学院編 4


昼休みが終わり、が六年一組の教室に入ると、彼女の席に座っていたのはだった。が帰ってきたのを見ると、おつかれさま とに声をかける。食堂で、たちの様子を見たのだろう。そうでもないよ と返して、は自分のひとつ前の席へと腰を下ろした。

「別に、放っておいてもよかったんじゃないの?」

いつもだったら構わないじゃない とが言う。それはさきほどの、食堂での出来事の話だ。いつもならば、は人の噂や目なんて気にしないだろうし、そのために動いたりはしないだろう。もう今更だからだ。けれども、今回はいつもとは違った。これ以上話が面倒になる前に、日番谷への非難を解消させるという対処法をとったのだ。それは、の性格を知っているには珍しいと思わせるに十分なことだった。の視線に、は そうかもね と小さく笑う。

「でも、日番谷君はよく戦ってくれたでしょ?そんな彼が責められるのは場違いもいいところよ」

この六年一組も、あの実習の当事者だ。だからこそ日番谷を悪く言う生徒こそいなかったが、逆に、一回生とは思えないその力を間近で見て、畏怖を覚えた生徒は多くいた。たしかに、先日のあの実習の一番の功労者が誰かといえばになるのだろう。けれど二番目が誰かといえば、それはまだこの学院に入学してさほども経っていない、一回生の日番谷だと言っても過言ではないのだ。だというのに、どうして彼が非難の目を浴びなければいけないのかとは思う。実際、自分が対応しきれなかった虚に向かってくれたのは彼だ。あの瞬間に彼の前にたったのは、六回生の自分にとって一回生である彼が護るべき対象だったからだけではない。同じ敵と戦っている仲間として、彼を護りたいと思ったからだ。

「まぁ、彼がいなかったらもっとひどかっただろうしね」

が同意するように言う。彼女も、『天才児』と噂される日番谷の力を間近で見たときには言葉が出なかった。彼の力は、自分たち六回生のそれを確実に超えていた。背筋に走ったゾクリという感覚は、の力を初めてみたときのものとよく似ていた。そうやってあの実習を思い返すの正面で、は それに と口を開いた。

「いろいろ迷惑もかけたしね。私が刺された後、日番谷君も血まみれになっちゃったんでしょ?」
「あぁ・・あれはひどかったわ。ホント、真っ赤だったもん」

の言葉に、はは とが乾いた笑いを浮かべる。虚に身体を貫かれたを支えていた日番谷は、が運ばれたとき、自身を彼女の血で真っ赤に染めていた。本当に、あの姿を思い返すだけでも思わず気分が悪くなってしまうような状態だったのだ。あの紅を思い出して下がった気分を振り払うように、が息を吐く。けれどそれは、学院内に響いた予鈴の音でかき消された。その音に、は立ち上がる。続いて、も席をたった。次の授業は、時間にうるさい教師が担当している移動教室の授業だったはずだ。

「行く?」
「あ、ちょっと待って」

言って、が自分の荷物の入った袋を開けた。自分の机の上に用意が出来上がっていたは、それらを手にしてから、何かを探しているらしいに目をやる。卒業までまだ半年以上もある今現在、六回生の中で護廷十三隊への入隊が決まっているのはだけだ。は彼女の友人として、が入る隊も、そこの隊長と既に面会を果たしていることも知っている。それを妬むという気は、起きなかった。彼女とはいい友人だということもあるし、なによりも、その実力がケタ違いなことは嫌というほど知っているからだった。
そしては、卒業前に入隊が決まるというこの異例の事態が、また近いうちに起こるのだろうという予感を持っている。いや、これはいっそ、今の話題の人物によって成されるだろうという確信だった。




→→next