(・・・その2からのつづき)
主治医は、Iさんが病院で造設したボタン胃瘻(いろう)を2カ月前、目を離した隙に行き成りむしり取ってしまい、注入中の経腸栄養剤が腹腔や血中に流入し病室が修羅場になった経験で「中心静脈栄養方式なら1日1回の輸液補給と2カ月1回の注管交換のための1泊2日の入院があればよく、仮に本人が嫌がって点滴管を抜去しても穴が小さくダメージが少ないからIVHのまま居宅療養に移っていただくしかない」と説明した。
これに対し往診医は「IVHは栄養成分や濃度が限られ、しかもぶどう糖の血中濃度が一定する結果、食欲が湧かなくなり、長期使用すると消化機能を失って永久的に経口摂取や経腸吸収ができなくなる。それでは体調が衰弱するばかりだ。できれば胃瘻を再度造設してから退院させた方がよい」。
主治医「当院の技術では2度目の胃瘻造設は無理だ。それに入院中、ことに人員の少ない夜間、胃瘻を抜去されたとき対応できない。再造設は技術力と設備のある大病院へ転院して行っていただくしかない」。
ケアマネ「家族の望む特養は、胃瘻なら受け入れるところが多いが、貢任が重く手間のかかるIVH患者の受け入れは極端に門が狭い。ペッドがなかなか空かないだろう」。
侃侃諤諤の討論の末、結局とりあえずIVHで退院するが、豪族の要望「近い将来、特養入所」を尊重し、また往診医の意見を入れ、大病院のベッドが空くのを待ち転院させてもらい、胃瘻再建手術を受けた後、長期の居宅療養を続けるという案にまとまった。
福祉用具貸与事案所へは、病診の両医師の指示に従い、点滴支柱、点滴ポンプと付属部品等をその場で早速依頼し、また必要輸液は私が薬剤師居宅療養管理指導をしながら供給することになった。その後直ぐ、それぞれが用意して行った利用契約書を家族と取り交わした。初回の輸液については、そこで主治医から薬剤師居宅療養管理指導の記述を備考欄に入れた処方せんを発行してもらい、家族から預かった。
さらに往診医から訪問看護師へは看護手順、回数、時間等、訪問入浴のスタッフ看護師へは毎週1回、作業前にバイタルサインに注意すべきことと清拭時の注意の入った指示書が渡され、訪問介護のヘルパーへは環境管理と褥瘡(じょくそう)への注意等、それぞれに細部の指示がなされた。
これだけの話をまとめるのに2時間以上かかった。事前折衝、問い合わせ、書類の整理と準備、その他の世話を合わせると、この利用者に関して30時間はかかったろう。それでも入院中は医療保険だから、介護保険下で働くケアマネは何の報酬も得られない。
(ボヤキ……結局Iさんは、月が明けてから退院されたので、最も世話量の多かった前月は、ボランティア活動に過ぎなかったことになった。)
(この項終わり)
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