「で!どうだったんスか?バイエルンミュンヘン!」

藤代が待ち遠しそうに放った言葉に、部屋にいたメンバーも同感と言ったような視線をに向けた。そんな視線を受けながら、これソーセージ、これ上手かったお菓子、などと言いながらは大きな鞄から次々にお土産を取り出した。





SOUVENIR






「せーんーぱーいー!!」
「あーはいはい。えーっと・・・まず、そうだな。上手かった」

少し考えて、あっけらかんとが言う。オイ、という三上の言葉がすぐに返ってきて、それに対してわかってるって、と言葉を交わしながら、まだバッグの中に詰まっている土産品を取り出す。
あぁは言われてしまったけれど、実際、第一印象は上手いの一言だった。初めて練習を見て、練習に参加して。映像で見るのと実際に目の前でやられるのとでは、迫力もスピードも、全く違った。

ただ、上手いな、と、そう思った。


「基本陣形は4−4−2のダイヤモンド。トップのロルフ、司令塔のフェルテン、それからセンターバックのクラウスってのが中心選手で、こいつらはアンダーのドイツ代表。」

クラウスがU−16で、ロルフとフェルテンがU−15、とが付け足す。それを、渋沢を初め、藤代たちも真剣に聞き入っていた。自分達よりも上の国の、強豪チーム。その話を聞きたいと思うのは、やはり本気でサッカーをやっているからで、 本気で強くなりたいと願うからで。

「ロルフは身長があって、割とポストプレーになる選手。フェルテンは視野があってスペースにボールを出すのが巧い。クラウスは読みが良くて1対1に強い。」
「ってことは、繋ぐチームか」
「あぁ、それにマンマーク意識が結構あるから、失点も少ない」

長い一本のロングパスで運ぶよりも、人数をかけてボールを回していくチーム。だいたいボールは2タッチアンダーで回され、上手く回ったときは追いつけないほどだし、 見ていて上手いと思わせるような、そんなスタイル。 それも、各人がしっかりとしたボールコンとロールを持っているからこそで。

三上たちが机の上にあったルーズリーフを使いながら討論するのを聞きながら、 そうやって思い出して、がまたお土産品の入った袋に手を伸ばす。 手に触れた硬い感触にそれをとれば、そこには使い捨てカメラが眠っていた。 あぁそういえば、行って1週間くらいでフィルムなくなったんだっけ、と、 カメラを奪われかなり撮られたことを思いだす。 早く現像しに行かないと忘れそうだな、と、そのカメラを机の上に置いた。 それからまた鞄の中に手を入れると、手よりも少し大きめサイズの袋が出てきて。 それに、にやりとは笑みを浮かべた。

「三上」

ふいに呼ばれた名前に、 ペンを持ちながらルーズリーフに目を向けていた三上が顔を上げる。 そのタイミングを見計らって、が三上にその袋を投げた。 ばしっと頭にぶつかったそれに、三上は眉をひそめる。

「投げるなっての。ってかなんだコレ」
「有難く頂いとけよ。」

言われて三上がそれを見れば、 手よりも一回り二回り大きいのサイズの、お土産品の袋。 とりあえずと言うように、三上はその袋を開けた。

「・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・ぷっ」

「わー可愛いッスねー!!」
「だろー?」

「・・・・・オイ!!」

笑うに、三上は近くにあったティッシュの箱を勢いよく投げつけた。 その箱はの腕にあたり、ぼこっという音とともに角が丸まるが、 はしてやったりとでもいうように笑う。 それに対してますます顔を引き攣らせる三上の手には、白い物体。

三上へのお土産は、可愛い、そう、とても可愛いクマのぬいぐるみ、であった。

「お前喧嘩売ってんのか!?」
「何でだよ、ちゃんとmade in Germanyって書いてあるだろ」
「これのどこにドイツ産の意味があんだよ!」
「枕元に置けばベルリンの壁に上ってる夢でも見れるんじゃん?」

こうして始まった言い争いは、2週間分なのか、いつのもよりも激しいもので、 まぁいいかーとは思えなくもないことは事実なものの、 とりあえず夜だということを思い出した笠井は、そういえば、と話題をずらすように言葉を紡いだ。

先輩、いつドイツ語の勉強なんてしてたんですか?」

その言葉に、苦笑を浮かべつつも止めずにみていた渋沢も、 面白そうに見ていた藤代も、そして言い争っていた三上もを見た。

「そういえばそうッスよね。俺、先輩が言うまで知らなかったし」
「夏休み前も、テストも地区予選もあったしな」

藤代の言葉に、渋沢が同意を示す。
が部員にセレクションのことを話したのは6月の終わり、 そしてドイツへと行ったのは7月の中旬。 その間にはいろいろとやることもあって、 自分達には特別にが何をしているというふうには見られなかった。

「あー・・・話が来たのが5月の頭くらいで、それからちょっとずつやってたからなー」
「そうだったんですか」

それに俺、もともと英語とか得意だし、と付け足しながら、 は三上に投げられたお土産のクマをぽんぽんと叩く。 やっぱりこのクマの感触いいんだよなぁ、なんて思いながら、 本当は毎日かなり勉強してたことなんて誰が言うか、とばかりに、 そ知らぬ顔でクマの頬を伸ばしてみる。 うん、やっぱりこの素材の感触ってすごいいいかも。 これは三上にあげるんじゃもったいないかなぁ、なんて思いだして。


「Ich versuchte harte behide-Oberflache」
(俺も見えないところで頑張ってたわけです。)

そうやって言って笑って、何て言ったんだと三上が声をかけるよりも先に、 さっとクマを持ち上げて、そうだクマー・僕はわかるクマー、 なんて、さもからかうように三上に言いながら、クマの手を動かしてみる。 それはわからないから言った言葉で、わかるなら絶対に言わない言葉。けれど、自分が信頼するやつらだから言ってみた、少しの弱みで。もちろんこんなこと、もう言うつもりはないけれど。
そんなの様子に思いきり眉を寄せた三上が口を開こうとするよりも早くに、 ばすっと音を立てて、またもクマが三上の、それも顔に命中した。

「・・・・・・・」
「ごめんクマー、僕、が大好きだけど、寂しがりやなみかみんを見守ってあげなきゃなのクマー」
「・・・・・・・」

怒りのためか微かに震えながら口元をあげる三上と、 そしてなおもからかうような口調を続けるに、 渋沢と笠井、そして藤代は堪えられないというように噴き出した。

きっとすぐに、そのクマやら枕やらが飛び交うんだろうな、と予想しながら。 三上にこんなことができるのは、この人だけだな、なんて実感しながら。


そして後日、渋沢と三上の部屋には、例のクマがいた。 それが強制的にか自主的にかはわからないまでも、確かにそこに。







37話の後くらいの武蔵森、松葉寮の一室。
主人公、何だかクマを気に入ってしまい、安かったので購入。
この後クマを見るために渋沢・三上の部屋への出陣回数が増えたりなんかして。

31000番を踏んでくださった、邑木様に捧げます!