アルタディス対シー・スター・ライン事件(第11 巡回区)
Altadis USA Inc. v. Sea Star Line et al.
(11th Cir., Docket No. 05-14988, Aug. 7, 2006)
 
平成18 年8 月17 日
安藤 誠二
 
事案の概要:
通し船荷証券による複合運送の陸上運送区間において、貨物が盗難にあった。貨物所有者が、船荷証券発行人(海上運送人)とトラック運送人(海上運送人の下請業者)に対して、損害賠償を求めてフロリダ州中部地区連邦地裁に訴えたところ、被告らは積極的抗弁(出訴期限の徒過)で争いサマリー・ジャッジメントを得た。原告控訴。争点は、本件に適用されるべき出訴期限が、被告(被控訴人)らの主張する船荷証券条項及びそれに合体されたCOGSA 規定の1 年か、それとも原告(控訴人)の主張するCarmack修正規定の最短2 年かである。
第11 巡回区連邦控訴裁判所は、先例( 第6、4、7、11)及びReider 事件連邦最高裁判決に依拠して、陸上区間につき別個の積荷証券が発行されていないときは、Carmack修正の適用がないこと、及び本件運送は海事契約であるためNorfolk Southern 事件連邦最高裁判決が判示した一般海事法に於いては責任制度を統一する必要のあることを理由に、船荷証券及びCOGSA が定める出訴期限1 年が適用されると判断した。原判決支持。
本事件においては、Carmack 修正の検討は地裁判決に詳しいため、控訴裁判所は深く立ち入っていない。
本判決は、既に報告した第2 巡回区のSompo Japan 事件判決(2006 年7 月10 日)と対立するものである。但し、本判決では、全く言及がない。おそらく、時間的制約によるものであろう。
 
事実関係:
プエルト・リコからフロリダ州・タンパまで運送される葉巻積みのコンテナー貨物が、シー・スター・ライン(Sea Star)の船舶に積載され、プエルト・リコからフロリダ州ジャクソンビルまでの海上運送とジャクソンビルからタンパまでの陸上運送を包括する、通し船荷証券(through bill of lading)がプエルト・リコで発行された。海上運送を終えた貨物は、ジャクソンビルでSea Star の下請陸上運送人であるアメリカン・トランスポート・フレイト(ATF)に引き渡された。陸上運送は同一の複合船荷証券(multimodal bill of lading)で継続した。夜間に運転手がトラック離れた隙にコンテナーは盗まれ、1 週間後に空のコンテナーが発見された。
貨物所有者のアルタディス(Altadis)は、Sea Star とATF をフロリダ州裁判所に訴えた。事件は直後に連邦裁判所に移送された。Sea Star とATF は法定出訴期限(statute of limitations)に基づく積極的抗弁(affirmative defence)を提出した。またSea Star はATF に対して、判例法による損害分担と損害填補、及び契約違反に基づく交差請求を行った。
続いて、Sea Star は、Altadis が貨物が引き渡されるべき日から1 年以内に時機を失する ことなく提訴しなかったと主張して、サマリー・ジャッジメント(事実審理を経ない判 決)を求めた。この1 年の出訴期限は、船荷証券及び海上物品運送法(COGSA)に規定がある。船荷証券には「運送人[Sea Star とATF]と荷送人[Altadis]の関係は、・・・米国海上物品運送法の規定に従って効果を生ずる」旨の記載があった。ATF も同様のサマリー・ジャッジメントを求めた。
連邦地裁は、Altadis のSea Star とATF に対する請求に関して、サマリー・ジャッジメントを下した。しかし、Sea Sta のATF に対する交差請求に関しては、実質的な訴訟原因がないとして、サマリー・ジャッジメントの申立てを却下した。
Altadis は、地裁がSea Star とATF に与えたサマリー・ジャッジメントに対して控訴した。控訴は、運送人は民事訴訟の出訴期限を、規則または契約により、2 年より短期間に定めることはできないと規定するCarmack 修正を根拠とする。出訴期限を最低2 年と定めるCarmack 修正が本件を支配するため、Sea Star とATF が依拠し、地裁がサマリー・ジャッジメントで用いた1 年の出訴期限は適用されないと、Altadis は主張した。Sea Star は地裁が却下したATF に対する交差請求に関して再審理を求めた。
 
判決理由要旨:
控訴審が直面する問題は簡単明瞭である。即ち、単一の船荷証券がプエルト・リコからタンパまで(ジャクソンビルまでの海上区間とジャクソンビルからタンパまでの陸上区間)を対象とするとき、陸上区間で発生した損害には、Carmack 修正とその法定出訴期限最短2 年が適用されるか、それとも船荷証券とCOGSA が規定する出訴期限1 年が適用されるかの問題である。
外国から米国への運送(米国内の最終目的地に至る海上区間と陸上区間を含む運送)には、国内陸上国間を対象とする別個の積荷証券が存在しない限り、Carmack 修正が適用されないことは、判例法で確立している。当に、通し船荷証券が対象とする外国からの運送には、「別個の国内積荷証券が国内運送部分を対象としない限り」(unless a domestic segment of the shipment is covered by a separate domestic bill of lading)、Carmack 修正とその法定出訴期限最短2 年は、適用とならないと判断した第6 巡回区のアメリカン・ロード・サービス事件判決(American Road Service Co. v. Consolidated Rail, 348 F.3d 565, 568 (6th Cir. 2003))がある。また第4 巡回区のシャオ事件判決(Shao v. Link Cargo (Taiwan) Ltd., 986 F.2d 700, 703 (4th Cir. 1993))は、Carmack 修正は、「国内運送部分を別個の積荷証券が対象としない限り」(unless a domestic segment of the shipment is covered be a separate bill of lading)、適用されないと判示した。同じように、第7 巡回区のキャピタル事件判決(Capital Converting Equipment v. LEP Transport, 965 F.2d 391, 394 (7th Cir. 1992))は、Carmack 修正は、通し船荷証券が対象とする外国から米国への運送に、「国内運送部分が別個の国内積荷証券の対象とならない限り」(unless a domestic segment of the shipment is covered by a separate domestic bill of lading)、適用されないと判断した。当巡回区の法的見解は、第4、6、7、巡回区と軌を一にする。当裁判所は、スウィフト事件判決(Swift Textiles, Inc. v. Watkins Motor Lines, Inc., 799 F.2d 697 (11th Cir. 1986) で、「外国貨物が、陸揚港から更に特定の指定地まで到達すべく米国に向けて運送されるときは、行程の国内区間(陸揚港から予定目的地まで)は、国内区間が固有の船荷証券の対象となっている限りに於いて、Carmack 修正の規定に従う。」(when a shipment of foreign goods is sent to the United States with the intention that it come to the rest at a specific designation beyond its port of discharge, then the domestic leg of the journey (from the port of discharge to the intended destination) will be subject to the Carmack Amendment as long as the domestic leg is covered by a specific bill or bills of lading.)と判決した。
別個の内国積荷証券がCarmack 修正適用の必要条件であるとの考えは、連邦最高裁の比較的早期の議論に源がある。ライダー事件(Reider v. Thompson, 339 U.S. 113 (1950))では、ブエノス・アイレスを起点とする貨物がニュー・オーリンズまで海上輸送された。ニュー・オーリンズで新しい別個の積荷証券が発行され、それにしたがって貨物はボストンまで運送されたが、損傷状態で到着した。原告は、Carmack 修正の適用を求めて、訴え、最高裁は原告の主張を認諾した。判決は説く。(339 U.S. at 118-19)
基準は、運送がどこで開始したかではなく、貨物を受け取った運送人の義務 がどこで始まったかである。したがって、本件運送の外国行程は米国国境で終わっているため、貨物運送が外国で開始したことは重要でない。受取運送人の義務は、被上告人がニュー・オーリンズで自ら新規の通し船荷証券(its original through bill of lading)を発行したときに開始した。その運送契約は、当にCarmack 修正に適合する。
その後の判決は、Reider を引用して、前述したとおり、国際運送の国内区間にCarmack修正が適用されるためには、別個の積荷証券が発行されなければならないと判示してきた。
Altadis の主張は、ATF がコンテナーを管理した国内陸上区間が、2 年未満の出訴期限を禁止するCarmack 修正に従うというものである。Carmack 修正は連邦制定法であるから、判例法の支配を受けるSea Star 船荷証券を含め、制定法に劣後するその他全ての法に優先し、これを廃棄すると言う。
この主張を維持するため、Altadis は既に言及した諸先例を区別しようと試みる。即ち先例は別個の(separate)積荷証券を要求せず、単に国内積荷証券を求めるのみである。
また、先例は全て外国運送を含むが、本件は米国属領であるプエルト・リコからの海上運送であると指摘する。
当裁判所は、判例法を区別しようとするAltadis の試みを却下する。その主張と反対に、先例、つまり第6 巡回区のアメリカン・ロード・サービス事件判決、第4 巡回区のシャオ事件判決、第7 巡回区のキャピタル事件判決、及び当巡回区のスウィフト事件判決は、皆、実際に別個の(separate)積荷証券を求めている。
また、Altadis の論拠はNorfolk Southern 事件における連邦最高裁の意見とも対立する。事件は、「鉄道事故に関する海事事件」(a maritime case about a train wreck)であった。オーストラリアからアラバマ州ハンツヴィルまで、通し船荷証券によって機械類が運送された。最高裁は、「船荷証券が貨物の多大な海上運送を必要とする限り、その目的は海事通商の遂行であり、したがってそれは海事契約である。」(so long as a bill of lading requires a substantial carriage of goods by sea, its purpose is to effectuate maritime commerce -- and thus it is a maritime contract.)と判示した。最高裁は、一般海事法統一の重要性、延いては立法府がCOGSA で確立した責任制度を強化する必要性、及び海上運送契約の効果的な締結を助成するCOGSA の明白な目的を強調した。更に最高裁は、「ヒマラヤ約款只一つで海上運送人と下流陸上運送人を対象にできる」(a single Himalaya Clause can cover both sea and land carriers downstream)ことを確認した。最後に最高裁は、COGSA が明文を以てそのような約款に有効性を与えていると指摘した。このようにして、最高裁は、損害発生時に機械類を保管していた鉄道運送人Norfolk Southern は、通し船荷証券上の責任制限の保護を受けることができると判断した。
Altadis の見解は、通し船荷証券に表現された契約上の期待を覆して、海上運送契約の過程に不確実性と統一性欠如を招来するため、Norfolk Souther 事件判決と対立する。海事契約の陸上運送区間を受け持つ鉄道運送人に通し船荷証券の制限による保護を承認したNorfolk Souther 判決が既に存在するため、Altadis の見解は陸上運送人が自動車運送人であるとき異なる結果をもたらすことになろう。COGSA の目的である「海上運送契約の効果的な締結を助成する」(facilitate efficient contracting in contracts for carriage by sea)ことが根底から覆される。
Norfolk Southern 事件の連邦最高裁意見、ほぼ同一の判例法、及び当巡回区Swift 事件判決の法的見解に鑑み、当裁判所は次のとおり判決する。陸上区間を対象とする別個の国内積荷証券が存在しないときは、Carmack 修正及び、その最短2 年の出訴期限は、プエルト・リコからジャクソンビルまでの洋上航海及びタンパまでの陸上運送を支配する単一の通し船荷証券に従ったこの海事契約には適用されない。したがって、船荷証券及びCOGSA に規定された1 年の出訴期限が適用されると結論づけた地裁判断は正しい。

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