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安藤誠二 英米法研究
談論アメリカ契約法〈第5講〉
 
イギリス契約法の継受(その3)
 
安藤 誠二
 
或る土曜日の午後、馬場壮年、千葉青年、土井青年の三人は連れだって荒井老年の家を訪れた。荒井老年は早速、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲ニ長調のL.P.をターン・テーブル上に置いた。皆の到着を待ちかねていたようである。演奏はピンカス・ズーカーマンのヴァイオリンとズービン・メータ指揮のイスラエル・フィルである。日頃からチャイコフスキーならミシャ・エルマンに限ると言っている荒井老人にしては珍しい。第1楽章のアレグロ・モデラートが過ぎた辺りでアンプの音量を絞り本論に移った。
 
荒井(A)「前回は急の所用があり、途中で切り上げざるを得ませんでした。テーマは引き続いて、イギリス契約法の継受です。土井君に今回紹介願うのは時代を異にした二件の判決です。第一の判例は、今までに取り上げた三件の判例から更に約200年遡ります。」
千葉(C)「私が担当したホクスター対ド・ラ・トゥール事件@が1853年、ハドレー対バクセンデール事件Aが1854年、そして前回土井君が発表したラッフルズ対ウィッチェルハウス事件Bが1864年に、それぞれ下された判決ですから、17世紀中葉の事件になるのですね。極め付きに古い判例です。(笑い)そして新しい方は?」
荒井「1971年の判決ですから今まで論議した判例より100年以上新しい。但しこちらの方は、アメリカ契約法がイギリス契約法から継受した先例に含めることが妥当か否か疑問の点もあります。」
千葉「それでは掲げたテーマと矛盾します。」(笑い)
馬場(B)「継受が正しい表現かどうかは別にして、アメリカ契約法の教科書に多く引用されていますし、第一の判例を理解する上でも格好の事例ですから、新旧二判例をセットで考えるのも有意義でしょう。それに20世紀に入ってからのイギリス契約法判例で、アメリカの契約法学者が注目する例は他にないと思います。」
千葉「異議あり。(笑い)ヴィクトリア・ランドリー事件控訴院判決Cやヘロン二世号事件貴族院判決Dを取り上げる教科書もあります。」
荒井「これは手厳しい。(笑い)しかしこれら二つの判決は、以前詳しく論議したので記憶に新しいと思いますが、ハドレー対バクセンデール事件法理の展開です。したがって、馬場君の指摘はあながち誤りでもありません。それに加えて、アメリカ法から一歩踏み込んだ部分もあるのです。」
馬場「援軍を差し向けて下さり、痛み入ります。」(笑い)
千葉「一歩踏み込んだとはどういう意味ですか?」
荒井「それは議論がもっと進んでからでないと、説明もできないし、判ってももらえない。」(笑い)
土井(D)「それでは報告します。第一の判例は1664年の王座部判決ナース対バーンズ事件Eです。被告はある種の鉄工所を原告に6ヶ月間貸し与え使用させることを約束し、原告は対価として10ポンドを支払いました。鉄工所の価値は一年でも、20ポンドに過ぎませんが、被告の約束違反に対する損害賠償金として、陪審員は原告が買い入れた在庫品の損失額500ポンドを認定しました。裁判所はこれを承認し、陪審員は10ポンドにとらわれず、全ての特別損害金をも認定することができると判示しました。」
千葉「理解困難な判決ですね。ところで、在庫品とは何ですか?」
馬場「おそらく工作用の鉄材でしょう。」
土井「原告は被告の約束を信頼して、500ポンドの鉄材を買い入れ、それが無駄になったのです。」
千葉「鉄工所を使用できたとすれば、原告はいくらの利益を上げることができたのか、また在庫品も他に転用できなかったのか、などの問題は残るはずです。」
馬場「判例集に搭載されている報告は僅かに5行76文字に過ぎませんから、ここでは深く詮索しない方が良さそうです。」(笑い)
荒井「原告が被告の約束を信頼して支出した金額が損害賠償額とされた事実を念頭に置いて、次の判決に移りましょう。」
千葉「私には消化不良です。この古い判決が何故問題となるのか理解に苦しみます。」
荒井「ごもっともです。(笑い)後でまた出てきますからご安心を。」
土井「第二の判決はロード・デニング・エム・アール(Lord Denning M.R.)が判決文を書いたアングリア・テレヴィジョン対リード事件控訴院判決Fです。」
千葉「デニング卿はごく最近他界されました。」
荒井「津留崎裕弁護士が立派な追悼文を書かれています。Gデニング卿のご冥福をお祈りしましょう。」(一同合掌)
土井「原告のテレビ局はテレビ放映用劇映画の制作を企画しました。イギリス人女性と結婚したアメリカ人男性がイギリスの森の中で経験する冒険を題材とした90分番組です。原告は主役となる男優を決める前に、多くの事前準備を整えました。」
千葉「事前準備と言いますと?」
土井「撮影場所の確保や、監督・デザイナー・助演俳優との契約などです。」
千葉「それには多額の費用がかかります。」
土井「原告はアメリカの有名な俳優ロバート・リードと出演契約を結びました。リハーサルと撮影のため、リードは1ヶ月強イギリスに滞在しなければなりません。しかし何らかの行き違いで、これが二重ブッキングとなってしまったのです。」
千葉「同時期に出演する契約が他にあったのですね。」
土井「リードは契約の履行拒絶を通告しました。テレビ局は他に代演者を探しましたが、見当たらず、劇映画制作を断念することとなりました。そこで原告は被告リードの履行拒絶を承諾したのです。」
千葉「以前私が報告したホクスター対ド・ラ・トゥール事件判決の法理、つまり履行期前拒絶による契約違反です。」
土井「原告は無駄になった支出費用2,750ポンドが被告の契約違反による損害金であると主張し、その賠償を被告に求めました。」
千葉「被告は契約違反の責任を認めたのですか?」
土井「そうです。しかし損害金について被告は、出演契約締結以後に原告が支出した854ポンドについてのみ賠償責任を認め、契約前に原告が支出した事前準備の費用は無関係であると反論しました。」
千葉「先例はどうなっていたのでしょうか?」
馬場「契約以前の費用は認めるべきでないと判示した19世紀前半の判例Hがあります。主婦がリンゴを買いに行き、買ったリンゴが食用に適さないと後になって判っても、店に行く費用を回収できない筈だと言っています。」
千葉「リンゴの買い出しのために、馬車で遠方まで旅したのですか?」
馬場「混ぜっ返さないで下さい。」
千葉「済みません。」(笑い)
荒井「マックグレガーやトゥライテルの教科書Iも、当時は契約以前の費用について否定的でした。」
土井「デニング卿は次のように判断してテレビ局の請求を認めました。原告は逸失利益(loss of profits)か、または空費支出(wasted expenditure)を選択して請求できます。しかしその何れかを選ばなくてはならず、両者を合わせては請求できません。もし原告に逸失利益が無く、または得べかりし利益を証明できないのであれば、代わりに、放棄した費用、即ち違反によって無駄になった費用を請求することができます。原告が空費支出を請求するのであれば、契約締結以後に支出した費用に限定されません。契約以前に発生した費用であっても、契約が破られれば無駄になる費用かも知れないと、両当事者が観念していたと判断することが理に適っている限り、原告は請求できるのです。」
荒井「論点を整理しておきましょう。第一に、期待利益(expectation interest)と信頼利益(reliance interest)の区別です。第二が、信頼利益に契約以前に発生した費用を含めるか否かの問題です。」
千葉「期待利益と信頼利益についてご教授願います。」
荒井「いつもと異なり、神妙ですね。(笑い)それでは、アングリア・テレヴィジョン事件のデニング判決については、後刻再検証することとして、ここでロン・エル・フラー教授(Prof. Ron L. Fuller)の有名な論文について、馬場君に説明をお願いしましょう。」
馬場「フラー教授が指導大学生のウィリアム・アール・パーデューと連名で1936年に発表した『契約損害賠償金の信頼利益』と題する論文は誰知らぬ者のない先駆的文献です。論文は二部に分かれていますが、学者や裁判官によりしばしば引用されるのはその第一部Jです。」
千葉「フラー教授と言えば、ハーヴァード大学で法律学を講じていましたね。」
馬場「そうです。しかしこの論文を発表した当時は、未だデューク・ロー・スクールで教鞭を執っていました。そこの学生であったパーデューはリサーチ・アシスタントを務めたほか、第二部中、判例法の実情に関する数箇所の草稿を書いたそうです。但し論文の論理的側面は、専らフラー教授の業績です。」
千葉「損害賠償金によって保護される三種の基本的利益を分析した画期的論文ですね。」
荒井「千葉君は表面上不知を装いながら、よく勉強しています。」(笑い)
馬場「フラー教授は、約諾者に約束違反があったとき受約者に契約損害賠償金を与える主要目的として、三つ挙げています。原状回復利益(restitution interest)、信頼利益(reliance interest)、期待利益(expectation interest)がそれです。」
荒井「千葉君が不審に思っている様子です。(笑い)おそらく利益の順番でしょう。」
馬場「一般には逆の順番で論議されますが、ここではフラー論文に従います。」
荒井「それにはそれなりの意義があるのです。」
馬場「第一に、原告が被告の約束を信頼して、何らかの有価物を被告に与えたたとき、被告が約束を履行しなかった場合を考えます。裁判所は被告に原告から受領した有価物を吐き出すように強制するでしょう。ここでの目的は違約した約諾者が受約者の犠牲の下で利得することを阻止することです。簡略に言えば不当利得の阻止です。」
荒井「もし契約がなかったとすれば約諾者が占めていたであろう立場に約諾者を戻すことですね。保護される利益は受約者の原状回復利益です。」
馬場「第二は、原告が被告の約束を信頼して、立場を[不利に]変えた場合です。例えば、土地売買契約の買主が売主の権利関係調査のため費用を支出したとき、または他に契約を結ぶ機会を見送ったときです。原告に損害賠償金を与える目的は、被告の約束を原告が信頼したため生じた損害を取り除くことです。」
荒井「これが原告の信頼利益を保護することに当たります。約束がなかったとすれば、受約者が占めていたであろう立場に受約者を戻すことです。」
千葉「逸失機会(lost opportunities)も信頼利益となるのですか?」
荒井「手厳しい質問ですね。(笑い)判例を見る限りでは、裁判所は逸失機会を一般に考慮していないようです。但し、フラー教授の所説は馬場君の説明どおり逸失機会を認めています。」
馬場「第三に、受約者による信頼や約諾者の利得に固執せず、約束が生み出した期待価値(the value of the expectancy)を受約者に与えることが考えられます。特定履行(specific performance)を求める訴訟であれば、約束した履行を原告に対して実際に給付するように被告を強制することになりますし、損害賠償金請求訴訟であれば、被告に履行の金銭的価値(the maney value)を支払わせます。」
荒井「保護される利益は原告の期待利益です。交換取引の利益(the benefit of the bargain)と呼ぶこともあります。ここでの裁判所の試みは、約束が違反無く履行されたと仮定して受約者が占めているであろう立場に受約者を置くことです。」
土井「原状回復利益、信頼利益、期待利益の三者間の相互関係について解説をお願いします。」
荒井「今後判例を論議するといろいろと問題が浮上すると思いますが、ここでは簡単に相互の関係を確認しておきましょう。馬場君にお願いします。」
馬場「フラー教授をこう言っています。司法介入の必要性という観点から比較すると、重要度は論文が挙げた順序になります。」
千葉「私が不審に思ったことです。」(笑い)
馬場「原状回復利益は不当喪失(unjust impoverishment)と不当利得(unjust gain)の組み合わせですから、救済の必要性が最も高いものです。アリストテレスに従えば、社会構成員の間に於ける財産の均衡を維持すること(the maintainance of an equilibrium of goods among members of society)に正義の目的があります。」
千葉「この研究会に出席するとギリシャ哲学の勉強にもなります。」(笑い)
荒井「原状回復利益では原告が失う一単位の利益が、被告の利得一単位となるのですから、両者間の乖離は二単位となって、原告の失う一単位のみを問題とする信頼利益に比較して重要度は二倍になるとも言えますね。」
馬場「次に、約諾者を現実に信頼した受約者は、約諾者に利得を与えることが無くとも、約束が実現しなかったことによる失望の満足を単に求める受約者より、救済の緊要度は増します。立場変更に対する補償から期待喪失に対する補償への領域移転は、再びアリストテレスの言葉を借りれば、矯正の正義(corrective justice)から分配の正義(distributive justice)への領域移転です。」
荒井「期待利益はもはや乱された現状を治癒するのではなく、新しい事実関係を生み出しているのです。利益概念の推移に伴い、法は防禦的乃至遡及的に働くことを止め、益々積極的役割を担うようになったと、フラー教授は言っていますね。」
千葉「損害賠償金が対象とする三種の利益概念については大凡の理解ができました。しかし、実例を示してもらわないと何かと不安が残ります。」(笑い)
土井「待っていました。(笑い)荒井さんから比較的新しい判例を預かっています。」
荒井「ひとまず休憩にしましょう。」
 
議論に夢中になってチャイコフスキーが終ったのも誰気付かず、アンプのスウィッチは入れたままであった。荒井老人が今度取り出したのはナタン・ミルシタインのヴァイオリンとクラウディオ・アバド指揮ウィーン・フィルの競演である。曲は同じくチャイコフスキーのニ長調協奏曲である。皆のコーヒー・カップが空になったところで、再び音量を下げ、研究会を再開した。
 
荒井「土井君に引き続きお願いするのは1992年に現れた第2巡回区連邦控訴裁判所の判決Kです。」
土井「被告は眼科診断用の超音波医療器具を製造販売しています。原告は契約を結び、被告から同医療器具の合衆国、プエルト・リコ、及びカナダ域内での独占的販売権を取得しました。契約時に原告は前払専売権料として$500,000を被告に支払いました。被告が注文期限に合わせた製品納入を怠ったと主張する原告は、以後被告から製品を購入せず、自社で医療器具を製造するとの通告をしました。」
馬場「契約上自社製造権が認められていたのですね。」
荒井「90日以内に納期是正措置がとられないと、原告が別に特許権使用料を支払って自ら製造できることになっていました。」
土井「通告を受けた被告は製品の納入遅滞を否認し、原告の通告が契約の履行期前拒絶を構成すると判断し、通告を承諾して契約を解除しました。」
千葉「アンティサパトーリ・レピュディエーション(anticipatory repudiation)は以前に詳しく検討しましたからL、よく理解できます。」
土井「ところが納期に関する自説の齟齬に気付いた原告は、先の通告を撤回し、改めて被告製品の販売を再開する旨の通告を行いました。しかし被告はその撤回を認めず、独占販売権領域での別ルート販売を開始したのです。」
千葉「そこで原告は被告の契約違反を理由として訴訟を開始したのですね。」
荒井「訴因には独禁法違反も含まれていた筈です。」
馬場「ところで医療器具の売れ行きはどうだったのですか?」
荒井「実はそれが問題だったのです。市場では競合製品との競争が激しく、事件当時原告は被告製品を40%値引きした価格破壊的販売操作を行っていました。」
千葉「クラッシュ・セールス・オペレーション(crash sales operation)ですか?」
荒井「そうです。それから、これは開示手続き(discovery)によって判明したことですが、被告が契約解除以前から原告の独占販売権領域で他の代理店を起用して、製品を販売していた事実が明るみにでました。」
千葉「明らかな契約違反ですが、原告はこの事実をそれまで知らなかったのですね。開示手続きの効果です。興味深い話です。」(笑い)
土井「ニュー・ヨーク州東部地区連邦地裁は被告が二つの契約違反を侵していると判断しました。」
千葉「第一は別ルート販売です。」
荒井「良くできました。」(笑い)
土井「第二に、地裁は被告が納入遅滞の是正措置をとらなかった事実を認定して、被告からの製品購入を停止し、自社で製品製造を行う権利を、契約条項に従って、主張した原告の行為は正当であると言っています。」
千葉「原告による正当な自社製造権発動を受けて、自らの契約義務の履行を拒否し、契約の解除を行った被告は契約に違反したことになりますね。履行期前拒絶の承諾が諸刃の剣であると言われる所以です。」
荒井「相変わらず千葉君は明晰です。」(笑い)
土井「さらに地裁は、補足的に、被告が納入遅滞を契約に規定した90日以内に是正しているため、原告の自社製造権主張が不当であったと仮定しても、被告の契約解除は認められないと言っています。」
千葉「あれー?それでは話が違う。」(笑い)
荒井「千葉君の驚きも無理がありません。」
千葉「独占的販売権供与の契約に特別な条項でもあったのですか?解除権に停止条件(conditions precedent)が契約上規定されているときは、その条件が成就するまで解除権は行使できません。これはニュー・ヨーク州の判例法Mです。」
荒井「立派に名誉回復です。(笑い)重大な違反(material breach)があると相手方当事者は契約解除の意思を通告し、違反当事者には違反是正のため30日の猶予期間が与えられるとの規定が契約に存在したのです。したがって、30日の予告通知を怠った被告は重大な違反を侵したことになります。また日数的に言っても、原告は30日以前に自社製造の通告を撤回していました。」
千葉「連邦地裁は前払専売権料として支払われた$500,000を損害賠償金の額と定め、被告に支払いを命じました。理由は被告が原告に与えた独占的販売権の価値を減じたため、前払専売権料の返還が原告の損害填補に相当であると言うのです。」
荒井「その他に、残存在庫品の減価、逸失利益、懲罰的損害賠償金などに関する地裁判断もありますが、ここでは割愛しましょう。」
馬場「問題は$500,000の損害賠償金を概念的にどのように把握するかですね。」
荒井「それでは連邦控訴裁判所の判決に移りましょう。第2巡回区です。土井君どうぞ。」
土井「判決は被告が納期遅滞の是正措置を契約に定める期間内に、即ち90日以内に、とらず、そのため原告に自社製造規定の発動を許すことになったか否かに関しては判断しませんでした。」
千葉「すると、地裁が補足的に述べた停止条件付き解除権ですね。」
土井「そうです。契約にはニュー・ヨーク州法準拠が定められていました。」
千葉「本件は商品の購入、販売、及び流通に関係しますから、ニュー・ヨーク州が採択した統一商事法典(New York Uniform Commercial Code)が適用になります。」
馬場「正確な略称はN.Y.U.C.C.でしょうが、誤解も生じないでしょうからここでは単にU.C.C.と呼ぶことにしてはどうですか?」
荒井「ニュー・ヨーク州の場合はセクション・ナンバーも統一州法案と同一ですから、それで良いでしょう。」
土井「買主に履行期前拒絶があれば売主が即時に契約を解除することのできることは、U.C.C.セクション2-610と2-703とを合わせ読めば明らかです。」
千葉「それが被告の主張ですね。」
土井「そうです。しかしU.C.C.セクション1-102(3)には、『本法律に定める条文の効果は、本法律が別に定めるほかは・・・、合意によって改変できる。』とあります。前にも述べました独占的販売契約上にある30日の予告通知条項はこの『合意による改変』に相当すると連邦控訴裁判所は判断したのです。被告は契約の解除通知を僅かに3日間の日限を置いた最後通告としていますから、30日予告条項に従わなかった被告の行為は重大な契約違反とされたのです。」
千葉「責任問題はこれで解決ですね。それでは、待ちに待った損害賠償額の裁定問題に移りましょう。」(笑い)
土井「原告は事実審で逸失利益を請求し、その損害額を被告が解除前及び解除後に行った専売領域内での違反販売で上げた利益を基に証明しようとしました。しかし、被告の違反がなければ被告と同数の販売、または同額の利益、を挙げ得たであろうことを示す証拠を提出できなかったのです。」
馬場「ニュー・ヨーク州の判例法によれば、逸失利益を請求する原告は、その原因が被告の違反にあることを合理的程度に至る確実性を以て(with a reasonable degree of certainty)証明しなければなりません。N
土井「連邦地裁は逸失利益の請求を憶測に過ぎないと却下しています。」
千葉「これに反論するのは難しいでしょうね。」
土井「はい。控訴審で原告はこれを争っていません。」
千葉「そうすると、前払専売権料の$500,000が損害額とされたことに被告が異を唱えたのですね。」
土井「逸失利益の代わりに、地裁は、被告の製品を仕入れ購入し、独占的販売者となる権利の見返りとして、契約時に原告が支払った前払専売権料$500,000を、憶測的ではない損害賠償金額であると認定していました。その根拠には、第一に、契約がまだ存続している間に被告は原告の専売域内で製品販売し、第二に、契約を履行期前拒絶したたため、原告が独占的販売権を侵されたとの地裁判断があります。地裁判決を引用すれば、『公正の観点から、また契約損害賠償法に従い(in accordance with the law of contract damages)、被告は$500,000を返還すべき』こととなるのです。」
千葉「『契約損害賠償法』では曖昧ですが、期待利益の法理を地裁は適用したのでしょうか?」
土井「控訴裁判所はそのように理解しています。」
馬場「両当事者が契約を完全に履行していたと仮定すれば、占めていたであろう立場と同一の経済的立場に被害当事者を置くことによって、契約条項に強制力を与えるのが期待利益の法理ですね。ニュー・ヨーク州最高裁の判決Oやニュー・ヨーク州法を適用した第2巡回区連邦控訴裁判所の判決Pに例があります。」
荒井「原告が契約によって取得した独占的販売権の利益を完全には享受できなかったとしても、契約が完全に履行されていれば$500,000の利益を実現できたであろうとは言えませんね。」
土井「ご指摘のとおりです。逸失利益と$500,000を結ぶ証拠を原告は提出できませんでした。連邦控訴裁判所は期待利益を根拠とした地裁の損害額裁定は支持できないと言っています。」
千葉「そこで原審差し戻しですか?」
土井「いいえ。地裁は$500,000の賠償金額が、他の選択肢として、信頼利益損害の法理の観点からも適切であると示唆していたのです。」
千葉「控訴裁判所は信頼利益の判断を求められたのですね。今日の中心テーマです。判決はどう言っていますか?」
荒井「千葉君に急かされて性急に議論を進めるのは問題です。」(笑い)
馬場「本件事件の判決、特に信頼利益の部分を理解するためには事前準備が必要という意味ですね。」
荒井「そうです。次はハイフェッツです。」
千葉「休憩という意味ですね。」(笑い)
 
荒井夫人心尽くしのミルク・ティーとクッキーを味わいながら、暫時耳を傾けたのはヤッシャ・ハイフェッツのヴァイオリン、伴奏はフリッツ・クライスラー指揮のシカゴ・シンフォニーである。今日の荒井老人は徹底してチャイコフスキーのヴァイオリン・コンチェルトにこだわっているようである。
 
荒井「それでは、眼科診断用超音波医療器具の専売権契約に関する判決を暫時お預けにして、19世紀後半の連邦最高裁判決と20世紀中葉の第2巡回区連邦控訴裁判所判決の二件を振り返ってみましょう。馬場君にお願いします。」
馬場「承知しました。最初は1884年の連邦最高裁判決Qです。連邦政府がニュー・オリーンズ港前面のミシシッピー川の河底改良工事を計画し、工事業者に発注しました。工事の契約価格は$52,000でした。しかし、改良工事が相当程度進捗した段階で、政府の作成した工事計画書自体に欠陥があることが判明したため、政府は工事の中止を命じたのです。」
千葉「発注者の履行拒絶ですから契約違反ですね。」
馬場「工事業者は工事に必要とした機械、工具、資材、労務及び提供役務など、実際に支出した費用から残存資機材売却の取得金を差し引いた金額$33,192.90を政府に請求しました。」
千葉「それは政府の契約違反が原因となって工事業者が被った実損害ですね。」
馬場「工事業者の主張によれば、工事を完成するためには更に$10,000の追加費用を要した筈ですから、工事契約金額$52,000から得られる利益は$8,807.10となります。」
千葉「得べかりし利益、即ち逸失利益です。」
土井「千葉君の解説付きですから、馬場さんの説明も判り易い。」(笑い)
馬場「工事業者はそれまでに工事金額を1セントも政府から受け取っていませんから、実支出費用と逸失利益を合わせて$42,000を訴求しました。」
千葉「逸失利益の主張は一般的に憶測的なものに成りがちですね。証明は通常困難です。」
馬場「最高裁は、逸失利益を証明できなかった原告に対して、実支出費用のみの賠償請求を認めた原審判決を承認しました。」
千葉「原審とは?」
馬場「連邦政府に対して提起された契約違反訴訟を審理する請求裁判所(Court of Claims)です。しかしこれは1982年に廃止され、United States Claims Courtに引き継がれましたから、本事件は請求裁判所が扱った最後の事件かも知れません。」
土井「ところでこの判決の意義は奈辺にあるのですか?」
千葉「私も疑問に思っていました。わざわざ取り上げたからには何かありそうだと。」(笑い)
馬場「判決文の一部をそのままご紹介します。『任意且つ不法に契約を終わらせ、相手方当事者の履行を妨げた当事者は、被害当事者の損害が彼の実損失と正当に支出した費用に達していないと否定的に主張することを禁じられる。・・・[逸失]利益に対する請求[の存在]は、たとえ証明不充分の結果、請求が認容され得ないとしても、支出と経費から被った損害に対する請求の認容を妨げない。』(The party who voluntarily and wrongfully puts an end to a contract, and prevents the other party from performing it, is estopped from denying that the injured party has not been damaged to the extent of his actual loss and outlay fairly incurred. ... The claim for profits, if not sustained by proof, ought not to preclude a recovery of the claim for losses sustained by outlay and expenses.)」
千葉「二重否定が巧みに解釈されているので感心しました。判決の流れを正しく理解していないと、英文の達人でも誤訳しかねない部分です。」
馬場「お褒め頂いて恐縮です。(笑い)種を明かせば、別のところに、"It does not lie, however, in the mouth of the party, who has voluntarily and wrongfully put an end to the contract, to say that the party injured has not been damaged at least to the amount of what he has been induced fairly and in good faith to lay out and expend, (including his own services,) after making allowance for the value of material on hand; at least it does not lie in the mouth of the party in fault to say this, unless he can show that the expenses of the party injure have been extravagant, and unnecessary for the purpose of carrying out the contract."と言う文章が現れるのです。」
土井「実費用が過度で不必要なものでない限り補償されると言う意味は、契約が必ず利益を上げるか、または収支トントンであることを前提としていますね。」
千葉「契約には失敗契約つまり赤字の契約もあります。もし最高裁の判旨が、経費を必ず補償すると言うことであるなら、原告は被告の契約違反によって却って助かったことになります。」
荒井「お二人とも、優れた洞察力をお持ちです。(笑い)安心して次の判例に入れます。」
馬場「次は1949年に現れた第2巡回区連邦控訴裁判所の判決Rです。判決文はかの有名なラーニド・ハンド首席判事(Learned Hand, Chief Judge)が読み上げています。」
千葉「ハンド判事の略歴を教えて下さい。」
荒井「ビリングス・ラーニド・ハンド(Billings Learned Hand)と言う名ですが、母親の結婚前の姓ラーニドを好み、ビリングスを用いませんでした。1872年生1961年没です。ハーヴァード大学で学んだ後10年以上ニュー・ヨーク州で弁護士を務めました。1909年ニュー・ヨーク州南部地区連邦地裁の判事に任命され、1924年に第2巡回区連邦控訴裁判所裁判官に昇格しました。1951年に退官しています。優れた内容の判決文で知られ、後年製造物責任法理に於ける危険・効用比較考量基準の源泉となったキャロル曳船事件判決Sは特に有名です。」
馬場「1942年の12月に、被告は古ゴム再生用の機械4台を購入する契約を原告と結びました。2台の機械は1943年の8月に納入されましたが、残りの2台は1945年9月の始めになっても提供されませんでした。」
千葉「1945年と言えば、8月に第二次世界大戦が終わっています。再生ゴムの需要がおそらく減少した筈です。」
荒井「相変わらず千葉君の推理は鋭い。」(笑い)
馬場「機械2台の納入遅滞は原告の契約違反であり、機械4台全てを拒絶し返還する権利が被告にあると裁判所は判断しました。被告は古ゴム再生機械据え付けのため工場内に設置した土台の費用として、$3,000を原告に請求しました。被告の言う理由は原告の履行を信頼して支出した費用が無為に帰したことです。」
千葉「お待ち下さい。(笑い)お話は原告と被告が逆ではありませんか?」
馬場「いいえ。訴訟は売主が既納の機械2台の代金を請求して提起したのです。従って$3,000は同一訴訟内で買主が行った反対請求です。」
千葉「今までの論議を基礎に考えると、買主の反対請求は認められる筈です。ミシシッピー川河底改良工事事件の連邦最高裁判決に従えば、そうなります。」
馬場「ハンド判事は次のように言っています。『事業が受約者に利益を生むものと判る場合には、彼に費用の回収を認めない理由は存在しない。他方に於いて、契約の履行が受約者の費用を償うに足りぬときは、彼に費用の回収を認めると、受約者が契約で負担した危険を約諾者に転嫁することとなる。約諾者の不履行を隠れ蓑にして、約諾者を受約者の行う事業の保険者とすることは認められない。とは言え、履行の価値が受約者の費用を実際に下回るであろうことの証明責任を、違反した約諾者に課してはならぬ理由もない。』(In cases where the venture would have proved profitable to the promisee, there is no reason why he should not recover his expenses. On the other hand, on those occasions in which the performance would not have covered the promisee's outlay, such a result imposes the risk of the promisee's contract upon the promisor. We cannot agree that the promisor's default in performance should under this guise make him an insurer of the promisee's venture; yet it does not follow that the breach should not throw upon him the duty of showing that the value of the performance would in fact have been less than the promisee's outlay.)」
土井「噂に違わず達意の文章ですね。」
千葉「訳文も原文に劣らず立派です。」
馬場「お褒め頂き恐縮です。」(笑い)
荒井「麗しい光景です。(笑い)ところで契約の価値が幾らであるか判断することは容易ではない。」
馬場「そこでハンド判事は次のように続けています。『契約の価値が如何ばかりか判断することが困難な場合は極めて多い。そのような事情があるとき、証明の危険を自己の不法な行為により相手方の権利に関する争点を作出した当事者に負担させることは、一般的且つ正当な方策である。』(It is very often hard to learn what the value of the performance would have been; and it is a common expedient, and a just one, in such situations to put the peril of the answer upon that party who by his wrong has made the issue relevant to the rights of the other.)」
荒井「ハンド判事の示す妥当な解決方法とは、受約者が履行準備のために支出した費用は回収できることを原則としつつも、契約が履行されたとすれば受約者に損失が発生したであろうことを証明し、その損失の限りに於いて賠償額を減額する機会を、約諾者に与えることを条件とするのです。」
千葉「この判決は、ミシシッピー川河底改良工事事件の連邦最高裁判決を文字どおり解釈すれば、それに背くことになりませんか?」
荒井「その辺のことはハンド判事も重々承知の上です。現在の最高裁であればそうは言わないであろうことが第一、第二に、本件をコネティカット州法に基づいて判断していることが判事の釈明です。そしてコネティカット州の先例を分析しています。」
土井「結論として控訴裁判所は被告の請求した土台設置費用$3,000の賠償を認める一方に於いて、原告には機械が納期内に納められていれば、被告に契約損失が発生したであろうことを証明し、その損失額を賠償額から控除する余地を残したのですね。」
荒井「そうです。それでは予備体操も済みましたから、眼科診断用超音波医療器具事件に戻りましょう。土井君に再びバトン・タッチですが、その前に、一息入れましょう。」
千葉「今度は誰のヴァイオリンですか?」(笑い)
荒井「パールマンです。」
 
ピーナッツを煎餅風に仕立てた菓子を頬張りながら聞いたチャイコフスキーも素晴らしかった。イツァク・パールマンとエリヒ・ライスドルフ率いるボストン・シンフォニーの演奏である。
 
荒井「それでは土井君始めて下さい。」
土井「期待利益の適用を否定した連邦控訴裁判所は、続いて、信頼利益損害の法理に従えば、$500,000の損害賠償額が適切であると言えるか検討しています。判決はカリマリとペリロの契約法@から数行を引用して、この法理の下で原告は『彼が支出した準備費用、一部履行費用、及び契約を信頼して支出することとなった他の予見可能な費用』を回収することができると言います。」
千葉「成る程。」(笑い)
土井「判決は更にファーンズワースの契約法Aから一節を引用して、この定義が条件付きであると言います。代替的信頼『損害賠償額の基準は被害当事者の信頼利益が当該当事者の期待利益を超えないとの前提条件の上に成り立っています。』」
千葉「代替的信頼損害賠償額の基準とは何を意味するのですか?」
土井「英文は"alternative reliance measure of damages"です。」
荒井「契約違反に対する救済としては、先ず契約上の義務を現実に履行強制することが考えられます。アメリカ契約法ではこれを特定履行(specific performance)と呼んで、極く限られた事例にのみ認められます。これはエクウィティー上の救済です。コモン・ロー上の救済は金銭賠償が原則です。特定履行と対比すれば、代用救済(substitutional relief)とも言えましょう。金銭賠償で最も多いのが交換取引の価値(the benefit of the bargain)即ち期待利益を基準とするものです。ファーンズワース教授の言う代替的とは、期待利益に代替する信頼利益の意義です。但し教授は代替的損害賠償額の基準と言っています。信頼は判決文を書いた裁判官が挿入したものです。」
千葉「良く理解できました。」
土井「判決は更に続きます。裁判所が『[信頼利益の賠償を受ける]原告を契約が完全に履行されていたなら占めていたであろうより優れた立場に承知しつつ置く』ことはありません。引用文は例のフラー論文からの借用です。従って、信頼賠償は『契約が完全に履行されていたなら被害当事者が被ったであろうと違反当事者が合理的確実性を以て証明できる損失』の額によって相殺されます。」
千葉「後段の引用はやはり学者の文章ですか?」(笑い)
土井「いいえ。契約法(第2次)リステートメントのセクション349です。」
荒井「簡単に補足します。リステートメントのセクション344を読めばお判りでしょうが、起草者は救済の目的についてフラー論文の分析と用語を採用しています。それから先程、金銭賠償で最も多いのが期待利益と申しましたが、セクション347は『損害賠償金の一般的評価基準』(Measure of Damages in General)と題して期待利益を規定しています。即ち、期待利益賠償が一般的なのです。更にセクション349の表題は『信頼利益を基礎とする損害賠償金』ですが、本文は『セクション344に規定する損害賠償金の基準に代替して(as an alternative to)、・・・』と始まります。信頼利益賠償が期待利益賠償に代替する評価基準であることが理解できると思います。」
土井「判決は次のように結論付けています。完全履行による原告の損失は信頼費用と同額または超過したであろうと違反当事者が証明するときは、原告は信頼法理の下で何らの賠償も得られない。」
馬場「信頼利益の賠償には損失契約の制限が常に影のように付いて回るのですね。」
千葉「ハンド判決の知識を事前に与えられていますから、理論は理解できます。しかし、現実の事件にどのように適用するのですか?」
荒井「鋭い指摘です。(笑い)しかし、土井君が最初に報告した事実関係を想起すれば、解答は既に出ています。」
千葉「ウーン!」(笑い)
土井「地裁の事実認定によれば、原告は被告製品の販売に困惑していました。市場では競合製品との競争が激しく、事件当時原告は被告製品を40%値引きした価格破壊的販売操作を行っていたのです。従って、前払専売権料の$500,000をそのまま信頼利益損害を判断する正当性は存在しないのです。」
千葉「判決はそれで終わりですか?」
馬場「まだ原状回復理論の適用可否が残っているでしょう?」
千葉「もしそうだとすれば、期待利益、信頼利益、及び原状回復利益の全てを網羅した理想的な講壇事例です。」(笑い)
荒井「千葉君の期待に応えて、土井君続けて下さい。」
土井「本件の連邦地裁は原状回復利益を全く考慮に入れていなかったのですが、控訴裁判所は、被告に重大な契約違反があるため、原告には原状回復利益を基準とした損害賠償請求権があると判断しました。原状回復の法理は『他人の負担した費用により不当に利得した者は当該他人に返還することを求められる』とのエクウィティー上の原則を前提としています。」
千葉「今度の引用はどこからですか?」(笑い)
土井「不当利得法リステートメント(1937)のセクション1です。」
千葉「原状回復利益の損害賠償は特定履行と同様にエクウィティー上の救済と考えて良いのですね。」
荒井「エクウィタブル・レメディーズ(equitable remedies)として原状回復利益を考えると、当事者の契約条項に拘束される必然性がありません。」
土井「判決は続きます。被告に重大な契約違反のあることが証明されると、原告は『給付した役務、引き渡した商品、及び移転した財産権の適正価格を原告が受領した反対給付の適正価格を控除して』回収できます。引用文は前にも引用したカリマリとペリロの契約法Bです。」
馬場「不当利得法理は原告が被告に与えた利益の適正価格に注目し、当事者の契約条項に支配されないため、契約が完全に履行さたなら原告が損失を被るであろう事情の下でさえ、不当利得の返還は認められますね。」
荒井「一言付け加えます。特定履行や他の金銭賠償と対比すると、主眼が被害当事者の期待利益や信頼利益を保護することにより、約束に強制力を与えることにはなく、被害当事者の原状回復利益を保護することにより、違反当事者の不当利益を妨げることにあります。換言すると、その目的は、被害当事者を契約が履行されていたなら占めていたであろうと同等の立場に置くことではなく、また被害当事者を契約が結ばれていなかったなら占めていたであろう立場に戻すことでさえなく、むしろ違反当事者を契約が結ばれていなかったなら占めていたであろう立場に戻すことです。」
千葉「質問!(笑い)特定履行も期待利益の保護ですか?」
荒井「当然です。」(笑い)
土井「判決に戻ります。連邦控訴裁判所は被告が不当利得したことを証明できるなら前払いした$500,000の限度まで回収が認められると言います。ところが契約には前払専売権料は『如何なる事情があっても返還されない』と明記してあったのです。」
千葉「被告は当然異を唱えるでしょうね。」
荒井「千葉君はどうも馬場君と私の話を聞いていなかったらしい。」(笑い)
千葉「契約条項は原状回復利益の賠償を支配しません。」(笑い)
馬場「しかしながら、$500,000全額というわけには参りませんね。」
土井「原告は約2年間独占的販売権を現実に享受していたのですから、この利益の適正価値を$500,000から控除しなければなりません。」
千葉「契約価格を離れて利益の適正価値となると評価は難しいですね。」
馬場「容易に入手可能な市場価格が存在しないときは、契約上当事者が利益に与えた価値を最善の評価と一般に裁判所は考えるようです。」
千葉「独占的販売契約の期間は何年でしたか?」
土井「5年です。」
千葉「5年で$500,000であれば案分比例で、2年は$200,000です。これが控除額です。」
荒井「考慮するのはそれだけですか?」
土井「被告は2年の中でも、契約に違反して原告の専売域内で直接販売をしていました。」
千葉「違反販売は原告の享受した利益の価値を減少させています。控除額は$200,000より減少します。」
馬場「判決の結論は?」
土井「地裁の損害賠償額裁定を破棄して、原状回復利益に基づく賠償額を裁定するよう差し戻しました。」
荒井「土井君ご苦労様でした。少し休みましょう。今日はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲に徹底します。」
千葉「気付いていました。」(笑い)
 
アンネ・ゾフィー・ムターの独奏ヴァイオリンと言えば、伴奏はヘルベルト・フォン・カラヤン指揮のベルリン・フィルと直ぐ知れる。ライヴ・レコーディングであるため、迫真性は他よりも優れている。同じ曲をいろいろ聴かされても、飽きがこないのは荒井老人の演奏家選択の故か?各人各様に考えている中に休憩時間も過ぎた。
 
荒井「次は信頼利益賠償のグロス・リミテーションについて考えてみましょう。」
千葉「グロス・リミテーションとは?」
荒井「gloss limitationで、総枠の上限とでも訳しておきましょう。訴訟に現れる契約では期待利益が信頼利益を通常は上回ります。しかし、信頼利益の方が期待利益より原告に有利なこともあり得るわけです。そのような場合、期待の価値を賠償額の上限とすべきでしょうか?」
馬場「信頼利益が被告の約束した履行の合理的価値を上回る場合としては可能性のあるのは原告が損失契約(losing contract)を結んだときです。」
千葉「損失契約はラーニド・ハンド判事の判決にも出てきましたね。」
馬場「あれはグロス・リミテーションの問題ではありません。」
土井「原告に信頼利益賠償を認める一方に於いて、被告には契約が履行されていたなら原告は損失を被ったであろうことの立証を許し、損失を賠償額から減額することでした。」
荒井「実を言えば、グロス・リミテーションの問題はフラーとパーデューの論文が考察している一つの重要なテーマなのです。C千葉君が不可解だと首を傾げていたのに棚上げしていた1664年の王座部判決ナース対バーンズ事件Dを同論文は取り上げています。」
千葉「土井君が今日最初に報告した極め付きに古い判決ですね。」
土井「判決は契約の価値を1年間20ポンドであると認定しました。原告は6ヶ月間鉄工所を借りるのに10ポンド支払いましたから、原告に損失が生じる不利な取引(losing bargain)ではありません。」
千葉「期待利益は10ポンドと考えて良い。」
馬場「しかし、裁判所は原告の請求どおり信頼利益の500ポンドを賠償金額と裁定しました。」
千葉「信頼利益に上限がないことになります。」
荒井「必ずしもそうとは言えないのです。ともかく、フラーとパーデューの論文を読んでみましょう。」
馬場「該当個所を私が説明します。二種類の信頼利益を区別する必要のあることは明らかです。或る信頼行為は、厳密な意味に於いてではありませんが、契約に必然的に含まれる原告にとっての利益、それがどのようなものであっても、それに対する代価です。この種類の信頼を『必須的信頼』(essential reliance)と呼びます。この中には合意した交換の履行、履行の準備、及び、例えば他の有利な契約を結ぶことを見合わせるなどの、契約締結に伴う損失が含まれるでしょう。必須的信頼について、もし賠償額を『契約代価』で制限しないとすれば、被告には契約違反のほか非難すべきところが無くとも、原告自身の契約損失を被告に転嫁することを原告に許容することになります。」
千葉「ミシシッピ川の川底改良計画の事件では、工事請負代価が$52,000でしたが、もし契約解除の時までに工事業者が資機材・労力などに$60,000の費用を既にかけていたと仮定すると、工事完工までに更に$10,000を必要とするわけですから、契約が完全に履行されていたなら、工事業者は$18,000の損失を被ったでしょう。信頼利益として$60,000の賠償を認めることはできません。」
土井「その場合、上限は$52,000ですか、それとも工事の進捗割合による$52,000のプロ・ラタですか?」
荒井「ご判断にお任せします。」(笑い)
千葉「履行拒絶の非難可能性の度合いによって裁判官の判断が違ってくるのだと思います。」
馬場「フラーとパーデューの論文に戻ります。『必須的信頼』と対比してナース対バーンズ事件に現れる信頼の種類を『付随的信頼』(incidental reliance)と呼びます。そこでの原告の信頼(商品在庫の仕入れ)は契約から自然に発生するものであり、その上予見可能であったと考えても良いでしょう。しかしながら、それは契約上の原告の権利を完全にするために必要な行為から成るものではありません。それを被告が行うべき履行の『代価』(price)と見なすことはできないのです。このように『契約全代価』(the full contract price)を超える金額の信頼を被告に転嫁負担させたとしても、原告の契約損失を被告に転嫁したことになりません。従って、このような場合には、原告に与える賠償額を『客観的に』(objectively)評価した期待利益によって制限する正当な理由は存在しません。」
千葉「『客観的に』評価した期待利益とは『契約代価』を意味するのですね。」
土井「付随的信頼について賠償額に上限を設けないのも妥当性を欠きますから、次に問題となるのは、『主観的に』(subjectively)評価した期待利益です。」
荒井「ご両人の洞察力には脱帽の外ありません。」(笑い)
馬場「ナース対バーンズ事件で、原告の企図した事業が運営すれば損失を生み、しかもその損失が原告の信頼を基礎とする賠償請求額を上回ることが証明されると仮定します。このような場合に、原告が賠償を得ることとなれば、契約を信頼して着手した事業から原告が被る損失を、結果的に被告に転嫁することとなるのは明らかです。これを回避するためには、原告の得る賠償金額を『主観的に』、即ち企図した事業から合理的に予測できる利益または損失を勘案して、評価した期待利益によって制限しなければなりません。」
千葉「現実の問題としてはこの制限はほとんど意味を為しませんね。ナース対バーンズ事件のような場合に、被告の契約不履行によって妨げられなかったと仮定して、事業の前途がどうなっていたか正確に判断することは先ず不可能です。」
土井「理論と現実の乖離ですね。千葉君が冴え渡ると、私が発言する余地が少なくなるので、程々に願います。」(笑い)
荒井「私が手締めを引き受けます。(笑い)フラーとパーデューの論文は、問題を非常に簡単な定式に纏めています。『契約を信頼して負担した損失の賠償を求める訴訟に於いて、原告を契約が完全に履行されていたなら占めていたであろうより優れた立場に承知しつつ置くことはない。』(We will not in a suit of reimbursement for losses incurred in reliance on a contract knowingly put the plaintiff in a better position than he would have occupied had the contract been fully performed.)これは必須的信頼と付随的信頼に共通して妥当します。」
千葉「どこかで聞いたような文章ですね。」(笑い)
土井「私の報告した眼科診断用超音波医療器具の独占的販売権に関する事件で、第2巡回区連邦控訴裁判所が判決文に引用しています。」
千葉「道理で。私の第6感も鈍ってきました。」(笑い)
馬場「ところで、アングリア・テレヴィジョン事件のロード・デニング判決については、外にも検証すべきことが残っていましたね。」
土井「信頼利益に契約以前に発生した費用を含めるか否かの問題です。」
荒井「それでは忘れずに指摘された馬場君に解説をお願いします。」
馬場「一昔前のヘヴィー級世界チャンピオンにジャック・デンプシー(Jack Dempsey)と言う人がいたのをボクシング・ファンの方なら知っていると思います。これからお話をしようと考えている事件は、彼が興業主から契約違反に基づく損害賠償を訴求され、イリノイ州控訴裁判所が1932年に判決を下したものです。E
千葉「私の祖父の時代です。しかしデンプシーの名は知っています。」
馬場「興業主はハリー・ウィリスを挑戦者とするタイトル試合を1926年8月にシカゴで開くことをデンプシーと合意し、契約を結びました。しかしデンプシーは契約の存在を否定し、1926年9月にジーン・タニーとの選手権試合をフィラデルフィアで行い、タイトルを奪われました。」
土井「デンプシーが外の挑戦試合を準備していたのに、興業主は何の法的手段も執らなかったのですか?」
馬場「 いいえ。インディアナ州の裁判所に訴え、形態の如何を問わずボクシング試合に出場することをデンプシーに禁じる差し止め命令(injunctional order)を取得していました。」
千葉「裁判所の命令を無視してフィラデルフィアの試合に出たのですから、法廷侮辱罪に問われます。」
荒井「ここでは民事事件だけを考えましょう。」(笑い)
馬場「興業主が請求した損害賠償は4項目から成ります。第1が、試合を開催していたなら原告が得たであろう利益の逸失です。第2は、デンプシーとの契約締結前に原告が支出した費用です。第3は、差し止め命令訴訟で原告が負担した費用です。そして第4に、契約締結以後契約違反に至る間に原告が支出した費用です。」
土井「第1の請求は期待利益の賠償です。ボクシング興業の成否は、興業主の手腕は勿論ですが、挑戦者の評判、試合当日の天候、試合場への交通の難易、宣伝・広告の効果、他に開催される催し物など、多くの要因に左右されますから、逸失利益の裁定は困難でしょう。」
千葉「第2,第3,第4の請求は信頼利益の基づくものでしょうが、期待利益を信頼利益は二者択一的に考えなければなりませんね。」
馬場「お二人が適切に補足してくれるので大助かりです。」(笑い)
荒井「仲間外れにならないように私も参画します。(笑い)差止め命令を求める訴えは、元々原告との契約を履行する、即ちシカゴの試合に出場することを被告に求めたと考えられます。特定履行の訴訟を前提とした契約は一般的とは言えないでしょうから、この種訴訟の提起は原告自身の危険に於いて行われたものと考えざるを得ないでしょう。」
馬場「期待利益について原告は、総売上が$3,000,000、費用が$1,400,000と数字を挙げて、興業主の純利益を$1,600,000となる筈であったと主張しました。しかし裁判所は、損害額は単なる憶測に過ぎず、合理的確実性の程度に達していないと判断し、原告の請求を斥けました。」
千葉「第3の請求は荒井さんの説明から無理と考えられます。それから第4の請求は信頼利益の損害賠償として当然認められます。」
土井「残るのは第2の請求ですね。ロード・デニングの判決と時代は前後逆ですが、これに従えば賠償の対象となります。」
荒井「自分で報告しながら肝心の所が欠けています。」
土井「我ながら失態。(笑い)『契約が破られれば無駄になる出費かも知れないと、両当事者が観念していたと判断することが理に適っている限り』との前提付きです。」
馬場「被告と契約が結べるとの思惑で原告が契約前に支出した費用は、契約違反に対し賠償を求め得る損害要素(an element of damage)ではないと、イリノイ州裁判所は判示しました。」
千葉「そうすると、デニング判決がアメリカで人気があるのは、デンプシー事件判決から一歩進んでいるためでしょうか?」
馬場「人気があるという表現が適切かどうかは別にしても、アングリア・テレヴィジョン事件が多くの教科書に取り上げられていることは事実です。」
荒井「千葉君の解釈には疑問があります。」
土井「それは何故ですか?」
荒井「デンプシー事件判決と同年の1932年に、ミズーリ州のカンザス市控訴裁判所で下された信頼利益損害に関する有名な判決Fがあるからです。」
馬場「新案製品である石油・ガス混焼バーナー付き燃焼炉をアトランティック・シティーで開催された全米ガス協会総会の展示会場に出品しようとした原告が、運送契約に違反したコモン・キャリアーの被告を訴えた事件ですね。」
荒井「そうです。展示品が会期中に到着しなかったため、展示品ブースの賃借料や、製品の往復運送賃、社員の出張旅費が無駄な出費となりました。」
土井「運送者が貨物を合理的期間内に目的地に輸送しなかったときの、損害賠償金の評価基準は、通常であれば、貨物の到着時市場価格と本来到着すべきであった時の市場価格の差額ですね。」
千葉「しかしながら、運送者が貨物輸送の目的に関し特別の事情を知らされ、運送遅滞によって異常な損害が発生することのあるべきことを当然予期して運送を引き受けたときは、その異常損害に対して責任を負います。これは前々回に私が報告したハドレー対バクセンデール法理Gの適用です。」
荒井「しかも原告が製品を出展しようとしたのは、販売目的ではなく、製品に特別の関心を抱いていた特定の顧客に見せ、有利な注文を得る目的であったことが証明されました。」
千葉「ところが顧客からの注文を得られなかった損害、つまり逸失利益を証明するのは困難ですね。」
土井「そこで、被告が契約を履行するものと信頼して原告が支出した費用が、賠償の対象となります。」
千葉「製品の往復運送賃と社員の出張旅費については異論が出ないでしょうが、問題は展示品ブースの賃借料ですね。ブースの賃借契約は運送契約より早く結ばれたと考えるのが自然です。」
荒井「皆さんが当意即妙に応答するので、既に判決文を読んでいるのではないかと疑います。」(笑い)
千葉「結論についての臆断は差し控えます。」(笑い)
荒井「ミズーリ州の裁判所は、ブース賃借料を賠償額に含めました。理由は、被告が貨物を受取り合理的迅速さで輸送するコモン・ロー上の義務を履行するものと原告が信頼してブースを予約したことにあります。」
千葉「お話を伺っていると、ロード・デニングの判決をアメリカ契約法上どのように位置付けたら良いのか判らなくなりました。」
馬場「イギリス契約法の継受と考えると、納得の行かない点もあると思いますが、同じくコモン・ロー契約法世界での先判例ということで理解したらどうでしょうか?講壇事例としても判り易い。」
荒井「講壇事例で割り切るとロード・デニング・エム・アールに失礼かも知れません。何れにせよ、馬場君が上手に締めてくれました。皆さんの活発な発言により今日も有意義な議論ができました。ご苦労様でした。」
馬場・千葉・土井(異口同音に)「有り難うございました。」
 
全員荒井家を辞する前に、ミシャ・エルマンの演奏を聴いた。サー・アドリアン・ブールト指揮のロンドン・フィルが伴奏している。幼くしてレオポルド・アウアーの指導を受けたエルマンが、1908年アメリカに渡り、17歳でデビューして、演奏したのがこのチャイコフスキーであった。そのときの伴奏は帯同したロシア・シンフォニーであった。
 

@ Hochster v. De La Tour, 2 Ellis & Bl. 678, 118 Eng. Rep. 922 (Queen's Bench, 1853)
A Hadley v. Baxendale, 9 Ex. 341, 156 Eng. Rep. 145 (Court of Exchequer 1854)
B Raffles v. Wichelhaus, 2 Hurl. & C. 906 (Court of Exchequer 1864)
C Victoria Laundry (Windsor) Ltd. v. Newman Industries Ltd. [1945] 2 K.B. 528
D Koufos v. C. Czarnikow Ltd. [1969] 1 A.C. 350
E Nurse v. Barns, Sir T. Raym 77; 83 Eng. Rep. 43 (K.B. 1664)
F Anglia Television Ltd. v. Reed [1972] 1 Q.B. 60; [1971] 3 W.L.R. 528
G 津留崎裕「さらばLORD DENNING, MASTER OF THE ROLLS」海事法研究会誌1999年4月号(第149号)
H Hodges v. Earl of Litchfield (1835) 1 Bing. N.C. 492
I Mayne & McGregor on Damages, 12th ed. (1961) 23-27; Treitel's Law of Contract, 3rd ed. (1970) 796
J Lon L. Fuller & William R. Perdue, Jr., The Reliance Interest in Contract Damages (Pt. 1), 46 Yale L.J. 52, 53-57 (1936)
K Bausch & Lomb Inc. v. Bressler, 977 F.2d 720 (2nd Cir. 1992)
L やさしく学ぶアメリカ契約法〈第3回〉「イギリス契約法の継受(その1)」海事法研究会誌1999/4 (No. 149)
M Consumers Power Co. v. Nuclear Fuel Servs., Inc., 509 F.Supp. 201, 211 (W.D.N.Y. 1981); Filmline (Cross-Country) Prods., Inc. v. United Artists Corp., 865 F.2d 513, 518-19 (2nd Cir.1989); General Supply & Constr. Co. v. Goelet, 148 N.E. 778, 779, remittitur amended 150 N.E. 532 (1925)
N Care Travel Co. v. Pan Am. World Airways, Inc., 944 F.2d 983, 994 (2nd Cir. 1991); Kenford Co. v. County of Erie, 493 N.E. 2d 234, 235 (1986) (per curium)
O Menzel v. List, 246 N.E.2d 742, 745 (1969)(盗品のシャガールの絵を買った人は購入時に支払った$4,000ではなく、真の所有者に返さなければならない時点での時価$22,500を賠償金として請求できると判断された。)
P Trans World Metals, Inc. v. Southwire Co., 769 F.2d 902, 908 (2nd Cir. 1985)(アルミニウムの売主は、仕入れ時の市況高騰の危険を負担しているため、市況下落により被った損害を契約に違反した買主に請求できると判断された。); Western Geophysical Co. of Am. v. Bolt Assocs., Inc., 584 F.2d 1164, 1172 (2nd Cir. 1978)
Q United States v. Behan, 110 U.S. 338
R L. Albert & Son v. Armstrong Rubber Co., 178 F.2d 182 (2nd Cir. 1949)
S United States v. Carroll Towing Co., 159 F.2d 169 (2nd Cir. 1947);事実と判決理由については、安藤誠二「米国海事法域に於ける製造物責任」海事法研究会誌 1996/2(No. 130)を見よ。
@ J. Calimari & J. Perillo, Contracts § 14-9, at 603 (3rd ed. 1987)
A 3 E. A. Farnsworth, Farnsworth on Contracts § 12.16, at 265 (2d ed. 1990);但し合本であればp.930。
B J. Calimari & J. Perillo, Contracts § 15-4, at 651 (3rd ed. 1987)
C Lon L. Fuller & William R. Perdue, Jr., The Reliance Interest in Contract Damages (Pt. 1), 46 Yale L.J. 52, 75-80 (1936)
D Nurse v. Barns, 83 Eng. Rep. 43 (K.B. 1664)
E Chicago Coliseum Club v. Dempsey, 265 Ill. App. 542 (App. Ct. Ill. 1932)
F Security Stove & Mfg. Co. v. American Ry. Express Co. 51 S.W.2d 572 (Kans. Ct. App. Mo. 1932)
G Hadley v. Baxendale, 9 Ex. 341, 156 Eng. Rep. 145 (Court of Exchequer 1854);事件の事実関係と判決理由、及びこれから派生する法理一般については、安藤誠二「イギリス契約法の継受(その1)」海事法研究会誌 1999/4(No. 149)を見よ。

(註)初出:「海事法研究会誌」(第151号)「やさしく学ぶアメリカ契約法〈第5回〉」1999.8.1 (社)日本海運集会所
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