2A3 無帰還シングル・パワーアンプ 最大出力3.6W (2020年)

オーナー:神奈川県 丸山さん

最大出力 (クリップ前) 3.6W
周波数特性 (-1dB) 17Hz〜19kHz
ひずみ率 (1kHz, 1W時) 1.0%
ダンピングファクタ (1kHz時) 1.5
残留ノイズ (補正なし) 0.5mV (最大出力とのSN比81dB)
入力感度 (最大出力時) 1.0V
回路図 電気的特性
小さい画像をクリックすると拡大画像を表示します

 「MJ無線と実験」6回連載シリーズの第1弾となった2A3シングルパワーアンプです。2019年11月号から2020年4月号にかけて発表しました。真空管アンプ作りのファンなら誰でも一度は作ってみたくなる古典的真空管アンプです。
 無帰還ですが十分に実用的なアンプに仕上がりました。音色がはっきりしているのが最大のよさかもしれません。本機をお譲りしたオーナー氏によると「間接音と直接音がはっきり分離して聴こえる」とのことです。
 このオーナー氏は本機を使って新旧多種の銘柄の2A3を聴き比べており、ご自分のサイトで公開されています。興味のある方は下記のURLでご覧ください。
https://shochian2.com/archives/40693
 2022年4月に音質改善用として初段B電源に並列に入れているセラミックコンデンサの容量を変更しました。帯域的な余裕が出てきて、いっそう実用的なアンプとなりました。

 この連載シリーズでは回路設計から実機製作までの全工程を半年をかけて紹介します。回路設計にあたっては、基本を大事にしながらシミュレーションを用いて特性的な完成度を追求しています。最終回はページの大半を試聴記にあて、さまざまな音源で多角的に音質を評価します。
-------2A3無帰還シングルパワーアンプの連載内容-------
2019年11月号 自己紹介、ハムバランサーの考察
2019年12月号 増幅回路とB電源のシミュレーション設計
2020年 1月号 アース回路の考え方と初期回路図の決定
2020年 2月号 シャーシ上の部品レイアウトと配線の設計
2020年 3月号 実機の製作と電気特性の測定
2020年 4月号 音質と特性を改善して詳しく試聴
 直熱管は熱電子をフィラメントから直接取り出すため、フィラメントを交流点火すると熱電子が交流周波数で影響を受けます。この結果として、アンプのスピーカー出力に「ブーン」と聞こえるハムノイズが乗る宿命があります。
 しかしこのノイズはハムバランサーという簡単な仕組みで低減できます。特に2A3はフィラメント電圧が2.5Vと低いため効果が大きく、ほとんど聴こえないレベルまで下げることが可能です。
 ただし、真空管製造時の精度のバラつきにより、ノイズ低減効果には真空管によって個体差があります。
 本機の初段には電圧増幅度の高い双3極管6SL7を採用しています。本機の工夫として、6SL7の2つの電極を並列接続しました。一種のパワードライブなのですが、出力管2A3の電極間容量に打ち勝てるドライブ電流を供給して、高域の音質を向上させる効果があります。単極で用いた場合と比較試聴したところ、歴然とした差がありました。
 後に製作したJJ製2A3-40シングルパワーアンプでは、独立した電圧増幅段を追加して出力管をパワードライブしました。しかしそこまでしなくても、本機の並列接続で実用的な効果が得られます。
 ロシア製の2A3は低域に重心のある、かっちりした音で鳴ります。中国製2A3は華やかな音に聴こえます。
 初段管のJJ製6SL7ははっきりした音で鳴る性格があり、米国製6SL7は高域に伸びを感じる音です。出力管の性格に合わせて初段管を選ぶと好みの音作りができます。
 整流管には直熱管5U4GBもしくは傍熱管5AR4(GZ34)を使えます。5AR4を使うとアンプ全体としてきめ細かく力感のある音になります。
 なお本機のB電源平滑コンデンサの容量はハムノイズ低減を優先した容量になっています。5U4Gなどのビンテージ整流管には大きすぎるため、真空管の寿命が短くなる恐れがあります。注意してください。
 パソコンなどの身近なデジタル機器からAC電源に漏れる高周波ノイズは、電源コード経由でアンプに伝わって音質を汚す原因になります。特に直熱管アンプはできるだけクリーンな電源につなげたいものです。
 直熱管では熱電子を発生させるフィラメントが電源トランス2次巻線と直接つながっています。そのため、AC電源に乗るノイズ成分がトランスの磁束に影響を与え、2次巻線につながったフィラメントで発生する熱電子に影響しやすい可能性があります。
製作の詳細と実体配線図は「MJ無線と実験」をご覧ください。