部活を引退してから、長くなったジョギングルート。

「・・・あれ。」

最近慣れてきたその風景の中に、見慣れすぎてる丸いものが飛んできた。




可愛い後輩






走っていた足を止めて、ポンとボールをあげる。 難なくその手に収まったボールを見ていたに、聞いたことのある声がかかった。

「・・あ。風祭じゃん。久しぶり」
先輩・・・!お、お久しぶりです!」

顔を赤くしてぺこりとお辞儀をする風祭に、は苦笑する。 そんなにかしこまらなくてもいいのに、と。 そう思いながら、手にあったボールをポンと投げた。 そのボールは、風祭の手の中へと収まる。

「そのボール、風祭のだろ?」
「あ、はい。すみません」
「それはいいけどさ、こんなとこまで吹っ飛ばすなんて、何やってたんだ?」

おまえ、選抜メンバーだろ、とが笑う。その言葉に、風祭はまた顔を赤くして、えっと、と小さく言葉をつづる。

「まぁ、練習はミスしてなんぼだけどな」

この謙虚さは、藤代にも少しは見習ってほしいもんだ、なんて思いながら、小さくなっている風祭に向かって付け足す。 そうすれば、風祭は苦笑してから、思い出したように顔を上げた。

「あの!」
「ん?」
「あの・・・全国の試合、見ました」
「・・・あぁ。」

そういえば、もう、1ヶ月前のこと、だっけ。そう思いながら、は自然と風祭の手の中にあるボールに目をやる。嬉しさも悔しさも全部、最近、やっと落ち着いてきたもののように思う。 けれどまだ、応援してくれた人たちへと申し訳なさは、抜けない。ごめんな、勝てなくて。 そうが口にするよりも早く、風祭の口が開いた。

「すごく、いい試合でした!僕も頑張んなきゃって・・・」

あの、と、キチンとした文にならないまでも、風祭の言葉が続く。 それに目を見開いてから、それから、は小さく笑った。ここで言うべきは、ごめんじゃない、と。

「・・・ありがとな。」

笑って言われたその言葉に、風祭が笑う。眩しいくらいに真っ直ぐな笑顔で。それに笑い返してから、そういえば、と、が口を開いた。

「1人でやってたのか?」
「あ、はい。選抜の帰りで・・・」
「あぁ、なるほど。」

じゃなかったら、この時間に1人で練習なんてことはしてないか、と思う。1ヶ月前までだったら、自分だってまだ部活でサッカーをしている時間だ。そう思ってから、ふいに、がにっと笑った。 その笑顔に、え、と思うよりも早く、風祭、という声に返事を返す。

「一緒に、サッカーしねぇ?」

もちろん、そっちがよければ。そう言って笑うに、風祭はしばらく固まって、それから、えぇ!?と声を漏らした。

「あの、でも、僕なんかと・・・!」
「何言ってんだよ。むしろそれこっちの台詞」
「で、でも!」
「お前は選抜、俺は引退した身だぜ?」

が苦笑して言えば、そんな、と、風祭が口ごもる。それから、まるで意を決したようにバッと顔を上げて。

「お願い、します!」

真っ直ぐに見上げてくる視線に、やっぱり可愛い後輩だよな、なんて思いながら、にこりと笑って。

「あぁ。」



「・・・と?」
「うん!」

驚いたような水野の言葉に、風祭が満面の笑顔で返す。事の発端は、練習中の風祭の1プレーを水野が褒めたことで、 それに対して先輩が教えてくれたんだ、と返した風祭の言葉だった。

「やっぱり先輩はすごい人なんだ!フェイントもドリブルもパスだって正確で・・・」

目をきらきらと輝かせて言う風祭に、水野は頷きながらも別のことを考える。もしあの人が、選抜にいたら、と。 そうしたら、チームはもっと別のものになっていたのだろうか、と。けれど今はとりあえず。

「なんやポチ、どないしたん?」
「あ、シゲさん!実は昨日、先輩とサッカーしてて・・・」
やてー?何で俺を呼ばへんのや!」
「いたた、シゲさんっ!」

ギブギブ、と言う風祭と聞かずにヘッドロックを仕掛けるシゲを止めることにするかと、 そう思った水野がため息をついてから口を開く。


「は?風祭と?」

武蔵森でも、同じような会話が成されているとは知らないままに。







風祭と2人でサッカー!のはずが、サッカーしてないっていう…。
なんかサッカーのところが書けなかったんです。すみません……!!
時期としては、9月ごろ(主人公が引退して、風祭は選抜で、選抜があんまりうまくいってないころ)です。

68486番を踏んでくださった神谷雫様へ捧げます!