「あーオイ、笠井」
「・・あぁ、三上先輩。なんですか?」
見たか?」
「・・いえ、見てませんけど」
「そーか。サンキューな」

本日の昼休み、こんな会話が武蔵森男子棟のそこらここらで展開されていた。




黙秘します








昼休み。誠二と昼を食べて、音楽室へ向かった。 ピアノを弾くために、周期的に行っている。やっぱり、弾かないと弾けなくなるし。 私立の特権の1つと言うのだろうか、しっかりと防音がされている音楽室のドアを開ける。

「おー、笠井じゃん」

聞き覚えのあるその声に目線をドアから移すと、予想通りの人がいた。

「・・何やってるんですか、先輩」
「昼食ってたんだよ。」

言って、座っていた椅子から立ち上がって、ビニール袋をゴミ箱に捨てる。その様子を見ながら、ふと思い出す。

「そういえば、三上先輩が探してましたよ。」
「三上も?ったく、しつこいなぁ」
「何したんですか?三上先輩だけじゃないみたいですし」

昼に購買で会った三上先輩の前にも、中西先輩にも聞かれたし、 誠二やクラスのヤツも先輩について聞かれたって言ってたし。 武蔵森じゃ相当有名な人だしね、先輩も。

「いや、寧ろ何もしてないんだけどなー・・・お前さ、3年の神楽さんって女子知ってる?」
「・・あぁ、ミスの。」

確か。男子でも人気の人。

「そ。まぁいろいろあって、俺神楽さんとアド交換したんだけどさ」
「・・・すごいですね。」

確かあの人って、ガード固いって有名なのに。 おーさんきゅーなんて言ってる先輩はわかっているのかいないのか。

「で、それがさっき知られてー・・・教えないっつったら追いかけっこに発展。三上はそれに協力してんだろ。」
「・・・あの、三上先輩が?」
「3限に出てた課題と交換条件とかなんじゃん?」

・・・あぁ、なるほどだからあんまりやる気なさそうだったんだ。 三上先輩が本当に捕まえる気なら、使えるものは全部使いそうだし。

「で、笠井は何でココ来たんだよ?」
「あぁ、ピアノを弾きに。」
「ピアノ?・・あ、そーいやお前ピアノ弾けんだっけ。」

ピアノへ近づいて、先輩が鍵盤を押す。 ポーンという音が続いて、だんだんと音の間隔が短くなる。

「ここであったのも何かの縁だし?なんか弾いてくんねぇ?」

鍵盤から指を引き離して、先輩が俺に笑う。 部活中とはまた違う笑い方で。

「・・・・いいですよ。何かリクエストとかありますか?」

本当は、人に聞かせるのはあまり好きではないけれど。

「えー・・じゃぁ、リストとか?」
「・・・・・本気で言ってます?」
「いやいや冗談。笠井が好きなのでいい。それか俺が好きそうなの。」

先ほど座っていた椅子へ戻る先輩と入れ違いのように、俺がピアノに近づく。 ここのグランドピアノは、音もなかなか。 椅子に座って、先輩の面白そうな視線を受けながら、鍵盤に手を合わせた。





「教室戻るんですか?」
「俺にはサボるほどの勇気はないしなー。三上やらなんやらが怖くてサッカー部やってられねぇし」

いや、サッカー部で三上先輩を怖がってる人って、結構いると思いますけど。 悪い意味じゃなくて、・・・どちらかといえばいい意味、で。 そう思いながら、音楽室のドアを閉めた。 なんだかんだで先輩はやることはやる人だから、授業をサボったことはないらしい。

「じゃぁ、教えるんですか?」
「それもダメだろ。まぁ、黙秘継続だな。」
「キャプテンとか出てきたらどうします?」
「えー渋沢はなぁ・・・ちょっと譲って機種だけ教える?」

冗談めかして笑う先輩に、笑い返す。

「あ、2年ってこの階だっけ。」
「先輩は下ですよね。」
「おぉ。じゃ、また放課後なー」

一つ手を振って、とんとんと軽快に階段を降りていく先輩を見送って。


「あ、そうだ。」

踊り場から顔を出した先輩に、向きを変えていた体をそのままに、顔だけ振り返る。

「今度リクエスト持ってくっからよろしくな」

誠二も顔負けな明るい笑顔を見せて、今度こそ先輩は階段を降りていった。
その場に残された俺はといえば。


「・・・・・・・・・・リストとか、言わなければいいですよ」


それから、このことも黙秘してくれれば。 俺、あんまり人に聞かせるの、好きじゃないんで。 思って、ふと苦笑する。


・・・・なんだか、やっぱり先輩には勝てない。










「To Shine」の主人公です。
リストっていうのは、すごい難しい曲をいっぱい作った作曲家兼ピアニストさん。
主人公、雑学で言ったので、難しいってこと以外はあまり知りません。

2300番を踏んでくださった神楽嵐様へ捧げます。
名前使っちゃいましたが、嫌ならすぐ変えますのでズバッと言ってやってください!