ACT3 クルス−@

 

 ……え……えっと……初めまして……僕は天才博士に二番目に作られたクルスと言います。僕達の仕事は亡くなったクロート博士の意思を継いでこの世にいる吸血鬼を全て排除するヴァンパイアハンターです。
 今回は吸血鬼が最も多く生息しているフランスの南西部、コートダジュールを排除することにしました。
 なんとか何事もなく無事にコートダジュールに着くことができましたが、町の門をくぐったところにすぐ吸血鬼の餌食となった村人が出迎えてくれて、ご飯を食べるヒマもなく戦う羽目になってしまいました。
「アレスのバカバカバカ!!コートダジュールに着いたらご飯がたらふく食べれるって言ったじゃない!!」
「いつ俺が言った?!おまえが勝手に解釈したのが悪い!!」
 とゾンビと戦いながら口げんかをしている二人。
 僕は自分のこととアレスをサポートするのでいっぱいいっぱいなので、ある意味尊敬してしまいます。
 戦いながらそう思っていると、僕の視界の中に一人の少女が飛び込んできました。
 年のころならセレネと同い年ぐらい。栗色の長髪を二つに分けて前で結い、庶民的な服を着て、くりくりとした愛くるしい青い瞳でこちらの方をじっと見つめています。
 彼女からゾンビの気配がしません。ということはまだなっていない人間です!!
 そのときでした。一人のゾンビが彼女に襲いかかってきました。
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
 彼女の悲鳴を聞いて僕は慌てて僕の周りにいたゾンビを排除して彼女の元に走りました。
「危ない!!」
 僕は彼女を庇いながら倒れ伏せました。
 その時にゾンビの爪で右肩から背中にかけてひっかかれ、傷口から鮮血がほとばしりました。
「く…っ。」
 僕は痛みを我慢しながら少女を襲ったゾンビに向かって術を唱え始めました。
破魔(はま)!!
 力のある言葉を叫ぶと、ゾンビは砂となって消えていきました。
「大丈夫ですか?」
 僕は起き上がり庇った少女に尋ねると、少女は怯えながらなんとか頷きました。
 やはり襲われたのに関して恐怖心が芽生えてしまったんでしょう。
 ってそれよりも、彼女を安全なところに避難させなくては!!
 僕は彼女を抱きかかえ、とりあえず安全な場所へ移動しようと思いましたが、敵のほうはそう簡単に通してはくれない様子です。
 僕の周りをぐるりと囲み、いつ僕達に攻撃してきてもいい状態でした。
 マズイですね……。両手が塞がっていてまともに相手することができません。
 仕方がありません。荒っぽいことはあまり好まないんですが……。
「すいません。ちょっと飛んでもらいますね。」
「え…?!あの……?!」
 僕は彼女に侘びいれると、驚き戸惑う彼女を無視して彼女を上に向かって放り投げました。
「きゃぁぁぁぁぁっ!!」
 上のほうで悲鳴が聞こえてきますが、早くこっちを何とかしないと……。

 
破魔の術は一人が限度です。
 それ以上の術となると……う〜ん……。時間もありません。こうなったら…!!
 僕は詠唱時間が短く、威力のある術を唱え始めました。
 吸血鬼やゾンビは聖水、炎、十字架が大の苦手です。
 この三つのうちどれかうまく活用すればいいことですから……。
紅蓮の炎よ!!
 
ぐおぉうっ!!
 僕が放った紅蓮の炎は次々にゾンビを炭と化していきました。術は大成功です。
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
 上のほうで少女の悲鳴が聞こえてきます。
 あっ!!そうでした!!あの子を放り投げていたんでしたね!!
 僕は落ちてくる彼女をすかさずキャッチしました。
「すいません。怖かったでしょう。
 ですが、今の場合あれしか方法がなかったんです。」
 彼女を抱きながら、僕は謝りましたが、彼女の返答はありません。
 やはり、投げてしまったことを怒っているのでしょうか。
 そのとき、彼女は僕が着ている服の胸元を引っつかみ、
「あなた、ヴァンパイアハンターね!!」
 と目を輝かして言ったのです。
 は?
「そうですけど……?」
「よかった!!この町には吸血鬼がはびこってて私達普通の人間は彼らに隠れて毎日を過ごさなくちゃならなかったから困っていたの!!」
「はあ……。」
 つまり、僕達が来てちょうどよかったという訳ですね。
「だから、お願い!!私たちのためにこの町を支配する吸血鬼たちを倒して!!」
「そのためにここに来たんです。」
 僕は彼女を下ろしながら言うと、彼女は一瞬驚きましたが、すぐに笑顔になりました。
「そうなの。あ、私の名前はティアよ。ヨロシクネ。」
「こちらこそ」
 僕とティアはお互い自然に握手をしました。
「僕はクルスと言います。あと向こうで戦っているのは僕と同業者のアレスとセレネです。
 一体この町はどうなっているんですか?」
 僕が尋ねると、ティアはさっきまでの笑顔が消えて暗くなってしまいました。
「ここは元々貴族達の避暑地として有名だったんだけど、三年前一人の吸血鬼がこの町に訪れて、たまたまここにいた貴族を皆自分の仲間にしてしまったの。
 それからというものの、庶民をさらい血を啜り、血祭りの町になってしまったわ。
 吸血鬼にならずに済んだ私達は別の場所でひっそりと暮らしているの。」
 そんなことが……。その訪れた一人はやはり博士の失敗作なのでしょうか?
 しかし、失敗作は僕達が作られていたことは知りませんからね。恐らく大丈夫でしょう。
「大丈夫です。僕達がその吸血鬼たちを倒してみせますから!!」
「ありがとう!!」
 とティアは僕に抱きついてきたのでした。
 あわわわわわ……。
「ちょっとぉっ!!何一人だけ戦いに参加してないのよ、クルス!!」
 上からセレネが現れました。
 彼女の服はゾンビの返り血で血まみれになっています。
「誰よ、この子。」
「ここの町に住んでいる普通の人間のティアっていうです。」
「なんですって?!」
 僕の言葉にセレネは驚き、僕に抱きついたままのティアに迫りました。
「あなた、ここの人間なのね!!だったら……」
「だったら?」
「お腹空いたからご飯くれない?」
 せ…セレネ……
 緊張感溢れる声からもれた意外な言葉にティアも僕も唖然となってしまいました。
 セレネはどんな状況でも食事は欠かせないんですね。