コン、と、は部屋のドアを鳴らした。藤代と笠井の部屋だ。と言っても、ゲームやらなんやらを目的に今の時間にはたいていこの部屋のメンバー以外もいるのだが、とりあえずはこの部屋の主である笠井への用事のためにこの部屋へと出向いていた。なんてことはない、今日の紅白戦のときのディフェンスのことで少し話しにきただけだったのだが、少し待ってみても返ってこない反応に、はあれ、と思う。10時前のこの時間にもう寝てるのか?そう思いながら、はとりあえずとそのドアを開くことにした。キィ、と小さな音を立てながら開いたドアの奥は電気が消えていて、は中に小さく声をかける。

「おい」
「ッぎゃーーーーーー!?」

の声がかかったとたんに、中から数名の悲鳴が響き渡った。寮中に届いたのではないかというくらいの大声に、は なんだよ、と思いながらドアを開け放つ。そこにいたのはこの部屋の主である藤代と笠井とその他2年生が主体の面々だった。驚いたようにこっちを見ている彼らに怪訝な顔をしてから、はドアの近くにあったスイッチを押して電気をつける。明るくなった室内で、何人かがほっとしたように息を吐いた。藤代が、うわーと声をあげる。

先輩、驚かせないでくださいよ!」
「いや、なにがだよ」

先ほどは逆光で顔が見えておらず、今になってそれがだと気づいたらしい藤代に、も軽く息を吐きながら答える。そうすれば、一人わりと冷静な笠井が ホラーですよ、とに答えた。

「ホラー?」
「リング観てたんです」

言いながら、笠井がテレビを指差す。そうすれば、今まさに井戸から這い上がってきている女の姿が映っていた。観たことがあるその映像に、あぁ、とも納得する。たしかこれは、もうラストのほうだったはず。そんなことを思ってから、暗くして観てたのかよ?と部屋にいた大森に聞けば、いや、あはは と苦笑した。他のメンバーも同様なその様子に、全く、というようにが息を吐く。

「まぁ、王道っちゃ王道だけどな」
「でしょ!?だから・・・」
「どうした?」

と、藤代の言葉に重なるようにして、既に部屋の中にいたの後ろ、つまりドアのほうから声がかかった。全員がそちらに顔を向ければ、そこには渋沢と三上の姿がある。驚いた顔をした藤代たちに、あれだけ大声出せば誰か来るだろ とが声をかける。そんなに大声でした?と聞いてきた言葉に、相当ね と返したのは、同じ部屋にいた笠井だった。

「なんだ、もいたのか」
「いや、俺は最初からいたわけじゃないけど」
「え、先輩が来たからじゃないっスか!」
「なに、俺のせい?」

ポンポンと進む会話に、イマイチ状況がわかっていない渋沢だったが、奥のテレビに映る映像になるほど、という顔をする。画面では、既に女はテレビから身体を出そうとしていた。それに気づいた三上が、ニヤリと笑みを浮かべて、オイ と2年生たちに声をかける。

「そっち」
「え?ってうわーーー!?」
「出たーーー!!」

三上が示した方向を見た彼らは、テレビを抜け出し人を追うその姿にまたも叫び声をあげる。別に暗くても明るくても変わんねぇじゃねぇか と思ううちにも、画面はあの目のシーンに移る。またもあがった声に、3年組はお互いに視線を交わした。去年の自分たちも確かこんなことはやっていたが、ここまではならなかっただろうと思う彼らを余所に、ホラーシーンを終えた画面にようやく落ち着いたらしい2年生たちはまた内容に釘付けになる。懐かしいな、なんて思いながら、とりあえず3年もそれを観ることにした。そうそう、確かこうやって次のところに流れが続いていくんだよなぁなんて思いながらも映画が終わり、さてじゃぁもう騒ぐなよ、と3年が部屋に帰ろうとしたとき、の腕を、ガシっと藤代が掴んだ。その顔はどこか必死で、先輩!と力んだ声がかかる。

「一緒に観てくださいよ!」
「は?なんで俺が・・」
「つかまだ観るのかよ」

の声とかぶるように、三上が呆れたように言う。だってこのレンタル明日までなんスもん!と5本ほどのホラービデオを示した藤代に、渋沢も苦笑を浮かべる。というかそもそも俺は何しに来てたんだ?と思いながら、は次は何観るつもりなんだよ、といまだ腕を掴んでいる藤代に聞く。そうして藤代が示したのはまだが見たことのないもので、なおかつ意外と興味があったもので、はしばらく考えてから、わかったわかった と藤代の腕をはずした。

「え、いいんスか!?」
「また騒がれちゃ面倒だしな。三上も観てくだろ?」
「は?」
「渋沢も観ていこうぜ」
「まぁしょうがないな」

の言葉になんで、という顔をした三上を、了承した渋沢が後ろから押す。オイ!と三上が言う間にも、パタンと今まで開いていた部屋のドアは閉められて、じゃ、行きましょー!と妙に元気な藤代の声が廊下に漏れた。






みんなでやればくない








(ぎゃーーー!)(出たーーーー!)(うるせぇ!!)(・・・何人だろうと変わんねぇな)