log 2008

世界を渡るもの  鋼の錬金術師 ? / 女主人公


――― !」

後ろから聞こえたのはエドの声だった。けれどそれに振り向くよりも早く、答えるよりも早く、彼女の視界は白く染まった。




「あぁ、来ちまったのか」


ふと聞こえた声、性別の区別も年齢の区別もつかないようなそれは、にやりと口元を歪めた ―― ように思えた。気がつけば周りは真っ白な空間、そこには誰も ―― いや、正面にいるそれしかいない。災難だな、とそれが呟く。

「災、難?待って、ここは・・・あなたは?私はエドたちと、」
「ここは、あえていうなら時空の狭間。そしてオレはお前達が“世界”と呼ぶ存在。あるいは“宇宙”、あるいは“神”。」

その言葉に、彼女は目を見開く。エドから、少しだけ聞いたことのあるその言葉。それはつまり、 ――― ここは真理の間だということだ。それを彼女が意識した瞬間に、突然にドンと足元に振動が響く。咄嗟に振り向けば、そこにはひとつの扉があった。思わず言葉を失う彼女に、それは哀れんでいるのか楽しんでいるのかわからない声で告げる。

「来ちまったもんは仕方ない。見せてやるよ、真理を」

その声に従うようにその扉が開いた。そうして、彼女を引きずり込むように襲い掛かる数々の手 ――― 気づいたときには、その世界は何事もなかったかのように静まり返っていた。それとは裏腹に、肩で息をしながら、いまだ落ち着かない頭を彼女は思わず片手で抑える。流れ込んできた知識の量は、あまりにも膨大だった。その様子に、ククッとそれが笑った。

「やはり素質があるようだな。だが、惜しい。・・いや、だからこそか。」
「・・・・・・どういうこと、私は、人体練成なんてしていない」
「だろうな。お前は選ばれたのさ。・・・選ばれてしまった、というべきか。」

要領を得ないそれの言葉に、彼女はイラついたように眉を寄せる。それにもひとつ笑ったようなそれは、す、とその右手をあげた。同時に落ちてくる、さきほどとは違う扉。ゆっくりと開いたその扉の奥は真っ暗で視野は全くないようだった。

「真理の代価は、お前のいままでの生活だ。」
「だから私は望んでなど、」
「言っただろう、選ばれてしまったと」

途端に、引力でも発生したかのようにぐいと彼女の体が開いた扉へと引き寄せられる。とても抗えるようなものではないその力のままに、扉を越えた彼女の体は真っ暗な闇へと落ちていった。ゆるりと閉まってゆく扉の向こうで、それが呟く。

――― お前は選ばれたのさ、世界を渡る者に」

パタンと扉が閉まれば、そこはまた、無音の世界。



地味にマスタングさんの妹設定で書いてたりするけど全く出てないという






2人の秘密  ヘタリア 日本 / 女主人公


「日本さん」

かけられた声に、小柄な青年が振り返る。そうしてそこにいた彼女の姿を認めれば、彼は穏やかな、けれどどこか鋭さを持つその瞳を和らげた。そうして、黒目黒髪の彼は、歩み寄ってきた彼女の名前を呼び、柔らかく笑う。日本さん、ともう一度呼びかければ、はい、なんですか?と緩やかなその笑顔のままで答えた。そんなふうに応えてくれる彼が、彼女は好きだった。

「ねぇ、日本さんの桜はもう咲いているの?」
「ええ、ちょうど今ごろが満開です。ご案内致しましょうか?」
「ほんとう?」
「ええ、貴女さえよろしければ」

イギリスとアメリカの兄弟喧嘩が辺りに響く中、この2人の雰囲気はまるで周りから切り離されているかのようで、彼女の問いに日本は穏やかな笑みを湛えたままで頷いた。他国でも有名な日本の桜、今会議が行われているこの国に桜の木はないけれど、日本では今がちょうど見頃だ。彼の提案に顔を明るくした彼女に、日本はふふ、と笑った。そんな2人に、ふいに声がかかる。

「2人とも、何を話してるあるか」
「中国さん」
「いえ、なんでもありませんよ」

いつものように2人へと声をかけた中国に、けれど日本はいつもとは違い、やんわりと笑って話を誤魔化した。そんな彼に、彼女はぱちりと瞬きを零す。アメリカとイギリスとはタイプが違えど、この2人は他国とはまた違う絆があり、今まで毎年日本の桜を中国も見にいっているはずで ――― そう、去年もたしか、そうだったはずなのに。我には言えねーあるか、なんて怒ったふりをする中国に、苦笑を浮かべる日本は、それでもやはり他国といるときとは違う。どうしたんだろう、そう思って日本を見上げる彼女に、日本は柔らかく笑んだ。

「私と彼女の秘密です。ね?」

彼から紡がれた言葉は、酷く甘く彼女に届く。ぱちり、と瞬いたときと同じ顔で、けれど頬を薄紅に染めた彼女に、日本はどこか嬉しそうに微笑んだ。



日本さんすきですー。一回消えて書き直した結果何か違う話






手のかかる子ほど、  HUNTER×HUNTER キルア / 兄設定男主人公


「全く、世話の焼ける。」

そう呟いて、ほら、腕出せって、と声をかけてきた兄に、キルアは気まずそうに俯いた。まだ下の弟たちが幼いというのもあるのだろう、基本的には長兄である彼は家にはおらず、他の兄達に比べれば、キルアもあまり話す機会がなかった。けれどキルアは彼によく懐いていて、彼がいるときはよく彼の後をついてまわっていて ――― 今回のキルアの怪我も、訓練中の兄の下へとやってきたため、だった。

「いいよ、このくらい、治るし・・」
「まだ親父の特訓もあるんだろ?今のお前じゃ万全じゃなきゃ厳しいだろうが」

その言葉に、キルアはぐっと押し黙る。まだそう仕事もこなしていないが、それでも期待をかけられている彼への訓練は厳しいものがあって ―― それはなんだかんだでキルアがそれらをきっちり呑み込んでいくからこそ、だと彼は知っている ―― 兄の言葉は、その通りだったのだ。それでも血が流れる腕を出さないキルアにひとつため息をついて、兄はその手を強引にとった。年の離れた兄には、今のキルアは全く敵わない。

「ほら、さっさとしろって」
「・・・ごめんなさい」

手早く治療を始めた兄に、小さな声でキルアが言う。訓練中なのにやってきたこと、迷惑をかけたこと、手を出さなかったこと、いろいろなことを含めた謝罪。あまり謝るのに慣れてはいないけれど、この兄は特別で ――― この兄には、嫌われたくなかった。そんなキルアに、ちらりと腕から視線をキルアの目へと向けた彼は、そのまま治療を終えてから、くしゃりと、その ―― 父親や、彼自身と似た ―― 銀色のねこっ髪を撫ぜる。

「いいんだよ、手のかかる奴ほどって言うしな」

ぽすぽす、とキルアの頭に触れながら笑った兄に、きょとんとした表情を見せてから、キルアはむず痒そうな表情をする。そんなキルアにまた笑った兄は、キルアの今一番の目標である。



このおうちのお兄ちゃんって、やっぱり素敵な設定だなあと。






仮面舞踏会の夜に  テニスの王子様 千石 / 女主人公


どうなっているんだろう、だろうか、それとも、どうすればいいんだろう、か。どちらにせよ、彼女は困惑していた。それは彼女の手の中にある指輪のためだった。ピンクの石がはめ込まれた、シンプルな指輪。それは、今目の前にいる彼が、はい、と渡してきた箱を開けた、その中に入っていたもの。

「・・いやあの、清純くん?」
「なに?」

普段は呼ばない名称で彼を呼んだ彼女に、千石は笑顔で問い返す。いや、そんなに笑顔で返されても困るんだけど、と内心で思いながらも、それよりもなによりもまず、ということを言うために彼女は口を開く。

「これはなんでしょうか」
「なにって、指輪でしょ」
「や、そうじゃなくて、」
「あ、ちゃんと薬指のサイズだからねー」

にこにこと頬を緩めたままで言う千石に、彼女はますます困惑したように指輪を見た。唐突に渡されたこの指輪、別に誕生日というわけでも記念日というわけでもなく、付き合って然程時間が経ったわけでもない。指輪をするのが嫌い、なんてことはないし、むしろ嬉しい気持ちは確かにあるのだけれど、でもどうしてサイズまで。そうして戸惑った様子のままの彼女に、千石はひとつ面白そうに笑ってから、実はね、と楽しそうに種明かしの言葉を口にする。

「最近さ、プレゼントの相談とか、受けなかった?」
「え、あ・・・ってちょ、まさかあれ!」
「そ!俺が頼んだんだよね、それとなく聞いてみてって」

どんな話したのかとかは聞いてないんだけど、と笑う千石に、彼女はしばらく前、彼女が出来たばかりの後輩から相談を持ちかけられたことを思い出す。何がいいと思いますか から始まり、先輩ならなにがいいですか になり、指輪って普通女の人のサイズはどのくらいなんですか と進んで、ちなみに先輩は?と行き着いたあの相談は、付き合い始めたばっかりだし、と親身に乗ってあげたというのに、しかもテニス部でないから油断したというのに、まさかそういうことだったのか。なんだかよくわからない、してやられた、というような感覚に、彼女は悔しそうに唸る。千石はそんな彼女の髪に手を触れた。

「やっぱりさ、君が喜ぶもの、あげたかったから。」

喜んでくれた? そう笑う彼に悔しさを感じているはずなのに、それでも湧き上がる気持ちに頷いてしまったのは、惚れた弱みというものだろうか。



きみとワルツを。



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