ちらりと周りに目をやれば、そこかしこに家族連れや恋人同士の姿が見える。とくにここには、その姿が多いのだろう。自分たちもあんなふうに見えているのかな なんて思いながら有希は小さく笑った。そんな有希に気づいたが、不思議そうに有希に声をかける。今はこの遊園地の目玉でもある観覧車の乗車待ちをしている大勢の人々の列の中にいる状態なのだから、不思議に思うのも当然だろう。そんなに、有希は慌てたように、なんでもない と手を振った。

「ホントに?」
「・・ちょっとね、私たちも、ああいうふうに見えるのかなって思って」

そういいながら有希が示した方向にも視線を向ける。そうすれば、そこには仲の良さそうなカップルが手を繋いで幸せそうに順番待ちをしているのが見えて、あぁ と納得してから、は小さくはにかんだ。嬉しいというか、照れるというか、恥ずかしいというか、なんというか。

「見えてる・・んじゃない?俺達だって、そうだし」
「・・うん、そう、よね」

言いながら、お互いが少し照れたように視線を外す。まだ初々しいこの2人がそんなことをしている間にも、一定の速さで回る観覧車は一定の速さで順番待ちの列を前進させる。もうそろそろ順番が近いことから狭まっていく列の中、少し離れた距離に、は咄嗟に有希の手をとった。そうして少し進んでから、ハッとしたように あ と声を漏らす。そうして有希の顔を見れば、有希もなんだか顔を赤くしてを見ていた。バチリ と重なった視線に、えーと とが呟く。

「はぐれると・・まずいし、」
「そう、ね」
「あ、嫌だったら外すけど、」
「そんなことない!」

の言葉に即答してから、有希は自分の言葉に顔を赤くした。それと同様に、も少し顔を赤くして、そっか と笑った。そこにあるのはまさに先ほど2人が見ていた、幸せそうなカップルの姿だ。そうこうしているうちにも、一定の速さで進む列はたちを一番前へと運んでいった。ごゆっくりどうぞー なんて係員の女性の笑顔に見送られ、がちゃん と扉が閉められる。とりあえずというように向かい合わせで座ったけれども、朝から一通り遊びきった今はもう西日が差していて、観覧車の円の外側にいたが、夕焼けが見やすいようにと有希を呼んだ。

「すごくよくみえるわね」
「やっぱり観覧車に乗るならこのくらいの時間がいいかもね」

ぼんやりと夕焼けの風景を見ていれば、ゴンドラが上昇から下降に切り替わったのを感じた。そうして、ふと、は思う。とくにそれについて考えないままに、半ば無意識の中で、はちゅ と軽い音を立てて有希に口づけた。え と有希が思う間もなく離れたに、2人の間に沈黙がおちる。しばらく続いたなんとも気まずい空気の沈黙に、最初に口を開いたのはだった。

「・・・、ごめん、いきなり・・」
「・・ううん、」

言ってしまえば、これは2人のファーストキスだった。そういう面ではもう少しいい雰囲気で、とも言いたいところだけれど、夕焼けの中、観覧車の中 というシチュエーションはこれ以上ない部類に入るのだろう。そう思いながら、有希は困ったような顔で赤くなっているの手をとった。驚いたように有希を見るに、有希は笑ってみせる。

「楽しかったわね」
「・・ん、そうだね」

そうして、ふわりと漂う初々しい雰囲気。おつかれさまでしたー という声とともに、ゴンドラの扉があくまで、あと数十秒。






数十秒の沈黙








(その名残は 甘くて優しい)