『・・・観に行っても、いいかな?』

きっかけはこの言葉だった。はサッカーが好きだけれど、実際に中学での俺の試合を観に来たことは無かった。今度の試合は大会だから客席とも距離は離れてるし、人も大勢来るだろうから目立つってことはないだろうし。それなら大丈夫かな ってことで、俺はいいよって返した。




Restrains








「何かお前、今日モチベ高くねぇ?」
「・・・・そっか?」
「おぉ。」

返した三上の言葉は審判の笛に消されて、その笛にしたがって各選手が礼をした。もちろんも、その隣の三上も試合前の礼を行う。ふっと顔を上げたときに、三上の言葉の原因であろうと目があって、の顔には笑みが浮かんだ。そうして、このグラウンドに入ってすぐにのいる場所を確認していた自分に、いかにも恋をしてますって感じだな とは小さく苦笑する。
確かに自分のモチベーションは高いと思う。今日の相手は客観的に見れば、苦戦を強いられるような試合では決してない。実力で考えれば、武蔵森が圧倒的優位。けれどここまでモチベーションが高いのは、やっぱりが来ているからで。

「あ、なぁ三上。今日、俺上がるから。」
「あ?」
「ナイスパス期待してるぜー」

円陣を組むためにハーフコートの真ん中に移動する三上の肩をぽんと叩いたの言葉に、三上はひとつ息をはいてから、手をひらひら振りながら、はいはい と答えた。





結局試合は武蔵森の大勝。もしっかりと得点を決めて、なおかつアシストもして、十分な活躍を見せた。そこまで疲れているわけではない武蔵森は、笑顔でベンチから荷物を持って移動する。その中に同じく笑顔でいたを見ながら、は終始笑顔だった。

初めてちゃんと見た、のサッカーしている姿。好きなことをやっている彼はとても輝いていて、すごく楽しそうなことが十分に見て取れた。の新しい一面を見れた気がして、今日は来てよかったと、本当にそう思う。
それから携帯を取り出して、けれどは思う。もしかしたら、武蔵森の人とそのまま一緒に帰るのかもしれない。できれば会って話をしたいんだけど、でも、試合だって結構無理を言って来ちゃったわけで、そう思うと我侭は言えない。

そう思いながらを見ると、輪の中に入って話していた諒が、ふと視線を観客席にずらした。バチッと音がなりそうなほどに目線がかちあって、が笑って口を開く。

『出口で待ってて。』

終わったらどこで待ってる なんて話はしていなかったし、変なとこで待たせて変なやつに声かけられたら嫌だし。そう思って口だけ動かした言葉は彼女に伝わったようで、少し驚いてからは笑って頷いた。それを見届けてが視線を前に戻すと、いかにも何か言いたげな      にしてみればあまりいい予感のしない      表情の三上がに向かって口を開く。

「あれ、の彼女?」
「・・え」
「今日よくあの席見てるよな、お前」
「え、先輩彼女いたんスかー!?」
「は!?お前そんなこと一言も言ってねぇじゃん!」

三上の言葉に、そしてその話題に食いついてきた藤代たちに、内心で げ とうろたえながらも、さも聞こえないかとでも言うようには手にあったドリンクを飲む。そんなを横目で見て、を見上げてから、三上は面白そうに口元を上げた。

「ま、どっちでも関係ねぇけど?つーことでちょっと声かけてくっか」
「え、ずるいッスよ三上先輩!俺も行きます!」
「もちろん俺も」
「あ、俺も俺も!」
「オイ!」

「ん?」

にやっと笑いながら振り向いた三上に、思わず声をあげてしまった自分をは恨めしく思った。ここで声をかけた以上、言わざるを得ない状況になってしまったのが明らかだからだ。けれどどっちにしても止めないわけにはいかなくて、そう、なんにしてものところへ行かせるわけにはいかないのだ。

「・・・・あいつ、俺の彼女だから」

ひとつ息を吐いて心を決めたように言って、驚いた顔をしている面々やいかにもからかおうとしている面々を無視して、は顔をに向けた。彼らの声が聞こえなかったため、不思議そうにその状況を見ていたが首をかしげる。そんな様子にふわりと笑って、その笑みのまま目の表情だけを変えて、は武蔵森の面々を振り返った。

「手ぇ出したりしたら、俺何するかわかんねぇからな?」

その笑顔と言葉の迫力に、武蔵森の面々は顔を引きつらせる。その威圧感に、やっぱりこいつは武蔵森のDFの要なんだな と、妙なところで彼らは納得した。もちろんそんなこと、彼の大切な彼女はしらないけれど。










27000を踏んでくださった、柚木結様に捧げます!

「little little , great」の続きで、彼女がいたのがチームメイトにバレる編。
あまり武蔵森が絡んでいませんで・・・思っていたものと違いましたら申し訳ありません!
とりあえず、これから主人公はこのネタを相当使われるのでしょう。
でもそれも三上たちからの後押しなのです、多分。