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偵察に行った際、目に見えない敵によってセレネが倒れ、なんとかアレスたちのもとへ戻ったのも束の間、敵の奇襲にあった僕らは三日間動けず、ただセレネが一日でも早く目を覚ましてくれることを願って作戦会議をしながら待っていました。
今日もそうです。夜遅くまでアレスと一緒に作戦を練っています。
ティアは1時間おきに僕たちの元にやってきては紅茶を注いでくれます。なんだかティアには迷惑かけてばかりで申し訳ないです……。
「歪曲結界術はどれくらいで発動できるんだ?」
先程ティアに入れてもらった紅茶を啜りながら、突然アレスが僕に尋ねてきました。
「え〜っと、早くて2、3分はかかりますね」
「ってことは向こうが攻撃するのに十分できるな」
「そうですね」
僕も紅茶を啜りながら答えると、アレスはティーカップをソーサーの上に置き、しばらく考えるととんでもないことを言い出しました。
「クルス、歪曲結界術を唱えながら守護結界術を唱えろ」
ぶほっ!!
アレスの提案に僕は口に含んでいた紅茶を思わず吹き出してしまいました。
「な…なななななな…何を言い出すんですかぁ?!」
「あれ?できないのか?」
「無理ですっ!!」
「そうなのか?
補助魔法を得意とするおまえなら、こんなこと容易いことだと思っていたんだが……」
「容易くなんかありません!!命に関わる重大行為なんですよ!!」
「そーなの?」
僕の言葉に初耳だと言わんばかりにきょとんとしているアレスに僕は何も言えずただ脱力してしまいました。
ど…どーやら、アレスは博士から魔法を授かるときにちゃんと説明を聞いてなかったみたいですね。仕方がありません。ちゃんと説明して納得してもらいましょう。
「い…いーですか、アレス。一度しか言わないので、ちゃんと聞いていてくださいね。
正反対の魔法を一人の術者が同時に発動することは術者の負担が大きい上、魔法が術者の命令を聞かず魔法の暴走が起こり得ることもあるのでこの行為は禁句にされているんですよ。
わかりましたか?」
「くか――――……」
僕が一生懸命説明しているのに関わらず、寝息を立てて寝ているアレスに僕はその場でコケてしまいました。
ど…どーしてアレスは難しい魔術の話になると寝てしまうんでしょう。
その時です。何かが動く気配がして、僕は後ろに振り返りましたが、誰もいません。
気のせいでしょうか?
そう思った瞬間、僕の上が陰りだしたので、視線を上に向けてみると―――
「ク――ル――ス―――ッ!!」
上にいたのはなんとセレネでした。セレネは弧を描いて僕に飛びつこうとしています。
げげげげっ!!ぶつかりますぅぅっ!!
僕は条件反射的にしゃがみました。
そして、目標物を失ったセレネは抵抗することもできず、僕を通り越えていき―――
「のあっ?!」
「きゃあっ!!」
どんがらがっしゃぁぁぁんっ!!
どうやらセレネはアレスや色々な物を巻き込んで着地したようです。
僕は恐る恐る後ろに振り向くと、そこには椅子ごとひっくり返って痙攣しながらのびているアレスと、アレスのお腹の上でちょこんと正座しているセレネがいました。
「二人とも大丈夫ですか?」
「あたしは大丈夫だよ、クルス!!」
そう言いながら、クルスは僕に抱きついてきました。結局避けてもこーなるわけですね。
「セ〜レ〜ネぇ〜〜〜〜〜ッ!!」
手をポキポキ鳴らしながら、こっちを睨みつけているアレス。至る所に怒りマークがついています。
か…完全に目が据わっています………
「覚悟はいいよなぁ、セレネ」
「ちょ…ちょっと……!!何もしてないじゃない!!」
いえ…十分してます……
「問答…無用!!」
「ひぇ〜…クルスぅ〜!!」
アレスの表情の怖さにさすがのセレネも半泣き状態で僕に助けを求めてきますが、アレスの方は「手を出すなよ、テメェ」と言わんばかりの目で僕の方を睨みつけています。
これは触らぬ神に祟りなしですね。
「セレネ、とりあえず死なない程度に頑張ってくださいね」
「ク……クルスの卑怯者ぉぉ〜!!!」
冷たくあしらった僕にセレネは泣きながら僕から離れ、アレスの手から逃れるように部屋中を逃げまくっていますが、アレスは魚雷の如くぴったりセレネにくっつき追いかけています。
「待たんかぁ〜!!」
「『待て』って言われて待つバカいないわよ!!」
あーあ、セレネったら燃えさかる火に更に油を注いでどうするんですか。
「ぴぇ〜っ!!幼児虐待!!病人イジメ!!ゴキブリ!!生ゴミ!!」
「絶対どつき倒す!!」
逃げながら言いたい放題言いまくるセレネにアレスはついに武器を取り出して攻撃し始める始末。
その後、夜明け近くまで追っかけまくっていたことは言うまでもありません。 |