ACT10  クルス−C

 

 っがあぁぁぁんっ!!
 壁が吹き飛び、その爆風から僕達は現れ、仮死状態のセレネに被害が行かないようにセレネからできるだけ遠くに行くよう走り出しました。ルカさんは僕たちの目論見どおり僕たちについてきます。
「アレス、そろそろ僕に教えてくれませんか?」
「何をだ?」
「しらばっくれてもダメです。ルカさんと別れた理由ですよ。
 一度決めたことはできるだけ最後までやり通すアレスが、自分から別れ話を持ち出すなんてさっきから妙に引っ掛かるんですよね〜」
「う……っ」
 僕の言葉にアレスは反論してきませんでした。
 そして、アレスはしばし考え、一つ大きなため息をつくと、別れ話の真相を打ち明け始めました。
「あいつは人並み以上に嫉妬深く飽きやすいんだ。
 付き合おうと言い出したのも向こうから。でも、俺はルカのこと全然面識がないし、どういう人間かわからなかったから一度は断ったんだ。
 だけど、あいつは断る俺を見逃してはくれなかった。いきなり銃を突きつけて『私と交際をしなければ今ここで貴様を殺してやる』と言い出した。」
 アレスの言葉に僕はちょっとそのときの想像をしてみました。
 ………アレスって以外に過激な告白を体験しているんですね。
「そのあとどうしたんですか?」
「あそこで殺されちゃかなわんと思ってしぶしぶ交際にOKしたよ。」
 そりゃそうですよね〜。
 あそこで殺されちゃ何のために博士に造られたのだか分かりませんもの…。
「だけど、あいつは一週間もしないうちに俺に飽きて他の男に手を出した。
 そのときは『やっとあいつの呪縛から開放された!』って浮かれ気分になって、前々から恋仲だった女性と堂々と交際することにしたんだ。
 ところがあいつはそのことに腹を立てた。
 自分のことを棚に上げて俺や彼女を責めまくったよ。というか、むしろ彼女に対する言葉は俺以上に酷かったな。言葉と手の暴力がいっぺんにきたんだから。しかも、俺の目の前でルカは暴行した。
 俺が何度彼女を庇ってもルカは暴力をしつづけた。
 そしてついに彼女はその暴力で右目を失明してしまったんだ。
 それがきっかけで俺はルカに別れ話を切り出した。
 もちろんルカは反対しまくったよ。だけど、俺は無視して話を進めた。
 『もう俺はおまえのわがままな行動に耐え切れない。おまえがなんと言おうと、俺はおまえと一切関わらない』って反対するルカを押し切って別れた。
 そのあとすぐにおまえらが生まれて博士から討伐命令が下ったから逃げるように俺はルカたちがいる町を離れた。
 それから先、ルカの行動は一切つかめなかった。だけど、俺はルカの行動を知りたいとは思わなかったし、博士の意思を優先することが当たり前だと思ってたから気にも留めなかった。
 それにルカと会ったとて復縁するつもりはこれっぽっちもない。もし向こうが吸血鬼としてではなく申し込んできたら今と同じ行動を取っているかもしれない。」
「………………………」
 アレスの言葉に僕は何も言えませんでした。
 僕らが生まれる前にそんなことがあったんですか……。
 僕、こんなに辛そうなアレスを見たの初めてです。失明してしまった女性のこと、本当に愛してたんですね。
 って、ちょっと待ってください。ルカさんが口走った「アレスと対等になるため」ってどーゆー意味があるんですかぁ?!
「クルス、止まれ!!」
「あ、はい!!」
 突然アレスに言われ、僕は慌てて急ブレーキをかけて止まりました。アレスもまた足を止め、きょろきょろと辺りを見渡しました。
「どうしたんですか、アレス」
「ルカが消えた。あいつのことだ、どっから攻撃してくるかわからんぞ」
 言われてみれば、先程まで後ろで僕たちを追いかけていたルカさんの姿がありません。初めてここに訪れたときと同じパターンですかね。
 僕たちは無言のまま背中合わせになって構えました。
 後ろを無防備にしていたら元も子もないですからね。
 さぁ、どこから来ても構いませんよ。
 と言い切ってもルカさんは強い。あのセレネでさえ一撃で落としたんですからね。
 どう攻撃してくるか情報が少なすぎて作戦が立てられません。
 まぁ、ルカさんはどのみちアレス狙い。アレス以外はただの虫けらも同然。つまり、僕のことなど気にもとめていないはず。ならば僕が隙をついて攻撃すればなんとかなる―――
 どこぉっ!!
 突然僕の目の前の床が魔法弾で抉れました。
 もう攻撃を仕掛けてきたんですか?!
 そう思ったのも束の間、次の攻撃は確実に僕とアレスの足元を狙ってきました。僕らは上に飛びました。
 やはりアレス狙いですか!!
「他人のことばかり心配してないで少しは自分のことを心配したらどうだい?」
「?!」
 突然僕のすぐ目の前に剣を持ったルカさんが不適な笑みで現れました。そして―――
 ジャッ!!
「うぐ……っ!!」
 ルカさんが持っていた剣が僕の右わき腹を貫通し、そのまま僕を地面に叩きつけられました。それと同時に口から血を吐き、刺された傷口からはおびただしい血が流れ出てきます。
 は……早く剣を抜かなければ………
 僕はとっさな判断で起き上がり、剣の柄に震えた手を伸ばしました。
「つぅ……っ!!」
 呻き声をあげつつも、僕はわき腹から剣を抜き剣を捨てると、わき腹を手で抑えながら再び地面に倒れました。
「はぁ…はぁ…癒しよ
 僕は肩で息をしながら傷口に治療呪文をかけました。
 これでしばらくすればなんとか塞がりますね。それまで動けませんが……。
 ルカさんは最初から僕狙いだったんでしょうか。僕を潰してからアレスをゆっくり調理するつもりですかね。
 でも、セレネのときは完全なるアレス狙いだったのに………。
 一体彼女の本当の目的って……あ゛――――――っ!!考え事している間にアレスたちがいなくなってしまいましたぁ!!
 どうしましょう!!どうしましょう!!
 う〜んっ、う〜んっ
 こうなったら奥の手(?)其の一を使っちゃいましょう!!
 僕は印を組み――――
「透視表示術(とうしひょうじじゅつ)・映(うつし)
 僕の視界が術によって右目にこの城の全体図が、左目にアレスたちの居場所が表示されました。アレスは赤、敵は紫の丸で表示されています。
 う〜んっ。アレスたちは謁見の間で戦闘中のようですね。今から引きずって歩いていけば何とか魔法のサポートだけでもできるかもしれません。
 僕はそう思い、起き上がり立ち上がろうとすると―――――
 ぴきっ!!
「はうっ!!」
 い…痛いですぅ……
 全身に激痛が走り、そのまま身動きが取れなくなってしまいました。
 ……ぎ……ぎっくり腰かもしれません………
 ……しかし………この年でぎっくり腰って……
 アレス……一人で大変かもしれませんが、頑張ってくださいね……。