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セレネが完全回復をし、僕たちは改めて敵陣に潜りこみました。
相変わらず凄い所です。普通の人間であれば気味が悪すぎてまず近づきませんね。僕もあまり近づきたくないです。ですが、ここの敵さんを倒さねば、ここの人たちに安らぎは訪れません。
僕はここに張られた結界を崩すため、右手に亡き博士が作ってくれた魔力増幅器を取り付け、印を組み、呪文を唱えようとしました――そのときでした。
「あんだけやられたのにも関わらず、懲りない野郎だなぁ……っつ…ア…アレス……?!」
相変わらず自分の姿を見せず声だけの敵が、アレスに対して驚愕の声をあげました。
「アレスのお知り合いですか?」
「さあ…こんなに図太い声の知り合いなんていたっけか?」
僕の質問にアレスは首を傾げました。
僕に質問を返されても困るんですが……
「分からないなら直接本人に会ってみれば思い出すんじゃないんですか?」
「それもそうだな」
「というわけで、結界を崩させていただきます!!」
僕が強気で言うと、敵さんはというと不適な声で答えました。
「俺が造った結界は誰にも壊せないよ」
「そんなこと百も承知です。ですが、やってみなければ分かりませんよ。よく“物は試し”とも言いますし。」
僕はそう言いつつ、印を再び組み呪文を唱え始めました。
「歪曲結界術(わんきょくけっかいじゅつ)・緩(ゆるみ)」
ぶぅぅ……んっ
「な゛っ?!」
術を唱え、僕の目の前の空間が歪み、直径一メートルほどの穴がぽっかり空き、その光景にまたまた驚愕の声をあげる敵さん。
「アレス、セレネ!!早くこの中に!!」
僕が叫ぶと、二人は素早く穴の中に飛び込み、一足遅く僕もその穴に飛び込みました。
「お…おのれぇ〜!!」
悔しがる敵さんに僕は思わず
「僕に破れない補助魔法なんてこの世に存在しませんよ。
あとでじっくりこの結界も壊して差し上げますから楽しみにしてくださいね。」
と皮肉っぽく笑顔で言うと、敵さんは更に悔しそうな声を上げました。
「クルス、行くぞ!!」
アレスが目の前の壁を魔法弾で突破口を開き、僕たちは次々に城の中へと入っていきました。
さすがに中もゴージャスな造りになっていますが、入るなりゾンビさんたちが出迎えてくださいました。
やはり予想通りでましたね。
では作戦どおりにこのゾンビさんたちをさくさくと片付けちゃいましょう。
「アレス!!」
「わかっているよ!!」
僕の声に応え、アレスは懐から手の平にすっぽり収まるくらいの美しい装飾がされたピストルを取り出し、ゾンビさんたちに向かって発砲しました。
アレスが使っている銃弾はセレネが意識不明中の間に僕が作っておいた特製の聖魔法を閉じ込めた銃弾です。再生能力が多少あるゾンビたちはこれに当たるとあっという間に砂に帰るという仕組みになっているんです。
そのおかげでゾンビたちは呻き声を上げて次々に砂となって消えてゆきました。
どうやら効果は絶大のようですね!!
アレスがピストルで道を開き、僕たちは奥にあった応接間みたいな部屋に入りました。
その部屋は人骨などで装飾されているにも関わらず、豪華な造りになっています。
その部屋の奥に一人の男性が僕たちのほうを睨みつけていました。
ほっそりとした体形にまるで女とも言えんばかり人です。服は貴族と言うより騎士の普段服と言った方が正しいですね。その服の上に吸血鬼の象徴である黒いマントを羽織っていました。
その男は睨みつけたまま口を開きました。
「久しぶりだな、アレス。まさか、君も吸血鬼狩りの一人とはね……」
「ルカ?!」
その男を見て、アレスが驚きました。
「おまえ、どうしてこんな格好をしているんだ?!」
「それはだな、おまえと対等になり、おまえを振り向かせるためよ!!」
「はぁ?!」
敵・ルカさんの言葉にアレスはマヌケな声をあげました。
「何バカなことを言っているんだ!!」
「バカではないわ!!俺は本気だ!!」
アレスの言葉にルカさんはちょっと切れかけながら叫びました
「アレス、別に男だったら対等になるくらいいいんじゃないの?
世の中目標が高いと生きる気力も出るって言うじゃない。
まぁ、今回の場合は能力的に無理だけどさ……」
「ありゃぁ…男じゃなくて女だ!!」
『はい??』
アレスの言葉に僕とセレネは固まりました。
あれが…女……ですか……?
どっからみても男じゃないですか!!
「う…うそでしょ……?」
「こんな緊迫した中で冗談を言うバカなんぞいないだろう!!」
「ゴメン、アレス。一瞬だけあんたたちゲイだと思っちゃった」
セレネの言葉にアレスは―――
ずごんっ!!
とセレネの能天に鉄拳を食らわすのでした。
やっぱりそういうふうに言われたくなかったんですね……。実のところ僕もアレスがゲイだと思ってしまいました。
「ちなみにあの人とどーゆー関係なんですか?」
「……………昔の恋人」
『へ?!』
声を押し殺すように言うアレスにセレネと僕は驚き、思わずしばらく二人を見比べ――――
『やーっぱ全然似てないよ!!』
「やかましいわ!!」
僕たちの言葉にさすがのアレスも切れ、叫び、僕たちはその場でコケました。
「あいつとは正真正銘恋人同士だったんだ。
おまえらが造られるまで、あいつは普通の人間のはずだった。」
「そう…おまえが別れ話を持ち出すまではね……」
「どういうことだ?」
ルカさんの言葉にアレスが眉をひそめました。
別れ話を持ち出すまでって……。
「俺は別れたあの日、悲しみのあまり途方に暮れ、ついにはなりたての吸血鬼の餌食となり、この体になってしまった。
でも後悔なんかしていない!!おまえと同じ永遠の体を手に入れたのだからな!!」
「それは間違っている!!俺は博士の願いが達成すれば消えるんだぞ!!」
「なに?!」
アレスの言葉にルカさんは驚愕の声をあげました。そして、目から一筋の涙がこぼれ落ちました。
この人……本当にアレスのこと愛していたんですね。
「………そうか……ならば……俺が……伯爵の呪縛から解き放ってあげる。そして、永遠に俺の物になるが良い!!」
げげげっ!!ひ…開き直ってます……!!
っていうか、すでに目の色が変わってますし、手の平にかざされたあの紫色の魔法弾は相手を一時的に仮死状態にする奴ではないですか!!
アレに当たったらしばらく動けなくなって絶体絶命のピンチになっちゃいますぅ!!
僕は慌ててアレスに言いました。
「アレス、今すぐここから逃げてください!!」
「何?!敵に背を向けるのかよ!!」
「そんなこと言っているヒマなんてありませんよ!!
あれは狙った獲物を当たるまで追いかけるんですよ!!」
「何?!」
「アレス、危ない!!」
ばしゅんっ!!
「あぐっ!!」
アレスを庇うようにセレネがルカさんの魔法弾に直撃し、倒れました。
「セレネ!!」
倒れたセレネの体を抱き上げ、呼びかけをするアレス。
しかし、セレネはぐったりとしたまま応答がありません。
「大丈夫です、セレネは一時的に仮死状態になっただけですから」
「だけど!!」
「アレス、今のでわかったでしょう。ルカさんは完全にアレスを自分のものにしようと周りのことを視野に入らなくなっているようです。もうこうなった以上逃げることは不可能です。
僕たちは彼女と戦わなくてはなりません。
彼女を吸血鬼という戒めから解き放ってあげましょう。
それがアレスにとって、いいえ、元恋人としての役割じゃないんですか?」
「………………そうだな」
僕の言葉に苦笑して答えると、アレスは倒れたセレネを壁際に移し、ルカさんのほうを睨みつけた。
「クルス!!行くぞ!!俺達だけであいつを倒すんだ!!」
「はいっ!!」
こうしてルカさんVS僕らの戦いの火蓋が切って下ろされました。 |