「・・遅い。」

不機嫌そうに、翼が呟く。 約束の時間はたった今なったところで、別に騒ぐほどのことでもないのだけれど。

「今なったばっかじゃねぇか」
は時間に遅れたことないだろ」

柾輝が何とも無いように言った言葉にすぐにきた返答に、五助と柾輝はそれぞれ苦笑を向けた。 六助と直樹は、翼と同じように今か今かと彼を待っている。つまりは待っていられないほど楽しみだということで。





そんな休日。






「遅い!」
「ホンット悪い!」

が手を前で合わせて謝る。 その光景に、今度は五助たちに六助と直樹も加わって苦笑を浮かべた。が来たのは待ち合わせの時間から2分過ぎたころ。 まぁこのくらいならいいか、と言わなかったのは翼で、だからこそ今のこの光景が成り立っているのであった。 そうして飛葉メンバーは、特に柾輝はどうしようかと思う。 この光景を見ているのもそれはそれで面白いのだけど、それではこの後のボーリングの時間が少なくなってしまうし、それに。 そう思って、柾輝はちらりと周りを見渡した。
と翼を中心に、ドーナツ化現象かのように少し離れて構成されている人垣。その中にいるのは主に女の子で、2人を見ながらかっこいいと話しているもの、さらにはお似合いのカップルだなんて見ている者までもいて。 そんなのが翼の耳に入ったら面倒だと、柾輝は仲裁に入るためにひとつ息を吐いた。 そんな柾輝に、何をするかわかった飛葉メンバーは後押しの視線を送る。

「・・・

そんな視線送るならおまえら止めろよ、と心のどこかで思いながら、その話の渦中の人物に声をかける。そうすれば、と、そして翼が振り返って。

「何かあったのか?」

翼がさっき言ったように、が約束に遅れるというのは珍しい。というより、自分の経験の中ではこれが初めてだ。いつもは時間よりも5分前には絶対に来ているのに、なぜ今日は2分とはいえ、遅れたのか。 何か事故に巻き込まれでもしていたのだろうか、なんて、そう思って。そうすれば、はいや、と苦い顔で笑ってみせた。

「バスの時間、変わってんの知らなくてさ」
「バス?」
「あぁ、2ヶ月前に乗ったからその時刻表で見て来たんだけど」

見事にやられた、とため息をつきながらが言う。それを見て、翼はそういえばそうだった、と思う。は武蔵森サッカー部で寮生活なのだから、こっちにくるのは稀なんだ、と。

「・・・・まぁいいよ」

そう思ってしまえば気持ちは落ち着いていき、そして周りの視線にも気づいたように眉を寄せた。それを見て五助たちも笑っての肩を叩く。それと同時に、早く行こう、と翼への配慮の言葉も選んで。 その言葉に同意するように、翼も一歩足を進めだす。

「それにしても久しぶりだなー
「あぁ、ひさしぶり」
「背、でかくなったんじゃねぇのか?」
「・・お前に言われても実感ない」

目的地を目指して、軽い足取りとともにポンポンと会話が進む。 今日を楽しみにしていたのは1人や2人でもなくて、そしてどちらかだけでもなくて。

「っていうかさ、俺ぶっちゃけボーリング苦手なんだけど」
「へー。お前、苦手なスポーツとか無いっぽいけど」
「いや、それ偏見だろ」
「そんじゃぁ、一番負けは奢りってことで」
「いやいやいや、なに、俺をはめたいわけ?」

そうして勝手に奢りを決定としている飛葉メンバーに突っ込んで、 もちろん、とにこやかに笑う彼らをみて、その様子に溜め息をついた。 別に、彼らのこういうところは嫌いじゃない。 というよりも、勝負好きな自分にしてみれば充分好きな部類に入る。 けれど翼、柾輝、五助、六助、直樹の5人と俺1人っていうのは、 なかなかに不平等っていうか、不利じゃねぇ?なんて思ったりもして。 でもだからって彼らが引くとは思わない。

「まぁ、いいじゃん。負けなきゃいいんだよ?」

にっこりと明らかに挑発するように笑う翼に、 それが挑発だとはわかっていても、乗らないわけにはいかないもので。

「・・・やってやろーじゃん」

にやりと、は武蔵森の友人直伝の、というよりはもう見慣れたために出来るようになった笑みを浮かべて、言葉を返す。 そう、基本的に負けず嫌いであることは自覚してるのだから、こんなところで我慢する必要も妥協する必要もない。 全員打ち負かしてしまえばそれでいいという話。

「やれるもんならやってみなよ」
「そーやで、俺をなめたらあかん」
「誰が負けるかって」

それに返すように、同じく負けず嫌いの彼らも笑う。いくら遊びだろうと、負けられないものは負けられない。

「じゃ、一番負けは昼飯奢りってことで」

翼がニッと笑って言った言葉に、その場の全員が自信満々の笑みを浮かべて。

「「OK!」」

口をそろえて、同意の言葉を返す。
本日のと飛葉メンバーの遊び ――― 訂正、お昼をかけた真剣勝負は、 こうして幕を開けた。







飛葉メンバーとお出かけな主人公。
なんだかんだでこの主人公は他校との付き合いも良さそう。
……っていうかなんだかコンセプトが別のものになっちゃってます、ね。
主人公が勝ったか負けたかはご想像にお任せします。

35953番を踏んでくださった神谷雫様へ捧げます!