今の。思って自分の手へと目をやれば、粉々になった、多分ってかさっきまで石だったはずだろコレ ってのが、手の中にあった。は?え、なに、俺がやったのコレ?え、石だろ?リンゴ潰すのだって握力60とかいるんじゃねぇのかよ。石とか出来るわけねぇじゃん普通に。
呆然としたまま、周りを見渡して少し大きめの石をとる。ちょうど手の平いっぱいというサイズの石だ。信じられない気持ちのままに、グ と力を入れれば、先ほどよりも大きい音が響く。 ――― ビシッ!
「・・・・・」
「何してるのさ?」
と、いきなり聞こえた声に、俺はやりすぎなくらいにビクついた。だっておま、こんな状況で声かけられてみ!?とりあえず俺はそろそろとその声のしたほうを振り返った。そしたら、そこには二つ結びの髪にぶわって広がったスカートの可愛い女の子・・・って、え、ビスケ?いや待てきっと勘違いだよな、・・・・・ちょっと待てこれホントなんなんだよこの展開?
「あら!若くていい・・・コホン!どうかしたんですか?」
「・・・あ、いや・・ちょっと、迷ったっていうか・・」
どうなってんの、マジで。
「To Shine」→ HUNTER×HUNTERへ。という突発ネタ。
さあ、行くとしようか 魔人探偵脳噛ネウロ ネウロ / 女主人公
「地上に行くの?」
後ろからかけられた言葉に、ネウロはゆっくりとした動作で振り返った。この声の主などとっくにわかっている。声をかける前から、彼女がいることなど知っていた。けれどその上で、ネウロは今気づいたというように彼女の名前を呼ぶ。けれど彼女は、そんなことを気にしないとでもいうようにまっすぐにネウロを見た。ふむ とネウロは考えるように口元に手をやる。
「いつものような反応が返ってこないのはつまらんな」
「・・・、ネウロ、ちゃんと答えて」
ネウロの言葉に、彼女はぎゅ と拳を握った。ネウロへ向ける視線をそらすことはない。しばらくそのまま視線を交錯させる時間が続いたが、先に折れたのはネウロのほうだった。意外だ と人 ―― いや、きちんというならば魔人たち ―― は言うかもしれないが、ネウロの彼女の間では、ネウロが折れることなどさして珍しいことではなかった。彼女は、ネウロにとっての唯一の女であるからだ。
「どうしてそう思うのだ?」
「・・・あなたを見てれば、わかるわよ。」
「・・・ふむ」
彼女の言葉に、ネウロはにやりと笑う。こっちは、真剣な話をしてるのよ と彼女が言うよりも早くに、ネウロは彼女の身体を包み込んだ。魔人であるネウロには造作もないことだが、それも、彼女がネウロに抵抗しようとは思わないためだった。答えて と、彼女がネウロの腕の中で小さく呟く。ネウロは、そうだ とはっきり口にした。
「我が輩は地上に行く」
「・・・、どうして、」
「お前も共に行くのだ」
言ってくれなかったの という彼女の言葉は、ネウロの言葉にかき消された。え?とネウロを見上げれば、ネウロは他の魔人たちが驚いて目を飛び出させてしまいそうなほどに優しく笑っている。あまり見ないその笑顔に彼女が驚いているうちに、ネウロは彼女の頭を無理やりのように自分の胸へと押し付けた。
「お前が気づかなければ、一人で行くことにしていた。そんなことはないと思っていたがな」
拒否権などないぞ と言うネウロに、ふわりと彼女が笑う。ゆっくりと頷いた彼女を確認して、ネウロは さて、と上を見上げた。
魔人カッポー!魔人ってどんな人がモテるんだろう
年上の彼女 ホイッスル! 椎名 / 女主人公
「もう、いつまでふてくされてるの」
「うるさいな。誰のせいだかわかってんの?」
くすくすと笑う彼女に、翼はぶすっとした顔を隠さずに答えた。その答えにますます笑い出す彼女に、翼の機嫌は比例したように悪くなる。そうして、ふい と彼女から視線をはずした翼に、彼女は もう と内心で苦笑しながら翼に触れた。 自分よりもいくつか若い翼は、だけど筋力でいったら彼のほうが強いのだろう。こういうところは、男女の身体のつくりの違いだ。
「ねぇ、本当に私がそんなことしたって思ってるの?」
「・・・」
ふわり と優しく触れてきた手に、翼は押し黙る。こうやって彼女に触れていると、自分があまりにも幼いことに悔しくなる。そして同時に、こんなふうに触れられると、こうやってふてくされていることがばかばかしく思える。本当は、本気で彼女のことを疑ってるわけじゃないことくらい、自分でわかってるのに。 こんなだから年下扱いされるんだと、わかってはいるのに。
「つばさ」
「・・・・・・、わかってる。思ってないよ」
はぁ と降参というように息を吐いて、翼が背中をソファに預けた。それを見て、にこりと彼女が笑う。ありがとう といわれて、本当に、なんでこんなことしてるんだろうと翼は思う。全く、いつもこうだ。このたびに自分が子どもで、彼女が大人だということを認識させられる。
「あなたが好きよ、翼」
「・・・僕も、好きだよ」
そっと頬に触れれば、彼女は優しく笑って目を閉じた。こういうところでも、恋愛経験の差なんてものが出てくるのだろうか?そんなことを考えながらも、それを上回る愛しさに、僕は静かに唇を合わせた。
翼さんが甘えられる人。日記再録。
あなたたちのために 「新撰組!」 土方・沖田 / 男主人公
「なぁ、総司」
隣からかかった声に、総司は庭に向けていた視線をずらした。そこには新撰組として、本当にはじめから、ずっと一緒にいた男がいる。総司よりも年上で、けれど、土方よりも年下。剣の腕前は総司と新撰組の1・2を争うほどのものだった。総司が戦線を離脱し、ここで休養をするようになってから、彼がここにきたのは久しぶりになる。
「なんですか?」
「俺たちはさ、やっぱり、近藤さんと土方さんのために戦ってきたんだよな」
ポツリ と彼が言う。総司と彼は、尊皇攘夷に近藤たちほどの意思は持っていなかった。近藤と土方という、憧れの人のために。大切な人のために。そのために、剣を抜いて、人を切ってきたのだ。数え切れないほどの、人を。そんな自分が天国にいけるとは思っていないけれど、それでも、死ぬのならば戦場がよかった。総司がそうこぼしたのは、前回、彼がここにやってきたときだった。
「どうしたんです?突然」
「・・改めて、思ったんだ。俺は、あの人たちのために。あの人たちを護りたいって望んだ俺のために、剣を振ってきたんだ。・・・もちろん、お前も入ってるからな?」
「ふふ・・ありがとうございます。僕の理由にも、もちろん貴方がいますよ」
彼の言葉に照れくさそうに笑いながら、総司が言った。彼は、ふわりと笑う。こういう笑い方のできる彼が、総司は好きだった。彼は、ふわりと笑うのだ。何度この笑顔に救われてきたのだろう。きっと、幼いころに喧嘩で泣いたときも、初めて人を切ったときも、多摩に残されそうになったときも、この病気が知れたときも。この笑顔を貰って、乗り越えてきた。
「それじゃぁ、もういくな」
「あぁ・・大分話してしまいましたね」
立ち上がった彼に、お気をつけて と総司が言う。それを俺に言うのか?と彼が笑えば、えぇ と総司が笑った。まったく と肩をすかせて、彼は総司の肩をぽんと叩いて、またな と呟いた。
「・・・あいつが、来たのか?」
「えぇ、一昨日に」
土方の言葉に、総司が答えた。彼と同じく、久しぶりにここへとやってきた土方は、驚いたように総司を見る。そんな土方に、一月と少し前にも来てくれたんですよ と総司が言った。そうか と言葉を返して、土方は手の中にある茶碗へと目をやった。お前も、総司が心配だったのか と。
「あいつは、何て言ってやがった?」
「そうですねぇ・・めずらしく、感傷的でしたよ」
「・・・感傷的?」
「えぇ。大切な人を護るために剣を抜いてきたんだ、って」
「・・・・・・・・そうか」
総司の言葉に、土方はそっと目を閉じた。あの馬鹿。そう、内心で呟く。そうすれば、あいつの独特の ふわりとした笑顔が浮かんで、ふいに涙腺が緩みかけた。けれど、それはいけない。総司は知らないんだ。『副長は泣いちゃだめですよ、土方さん』。・・・・・あぁ、やっぱりお前は馬鹿だ。
次に会ったときは一発殴ってやる。そうしたら、また、・・どうか、また、
はじめの日 おおきく振りかぶって 阿部 / 女主人公
「た、隆也!」
「なんだ?」
「た、隆也って、誕生日、12月12日なの?」
「そうだけど?それが・・」
「なんで教えてくれなかったの!?もう過ぎちゃったじゃん!」
「いやおま、あの日にそんな余裕あったのかよ?」
「言ってくれたらお祝いしたよ!っていうかあのタイミングで言おうよ!」
「言えるか!だいたいあの帰り道の雰囲気で 俺今日誕生日なんだ とか無理だろ!」
「でも、言ってくれたら、わぁそうなんだ!ってちょっと盛り上がったでしょ!?」
「そういう問題じゃ・・・!」
「じゃぁどういう問題!?」
「・・・・・、ぃだろ」
「え?」
「〜〜〜誕生日に告ったとか、はずいだろーが!」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・えと、そ、そんなこと?」
「そんなじゃねぇっての、こっちとしては・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・えぇと、それじゃぁ、あの、遅れましたけど、これプレゼントです・・」
「・・・・おう、サンキュ」
「・・次は、ちゃんと当日にお祝いさせてね」
「・・・、悪かった、です」
「おい阿部ーまた2人の世界作ってんなよー」「うるせぇクソレフト!」
二度目の出会い 最遊記 三蔵一行 / 男主人公
「なにかあるんでしょうかねぇ・・・」
巻いていた砂よけの布を緩めながら、八戒がつぶやいた。その言葉に、悟空は周りを見渡す。砂漠を抜けてすぐにあるこの町は、あわただしく人々が走り回り、悟空たちのような外から来た者になど関心がない様子だ。とは言っても、悪い意味でではない。まるでなにか ――― 町を挙げての行事でも行われるかのようだ。
「祭りでもやんのかなぁ?」
「いや、ちげーだろ。」
たこ焼きや焼きそばなど、お祭り恒例の食べ物を思い浮かべる悟空を余所に、悟浄が笑顔を浮かべて食べ物を抱えながら、はやく差し上げに行こう と笑いあう子どもたちを見送りながら言った。どうも、自分たちが楽しむというよりは、誰か ――― それも素晴らしい人物を敬うようなそれに、ジープに乗ったまま黙っていた三蔵が小さく舌打ちをした。
「俺たちには関係ねぇ。さっさと宿だ」
はっきりといった三蔵の言葉に、そうですねと八戒がお決まりの笑顔を浮かべてジープを発進させる。綺麗なオネーサンはいるかねぇ、なんて笑う悟浄の隣で、悟空は遠くに見つけた大きな人だかりを見つめていた。
「・・・三蔵法師・・・ですか?」
「えぇ!昨日この町へお越しになられたんですよ。」
見つけた宿での調印の際、八戒は問いに対して返ってきた言葉に筆を止めた。悟浄と悟空は目を見開き、逆に三蔵は目を細める。それにはかまわずに、宿の女将であろう女性は昨日から歓迎させていただいてるんですが、とても美しく謙虚なお方で と笑顔を浮かべてその「三蔵法師」の話題を続ける。この町に来ているという 三蔵法師のことを。
八戒は身内の三蔵法師にちらりと視線を向ける。砂漠近辺のためかところどころ砂っぽいこの町で、まだ外していない布の奥で紫暗の瞳が何か考えるように細められているのを見て、そうなんですか と八戒は女将に返してから 調印を終えた帳簿を手渡し、驚いたままの悟浄と悟空の背を押す形で 部屋へと押し入れた。
「ちょ、八戒!てか三蔵!なに、三蔵って!」
「悟空、少し落ち着きましょうね」
驚きでよくわからなくなっている悟空を諭しながら、八戒が最後に部屋に入った三蔵へと視線をやる。三蔵はその視線に一瞥を返してから、煙草の煙を吐き出した。この場で一番落ち着いているのは、彼かもしれない。
「言っただろうが。この世にいる三蔵法師は俺だけじゃねぇ」
「そ・・そりゃ、そうだけどっ」
「――― だが」
食ってかかろうとする悟空の言葉を遮って、三蔵が低い声を漏らした。その声に、悟空や八戒、悟浄の視線も彼に集まる。そんなことを気にもせず、三蔵は煙草の煙を吐き出した。
「理由によっちゃ、会わないわけにはいかねぇだろうな」
「――― そこのお坊さん方」
そんな声が三蔵たちの耳に届いたのは、町に着いた翌日のことだった。身を隠すため、姿を隠す布を巻いているにも関わらずかけられた言葉。その言葉に、バカ正直に足をとめたのは悟空のみだった。他の面々はさも関係ないとばかりに通り過ぎようとしたのだが、悟空が え?と振り向いたためにその行動は無意味になる。ハリセンをぶちかましたいのを、米神を引き攣らせて何とかこらえていた三蔵の耳に届いたのは、驚いたような悟空の声だった。
「・・・あんたが・・三蔵?」
「・・正確には、私も“三蔵”だ。」
その言葉に、立ち止まったままだった悟浄と八戒が素早く振り返る。三蔵は、振り返ることはせずに小さくひとつ息を吐いた。その意図がなんだったのかはわからない。面倒だということなのか、会いたくは無かったということなのか、それとも違うものなのか。けれどそんな三蔵が背中を向けたままの“三蔵”は、声音を変えることなく言葉を続ける。
「そこの彼も、だろう?」
その言葉に、三蔵は今度こそわかるくらいの息をはいて声の主を振り返った。そこにいたのは、三蔵たちよりもいくつか年上だろう、整った顔をした男だった。黒目に黒髪。派手な印象は受けないが、それでもその凛とした雰囲気と印象的なツリ目気味の目は、金糸に紫暗の瞳を持つもう一人の三蔵とはまた少し違う意味で、一度目にしたら忘れないだろう。三蔵法師になるためには、第一印象でインパクトが強いという条件でもあるのだろうか と八戒は頭の片隅で思う。そんな彼らの前で、“三蔵”が笑う。
「はじめまして」
「お、おう!あ、俺、悟空っていうんだ」
「悟空・・いい名だな」
「・・へへ、サンキュー!なぁ、あんたは?」
「私は霊仙三蔵だ」
「へぇ、雲仙か!よろしくな!」
「・・・ってオイ猿!」
ポンポンと会話を続けながら笑う悟空を、我に返った悟浄がぐいと引き寄せた。ぐぇと声を漏らしながら、悟空が元の場所へと引き戻される。「何すんだよ!?」「そりゃこっちの台詞だ、おまえ何懐いてんだ!?」「だって雲仙は悪いやつじゃねぇよ!」「おまえな、三蔵は銃をぶっぱなすんだぜ!?こいつだって人の良さそうな顔して何するかわかんねーんだぞ!」そうやってガーガーとわめく悟空と悟浄に、八戒がしょうがないですねぇと目を細める。そんなうちにも、三蔵は一歩、雲仙三蔵へと近づいた。相変わらず穏やかな笑みを浮かべたままの雲仙に、三蔵は鋭い眼差しを緩めることをしないまま、口を開いた。
「経文の保持者の、雲仙三蔵か?」
「あぁ。三仏神から話は聞いていないか?」
「なんだって?」
「玄奘三蔵たちの牛魔王の討伐に参加するようにと言われたんだが」
雲仙の言葉に、三蔵一行はそれぞれがハァ!?といった顔をする。いってはなんだが、雲仙三蔵というこの青年はとてもじゃないが殺生を続けるこの旅に似合いそうな人物ではなかった。三蔵というくらいだ、どこぞの僧のようにただ「殺しは良くない」なんて言うとは思わないが ―― その考えにしても玄奘三蔵とともにいる彼らの“三蔵”のとらえ方は少しずれている ―― それにしたって。そう思う面々の中で、三蔵がまっすぐに雲仙を見た。雲仙もそれに返したために、バチリと音を立てそうなほどに重なった2人の三蔵の視線。その雰囲気に、思わず悟空たちは口をつぐむ。
「そのためにこの町に来たのか」
「そういうことだな」
「・・そりゃ、ご苦労なことだ」
三蔵の言葉に、雲仙はどうも と笑う。細められた三蔵の眼に少しも揺らぐことなく。三蔵は舌打ちでもしたい気分だった。ただでさえ団体行動というものが得意ではない自覚はあるというのに、ますますの団体様になる意味がどこにあるのだろうか。それに、こういったタイプの人間は得意ではないと前も ――― ・・・
「さて・・思い出してくれると嬉しいんだがな、江流」
そうして三蔵の幼名を口にした雲仙に、他の3人が え?という顔をする。その中で、三蔵の頭にはある人物が思い浮かんだ。あれはまだ光明が生きていたころ。まだあの山にいたころ。光明の知り合いだという少年が訪れたことがあった。そして、そう、一月ほどの間、あの寺に滞在していった少年が、いた。
「ッてめ・・まさかあの・・!」
「おや、思い出したか?久しぶりだな」
にこり と少し親しげに笑った雲仙に、しばらく雲仙を睨み付けていた三蔵は盛大に舌打ちをした。そう、覚えがある。どことなく自分の師である光明三蔵に似た雰囲気の、確か自分より3つ上だった男。近い年齢の人間が居なかったため、なんだかんだであの一月はよく一緒にいた人間だった。あれから十年余りが経ち、すっかり音沙汰もなく存在すら忘れかけていたというのに、まさか三蔵同士として再会するなんて思ってもいなかった。くそ と三蔵は煙草に手を伸ばす。こんなことなら三蔵の会だろうとなんだろうと作っておくべきだったかもしれない。――― 正直言って、あのころの自分は、光明の次にと言っていいほどに、彼との時間が好きだった。
「あれから何やってたんだよ」
「いろいろと、な。・・おまえもだろう」
疑問系ではなく言って、雲仙は自分より少し低い位置にある三蔵の頭に手をやった。その行動に、思い切り蚊帳の外になっている3人は固まる。そして、張本人である三蔵も固まった。まさかこの歳になってこんなことをされるとは思っても居なかったし、そもそも自分にこんなことをしてきたのは今までに3人だけだ。そして、そのうちの2人はもういない。三蔵は、何かを言おうと口を開いて、けれど結局はそのまま口を閉じた。そうして、しばらくしてから小さく舌打ちをする。そんな三蔵に、雲仙は小さく笑ってそっと手を離した。そして、さて と話を切り替える。
「一緒に行ってもいいか?玄奘」
「・・・・どうせ、こっちに拒否権なんてねぇんだろ」
諦めたように言う三蔵を気にすることもなく、雲仙はよろしくと笑う。そんな2人に、3人がつっこむまであと5秒。
連作だったの1つにまとめました。
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