log 2007 9 - 12

白と黒の会合  名探偵コナン 怪盗キッド / 「必ず君を捕まえてみせる」主人公


街が騒がしく揺れている。いつものネオンに混じって赤が点滅し、一定の低い音が響き渡る。そんな喧騒とは離れたある公園で、黒い怪盗は足をとめた。手には、この喧騒を作ったのであろう宝石がある。キラリと輝くそれは、けれどあと1時間もすれば別の人間の手の中にあるのだろう。それが、怪盗 I の『盗み』の体系だ。綺麗だな、とぼんやり思いながら宝石を布で包んだ怪盗 I の目の端に、ちらりと影が映る。そうしてふわりと降り立った白は、黒に向かって優雅に声をかけた。

「こんばんは、怪盗 I 」

その言葉に、怪盗 I はゆっくりと振り返った。そうして、そこにある姿ににこりと笑い返す。白のシルクハットに白のスーツ。自分と対照的な色で身をまとった彼のことを知らない人間はいないだろう。とはいえ、対面することになろうとは思ってもいなかった。数ヶ月前、怪盗 I になるまでは。

「こんばんは、怪盗キッドさん」

怪盗 I の言葉に、キッドは見える口元に笑みを浮かべて I へと近づいた。そうして、彼女の手をとって恭しく礼をする。全日本3連覇の空手チャンプは警戒を怠らないままで、ご丁寧にどうも と返した。そうすれば、怪盗キッドはその手を外す。

「これほど綺麗な女性にお会いできて嬉しいです」
「上手いのね。ご用件はなにかしら」

さらりと流して問いかけてきた彼女に、キッドは、本当ですよ と返してから、そちらの宝石を見せていただけますか と声をかけた。その言葉に、怪盗 I はわからない程度に眉を寄せる。これは、自分の所有物ではない。返さなければいけないものだ。

「見て、どうするつもり?」
「欲しいものでなければ、すぐにお返しします」

はっきりと言い切ったキッドを、I は真っ直ぐに見る。目が隠れていてもわかる整った顔立ちは、笑みを浮かべてはいるが、胡散臭いと思わせるものではなかった。少し考えてから、彼女は盗んだ ――― 取り返した宝石をキッドに手渡す。ありがとうございます と言って受け取った彼は、しばらく宝石を慎重に見つめてから、小さなため息をついた。そうして、違うようです と彼女に告げる。

「お返しします」

そうして差し出してきた宝石を受け取れば、それはどなたに?とキッドが穏やかに笑って問いかけた。その言葉に、 I は少し目を見開いて、けれど返すように口元を上げる。

「あなたに関係あるかしら?」

それだけ言って、 I が踵を返した。その後ろ姿を追う事はせずに見送りながら、お気をつけて と聞こえるくらいの声で言う。そうして、いつもの「キッド」とは違う笑い方で笑う。あれはまた、すげぇ女だな と楽しげに呟いた言葉は、数ヶ月後に彼とよく似た人物が思ったことと同じだった。



「必ず君を捕まえてみせる」番外編。怪盗 I と怪盗キッド






終わるまで、なんて待ってられない   ゴーストハント ナル / 女主人公


からん、と響いた音に、椅子に座っていた麻衣は立ち上がった。これは、ここ、渋谷サイキックリサーチの事務のバイトをしている麻衣の仕事でもある。そんな麻衣に、扉を開けた人物は、こんにちは とにこりと笑った。麻衣がぱちりと目を開く。それは、そこにいたのが自分とあまり歳の違わないだろう女の子1人だったからだ。

「あ・・えと、ご依頼ですか?」
「少し違うんですけど・・所長さんにお会いしたいんですが、」

いらっしゃいますか?と軽く首を傾げる彼女に、麻衣は危うくほわーと見惚れかける。けれどもハッとしたように、あ、はい!と返事を返した。所長 ――― であるナルは、いることはいる。だがしかし、あいかわらず所長室に篭りきりだし、依頼とは少し違うとなると・・・。そんなことを思いながら、とりあえずナルに声をかけてみるしかないかな、と麻衣が彼女の名前を聞こうとしたとき、ナイスというしかないようなタイミングで、所長室のドアが開いた。お と麻衣は顔を輝かせる。これで、露骨に嫌な顔をされる機会は減っただろう。そう思ったのだ。

「ナル、お客さんが・・」
「客? ――― 、」

麻衣の声に軽く眉を顰めながら視線を向けたナルが、ぱちりとひとつ瞬きをした。その反応に、え?と驚く麻衣の視線の先で、ナルの口元が小さく動く。え、なに と麻衣が思っている間に、来訪者である彼女が嬉しそうににこりと笑った。

「久しぶり、ナル」

言って、彼女がナルのほうへと足を進める。ナルも、一歩遅れて彼女へと近づいた。その顔には驚きがありありとあって、うわー珍しいもん見てるわー と、完全に蚊帳の外になった麻衣は思う。まだ知り合ってそれほどの時間が経っているわけではないけれど、ナルの表情が動くということは稀なことだ。しかもそれが、ゴーストハント以外の場面で、など。

「どうしてここにいるんだ」
「うん、ちょっと遅れたけど ――― 手伝いに」
「・・・・」
「私も心配なの。ただ待ってなんていられないよ」

彼女の言葉に、ナルはじっと彼女を見つめる。視線を逸らすことなく見つめ返す彼女に、ほどなくしてナルが小さく息を吐いた。そうして、こっちだ と踵を返す。にこりと笑って、事の進行を見守っていた麻衣に、お邪魔します と声をかけて、彼女はナルが戻っていった所長室へと足を向けた。

そうして、麻衣が彼女の名前を知るのはその2時間後、彼女とナルが所長室から出てきたときとなる。



好きです、ゴーストハント!主人公はナルたちの幼なじみとか、仲間とかかなぁ。






幼なじみとの正しい接し方  花ざかりの君たちへ(ドラマ) 難波 / 女主人公


「つかさ、なに、おまえ芦屋に乗り換えたの?」
「・・・いや、それ以前に私が何に乗ってたわけ?」

難波の言葉に、彼女が振り向いて怪訝そうな顔をした。ここは難波の幼なじみであるこの少女の家である。飲み物をグラスに注いでいた手を止めて聞き返した彼女に、難波がだってさーと口を開く。

「俺、この前おまえと芦屋が一緒にいるとこ見たんだけど」
「まぁ、瑞稀とはよく出かけたりしてるけどねーていうかそこじゃなくてさ、」
「は!?おまえ瑞稀とか呼んでんの!?てかよく出かけてんの!?俺しらねーんだけど!」
「そりゃ言ってないからね、いい加減人の話聞こうよ」

彼女の言葉にオーバーリアクションとさえ取れるような驚きを見せる難波に、彼女は慣れたような態度を返す。それもそうだろう、もう十何年の付き合いであり、不本意ながら初恋の相手だって知っているようなレベルなのだ。もう今更、いちいち彼の言動に振り回されるということもない。半端ではない労力を費やすこともない。もう疲れてしまったのだ、難波南なんて、女好きの幼なじみで悩むということには。

「なに、ちょっと待って、おまえ本気で芦屋とそーいう仲なの?」
「よくデートはする仲だけど?」

本当に瑞稀が女の子だって気づいてないんだ と内心で思いながら、冷たい飲み物を入れたグラスを難波が座っているソファの前のテーブルに置けば、難波が真剣な声で彼女の名前を呼んだ。その声に、思わず心臓がどくんと跳ねる。まだダメなのかと彼女は思う。もういい加減、なんでもなくなりたいのに。

「芦屋のこと、好きなのか?」
「・・・・・、瑞稀は友達だよ。そういうのじゃない」

いつの間にか捕まれていた腕を外しながら、また負けたなぁと彼女は思う。そうだよ、あの子が好きだよ、だから南はもう家には来ないでね なんて言えるようになるのはいつなんだろう。南はもう初恋を振り払ったというのに、私はまだ、ずるずると引きずってばかりだ。そうしてため息をついた彼女に、難波は心底安心したように息を吐いて笑った。ぐずぐずしている間に、危うく芦屋に奪われそうになるだなんて、とことん俺らしくない。だって、そう、おまえは、俺の、



そろそろ勝負にでるとすっか!






「振りぬいた先に見えた空は。」番外  三上 / 「振り空。」主人公(デフォルト:相模遊)


「高等部あがんねぇんだって?」

突然耳に届いた声に、遊は声のしたほうを向いた。人気のなくなった、中等部の昇降口。いろいろと手続きやらなんやらの話をするために残っていた遊以外の人影は見えない。それもそうだろう。もう3年生はエスカレーターで進学が決まり、数少ない外部受験の生徒たちも結果が出て、進路が決まっている。遊もそうだ。今日、合格発表を見るために埼玉に行った遊の目には、きちんと自分の番号があった。そのため使うことも残り少なくなったこの昇降口で、遊に声をかけたのは高等部の2年である三上だった。

「・・兄貴から聞いたんですか?」
「まぁな。そうじゃなくても噂になってっけど」

相模の弟は、外部受験をするらしい ってな。そうやって口元をあげた三上に、そうですか と返しながら、遊は靴を取り出した。極少ないメンバーにしか話していなかったとしたって、試験や面接や合格発表の度に公欠していれば気づく人もいるだろう。そうすれば、噂なんかすぐに広まる。なんていったって、「相模の弟」なんだから。乾いた音を立てて地面に落ちた靴を履きながら、どうしてここにいるんですか と三上に声をかければ、部活が休みだから と答えられる。そういうことを聞いているんじゃないんだけどと思いながらも、そうなんですか と返す遊に、三上は面白そうに笑う。そうして、一歩、遊に向かって足を進めた。

「埼玉行くんだってな」
「はい」
「ま、思い切った選択したんじゃねぇの」

三上の言葉に、遊は靴にやっていた視線を上げた。理由なんてわかっているという口ぶり。実際、この人はずっと前からわかっているのだろう。三上のチームメイトである兄が理由だということが。

「・・兄貴には、言ってないんですね」
「俺が言ったってなんにもなんねぇだろーが」
「・・・・、ありがとうございます」

素っ気ない口ぶりの三上に、遊は小さく笑う。やっぱりこの人は、どこか、元希に似ていると思う。元希はこんなふうにスマートに物事はこなさないけれど、三上は元希みたいに真正面からぶつかってくるわけじゃないけれど。そんなことを思う遊に、ニッと笑った三上が近づいて、頭に手を置いた。その行動に、遊は驚いたように三上を見る。そうすれば、わしわしというように、三上の手が遊の髪を雑ぜた。

「ちょ、」
「俺としちゃ、残念ではあるけどな」

おもしれぇ後輩がいなくなるっつーのは。そういう三上に、遊は向けていた視線を少しだけ逸らす。そうして、来年の大会は観に来ます と言葉を紡いだ。そんな後輩に、三上は笑う。そうして、半年ほど前に、突然の包帯で何も知らなかった面々を驚かせた左肘に目をやる。野球やり始めたら教えろよ と笑った先輩に、一度大きな瞬きをした遊は、苦笑して、はい と答えた。



こういう裏話






理由のもともと  戦国BASARA 政宗 / 女主人公


「姫様」

障子の向こうから気配もなく突然かけられる声に、驚かなくなったのはいつからだろうかと少女は思う。そこまで昔のことではなく、比較的最近のことだったと思う。この地に来たばかりのころは初めての場所に慣れることに精一杯で、何かと敏感だった。加えて、この城の殿はあの方なのだ。それこそ初めのころは、気を抜けばいつ自分の命がなくなるかという極限の場所まで緊張が高まっていた。 ――― 以前は、の話だけれど。

「なんですか、小十郎」
「・・・政宗様がお呼びです」
「・・・、すぐに参ります」

ためらうような小十郎の言葉に、一つの間を空けて、姫と呼ばれた少女が声を返した。そう、まだ少女というに相応しい年齢だ。は という声を残して部屋から離れたのだろうこの伊達家の重臣から少し遅れて少女は腰を上げた。身に纏う着物は豪勢に見えるものではないが、見るものが見れば唸るような高級なもの。それが、この家での彼女の立場を表していた。音を立てずに部屋を出、女中とすれ違えば、妙齢の女性が洗練された動きで礼を示す。それに一つ笑顔を返して足を進めれば、そこにあるのはこの家の当主、伊達政宗の部屋だ。声をかければ、入ってこい という、低い声が返される。

「Hey, 待ってたぜ」
「・・政宗様、こう一日に何度もわたくしを呼びに来させては小十郎が気の毒ですよ」
「そうか?効率が上がったって喜んでたぜ?」

にやりと笑って政宗が言う。それは以前、小十郎からも耳にしたことだった。「姫様には負担をおかけしますが、執務を滞りなく進めるため、ご協力をお願い致します」。なんとも、あの実直な家臣に言われてしまえば、断るというのも憚られる。それに、そもそも暇を持て余しているのだから、彼女自身は不都合ではないのだ。

「お茶でもお持ちしますか?」
「いや、いい。それよりも膝を貸してくれ。少し休む」
「・・・、政宗様、」
「それも正室の務めだろ?」

冗談半分の声で、からかうような笑顔で、政宗が少し離れた位置に座った彼女を手招いた。正室の務め ――― というのは言い過ぎだろうが、実際、正室としてここに嫁ぎ、殿と打ち解けてからというもの、こういったことばかりしているのは気のせいではないだろう。梵のこと、頼むね なんて笑って言ってきたのは、伊達家の武将であり政宗の従兄弟である成実だった。

「・・もう少しで終わりますでしょうに」
「Ha!わかってんだろ?」

少しでもおまえとの時間をenjoyしてぇんだよ と、膝まくらの状態から頬に触れた手に、彼女は小さく笑い返した。



政宗様がすきです。正室設定






吐息ひとつで世界が震える  花より男子(ドラマ) 類 / 女主人公


「ねぇ」
「なに?」

類の言葉に、呼びかけられた少女が振り向いた。彼女をしばらくじっと見つめてから、類はなんでもない とふっと視線をずらす。その言葉に、そう?とだけ返して、少女はもともとしていた作業に戻る。その態度があまりにもあっさりしているのは、類のそういう行動が、こうして2人でいるときのものとしては決して珍しいものではないからだ。きっともうしばらくすればまた同じことが起こるだろう。そう考えていた彼女の予想は正しく、5分としないうちに、また類が彼女の名前を呼ぶ。

「なぁに?」
「こっち」

こいこい と手招きをする類に従って彼女が類に近づけば、類はふわりと笑って彼女を腕の中へと閉じ込める。これもいくつかある流れのぱパターンの1つで、少女は苦笑のようなはにかみのような笑顔を浮かべながら、おとなしく類の腕へとおさまった。

「類」
「ん?」
「・・・ううん、なんでもない」

一つ笑って類の背中に手を伸ばせば、類の腕の力も強まる。こんなことが、酷く嬉しい。ふわりと笑って、小さな、優しい声で類が彼女の名前を呼んだ。好き と続く言葉は、まるで魔法使いの呪文のように。



あの類はやばかった。るいるいるい






プロポーズ大作戦  ガリレオ(ドラマ) 湯川 / 女主人公


「きみはどうしてそう感情的なんだ?」
「それなら先生はどうしてそう理論で片付けようとするんですか?」

湯川の言葉に、彼女は涙を浮かべたままの瞳で見つめ ――― 睨むという言葉のほうが適切かもしれない ――― 返す。そんな彼女に、湯川ははぁと息をこぼした。

「片付けようとしてなどいない。実際に僕はただ捜査協力をしているだけだ」
「でも、この前だって朝帰りで」
「それも話しただろう?閉じ込められたんだ、僕の意思じゃない」

友人の代わりに現れた内海という刑事 ――― たしかに彼女と会う機会が頻繁になったのは認めるが、捜査以外の他意などまるでない。心から思う事柄を述べれば、けれど彼女はでも、と続ける。涙で声がぶれた。

「学校中の噂、ですもん。先生が、内海さんと、」

そこまで言って、言葉に詰まるように本格的に泣き出した彼女に、湯川はもうひとつ息をついた。そうして、ふわりと手を伸ばす。腕にとじこめた彼女は自分の受け持つゼミの生徒であり、そう、まだ学生だ。だからこそまだ言うには早いかと思っていたのだが ――― これならばむしろ言ってしまったほうが良さそうだ と、湯川は頭の中で話を完結させ、彼女の名前を呼んだ。

「僕の大切な人は君だ」
「、せん、せ、」
「君が卒業したら ――― 結婚しよう」

一瞬、完全に音が無くなる。その後に、湯川の白衣を掴む手と、せんせい、という声。本当に、実に ――― 面白い。溢れてくる温かい気持ちと愛おしさに、湯川はその源である彼女の額へと唇を落とした。



なんて似合わないタイトル。湯川先生かっこいい






甘いコーヒー、器用な指先  医龍(ドラマ) 朝田 / 女主人公


医局のドアを開けて、すぐに目に入った背中にあれ、と彼女が声を漏らす。そうして、朝田先生、と声をかけた。そうすれば呼ばれた彼は振り返って、おまえか、と呟いた。その手にはカルテがある。最近の朝田は、最早カルテを持っていないときなどあるのだろうかというほどに多くの患者を抱えている。

「大変そうですね、朝田先生。コーヒーでも淹れます?」
「ああ・・頼む」

言って、朝田はまたカルテへと目を落とす。チームの一員である自分も忙しいといえばそうだが、それでも第一外科医の彼ほどではないだろう。大丈夫かな、なんて思いながら、彼女は淹れたコーヒーを朝田の前のテーブルへと置いて、自分のデスクへと腰を下ろす。そうして並ぶファイルの中から1つを取り出した。今この場には、朝田と彼女の2人きり。続く沈黙の中で彼女はついとファイルから視線を上げて、いまだカルテとにらみ合い ――― のように見える ――― を続ける朝田へと目を向けた。

「龍ちゃん」

彼女の声に、朝田は少しの間を空けてから顔を上げる。少し驚いたようなその顔に、彼女はにこりと、少し違う顔で笑った。この人の重荷を少しでも減らしてあげられたらと、そう思う。

「肩でも揉んでさしあげましょうか?」
「・・・ああ」

彼女の言葉に、朝田がいつもよりも少し柔らかく笑う。彼の言葉に席を立てば、彼はカルテを前のテーブルに置いた。触れた肩には、どれほどの重みがかかっているのだろう。何人もの、何十人もの命を背負う肩。支えられていたらいい、そう思いながらぐっと指に力をいれた彼女の名前を朝田が呼んだ。そうして肩越しに触れた唇は、甘いコーヒーの味がした。



あ さ だ !!






12月のおはなし  医龍(ドラマ) 伊集院 / 女主人公


「あの、伊集院先生」
「はい?」
「あの、・・24日って、空いてます、か?」

最近、仲良くなれてきた、と思っているナースの言葉に、伊集院はぱちりと大きな瞬きをしてから、え?と声を漏らした。そんな伊集院に、問いかけた彼女は慌てたように、あの、と口を開く。

「すみません、あの、深い意味はなくて、」
「な、いん、ですか?」

思わずというようにこぼれた伊集院の言葉に、今度は彼女が、え?と声を漏らす。はっとしたように伊集院が口を押さえるけれど、その顔は赤い。思わず俯いた彼と同じように、彼女もどうするべきかと考えながら俯く。やはり、顔は赤い。

「・・なくは、ない、です」

小さな声で紡がれた声は、けれどしっかりと伊集院にも届いた。バッと顔を上げれば、耳まで赤くして俯いている彼女が目に入って、男なんだから、と自分に気合をいれるように内心で呟いて、あの、と口を開く。

「急患が入らなければ、空いて、ます」
「・・え、」
「・・よかったら、・・食事にでも、行きませんか?」

普段の彼を知っている人 ――― 例えばミキなど ――― ならよく言った!と褒めてつかわすところだろうというほどに、がんばったと自分でも思う伊集院に、彼女はぱちぱちと瞬いた後で、はい、と頷いた。ぱぁと顔を明るくした伊集院に、同じく照れたふうに笑い返す彼女。そんな2人を影から見ながら、若いわねえ、と小高が笑った。



いじゅーいんくん。 医龍もすきなんですよー。



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