ACT5 セレネ−A

 

 あたし達はティアが教えてくれた親玉の住処へ行くことになり、教えられた通り隠れ家から南に5q馬を走らせていってみると、そこには薄気味悪くどでかい城があたし達の行く手を阻むように構えて建っていた。普通の城ならば金やそこらの光り輝く装飾品で飾られているが、この城は逆に薄気味悪さを強調するかのように黒や赤の装飾品で飾られていた。
「これが……親玉の住処……」
 圧倒的なスケールのデカさにあたしは思わず息を飲んだ。
 この圧迫感はナニ?
 とてつもなく、気持ちが悪い。
「……セレネ。気づきましたか?」
「ナニを?」
「この城の装飾品のほとんどに人骨が使われていますよ。」
「え?!」
 あたしはクルスの言葉に驚き、目を凝らすように見た。確かにクルスの言った通り、黒とかの塗料で誤魔化されているけど人骨が使われている。吸血鬼って人の血を啜って仲間に引き入れるだけじゃなかったの?
「この骨はきっとティア達の同胞ですね。」
「吸血鬼って人肉を食べるっけ?」
「食べる吸血鬼もいるそうですよ。吸血鬼と言っても種類は多彩ですからね。」
「もしかして…今回の相手も人肉を食う奴だったりして……」
「これほどの人骨を使用しているんです。その可能性は大だと思いますよ。」
 クルスはそう言うと馬から下り、城を取り囲む城壁に手を置こうとしたが――
 ばちばちばちばちっ!!
 手を置く前になんならかの結界が張られ、クルスの手に電撃がほとばしる。
「クルス!!」
「………なるほど。この城にはそう簡単に入れそうにはありませんね。」
 心配するあたしをよそにクルスは攻撃を受けた手を見ながら冷静に判断をした。
「……結界が張られているってことでしょ?」
「それもかなり強力な結界がね……」
 グローブが焼け落ちちょっと焦げた手に治癒魔法をかけながらクルスはあたしの言葉に付け足した。
「この結界の強さだと、結界破りにかなり骨が折れますね。
 先に偵察に来てよかったです。」
「何か策でもあるの?」
「ええ。まあ僕に任せてください。」
 と自信満々に言うクルス。
 そうよね。クルスってば案外結界とかの補助魔法関係は大の得意だもんね。
「さあ、偵察も済んだことですし、いったん引き返しましょう。」
 えええ?!もう?!
 あたしはクルスの言葉に驚愕した。
 は…早い……。
「そうやすやすとは返さないぜ。」
『?!』
 どこからともなく聞こえてくる殺気混じりの男の声にあたし達は反射的に身構えた。
 どこだ?!気配が消えてどこにいるか分からない!!
 でも、気配が消えているけど、辺りに充満しているこの圧迫感は吸血鬼の親玉に間違いない!!
「どこにいる?!」
 あたしは右手に魔力を込めた。
「けっ。魔力が使えるということは、自分達の領域を広がしたがる俺たちの同胞か、それともあの博士が対吸血鬼用に用意した駒か。どちらでもいいが、荒らしが好きなお嬢さんとみた。
 でも、それは物騒過ぎる。その魔力、少々閉まっておきな!!」
「あうっ!!」
 男の声とともにあたしの右手から腕にかけてに強烈な痛みが走る。あたしは思わず馬から崩れ落ち、痛みのあまりそのままうずくまってしまった。
 よくよく腕を見てみると、骨が変形している。
 複雑骨折か……。
「セレネ!!」
「おっと。動くんじゃないよ坊や。
 そこのお嬢ちゃんみたくなりたいかい?」
「く…っ。」
 ダメだ……骨が折れて目眩がする………。
 やっぱり、偵察をするのをやめるべきだったかな……。
 ここでやられたら博士に合わせる面がないよ……。ってその前にあたし達は任務が終わらない限り死ねない体だけど、痛みがあるように造るのは反則だよ、博士。自然治癒力は人の倍だって聞いたけど、痛みがなかなか退かない…。これだったらクルスから治癒魔法を教わっておけばよかったかな。
 そんなことを考えているヒマはないか。今はここから逃げ出さないと!!自爆行為かもしれないけど、今はこの声の主から何とか逃げなきゃ…。
 あたしは、自爆覚悟で左手に魔力を込め、呪文を唱え始める。
「全ての力の源よ
 母なる大地を統べる王
 我が声に応え我に立ち塞がりし者を一度の惑わしを与えよ」
「なに?!」
 あたしが唱える呪文に驚愕の声をあげる男の声。
 やっぱり、気づいたか。この魔法の意味を……。
 この魔法は砂嵐を一時的に起こし、敵の目をくらませる術だ。
「クルス!!」
「セレネ!!」
 あたしが叫ぶ声に反応して、馬にまたがり走ってくるクルスがあたしを抱きかかえ、その場から一目散に退散した。