ばたん、と部屋のドアが開いたのは、わかった。こんな朝っぱらから唐突にドアを開けんのは、渋沢じゃない。笠井でもない。

「おい、!」
「・・・ンだ、三上かー・・」

どーしたんだよ、こんな朝っぱらから、と俺が言うよりも早く、どうやらしっかり目が覚めているらしい三上は俺の頭をはたいた。

「・・は?なに・・・」
「さっさと支度しろよ。出かけんぞ」





迷惑なデート日和






「・・っつーかさ、こういうことならメールでも入れとけよ」
「しょーがねぇだろ、休みになったのは昨日の夜なんだしよ」

ふわ、と欠伸をかみ締めながら、が言う。それを横目に、悪びれもせずに三上がさらりと言い放った。 夏休みのこの日、本来は部活の日なのだけれど、 昨日渋沢に来た連絡により急遽今日の部活はナシになったようで。そのために、は朝いきなり自分を誘いに来た三上と連れ立って炎天下の中、駅前へとくりだしていた。

「つーか、みんなこんなくそ暑い中ご苦労なことだな」
「こんなくそ暑い中サッカーする予定だった俺らが言えねぇだろ」
「確かに」

笑いあう2人にとって、この暑さは暑くないとは言わないけれど、 決して耐えられない暑さではなかった。 なんせ、この炎天下の中、いつも直射日光の真下で駆け回っているのだから。 ふと、トン、と三上の肩に軽い衝撃が来た。見てみればそこには2人と同じくらいの少女がいて、 サッカー部で当たり慣れている三上にとっては軽い衝撃でも、少女にとっては軽くなかったようで。

「ご、ごめんなさい!」
「あーいや、別に」

慌てたように謝る少女に、三上があまり興味がなさそうに返す。それに対して、がパシ、と三上の頭をたたいた。

「てめ、何すンだよ」
「その態度のせいだっつの。ごめんな、大丈夫?」
「え、あ、は、はい!」

三上に言い放ってから、それとは対照的な物言いでがその少女に声を掛ける。 少女は自分の前で起こっていることについていけていないようではあるが、 それでもその笑顔と声音に薄く頬を染めて頷いた。その返答に満足するように笑って、は気をつけてな、と言って少女に手を振った。 ぺこりと頭を下げて少女が2人が歩いてきた方向に走っていく。 それを笑顔で見送るに、今度は三上がパシ、と頭をたたいた。

「って!何すんだお前。」
「そりゃこっちの台詞だっての。このタラシが」
「タラシじゃねぇよ。男として当然の行為ですー。」

呆れたような、けれど慣れたような視線を向ける三上に対して、さらりと、さも当然だと言うようにが言い放つ。この言葉にもう1つ息をついて、こいつのこれはもう何を言ったところで治んねぇな、と三上が止めていた足を1歩進ませる。 そんな三上に笑ってから、それに習うようにして同じく足を踏み出したは、そのまま三上の首にぐっと腕を回した。 それに対して、自分の周りが少しだけ沸いたのを、もちろん知った上で。

「暑いっての」
「三上、ちょい周り見てみ」
「あ?」

その言葉に、三上がちらりと周りを見渡す。 そうすれば、周りの、特に女の子の目が自分たちに向いているのが、嫌でもはっきりとわかった。決して初めてではないこの光景に、はぁと息を吐く。っつーかこの微妙に距離を置いた人だかりはなんだ?

「・・・・・・・」
「ほーらなー。まただぜ?お前のせいだぞー」
「俺だけじゃねぇよ」
「んじゃ俺のせい?」
「も、あるだろーが」

三上の言葉にマジで?と笑うに、絶対こいつわかってねぇな、と三上は思う。 まぁ、そんなのは今更なのだけれど、とも。 そんなことを思いながら、三上は首に回ったの腕を払う。それからさっさと行くぞ、と、三上が言うよりも早く、 2人は掛けられた声にまたも足を止めることとなった。

「ねぇ、今空いてる?」

――― ・・ほら見ろ。
――― え、俺のせいじゃなくねぇ?
――― 他にいんのかよ
――― いや、だから三上のせいだろ

そんな会話が目と目で行われる中で、2人の足を止める理由となった、その声の主の茶色のウェーブロングのお姉さんと、 さらにその横の黒髪ショートのお姉さんは2人して綺麗な顔に笑みを浮かべて暇なら一緒にご飯でも食べましょ?と誘いかける。 それに対してもう1度目をあわせてから、がにこりとお姉さん方に笑みを向けた。

「ありがと、お姉さん。」

にっこりと、笑顔を浮かべて。 その笑顔に笑って顔を見合う彼女たちに、だけど、と付け足して。今度は三上がの首に腕を回した。

「俺ら、デート中なんで。」

邪魔しねぇでくんない?と、にやりとお得意の笑顔を浮かべて言い放つ。 それに対して反応を見せたのは、目の前のお姉さん方だけではなくて、 遠巻きに出来ていた人だかりの中でもまたもざわめきが起きて。 それを耳にしながらも、本人たちはもう関係ないとばかりに足を進める。 そのまま人だかりを抜けて、それからお互いに噴出した。

「お前、今日のは強烈じゃね?」
「いいんだよ、暑さのせいで頭キてるやつが多いからな」
「あのお姉さんたち、綺麗だったのに」
「んじゃあの女たちとスパイク見に行くか?」
「それは無理だな」
「だろ?」

言いながら向かう先は、行き着けのスポーツショップ。 結局のところ、この2人からサッカーは切り離せるものではなくて。 そしてこうやって笑いあう2人は、こんなだから、 今年も集計が行われる、武蔵森のナイスコンビ!の1位大本命なのだ。







三上とデートな主人公。
結局のところこの2人は一番わかりあってる友達なのです。
でもそこそこ背の高くて顔のいい人たちが集まってたら、視線向いちゃいますよねぇ。

49094番を踏んでくださった遠見飛鳥様へ捧げます!