「ねぇ手塚、今日はどこ行くの?」
「・・・・どこ、とは?」

珍しく、早く終った部活の後での不二の言葉に、手塚はわずかに眉を寄せてそう返した。




Happiness, to YOU








「なーに言ってんだよ手塚!この後、と待ち合わせしてんだろー?」
「・・・そうだが」
「今日は偶然にも早くに終わったんだしね。」

菊丸と不二が着替えをしながら、微笑ましそうに言う。
この2人は、つい先日、7日の誕生日に付き合いだした手塚の彼女、と同じクラスだった。
それにしても、一体どうしてそんな話になるのか。
手塚にはその理由が全くわからなかった。

「・・特に、そんな予定はないが・・・」
「えぇ!?」

手塚の言葉に驚いたように手塚を見たのは菊丸で、
叫んではいないものの、不二も意外そうに手塚を見ている。
その様子がどうも釈然としなくて、手塚が口を開こうと思ったとき、
それよりも少しだけ早く、不二が口を開いた。

「今日、さんの誕生日なのに?」





「・・・すまない。」
「え?」

ふいに、手塚が切り出した言葉に、は隣を歩く手塚を見上げた。
ふいに、というわけではないかもしれない。
たださっきまで、短いとはいえない沈黙が流れていたその中で、
久しぶりに手塚が切り出した言葉がこれだったというだけで。

「え・・っと、なにが?」

何について謝られているのか。
今のは、それがすぐに思いつくほどに手塚を理解できているわけでも、
それほどに落ち着いているわけでもない。
こうやって2人で帰るのなど初めてで、さらに告白してまだ4日、
土日祝日とあったために、付き合いだしてから顔を合わせるのは2日目。
正直なところ、並んで歩くだけでもいっぱいいっぱいで。

「・・今日・・誕生日、なのだろう?」

先ほど、不二と菊丸に聞いた、と、付け足す自分に、手塚は内心で息をついた。
誕生日を知らないなんて、不甲斐無いにもほどがある、と。
は手塚の誕生日を知っていて、プレゼントをくれて、祝ってくれて、
なおかつ、その日に想いを伝えてくれたというのに。

「・・あ・・・」

そう言われて、はやっと手塚の謝罪の意味を理解した。
つまり、今まで知らなくて、ごめん、と言いたいのだと。
もしくは、何も用意できなくてごめん、とか、そういう意味なんだ、と。
そう思うと同時に、は慌てて手を振った。

「そ、そんなの、手塚君は全然悪くないよ!」
「しかし、は俺の誕生日を知っていてくれたし、祝ってくれただろう?」
「そ、それは、私が勝手に・・」

少しだけ俯いて、赤い顔を隠すようにしながら、が言う。
有名人で、言うならばみんなの憧れの的である彼の誕生日は有名だけれど、
自分の誕生日を知ってるのなんて、親しい友達と、それから、
昼休みに友達との話から広がって、みんなで祝ってくれたクラスメートくらいで。
だから、知らなくたって、そんなこと当たり前なのに。

「俺はが知っていてくれて嬉しかった。」
「・・・・ホント?」

「あぁ。俺も、近いうちに聞こうと思っていたのだが・・・」
「うん、近いもんね」

確かに予想外なほどに誕生日は近く、
けれど、誕生日に間に合って、よかったと手塚は思う。
まだ、当日に祝えるだけでも。


「・・誕生日おめでとう、


そう言った手塚がわずかに笑っているように見えて、は驚いたように手塚を見上げる。
こんなに近くで、彼のいつもとは違う顔を見るのは、初めてで。
つい、見惚れてしまった。

「・・・・?」
「・・あ、・・ありが、とう」

声をかけられて、ハッとしたようにがお礼の言葉を紡ぐ。
その顔は赤く、恥ずかしさのためか視線をずらしたに、手塚はまた少し、表情を崩した。

「今更だが、何か欲しいものはあるか?」
「そんな、気持ちだけで充分だよ」
「そういうわけにはいかない。」

俺はもらったのだし、にも何か贈りたい。
そういう手塚は真っ直ぐと前を見ていて、その横顔をは密かに見つめた。
本当に、この人が自分のことを好きだといってくれたのだと、
夢じゃないかと何度も疑ったことが、本当だと言ってくれているようで。
ふわりと、は嬉しさのあまりに頬が緩むのを感じる。

「・・えっとね、なんでもいいの?」
「あぁ。・・・俺がやれるもの、になってしまうが。」
「じゃぁ、・・じゃぁね、」

きっと締まりのない顔をしているのだろうけれど、嬉しくて仕方がないんだから、しょうがない。
そう思いながら、は希望の“プレゼント”を手塚に告げた。
そうすれば、手塚は驚いたような顔をして。
あ、また1つ、手塚君の新しい顔、と、また嬉しくなる。

「・・そんなものでいいのか?」
「それがいいの!」

確認のように聞き返す手塚に笑顔を返せば、
そうか、と、手塚はわずか考えるような素振りを見せる。
告げられたモノは、手塚にしてみれば意外なもので、
けれど本人がそう望むのならば、きっとそれが一番だな、と、そう自分の中で完結づけて。

「ならば、それを贈るのは・・今週の日曜でもいいか?」
「・・・え?・・それって・・・」

手塚の言葉に、は目を見開いて、ぱちり、と、大きな瞬きをした。

だって、日曜日は、学校もなくて、普通なら会うわけもなくて。
それって、つまり         ・・・

聞き返そうかとが考えていると、それがわかったのか、手塚が口元をあげる。
それは先ほどのような、笑っているかもしれない、なんて、曖昧なものではなくて。


「日曜日・・空いているか?」
       うん!」

返した笑顔は、きっとまた締まりがない顔だけど、
だけど、この嬉しさが、少しでも手塚君に伝わるなら、それでいい。
あなたの言葉や表情の1つ1つだけでも、私には嬉しくて仕方ないんだよって、
それが、少しでも、あなたに伝わってくれたら、いいな。

そう思いながらは、差し出された手塚の手をとった。






10月11日に誕生日を迎えられた、八神郁琉様へ捧げます。
大分遅れちゃいましたが、誕生日おめでとうございます!
いつもお世話になっている分、と思って張り切ったんですが、
すごい駄文になってしまってすみません。
プレゼントは、あえて書かないでおきました。
どうぞお好きなものを強請っちゃってください。
こんなものですが、受け取っていただけると嬉しいです。

この1年が、郁琉ちゃんにとって素敵なものになりますように!