米軍再編の動きの中での岩国基地がどう強化されているか

 

1、岩国基地沖合移設

(1)その現状

 米軍岩国基地の滑走路を一キロメートル沖合に移設するという国の事業が二千四百億円の「思いやり予算」を投入して行われている。一九九六年着工以来九年間初年度を除き毎年二百億円以上が注ぎ込まれ二〇〇四年度末で一八五二億円(契約ベース)に達している。完成予定は二〇〇九年春の予定です。

埋め立て用の土砂は近くの愛宕山を削って、跡地に五千六百人が住む巨大団地を造成する工事として山口県住宅供給公社が八百五十億円(山口県が三分の二、岩国市が三分の一の債務保証)をかけて行っている。現在土砂搬出量は東京ドームの十一杯分、一三五五万立方メートルで計画量の約六十%となってい

ます。

(2)厚木基地のNLP移転の呼び水となった基地の一、四倍の拡大

 当初市民の中には基地が沖合に出れば跡地が返ってくるのではという希望もあった。しかしそれは幻想であるばかりでなく面積が一、四倍化し、旧滑走路も誘導路として残すなど、いつでも二本として使えるようにすることや、水深十三メートルの埠頭も建設され三万トン級の艦船が入港できる事によって、基地の拡大強化のものであることが明らかになっています。

 これがこのたびの厚木基地とNLPの岩国移転の呼び水となったことは疑いないところです。

(3)基地沖合移設の政治的ねらい

 一九六八年福岡の米軍板付基地に着陸しようとしていた嘉手納基地所属の空軍RF-4Cファントム偵察機が、建設中の九州大学大型電算機センターに墜落炎上した。これを機にベトナム戦争反対と基地撤去の世論が一気に高まった。墜落したファントムと同型機の配備されている岩国基地撤去の運動の高まりを抑えるための運動が「基地沖合移設運動」です。岩国の商工会議所などを中心に「基地を沖合に移すことによって、市街地、工場群などへの墜落の危険、騒音の軽減を図る運動を始めた」と当時運動の中心人物でもあった現岩国商工会議所会頭笹川徳光氏が色々な所で率直に語っています。

2、基地の拡大強化

 米軍岩国基地は、基地のない平和で豊かな岩国をという市民の願いに反していま拡大強化の一途をたどっています。

(1)KC-130の移駐決定 

沖縄の普天間基地の移設問題(SACO)に関連し普天間基地のKC-130ハーキュリーズ空中給油機部隊を岩国基地に移駐させることが持ち上がった。一九九六年当時、県議会、市議会でも数ヶ月にわたり議論され「基地機能強化反対」決議が県議会、市議会とも全会一致で議決されましたが、最終的に貴舩悦光市長が「地獄の沙汰も金次第」という“迷言”で容認してしまいました。普天間基地の移転問題が未解決であるため配備は実施されていません。

(2)9・11後の岩国基地

 9・11ニューヨークでの同時多発テロ以後米軍は軍人だけでなく家族、日本人従業員など非戦闘員全員に一人ひとりサイズを測って防毒マスクを配布し、広範囲にわたって化学物質を感知できるという特殊計器を積載した車両を一時期正面入り口に配置。定期的に大掛かりな退避訓練を行っています。

 また、基地の中も幾重にもフェンスで区切り米兵もふくめでも自由に行動できないようにしています。   

 基地内3箇所には高さ5メートルほどの監視塔が基地外をにらんで建てられるなどテロを意識した態勢を強めています。

(3)CH-53D強襲用大型輸送ヘリの配備

 二〇〇一年十一月二十九日、米軍は政府を通じて突然ハワイの海兵隊カネオへベイ基地にいるCH-53D大型ヘリコプターの岩国基地配備を発表した。防衛施設庁は「不測事態の被害の局限化に必要な物資、人員の緊急輸送などの人的支援、災害救助活動や非常事態における一般市民等の退避の支援を迅速にすることを可能にする態勢を整えようとするもの」と配備目的を説明してきました。

 ところがこれに反して沖縄に派遣され、イラク攻撃に参加する訓練中に昨年八月、沖縄国際大学へ墜落する事故を起こしました。十二月岩国市議会でCH‐53Dヘリコプターのイラク派遣は配備目的に反するのではないかという私の質問に対して井原勝介岩国市長は「イラクへの移動は米軍の部隊移動で安保条約上も支障が無い。岩国基地へのCH‐53Dヘリコプターの配備目的の変更ではないし、配備目的とは直接関係ない」と言い切りました。

 山口県平和委員会の久米慶典代表筆頭理事は、米軍のホームページを分析してこのCH‐53D大型ヘリコプターがイラク・ファルージャでの軍事作戦に投入されている可能性が強いと指摘しています。その後岩国基地所属機の三機がイラクに展開していることが確認されています。

 CH‐53D大型輸送ヘリの岩国配備によって、岩国基地が今までよりさらに広域に軍事展開する機能と役割を強めたといえます。

(4)自衛隊による米軍基地警護態勢

 三年前の「テロ特措法」にまぎれて自衛隊法の改正が行われ、自衛隊に米軍基地を警護する役割が担わされ、一昨年十一月に警護訓練がはじめて行われた。昨年の二〇〇四年も同じ月の十一月に訓練がおこなわれました。デモストレーションが報道陣に公開され、地元テレビで私も見ましたが、不審者が基地内に侵入し建物を占拠しているという想定で、自衛隊員が防弾チョッキにゴーグルを身に着け、自動小銃を持って不審者が逃走しないように取り囲んでいる所へ、米軍の特殊部隊が完全武装で突入するというものです。いつもテレビで見るイラクでの市街戦そのものでした。二〇〇四年の訓練の特徴は日米合同訓練そのもので、これがアメリカの求めている自衛隊の姿だなと強烈な印象をもちました。

  

(5)県営岩国港の軍港化

 基地の拡大強化の中での重要な特徴は、地位協定をたてにした岩国港(県営埠頭)の軍事利用の日常化です。米軍はアジア太平洋地域で多くの軍事訓練を行っていますが、このうちフォーイーグル(米・韓合同演習)、コブラゴールド(米・タイ合同演習)、クロコダイル(オーストラリア演習)、タンデムトラスト(米・豪合同演習)などに岩国基地から軍事物資の積み出し、積み下ろしが日常化してきました。岩国港の米軍使用は一九九七年十月七日に再開されるまで、十二年間利用がまったくありませんでした。新ガイドライン合意以後連続して、しかも、地位協定をたてに山口県港湾条例に従わず積荷も明らかにしない、港湾使用料も払わないで勝手放題です。これを容認している山口県や岩国市へ市民・県民の批判も強くあります。

3、軍民共用空港化の運動

 基地沖合い移設が実施に向けて動き始めた一九八〇年代の後半から岩国商工会議所などが岩国基地に民間空港を開設する運動をはじめました。十九九六年には岩国市連合自治会が「民間空港要望」署名に取り組み七万余の市民の署名を集めました。現在では山口県も岩国市も「民間空港」開設を最重点課題としてかかげています。

 岩国市はすでに部長級を「対策室長」として配置し、岩国市だけでも約五六〇〇万円(山口県もほぼ同額)を需要予測調査や予備設計などにつぎ込まれています。議会にも「民間空港推進調査特別委員会」をもうけています。

 しかし、国土交通省の「新たな地方空港はつくらない」とする方針のため、空港ターミナルなど設備の建設費をどうするか、また米軍が民間機の乗り入れに難色を示しているとの観測もあり、すんなりとはいっていないのが現状です。

 議会特別委員会には日本共産党から私が委員として入って、軍民共用空港での安全性の問題や市民、県民に経済的な負担をかけさせないよう主張しています。とりわけ、NLPの受け入れと引き換えに民間空港開設を取引することは許されないことを厳しく追及しています。

4、大黒神島でのNLP誘致運動

岩国基地の真向かい海上十三`先に浮かぶ広島県沖美町(合併で江田島市になった)の無人島大黒神島にNLPを誘致する話が持ち上がり、岩国市は大騒ぎになりました。この話は即座の広島県知事の反対表明、そして沖美町長の辞任で一件落着かと思われましたが、その後地元では期成同盟会が結成され誘致運動が展開されており軽視できません。

5、厚木基地とNLPの岩国移転問題

 〇四年七月十五日の大手新聞の夕刊で最初に報道され、翌十六日の朝刊で各紙とテレビがいっせいに報道しました。神奈川県の厚木基地の空母艦載機七〇数機とNLPを岩国に移転することがアメリカから提案されたというニュースは一瞬の内に岩国市、山口県内に伝わり大きな不安をもたらした。日本共産党は山中良二地区委員長、久米慶典前県議がただちに街頭に出て宣伝カーで市民に危険性を知らせるとともに反対を呼びかけました。岩国市も比較的すばやく対応し四日後の二十日には外務省に対し電話による事実確認を行い、二十三日には山口県、由宇町とともに3者で上京し、外務省に事実確認とともに日米の「今後の協議にあたっては、基地機能の強化やNLPの実施は容認できないという地元自治体の考えを十分踏まえて対応するよう」口頭要請しました。その後井原勝介岩国市長も八月二十六日に上京し、沖縄で墜落したCH‐53D大型ヘリコプターが安全確認なしに飛行停止の要求を無視して飛行した件への抗議とあわせて、外務省に要請しています。

 @岩国市議会で

岩国市議会でも大きな問題となり九月議会では私を含めて四人の質問がを予定されていました。台風十六号、十八号で岩国市内に大きな被害が出たために一般質問が急遽中止になりました。十二月議会で改めて取り上げられました。私もこの問題を第一に取り上げ「ソ連崩壊後、また九・十一同時多発テロ以後のこのたびの米軍の再編計画のねらいが、日本に司令部機構をもってきて、日本全体をハブ基地化することや自衛隊との共同作戦態勢をより実践に対応できるようにすることが指摘されていること。このことから横須賀を母港とする空母機動部隊と沖縄を拠点とする殴りこみ部隊としての海兵隊の役割がいっそう重大視されている元での厚木基地とNLPの岩国移転であるだけにこれを食い止めるには、行政の決意と市民、県民の世論と運動が重要である。反対の立場で米軍や日本政府に文書で申し入れるべきではないか。岩国が候補に上がるのも、岩国市が基地容認政策をとっている所にも原因があるのではないか、このさい、基地の整理、縮小、返還に基本政策を見直すべきだ」と迫りました。

 私の質問に対し、井原勝介岩国市長は「外務省からは、その時点では具体的な話はないが仮に話が出たとしても、一方的に地元に押し付けることは無いと言う回答を得ているところであります。……最近の報道によりますと、現在は米軍の再編に関する具体的というよりも基本的な考え方について、日米両国で議論が行われ、まず整理が行われているようであるということを聞いております。そういう状況の中で、仮定の話でもありますし、現時点で文書要請をすることは考えておりませんが今後の再編整備の行方によっては、岩国基地のあり方が大きく変わる可能性、恐れもあるわけでありますので、従来から申し上げております基地機能の強化、NLPについては反対であるという姿勢のもとに適切に対処していきたいと考えている」と答弁。再質問で私は、十一月に行った日本共産党山口県委員会の外務省交渉の中でも、日・米政府が水面下で話し合っていることは否定しなかった。表面化する前に市民の願いを文書で国、米国へ求めよ、と迫りましたが井原勝介岩国市長は「私のほうから直接国のほうに出かけていって、反対であるという旨も申し上げているわけでありまして、十分地元の状況というか考えは伝えてある」との答弁に終わりました。

A強く反対できない理由に「秘密覚書」の存在

 米軍厚木基地やNLPが岩国に移転するかもしれないという危険性に対し、「正式要請ではないから文書で反対の要請は考えない」という岩国市の弱腰の姿勢はとても市民の納得を得られるものではありません。

 この背景に米軍岩国基地沖合い移設事業(一六〇〇百億円で始まり、現在では二四〇〇億円全額が思いやり予算)を実施するにあたって、事務者レベルで交わした秘密の合意議事録があります。この合意議事録は愛宕山開発(埋め立て用土砂の土取り場)を地元で実施すること。将来米軍が撤退した後は自衛隊も撤退するという以前の約束の廃棄とともにNLPの受け入れについて確認しているのです

 防衛施設庁が「NLPについては将来とも受け入れてもらえることを前提に、今回の照会内容に含めず。」としたことに県、市は回答で「今回の照会内容に含めないことは評価。なおNLPについては、将来とも受け入れざるを得ないと思料」としている文書です。

 一九九二年六月十八日付けで交わされ、九年後の二〇〇一年五月三十日の地元テレビがこれを報道して表面化しました。

 慌てた県、岩国市は六月七日付けで防衛施設庁にたいし「国・県・市の機関意思として確認したものではなく、事務担当者間の協議結果の記録に過ぎないと考える」がどうかと照会しました。国は「貴職の考えで差し支えありません」と回答してきました。この照会文書は発信者が山口県知事()井関(いせき)(なり)、岩国市長、()原勝介(はらかつすけ)あて先は防衛施設庁長官伊藤(いとう)康成(やすなり)様となっているのに対し、国の回答文書には発信者もあて先も氏名が記載されていない公文書としては質の落ちる、言い逃れが可能な文書となっています。

BSACO資金で新庁舎建設

 岩国市は二〇〇一年三月に発生した芸予地震の際、庁舎(一九五九年七月竣工鉄骨鉄筋コンクリート七階地下一階)の主柱などに亀裂が生じ、耐震診断を実施した結果、立て替えることになりました。一〇四億円の建設事業計画の内、建設基金は二〇〇四年度末で約十九億円にすぎず、残りの多くをSACO補助金と借金で賄おうとする計画です。岩国市は周辺七町村と合併協議を行っており、合併期日は二〇〇六年三月二〇日、議員の身分は一一九人の七ヶ月間の在任特例適用が決まっており残り協議項目は新市建設計画のみという段階になっています。これが決まれば二〇〇五年二月中に八市町村で臨時議会を開催して合併を決定する運びになっています。

 合併協議の過程で岩国市の市庁舎建設費に議論が集中し、町村の側から資金が足りないではないかと追及された岩国市は、国から補助金を出来るだけ多くいただいて町村のみなさんには迷惑がかからないようにします。と答弁を繰り返してきています。ところが予定の半分程度しか補助金が下りないことが明らかになりつつあります。十二月議会総務常任委員会で一〇四億円の全体の事業費に対してSACOからいくら補助が出るのかとの私の質問に大伴国泰総務部長は「二〇〇五年一月二〇日、遅くとも末までには示されると思っている」と答弁しています。

 合併協議の場で公式に明言してきた「町村に迷惑をかけない」約束が反古になる公算が強くなりました。さらに問題なのはSACO関連補助金で庁舎を建設する自治体は岩国市がはじめてで、数十億円もの破格の補助金と引き換えに厚木基地とNLPの岩国移転を容認する危険性が大きくなっているといわざるを得ません。

6、基地機能強化反対の県議会、市議会決議

 岩国市民、山口県民の世論はまだ安保条約廃棄、基地撤去という声が多数になっているとはいえません。しかし、米軍基地があることによって航空機の墜落事故への不安、殺人、強盗等の事件、騒音による市民生活の侵害など市民の生命とくらしが確実に脅かされています。とりわけNLPの騒音は赤ちゃんが引きつけを起こすほどのものすごく激しいものです。米軍人による刑法犯が最近十年間で一年あたり十件、交通事故が同六十件、基地の騒音に対する苦情は、相当慣れっこになって少々は我慢します。しかしそれでもNLPの無いこの五年平均で年間約二四〇件に上ります。

 こうした状況を反映して県議会、市議会でKC-130空中給油機移転問題が持ち上がった時に「これ以上の基地機能の強化は認められない」という決議を相次いで採択し、山口県、岩国市も同じ立場を取っています。これは米軍基地の存在と平和、市民のくらしとの大きな矛盾の表れでもあります。

 CH-53D大型ヘリコプターの受け入れの際に、ヘリコプターの配備が基地機能の強化にあたらないかどうかが争点になり、行政の側も機能強化にならないという証明をしなければならない立場に追い込まれています。ある保守系市議は「あの基地機能強化反対の決議は止めんにゃいけん」と思わず本音を出しています。

7、政党・マスコミの反応

 岩国市議会には定数二十八名に日本共産党の3名、保守系の新市政クラブ8人、憲政クラブ5人、企業・民主系の清風クラブ7名、公明党4人、社民系のリベラル1名という構成になっています。米軍岩国基地と日本製紙、帝人、東洋紡、三井化学、旭化成など大企業の林立する岩国市における政治的な力関係は、とりわけ基地を巡る政治姿勢として激しい現れ方をしています。

岩国市議会でも米軍岩国基地の問題が取り上げられ、岩国基地からイラクへ派遣されていることや、岩国市の米軍への弱腰な姿勢に批判的質問や意見が展開される局面はあるものの、日本共産党以外の会派は「基地があるのは仕方が無いから出来るだけ多くの補助金を」というスタンスを取っています。「基地沖合い移設」「愛宕山開発」などの事業や予算には全員賛成です。

地元マスコミは基地問題については大きな関心を持って大きく報道します。平和委員会や安保条約廃棄・岩国基地撤去岩国地域実行委員会の記者会見、岩国市などへの申し入れ、米艦船の岩国港の軍事使用各種の集会・デモ行進など比較的丁寧に報道しています。

8、基地強化反対、基地撤去のたたかいがどう進んでいるか

 基地撤去をめぐるたたかいは、日本共産党をはじめ山口県労連、民主団体などが安保条約廃棄・岩国基地撤去山口県実行委員会、山口県平和委員会等によって日常的に取り組まれています。この問題が起きていち早く安保条約廃棄・岩国基地撤去岩国地域実行委員会が三日後の七月二十一日に岩国市へ申し入れ、八月一日に厚木基地の岩国移転反対緊急集会、十・二十一集会と相次いで集会、デモを行い市民、県民に訴えました。

 今、山口県内では三月二十日のアメリカのイラク攻撃二周年をめざして県民集会と中国規模では大集会の準備が始まりました。安保条約や基地に賛成の人でもNLPに賛成の人はいません。基地の町の川下自治会や自治体ぐるみで反対運動が高まっていく可能性も広がっています。日本共産党と民主勢力だけでなく、地元岩国の広範な市民が参加できる運動を発展させる必要があります。

 米軍岩国基地がおおきな転機迎えていている時に日本共産党のとりわけ市議団の任務は大きいと新年に当たり決意を新たにしているところです。

一月十日               日本共産党岩国市議会議員藤本(ふじもと)博司(ひろし)