ACT11  アレス−B

 

 俺は攻撃してくるルカによって負傷したクルスと離れ離れになり、色々な物に飛び移りながらルカの攻撃を避けて走っていた。ルカもまた俺を逃がさんと攻撃魔法を放ちながら追いかけてくる。
 ちぃ…っ!!相変わらずしつこさは健在だな!!
 俺は廊下を通り抜け、一際広い部屋に入った。大体
20畳ほどの広さだ。この広さから言うと謁見の間だろう。
 しかし、ここの部屋も壁から小物まで人骨の装飾でやがる。
 一体この屋敷はどういう構造になっているんだ?!
 そーいえば、クルスがここの吸血鬼は肉食型だとか言ってたな。ってことはここの吸血鬼のボスはルカなわけだから、もしかして……!!
「おまえ、人間を食ったな!!」
 俺はいきなり足を止め、ルカに振り向き、叫んだ。
 ルカはにたぁっと不気味な笑みを漏らし、
「そうさ。ここにある人骨は全て俺が食ったものさ」
「おまえ、完璧に人道から外れたな」
「吸血鬼になった時点ですでに人道から外れているさ」
「いんや、吸血鬼になっても人道から外れていない奴もいるがな。
 なんのために人間を食った?」
「それは我が血肉を形成する栄養分のためさ
 食われた奴らはそれはそれは苦しそうな悲鳴を上げて俺に食われていったぞ。ま、俺はその悲鳴とそれに染まれた血肉こそが最高のご馳走だからな。」
 俺はルカの嬉しそうに話す内容を聞いて正直吐き気を伴いそうになった。
 こりゃぁ一度食べた最高の味を忘れられなくなっているな。
「さあ、おまえも俺の栄養分となるが良い!!」
「ちょっと待てぇいっ!!さっきはおまえの物になるがいいって言うわ、次は何!!おまえの栄養分になれってどっちなんだよ?!」
「どっちでもよかろう!!
 どうせ飽きたらおまえを食うんだからな!!」
「よくない!!」
「つべこべ言うヤツだな!!昔は素直に俺の言うことを聞いていたのに……」
「はんっ!!時が経てば人間誰しも性格が変わるもんだ!!」
「開き直るな!!」
 とルカは叫びながら俺に向かって魔法弾を放った。俺は避けながら放った瞬間の隙を狙って、俺はマントの裏に隠してあった剣を引き抜き、ルカに向かって切りつけると、肩から胸にかけて血が噴き出た。
「うがぁぁぁぁぁっ!!」
 切りつけられ、ルカは突如苦しみだし倒れ伏せもがき苦しみだした。
「血がぁ!!私の血がぁぁっ!!あああああああっ!!」
 他人の血を見て楽しむわりには自分の血を見るなり苦しむなんて……
「お…おのれぇぇぇぇっ!!!!よくも俺の血を流させたなぁぁ!!!!俺の高貴な血がぁぁぁっ!!」
「これで少しはおまえに食われていった人間達の気持ちが分かっただろ。
 さぁ…おまえの―――」
 ザンッ!!
「!!」
 俺がルカに近づいたとき、俺の体に何かがかすった。すると、俺の左肩から突如血が噴き出てきた。
 く……っ。
 俺は思わずやられた傷口を抑えて後ろに下がると、先程まで苦しんでいたルカが床に飛び散った血を舐め始めた。
 こいつどこまで小癪な奴なんだ!!
 ルカは俺の血を舐め終わると、口元を拭いながら立ち上がり、勝ち誇った表情で俺を見つめている。
 俺が切りつけた傷口はすでに塞がれていた。
 なるほど、他人の血を吸収することによって再生能力のスピードが普通の人間の倍になるわけか。
 俺としたことが、油断した。
「はぁぁぁぁっ!!」
 今度はルカが肉弾戦で俺に攻撃を仕掛けてきた。
 俺は傷口を抑えているせいで後ろに下がりながら避けるのが精一杯だ。
「さっきまでの威勢はどうした? いつまでもつかねぇ……!!」
 ちぃっ!!俺が傷のせいで攻撃できないことを知ってて挑発してやがる!!
 だんっ!!
 ついに俺は壁にぶち当たり、逃げ場をなくしてしまった。
 や……やられる!!
「止めだ!!」
 とルカが腕を振り上げた瞬間――――
 ずしゅっ!!
「かはっ!!」
 突如ルカの胸から白い肌の一本の細い腕が突き出てきた。
「な……に……?!」
「悪いけど、あたしがいることを忘れないでくれる?」
 と不適な笑みを漏らしながらルカの背後から現れたのはルカの攻撃で仮死状態になったセレネだった。
「セレネ!!」
「はぁ〜いっ!!アレス!!あんたも大怪我することもあるのね!!」
「おまえ、この状況でケンカ売るなよ……」
「気にしない、気にしない!!」
「……き……貴様……何故ここに……?」
「ん〜…単にあんたの魔術はあんまりあたしに通用しなかったからよ。
 確かに一時的に仮死状態になったけど、すぐに回復しちゃったしぃ〜。
 残念だったわね、あたしは最強なのよんっ!!
 というわけで、さっさと消えてちょうだいな☆」
 ルカの体に腕を貫通させたまま、にっこり微笑み答えるセレネ。
 そして、目を閉じ、吸血鬼を滅ぼす呪文を唱え始めた。
「呪われた儀式により人道から外れた愚か者よ

 汝 我が裁きを与えし者の名により
 汝のあるべき姿を捨て
 汝が帰るべき地へ帰りたまえ」
「や……やめろぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「往生際が悪いわよ、ナベ女!!
 さっさと土へと帰りなさいよ!!」
「あ…アレス…………!!」
 とルカは俺に手を伸ばすが、俺に手が届く前に体が風化し、脆く崩れていったのだった。
 …………終わった……か………。
 俺は傷口を抑えながらほっと胸を撫で下ろした。
「……ふう。任務完了☆」
「……おまえ……よくあそこからここまで来れたな」
「空間を捻じ曲げて来たに決まっているじゃない☆」
 と自身満々に言うセレネ。
 こいつの行動は俺の考えを遥かに超えているよ、ったく。
「って、おい!!クルスはどうした?!」
「知らなぁ〜いっ!!アレスと一緒じゃなかったの?」
「途中で身動きが取れなくなって置いてきたが?」
「えええええっ!!なんで置いてきちゃったのよぉぉぉっ!!」
 と俺が怪我をしているにも関わらず、セレネは俺の襟首を引っつかみ、前後に揺する。
「だから、あいつはルカに攻撃にされて怪我してるんだってば!!」
「なんですってぇぇぇっ?!そーゆーこと早く言ってよぉぉぉぉっ!!
 クルスのところに助けに行くわ……よ……」」
 ずぅぅんっ!!
 突然建物全体が揺れだした。
 もしかして………!!
「セレネ、急いでここから出るぞ!!」
「なんでよ!!クルスを助けるのが先決でしょ!!」
「主がいなくなったからここの建物も土に帰るんだよ!!」
「げげげげっ!!そりゃマズイ……」
「というわけで、さっさと退散するぞ!!」
 クルスには悪いが、俺達はさっさとこの建物から退散していった。
 ずずずずずずず……
 俺達が出た頃にルカがいた建物は音を立て崩れていった。そして、そこに残ったのは瓦礫の山だけだった。
「…………終わったね」
 崩れていった建物を見て物思いにふけっている俺にセレネが声をかけた。
「………そうだな」
 少しは良いところがあるじゃないか。
「さぁて、帰るか」
「帰らないでください!!」
 と瓦礫の中からクルスが叫びながら飛び出てきた。
「お〜やっぱり生きてたか」
「生きてますよ!!とっさにシールド張ったんですから!!」
 と俺が言う冗談(つもり)にクルスは半分切れかけていた。