ACT2 アレス−@

 

 俺の名はアレス。クロート博士に最初に作られた人造人間。人間の理から外れて生まれた者。そして――生まれてはならない存在。
 俺は亡きクロート博士の意思を継ぎ、クロート博士の汚名を晴らすため吸血鬼を抹消する役目を持っている。それが果たせなければ、生きている証にはならない。
 生まれたときから俺は金髪に青い瞳、25前後の姿をしていた。何故このような姿になったのかは博士しか知らないし、そもそも受け継いだ意思の中にそのようなことはなかった。
 別に俺はそのことは気にしていない。
 それより一刻も早く博士の汚名を晴らさねば……。
 俺は俺と同じく人造人間の二人を連れてフランスのコートダジュールに向かっていた。
 しかし、そう安々と進ませてはくれなかった
「お腹すいたぁ〜!!」
 馬の上で暴れ駄々をこねているのは最後に造られ、俺より力を勝っている腰近くある銀髪に碧眼、外見上は13、4歳ぐらいの少女、セレネだった。
 いつものことだ。
 セレネはいつも駄々をこねては急ぐ俺たちの旅路の邪魔をする。
「またか。いいかげんにしろよ。」
「だって、アレスがいけないんだ!!ベルリンでご飯を食べさせてくれないから!!」
「食べているヒマなんかない。さっさと博士の汚名を晴らすんだ。」
「また、それ?いい加減にしてよ〜。毎度毎度『博士の汚名を晴らす』って言うのあたし達の耳を腐らせる気?」
 セレネは馬の上であぐらをかいて呆れた。
「そのために造られたのだろう。」
「う……っ。」
 俺の言葉にセレネは言葉を返してこなかった。
「確かにアレスの言い分は正統ですが、今回のことに関しては僕もセレネと同じ考えです。」
 と、セレネの肩を持ったのは二番目に造られたクルスだった。クルスは俺のサポート役として造られた。外見は14、5歳。蜂蜜色の髪と瞳を持ち、愛くるしく、健気な少年である。
 本人はさすがにこの姿は嫌らしい。
「………クルス。」
「さっすが、クルス!!あたしの気持ちがよくわかっているじゃん!!
今回はアレスの負け!!さっさとどこかでご飯を………」
 とセレネが言いかけたとき、俺たちの周りに殺気が漂った。
 吸血鬼の餌食となったゾンビか?
「……アレス。」
 真剣な表情でクルスが俺に近寄った。
20は軽くいるな。」
「まだ、ご飯食べてないのにぃ〜…!!」
 と嫌がるセレネ。
「ちゃっちゃと片付けてコートダジュールに行くぞ!!」
「コートダジュールに行けばお腹いっぱいにご飯が食べられるのね!!」
とさっきまでのやる気のなさが消え、張り切るセレネは馬からぴょんと飛び降り術を唱え始めた。
 ここで殺す気か……。
「アレス、クルス。今回はあたしに任せといて!!」
「セレネ、無茶は禁物ですよぉ……。」

闇に仕え魔族の生を受けし哀れなき民よ
 我が手の中でその哀れなき御魂を浄化せんことを
 きぃぃぃぃぃぃん……
 耳鳴りと共にセレネの手の中に黒い球体が現れ、隠れていた吸血鬼が次々に吸い込まれていく。

戒破!!
 ばぐんっ!!
 セレネの声と共に黒い球体は音をたてて消えていった。
 セレネの得意技・戒破。吸血鬼にされた人間の戒めを断ち切り、魂と肉体を浄化させることができる高度な術。そして俺が使いこなせない術の一つ。
 このときばかり博士を恨んだことはない。
 なぜ俺を最強にしなかったのか、なぜ年長の俺が……!!
 お恨み申しますぞ、博士!!
「アレスぅ!!終わったから早くコートダジュールに行ってご飯食べようよぉ〜!!」
 いつの間にかセレネは馬にまたがり、クルスと一緒にコートダジュールに向かって進み始めていた。
 ちぃ……っ。
 俺は慌てて馬を走らせ2人に追いついた。
 いつか…俺は自分の感情がコントロールできずにセレネを殺してしまうかもしれない。
 そんな不安が心の隅にうごめいていた。