『デート、しよっか。』

ざわざわとざわめく、有名なモニュメントの前。待ち合わせ場所としては定番ともいえるこの場所で、一週間前の電話での会話を思い出して、また頬が緩んでしまった。それにハッとして、は頬を押さえる。
好きな人を待つのは、苦じゃない。こんなことを初めに言ったのは、どんな人だったのだろう。そんなことを考えて、はぁと息を吐いた。決して溜め息ではないそれを吐いたその顔は、わずかに赤く染まっている。だってそう、待ち人に会うのは、いつ振りになるだろう?

先月は会ってない。その前だから、2ヶ月弱といったところだろうか。彼がサッカーが好きなことを、はよく知っている。サッカーに懸けているのも、よくわかってる。そのために全寮制の学校にいることも、多くの時間をサッカーに費やしていることも。
それを止めてほしい、とは思わない。
彼にとってとても大きなサッカーをする時間を、削ってほしいとは思えない。だって、サッカーしてるが一番輝いてるのも、よくわかってる。そりゃ、多少(・・・本当に少しだけ、)は羨む気持ちはあるけれど。


      !」


そのとき、ふと聞こえた声に、あげた顔に映った走ってくる待ち人に、何よりもまず先に嬉しさが勝って、は思わず顔に笑みを浮かべた。高鳴った胸は、それでも、治まることなくドキドキと脈打っている。それですらも、幸せに感じてしまう。

「ごめん、待たせた?」
「ううん。時間までまだあるし」

の言葉に、はすぐ近くにあった時計を見上げた。確かに、待ち合わせよりも5分早い時間。それでも待たせたことには変わりない。そう思いながらも、久しぶりに見た笑顔に、どうしたって感じてしまう愛しさに、は笑顔を浮かべた。

「部屋でるときに藤代たちにつかまってさ。どこ行くんスかーって」
「何て言ってきたの?」
「大事な約束、って」

人差し指を口元で立てて悪戯そうに笑うに、はきょとんとしてからまた笑った。
武蔵森の中で、に彼女がいるということは全く知られていない。が武蔵森の生徒ではないために、普通に過ごしてる限り武蔵森の生徒と関係を持つことがないということもあるし、が1人部屋のため、やりとりを人に見られることがないということもある。それにそもそも、は彼女がいるということを口にしなかった。言ったら絶対に藤代あたりのやつらがを見に行くだろうし、連れて来いだの写メ見せろだのなんだの煩いだろう。そんなことを考えたからだ。そうなると、自分にもにも手間が増える。      というのはあくまで建前であって、はただ、を見せたくないだけだった。自分の中の、小さな、けれど大きな独占欲。それを感じて、は小さく苦笑した。

?」
「あぁ、ごめん。・・・、髪伸びたな」

ふと気づいて、の髪を手に取った。2ヶ月もあったら、伸びるか。そうやって小さく呟いて、それほど会うことができなかったことを今更に強く感じて、なおさら申し訳なさも募る。それから、愛想を尽かさずにいてくれるへの感謝も沸いて、はいろいろな意味をこめてその髪をなでた。そんな行動に戸惑ったも、けれどそっとの頭に手を伸ばす。

「なんか大人っぽくなったね」
「・・・そうか?」
「うん。ちょっと焼けたからかもしれないけど」
「あ、やっぱ焼けた?」

夏には真っ黒になりそうだな と苦笑したの言葉に重なるように、辺り一帯に音楽が流れた。その音に時計を見上げれば、針は待ち合わせをしていた時間をさしている。ということは、5分多く一緒にいられたんだな と思いながら、は視線をおろしてに笑いかけた。

「じゃ、行くか?」
「うん、遅れちゃうもんね」

ずっと前から観ようと約束していた映画。前売り券も準備万端の、とても楽しみにしていたものだ。にしてみれば、こういう部活のない、オフの1日なんてとても久しぶり       そう、ちょうどと前回のデートをして以来だから、2ヶ月ぶりとなる。サッカーはもちろん好きだが、それでもオフの日は待ち遠しい日であることに違いがない。武蔵森のサッカー部で、一番今日を満喫してるのは自分だろうな なんてことを頭のどこかで思いながら、はそっとの手をとった。の顔を見上げるに笑いかければ、からも笑顔が返ってくる。重なった手から伝わるぬくもりに、本当に会えているんだと実感しながら、2人は映画館へと向かう足を動かした。

楽しみにしていた映画だけれど。もしかしたら、映画は、頭に入らないかもしれない、なんて思ったのは、どちらだったか。両方だったかも しれない。



little
 little,
great


少しずつの気持ちは積もり積もって、とても大きなものになる。