2008年 下北半島ラン
7月27日(日)晴れ
本日から昨年に続き下北半島ツーリングが始まる。ここのところ暫く厳しい暑さが続き、随分身体に堪えるがこれから涼しい青森へ向かうとなると心なしか身も心も軽くなる思いだ。
東京駅で今回のメンバーである、ぱらら☆さん、名古屋からの山岳部OBさんと合流。8時56分発のはやて9号に乗り込めば早速カンパイだ。次の停車駅である上野からSunnyさんが乗り込み今回のメンバーが全員揃った。
東北新幹線はやて号は関東平野を一直線に駆け抜け、宮城県、岩手県を疾走する。本日は50Kmほどを走るのでアルコールをセーブしたいところであるが、雑談に花が咲けばついつい飲み過ぎてしまう。
東北新幹線の終点、八戸でお昼用の駅弁を購入し白鳥9号に乗り換えだ。八戸から野辺地で大湊線に乗り換えて近川駅で下車。八戸からも飲み続けたい雰囲気だったが、近川駅からはすぐに峠への登りが始まるのでさすがにアルコールは控えた。
近川駅に降り立てば、強い夏の日差しではあるが爽やかな北国の風がそこに吹いていた。その涼風に感激。夏が違う!
駅前で自転車を組み立て出発だ。すぐに冷水峠への登りが始まる。身体が慣れていないうちからの登りは結構辛い。しかし東京と比較して気温が低いせいかその分だけラクなような気がする。ふうふう言いながら峠に到着。Sunnyさんは今回のツーリングに備えて走り込んで来たと言うことでこの峠への登りでも体調は良いようだ。
峠からはピューッと一気に降りる。国道338号を少し走って東通原子力発電所のPR施設「トントゥビレッジ」を見学。原子力発電所を間近に観ることが出来る。
ゆっくり休んでから尻屋へ向かって出発。緩いアップダウンが続くが快適だ。皆体調も良いようだ。普段であればこの辺りは尻屋にあるセメントの巨大プラントがあるため大型トラックの交通量が多く、自転車乗りには少なからず閉口するところだが、本日は日曜日ということでさすがにトラックは走っていない。
やがて津軽海峡の海岸線に出れば見覚えのある風景が広がる。昨年宿泊した宿の前を走り抜ければ本日目指す尻屋崎はもうすぐだ。
快適に飛ばせば最果て感たっぷりの視野崎に到着。野生馬の寒立馬(かんだつめ)を間近に観れば「まさかり」に例えられる下北半島の突端に居ることを実感する。この美しい風景、日本という国の素晴らしさを否定するものはどこにもいないであろう。暫し撮影を楽しみ、18時近いためか、空腹でヘロヘロになってきた。本日のお宿、漁師民宿「さかした」へ急いだ。
最果て感たっぷりの尻屋崎。海岸線が美しい
宿に到着後、大抵はまずビールで乾杯しそれからおもむろに風呂などへに行くのだが、本日は到着が遅くなり、早く汗を流して食事を摂りたいという思いが先行して取る物も取らず風呂へ一直線だ。
風呂から上がれば、楽しみはやはり食事だ。この宿は「漁師民宿」というだけあって食事が自慢だという。果たしてどうだろうか。食堂に行けばなるほど海の幸がずらりと並んでいた。ウミタナゴの塩焼き、ウニ、水アワビにアワビの地獄焼き(陶板焼き)、焼きホタテ、ホヤ刺し、イカ刺し、イクラとこれでもか!と言うくらいに並ぶ。ビール大瓶を一人1本づつ飲んだためかすべてを食べきれなかった。少しではあるが残してしまったことが残念だった。
気になるのは明日の天気だ。東京を出る前から28日、29日は雨が降るというのは判っていたことであるが、やはり気になる。天気予報を観れば降水確率6時-12時、90% 12時-18時、80% 18時-24時、70%。降雨量は多いところで1時間に30mm前後と報じている、絶望的だ。よほど激しい降りであればバス輪行も考慮しなければならないと思い、一通りバスの時刻を調べた。何とかなるな、と思ったら少し安心した。時は20時30分。どういうワケかこの時刻に皆寝てしまった。わたしはもう少し起きていたかったのだが、皆寝てしまったのでは仕方がない。本日は運動量が少なかったためか大して疲れているわけでもなく20時30分では眠くもなかったが取り敢えず横になった。1日目終了。
東京8:56――はやて9号――八戸12:03/12:16――白鳥9号――野辺地12:45/13:05――近川14:20――冷水峠14:54/15:00――トントゥビレッジ15:15/15:30――尻屋崎17:30/17:40――民宿「さかした」18:10 走行距離48.5Km
7月28日(月)雨のち曇り、夕刻より雨
昨夜はどういう訳かまったく眠れなかった。3時30分まではウトウトともせず、まったく目が冴えていた。4時頃になってウトウトしたようだった。睡眠時間3時間弱であったが、体調は悪くない。
お天気は昨夜の予報通り雨が降っている。テレビのスイッチを入れ天気予報を観れば昨夜と何ら変わらない。ただし下北方面には大雨洪水警報が出ている。4人で協議した結果、本日の走行距離は50Km前後なのでのんびり行きましょうや、などと決定したのだが、「いよいよとなったらバスがありますからね」とわたしが言ったとたんに「ええっ!バスがあるのぉ?」と山岳部OBさん。「ありますよ、夕べ行き順と時刻を調べましたからね。これこれこうと」と言うと山岳部OBさんとSunnyさんが「それじゃボクらはバスで行きますよぉ」などと言い出したのだ。「ええっ!で、ぱらら☆さんはぁ?」と訊けば「けっ、ナニ言ってのぉ、自走に決まってるじゃん」と平然と事もなげに言うのだった。その言葉に勇気を貰って「よし、行くぞ!」と気合いを入れた。それにこの日のために比較的高価な自転車用レインジャケットを購入したのだから。そのレインジャケットは漏れないのに蒸れないというバイオンIIという生地を使っているのだった。同じような製品にゴアテックスがあるが、そのゴアに比べて格段に生地が薄く、仕舞い寸法は握り拳を一回り大きくした程度の非常にコンパクトになるのが「売り」の商品である。その性能を確かめてみたいと内心思っていたのも事実だった。
Sunnyさんと山岳部OBさんがバスで出て行ったあと、それを追うように我々も出発の支度を始めた。空からは盛大に雨を落としている。宿の女将が「大丈夫ですか?」と言うので「合羽を着ているから多分大丈夫ですよ」と言ったものの多少の不安はあった。
出発直前にぱらら☆さんが「オレもバスにすれば良かったなぁ、第一このヤッケ防水があまり効いてないからなぁ」などと言うのだった。それまでこの雨でも行くぞ、とテンションを上げて来たのに、その一言でガクガクガクときてしまったのだ。でももうバスはない。その次のバスまで2時間30分以上間隔が開いているのだ。走行距離50Km前後だとしたら急げば2時間と少しで走れてしまう。そう考えれば自走するしかない。しかしそうは言っても現実的にこの土砂降りの雨を観れば誰だって気勢が削がれるのも道理である。
もう一度気合いを入れ直して強くペダルを踏んだ。しかしよくもこんなに凄い降りの時に出掛けてしまったものだ。上からは特大のシャワーを浴びているようだし、横からは対向車線の大型トラックが容赦のない撥ねを浴びせかけてくる。まるでバケツでぶっかけられているのと同じだ。前からも特大シャワーを掛けられているようで視界が非常に悪い。しかし合羽の性能は思ったよりも良いらしく蒸れる感覚はない。漏れている様子もないようだ。
いやぁ参ったなぁ、と思いながら走っていると出発してから30分ほどで急に雨が小降りになってきた。ふと前方を観ると道の駅のような施設があり、雨宿りに飛び込んだ。ヤレヤレと合羽を脱いでみると、Tシャツは見事に乾いていた。漏れていなし、蒸れてもいない。しかし下半身は短パンから靴の中までまるで泳いできたようにずぶ濡れだった。
そうこうしている間に空は明るくなってきており、どうやら雨も上がって来ているようだった。天気予報では本日中は間違いなく雨降りだと報じていたので、これで上がる筈はないと思っていたが、結果的にはこれ以上降られることはなかった。
合羽を脱げば爽快だ。やがて海岸線に近付けば「むつ科学技術館」に到着。残念ながら本日は月曜日なので定休のようだった。引退した原子力船「むつ」を模した建屋で原子力関係の展示館であるようだ。多少興味があったので入館出来きなかったのは残念だった。
Sunnyさんと山岳部OBさんを乗せたむつ発大畑行きのバスは11時に大畑に着く予定である。腕時計をみると10時45分だ。標識には大畑まで5Kmとある。5Kmを15分か、もしかするとこちらの方が早く着くかもしれない、と思っていたら前からバスが来た。バスの行き先表示を見ると「むつから大畑」と出ている。ははぁ~ん、乗っているなぁ、と観れば最後部座席にふたりを発見した。となればバスよりも早く着かなければならない、という闘志が沸き上がる。それはぱらら☆さんにも伝わったかのようで、グンとスピードを上げた。見覚えのある大畑の街に入り、大畑駅に着いてみればバスよりも5分早く着いた。ぱらら☆さんと顔を見合わせて笑った。
バスから降りた山岳部OBさんは随分心配してくれたようで、途中から昨日泊まった宿に電話をしてくれて、どちらかが出たら「凄い雨だからムリをしないで次のバスに乗った方が良い」とアドヴァイスをしようと電話を掛けてくれのだが、宿の女将が30分ほど前に雨の中を出て行った、と言うので随分心配をした、と言っていた。「あの雨で泣いていたんじゃないの?」と言うので「ああ、泣きましたよ、大泣きでしたよ。でも30分ほどで上がってあとはクルマの来ない道を快適に走って来た。と言ったら「ホントかよぉ」と顔を顰めた。
4人合流したのでゆっくりと昼食となった。ここ大畑の名物は「イカすみラーメン」だ。塩味のスープにイカすみを練り込んだ黒い麺がイカすみラーメンだ。これが実に美味い。昨年食べてあまりの美味さに感動したが、今年もまたもや感動した。美味い!
ビールを飲み、のんびり昼食の後は今宵の宿、薬研温泉まで一走り。本日は薬研温泉の2Kmほど先にある奥薬研温泉の夫婦カッパの湯に入りに行く。奥薬研には元祖「カッパの湯」「隠れカッパの湯」「夫婦カッパの湯」と3つの温泉がある。その内夫婦カッパの湯だけが有料(200円)であとの2つは無料だ。いづれも野趣溢れる露天風呂で実にいい温泉だ。のんびり湯に浸かり、湯上がりにビールで乾杯すればあとはもう何も言うことはない。
夫婦カッパの湯。渓流の脇にあって実に気分が良い。(他にも良い写真があるんですが、写ってはいけないものがあったりして^^)
あとはのんびり2Kmを薬研温泉に降りていけば本日の行程は終わりである。途中、元祖「カッパの湯」と「隠れかっぱの湯」を見学。いいねぇなどと言いながら降りて行くと宿まであと5分、というところでポツリ、ポツリと降ってきた。なんだまた降って来たのか、でももう宿は近いし、と思ったか思わなかった内にいきなりの土砂降りとなった。わたしはすぐさまカッパを取り出して着込んだが、皆はそれも叶わず、一瞬でずぶ濡れになったようだった。
参った参ったと宿に入れば、女将は留守のようで14時30分に戻る、と玄関に張り紙がしてあった。15時を過ぎても帰ってくる気配はなく、張り紙に書かれてある番号に電話をすれば、従業員をすぐに向かわせるとのこと。それから暫くして従業員がやってきて部屋へ通してくれた。
しっかり濡れてしまったので何はともあれ温泉だ。小さな風呂だが気分が良い。わたしは入浴と共に洗濯機を借りて洗濯だ。3日に一度洗濯が出来れば8Lほどの小さなバッグひとつで1ヶ月も旅行が出来る。乾燥機がないということで部屋干しに扇風機を充てた。
湯上がりにビールを飲めば夕食までやることがない。夕食にはまだ時間がある。それまでのヒマ潰しとして近くにある「国設薬研野営場」に山岳部OBさんと散歩に行くことにした。薬研キャンプ場は素晴らしいキャンプ場と何度も聞いていたので、観ておきたかったのである。外に出ようと宿の玄関に行くと従業員の女性が「カモシカが来ていますよ」という。ホント?と見に行くと宿の敷地内にカモシカが来ていて草や木の葉を夢中で食べているのだ。その距離はわたしたちから8mほど。これほど近くで観たのは初めてだった。宿の女将は1日おき来るのだと言っていた。薬研キャンプ場は噂に違わぬ素晴らしいキャンプ場だった。帰ってくるとまた雨が降り出した。
薬研荘は外見は古いが、内部は手入れが行き届きその清潔さと料理が自慢の宿だという。確かにどこも磨きが掛けられてピカピカだ。清潔感は確かにある。しかし、料理はどうだ。出された料理は量こそ少ないが、味はとても良い。イワナの塩焼き、出汁を使っていないと言うキノコ鍋。ミズの煮冷やし。ウニ。ホタテ焼き。クロダイとイカの刺身。キノコの煮冷やし。デザートはメロン。どれもとても美味しくて大満足だ。
明日の天気が気になって天気予報を観れば明日も雨だという。今日ほどではないらしいが降ると報じている。本日の雨があまりに強烈だったので多少の雨ならばどうということはないだろうと思った。夜中にザーッという雨の音が聞こえていた。
尻屋9:00――むつ科学技術館10:30/10:35――大畑10:55/12:15――奥薬研・夫婦カッパの湯12:58/14:30――薬研温泉・薬研荘14:45 走行距離49.9Km
7月29日(火)雨のち晴れ
起きてみるとはやり雨が降っていた。昨日ほどではないが降り方としては本降りの雨である。溜息をつきながら温泉に浸かる。湯上がりにビールを飲めば幾分爽快な気分になってきた。昨日の夕方洗濯をして一晩中扇風機を充てていた洗濯物はすっかり乾いていた。これも気分の良いことだった。
朝食が始まると女将が何やらビデオカセットをセットしていった。何が始まるのかと思えば、NHK総合テレビで毎週日曜日の午後に放映されている温泉紹介番組の録画のようだ。その番組にこの薬研荘と女将が紹介されていた。その他別の2番組ほどが収録されているようだ。わたしはまったく知らなかったのであるが、世間的には知られた宿のようだ。ここの女将は「カモシカおばさん」と呼ばれている(呼ばせている?)とかで、昨夜の会話の中でもご自身が山に入り、直接山菜、キノコを採っているのだとか言っていた。その様子が番組でも紹介されていた。なかなかに楽しいおばさんなのである。驚くことにスズメバチには3度も刺されたのだと言い、「ズップり」とここを刺されたと小指を指しながら言うのだった。一度刺されるとスズメバチの毒の抗体が出来て、ヘタをすると2度目には死ぬ可能性があると聞きますよ、と言うと、彼女は3回とも医者に診せないでこの温泉に浸かって完治したと言うのだった。「カモシカおばさん」と言うよりも「カモシカも真っ青おばさん」なのであった。
外は相変わらず雨が降っているが、今朝起きた頃よりも小降りとなっていた。昨日は雨を嫌ってバス輪行にした山岳部OBさん、Sunnyさんも本日は行く気らしい。そぼ降る雨の中女将に挨拶をして出発。合羽を着ているので濡れることはないが、それでも気は晴れない。本日は追い風の中スピードはどんどん上がる。本降りの雨の中、下風呂温泉で休憩。公園にある東屋に入り込むがここも快適ではない。
雨は上がる気配はないが、風間浦あたりから上空が明るくなり、ついに上がったようだ。というよりもこの辺りは雨が降っていないようだ。昨年漁師のおじさんからウニを頂いた道路脇の海に面した小さな公園で休憩。合羽を脱げば快適だ。漁師が海辺で何かを獲っている。ウニかなぁ、と訊けば「天草(寒天の素)」だと言う。ウニは穫れないのですか?と訊けば、ウニはもう少し沖だ。今日は時化ているから穫れない。と言っていた。やはり2匹目のドジョウはいなかった。それにしても雨が上がって良かった、折角の本州最北端が雨では悲しい。
海を観ると相変わらず波は高めだが、上空の明るさが反映してか、先ほどからの海面が茶色から徐々に碧に変わってきているのが判る。天気が良くなれば海の表情も変わる。そしてそれを眺めているヒトの心までが軽やかになる。経済情勢から来る格差社会、また非道な無差別殺人が止まらない。人の世の移ろいも紺碧の空が反映出来ないものであろうか。灰色の世界はもうたくさんだ。
晴れ間が出て来たなと思えば大間崎はすぐそこであった。尻屋崎ほどの最果て感はないが、やはり本州最北端と言えば心躍るものがある。時間が少し早いがここでお昼とする。大間と言えばマグロだ。その大間でお昼となればマグロ丼だ。2000円と単価を聞けば高いという気がするが実際に食べてみればこの丼の2000円は安い。
見よ、これが大間崎のマグロ丼だ。味、ボリュームとも大満足
大満足の食後はやはり本州最北端の地を踏む。今年もやってきた。晴れていれば北の大地が眼前に広がっているはずであるが、本日は生憎北の大地は雲の中だ。そういえば昨年も観ることができなかったなぁ。
本州最北端大間崎に立つワシ(アップですみません)
大間崎を出る時にポツリポツリと降ってきたが、これから向かう西の上空を観れば充分な明るさがあり、これならば降り込むことはないだろうと感じた。
下北半島をここから西側へ入り込む。同じ津軽海峡を観ながら走るのであるが、尻屋から大間間の下北半島の北東部分から大間から脇野沢間は下北半島の西側を走ることとなる。大間から少し入った奥戸辺りまで来ると天候が随分違っているのが判る。大間崎では少し降ってきたが、この辺りでは安定した天気が続いているようだ。もう雨の心配は要らないだろう。
海岸線は相変わらずアップダウンを繰り返すが快適な走りが楽しめる。普段の巡航速度よりもやや早めに走る。大きな登りを越せば佐井に到着。山岳部OBさんは股間の調子が悪く、少し辛そうだ。ここからタクシー輪行で本日のお宿、福浦漁港へ行くこととなった。
津軽海峡文化館「アルサス」にて大休止。ここから福浦漁港までは約17.5Km。ここからが本日のハイライトだ。しかし100mから200mのアップダウンが3ヵ所ある。0mから100m。100mから0m。また0mから100m、最後は0mから200m。そして0mへ。その繰り返しがクセになりそう。いやいや、クセになんかなってたまるもんですか。急な登りでは時折聞こえてくるヒグラシのうら哀しい声に癒される。最後の大きな登りの途中でSunnyさんの後輪のブレーキが故障するメカトラが発生。20分ほど掛けて応急処置で走行可能に。最後の下りは急で長いので慎重に。登りが残り3分の1の辺りで山岳部OBさんを乗せたタクシーが追い越して行った。自転車旅行は故障や天候によってバスやタクシーを利用してその難所を乗り越せるところがいい。しかし積極的利用となると意見が分かれるところだろう。
急で狭く、またコーナーが頻繁に現れるこの下りではあまりスピードが出ない。そんなジレンマにストレスを感じながらも福浦漁港に到着。少し前に到着していた山岳部OBさんがやって来た。少し遅れてSunnyさんも到着。応急処置したブレーキも問題なく利いたという。無事降りてこられてホッとした。
皆が揃ったところで漁港を散策。この小さな少し寂しげな漁港に暮らす人たちの冬の生活を思うとなぜかセンチメンタルになってくる。でも実際に暮らす人たちはわたしたちが便利な都会で暮らすと同様な日々喜怒哀楽があるのだろう。厳しい冬の生活だけがすべてに勝るわけではないはずだ。いやそうではない、都会で暮らすわたしたちよりももっと豊かな季節の到来を感じ、それに伴う食の幸を知っている。それだけでも充分じゃないか。
小さな福浦漁港。岸にはシーズンのウニ漁に使われる船が上げられている
宿に入り浴槽で手足を伸ばせば本日の行程はお終いだ。外ではぱらら☆さんとSunnyさんが故障したブレーキの修理を行っている。さて湯から上がればお楽しみは今回の旅のハイライトであるここ「福寿荘」の夕食だ。昨年もここに宿泊して夕食の海の幸の量、てんこ盛りの殻付きウニにド肝を抜かれたのだ。2年続きの下北半島ランはこの宿の食を楽しむことが目的のひとつであったと言っても過言ではない。
さあ逸る気持ちを抑えつつ食堂に入れば、まず目に飛び込んできたのはウニてんこ盛りと刺身の舟盛りだった。今年もやってきました福寿荘。この食事を楽しみにしていたのだ。
ウニ、舟盛り、ズワイガニ、アワビ この殻付きウニの山を見よ!
料理はこれだけではない。この他にもソイの煮付け、天ぷら、カレイの塩焼きなどアツアツの出来たてが運ばれてくるのだ。それにしてもこのウニの味覚はどうだ。筆舌に尽くしがたいウニ独特の甘みが身体中に染み渡る。それにしてもこれだけの海の幸はとても常人が食べきれる量ではない。そしてデザートはメロン。ひとり8分の1カットがふたつ、つまり4人でまるまる1コのメロンが出てくるのだ。深い感動を覚えるが、それよりもよりもすべて食べきれない無念さが残る。しかしこれだけの料理が出て1泊6,800円は破格であろう。1泊3万円も、またそれ以上の宿には縁がなく宿泊したことがないが、それくらいの金額を出してでもこれ以上の料理は出ないと想像する。とにかく凄い宿があったものだ。
明日は夏空が戻るという。明日は雨の心配がない。その安心感と海の幸に大満足の今宵は酔ったオヤジどもの阿鼻叫喚の喧噪とは裏腹に福浦の夜は深く、そして静かに更けていくのだった。
薬研温泉8:30――下風呂温泉9:40/9:50――大間崎10:55/12:00――佐井12:55/13:35――福浦15:35
走行距離77.1Km
7月30日(水)晴れ
本日は下北半島を離れ、青森県のもう一つの顔である八甲田の山岳ツーリングを楽しむ。そのため福浦から高速船で青森港へ入る計画だ。福浦港は小さな漁港であるため、少しでも波が高いと高速船は入港出来ないと言われていた。乗船できない場合もありうるので、そのためのエスケープルートを考えていたのであるが、本日は安定した夏空が広がり、船の運航には差し支えないことが判った。
乗船手続きのため出航の20分前、つまり7時10分までに港に行かなければならず、そのため朝食は6時から食べられるよう依頼した。さすがは漁師宿だ、5時30分でも6時でもいいですよ、と来た。朝から満足な朝食に感動し、女将に挨拶をして7時前に宿を出た。亭主は既に漁に出たようだった。
港で乗船手続きをし、着岸するという場所で船を待っていると、早朝からウニ漁に出ていた数多くの船が漁を終え続々と帰って来た。どの船も山盛りのウニを積んでいた。それにしても凄い量である。そんなに獲ってしまったら沿岸のウニが枯渇してしまうのじゃないかと心配になるほどの量だった。やがて福寿荘の亭主も帰って来た。やはり沢山のウニを積んでいた。手を振って「お世話になりました~」と挨拶をした。
佐井、福浦、牛滝、脇野沢、青森を結ぶ高速船「ほくと」は定刻通りに入港。これから2時間足らずの船旅に心ならずもわくわくする。出航して間もなく仏ヶ浦の奇岩群の前を通過。昨年は海岸まで降りてその奇岩群を見学し、その上グラスボートに乗船して海の上からの眺めも楽しんだ。今回は日程の都合で仏ヶ浦の散策は割愛したが、こうして高速船の船内からも充分に楽しめた。
景勝、仏ヶ浦の奇岩群。なるほど浄土にいるような気がする
同じような海の景色に飽きてきたのか皆うつらうつらしている。しかし途中から海が荒れ出し、窓ガラスを波の飛沫が洗い、揺れも次第に大きくなってきて楽しくなって来た。心配になるような揺れではないのでその揺れを皆楽しんでいるようだ。やがて揺れも小さくなり青森港に到着。港から青森の駅前にあるJRバスのターミナルまで走れば、久し振りの交通量の多さに些か驚いた。街角の気温表示板をみると26℃と表示されている。昨日までの最高気温が22℃だったので多少暑く感じられるが、湿度が低いためだろう嫌な暑さではない。
バスターミナルにてバス輪行をすべく自転車をバラす。青森港9時25分着で十和田湖行きJRバスの発車は10時だ。バス乗車前に昼食を購入しなければならないので、少々慌ただしい作業だ。バスで八甲田の笠松峠まで登り、そこから市内までのダウンヒルを楽しむ。我ながらなかなか良いアイディアではないか、と少し天狗になりかけたが、それを吹聴するとバカにされそうだと考えて口に出すのを控えた。Sunnyさんは昨日のブレーキの故障から八甲田行きを断念したようだ。市内の美術館へ行くと言ってバスターミナルの前で別れた。
バスは夏空が広がる八甲田に向かって一直線に登って行く。途中萱野茶屋で10分ほど休憩停車。萱野茶屋名物の3杯麦茶を戴く。この麦茶を3杯飲むと死ぬまで長生き出来るとなどと謳っているが、そんなの当たり前じゃんか、とケチをつける。無料とはいえ美味くもないこの麦茶を3杯も飲む輩がいるのだろうか、わたしなどは1杯飲み干すにも苦労した。
バスは青森の名湯、混浴の千人風呂で有名な「酸ヶ湯温泉」に停車。ここでほとんどの乗客が降りていった。我々はこのバスの運行の最高地点、笠松峠から僅かに下りた「睡蓮沼」で下車。約25年ぶりの睡蓮沼は以前の感動したイメージはないが、山上に水を湛えた様はとても清々しい。
八甲田・睡蓮沼に佇むワシ 気分の良い湿原が広がる
睡蓮沼から僅かに登り返して笠松峠へ。この笠松峠の標高1,100mから0mの市内まで大凡38Kmのダウンヒルを楽しむ。傾斜に身を任せればスピードがどんどん増す。狂乱のダウンヒルの始まりだ。耳には「ゴーッ」という風切り音しか聞こえては来ず、狂乱に踊る心のすぐ隣りではそのスピードに恐怖を覚える。自転車で60Km/h以上のスピードでの転倒は時として致命に関わる。スピードに乗ることで高ぶる心と別の次元で路面の寸分の変化も見逃さないという、冷めた神経とが鬩ぎ合う、この絶対的自己矛盾。しかし、交錯する神経の中で走り終えたあとに込み上げるこの何とも言えない快感は文字として表現することは難しい。
酸ヶ湯温泉に寄って昼食とした。ビールと麦トロご飯を注文。酸ヶ湯名物十割そばは如何にしても口に合わず、さりとてどのメニューにもこの酸ヶ湯そばがセットで付いてくる。そのため駅近くのコンビニで昼食を購入してきたのだ。しかし、ぱらら☆さんがメニューを見て唯一酸ヶ湯ソバがセットされていない麦トロご飯を発見したのだ。この麦トロご飯、実に美味かった。酸ヶ湯の食堂を少し見直した。
酸ヶ湯から少し下って雲谷(もや)高原で休憩。素晴らしい景観に思い思いにしばし撮影タイム。草原が広がるこの雲谷高原は実に気分が良い。前岳、田茂萢岳が雲の中に隠れており、それが少し残念だった。
夏雲が広がる雲谷高原 大きく広がる草原に風が吹き抜ける
途中「ねぶたの里」という、ねぶたの展示体験施設に立ち寄ったが、入場料650円也に見合う施設でもないであろうと判断して入場はしなかった。その後一気に青森市内まで走った。
夜は青森の定番、居酒屋「ふく朗」にて打ち上げ。途中からわたしの旧友も加わり大いに盛り上がった。この「ふく朗」という居酒屋の刺身は実に美味い。ホヤ、イカ、ソイ、ホタテ、岩ガキその他を注文したがとにかく大満足だ。特にホヤなどは絶品であった。外に出れば街は「ねぶた祭り」直前で盛り上がりを見せている。ワシら酔ったオヤジたちもトーゼン盛り上がっている。ホテルの手前でぱらら☆さんが若いおねぇしゃまに何やら声を掛けている。その異様な盛り上がりの雰囲気の中、青森の夜は怪しく更けていくのだった。
福浦7:30――高速船ほくと――青森9:25/10:00――JRバス――睡蓮沼11:25/11:55――青森16:00
走行距離38.3Km
7月31日(木)晴れ
本日は東京へ帰るだけだ。青森から9時前の特急に乗れば東京には13時過ぎに到着する。本日の朝食はホテルでは摂らず、ホテルの隣りにある「アウガ」の地下にある魚市場の一角にある海鮮丼の店での朝食だ。
ぱらら☆さんと山岳部OBさんは3色丼(イクラ、ウニ、マグロ)を注文しSunnyさんとわたしはウニ丼を注文した。ウニ丼は2000円であるが、高い感覚はない。口の中に入れればウニの甘さが口の中すべてに広がった。とにかく美味い!
朝食を終え、市場の中を歩いていたら岩ガキを発見。200円だというので1コを剥いて貰った。これまた美味い!今回は本当にグルメツアーであった。取れ立ての海の幸を堪能した。東京に帰ったらもう当分活きの悪い刺身など食べる気も起こるまい。
車中では乾杯を繰り返し、着いた東京は不快な蒸し風呂状態だった。つくづく青森は良かったなぁ、と思いながら家路についた。
青森8:56――スーパー白鳥10号――八戸9:58/10:06――はやて10号――東京13:08