「うらっ!」 「っどわッ!?」 三上亮の1月22日は、の重みによる腹の衝撃から始まった。 |
「ッんのヤロ・・・!」 「まぁまぁ落ち着け三上、俺は別にお前に飛び乗るのが目的で来たわけじゃないんだって」 「そんならやるなっつーの!」 ただでさえ寝覚めが悪いほうだというのに、無理矢理起こされた三上がぎろりとを睨む。その視線を受けて、が朝からすっきりと笑った。その笑顔を見て、三上は何とはなしに渋沢が頭に浮かぶ。 ―― そうだ、渋沢のやつなんで止めなかったんだ、 と思う前に、おはよう三上、目は覚めたか、なんていう爽やかな声が響いて、 三上は眉をピクリと吊り上げた。 「あぁおかげさまでバッチリ目が覚めましたとも、んでなんだ?なんの嫌がらせだテメェら」 「うっわ渋沢、こいつひどくねぇ?」 「俺たちだって好き好んでお前を叩き・・いや、乗り起こしたわけじゃないぞ?」 わざわざ言葉を言いなおす渋沢に、また1つ三上の眉に皺が寄る。 なら寝かしとけっつーのせっかくの休日だぞコラ、と内心で呟けば、 まぁ本題に入るか、と、と渋沢の間で話が進む。 なんというか、気に入らない、と三上は思う。 それはいつもの朝練よりは長く寝ていられる休日の朝に乗り起こされたこととか、 自分がわかっていないのに2人はすっかり分かり合ってることとか、 そんなことが度重なった結果であって。 「で、いったい・・・」 「おらっ」 三上が口を開いたとき、渋沢と目配せをすませたが三上の布団をはいで投げつけた。 もちろん三上は手でカバーしたのだけれど、 布団なんて一部分をカバーしたところで意味はなくて。 「・・・・だからなんだっつー・・・!」 ぶち、と軽くキレたような勢いで、三上が被さった布団を退ければ、 見計らったように、パァン!という音が響いた。 それは、1つ2つではない音量で。 「ハッピーバースディ、三上」 「おめでとー!」 「・・・・・は?」 自分にかかる何枚もの紙と、火薬の匂いと、そして笑うと渋沢の手にある筒。 それらに対して、あぁ、クラッカーか、と思うと同時に、 先ほどの2人の言葉を思い返して、あぁ、そういえば、と、三上は思いつく。 「・・今日、22日だっけか?」 「そうだっつーの」 「毎年のことながら無頓着だな、お前は」 頭にかかったクラッカーの残骸を取りながら、三上が携帯へと手を伸ばす。 そうすれば、そこには1月22日 6:08という表示があって、 あぁ本当だ、と思うと同時に、つーかまだこんな時間じゃねぇか、と三上が毒づくように呟いた。 もちろんソレが照れ隠しだとわかっていると渋沢は、 そりゃすいませんね、と笑って、ほら、と箱を手渡す。 「これ、プレゼントな」 「こっちは俺からだ」 渡されたその箱に、ぶっきらぼうにおぉ、と言いながら、 何となく ――― というよりは、気になって当然だろう、 四角い、見覚えのあるような形の渋沢からのプレゼントに、ちょっと待てよ、と三上は思う。 「・・・・・・・・・渋沢」 「なんだ?三上が喜ぶものを作ったつもりだが」 三上の言葉に、渋沢がこれまた爽やかに笑って返す。 渋沢の言葉を受けて、三上がバッとその箱を開けた。 そうすれば、そこに出てきたのは。 「・・・・・ッ!」 「お、美味そーじゃん」 顔を引き攣らせて言葉を詰まらせた三上とは対照的に、 横から覗いたが顔を輝かせる。 そこにあったのは、俗にいう、苺のショートケーキというもので。 生クリームがふんだんに使われ、苺とチョコレート板、チョコレートソースまでかかったそれは けれど、三上が嫌いだと断言する、『甘いもの』に他ならなくて。 さすがに1ホールではないのが、僅かな情けなのかはわからない。 「・・・オイ」 「そういえば、のプレゼントはなんなんだ?」 「俺?俺のも三上は喜んでくれると思うぜー。」 言いながら、が三上が渋沢のプレゼントを受け取った際に横に置いた、自分が渡した包みを開ける。 すごくイヤな予感を持ちながら三上がその動作を目で追えば、 そこに出てきたのは透明なサッカーボールの容器の中に山ほどつまった、 サッカーボールの用紙に包まれた小さな丸いチョコレートで。 「・・・!」 「ほら、ボール型なら三上でも克服できるかなーみたいな」 「あぁ、母親が子供の好き嫌いを治すのと同じ方法だな」 「そーそー」 さらに顔を歪ませた三上に、と渋沢が和やかに会話を交わす。 やっぱソレって効果あんの?なんて聞くに、三上の体がふるふると震える。 感激から ――― ではないことは、確かだ。 「オメェらなぁ!!」 「っと!」 ひゅ、と、の顔の横をサッカーボールが通りすぎる。 透明の、プラスチック製のサッカーボールの容器が。 おいおい、と笑う渋沢に向かって飛ばされそうになったケーキを止めるために、 そういや三上、とが声をかける。 そうすれば、なんだよ、と三上がケーキを持ち上げた手を止める。 それに対して、にっこりと笑ってから、が口を開いた。 「聞かれた女の子には、三上のプレゼントは甘いもんがいいよって言っといたから」 任せとけ、と笑顔を作ったと、ぷっと噴出した渋沢に、とうとう三上の腕が振られた。 「あれ、先輩、髪になんか着いてるッスよ」 「えー?・・あぁ、」 朝食になって、寮の食堂で前の席に座った藤代の言葉に、 が指差された場所から、そのついていたものを指につけた。 あー、と思いながら、ぺろり、とそれを舐めれば、やっぱり甘い。 というかこれは、市販のものよりも大分甘いんじゃないだろうか。 渋沢のやつ、甘くするとは言ってたけど、これじゃぁ三上は1口で顔青くするな、なんて思いながら、 なんスか?と聞く藤代に、生クリーム、と答える。 え、なんで?と話に食いついてきた藤代に内緒、と笑ってから、 隣に座り、さも自分は無関係だとばかりに朝食を口にする三上に目をやって、は笑った。 1時間前に、三上に甘、と顔を歪めながらも食べられた、 ハッピーバースディの文字が書かれたチョコレート板を思い出しながら。 主人公、渋沢と三上をからかう…のはずがただのお祝い話に。 遅くなった上にこんなのですみません! きっとサッカーボールの容器だけは有意義に使われるはずです。 三上おめでとうの気持ちをこめて、97579番を踏んでくださった緋月様へ! |