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ACT10-クルスE |
| アレスと合流してから僕達は隠し通路の奥へ、奥へと進んでいきました。しかし、通路の出口へは一向に見えません。まさか、デマの隠し通路だったのでしょうか?しかし、そうなると地下への通路へ行く手段が絶たれてしまいます。となると、ヨシュアさんは一体どうやって地下室へ移動したのでしょうか?テレポートを使える術なんて存在しましたっけ?もしあったとしても、それは僕達しか使えないはずですし……。 まあ、そんなことは追々考えることにして、この通路の先まで進んでいこうじゃありませんか。 僕達はしばらくその通路を走っていると、ついにその出口の明かりが見えてきました。それを見て、アサガさんが第一声に喜びの声をあげました。 「やった。ついに明かりだよ!!」 「ですが、あの明かりこそがヨシュアさんの縄張りに入る覚悟を決めなければならないですよ」 僕は足を止め、アサガさんに対して静かに言いました。そして、アレスやセレネもまた黙り込みました。 そうです。ここを突っ切ればここのボスであるヨシュアさんとの対決です。向こうはどういう手段を出してくるか検討がつきません。ですが、彼は魔法を体内に吸い込むことができる体質を持っているようです。 「………アサガとかいったな」 とアレスが真剣な表情でぼそりと言いました。そして、アサガさん達にこう通達したのです。 「今からこの屋敷から脱出しろ。そして、外に避難している者達をできるだけ遠くに避難させるんだ」 「だけど、もし化け物がいたら……」 「大丈夫だ。俺たちがさっき入った際には化け物の気配なんぞしなかった。だから、おまえ達も早く避難しろ」 とアレスは渋るアサガさん達に言いました。アサガさん達はお互いの顔を見て、やむを得ずアレスの指示に従い、ティクノと一緒に外へ避難することにしました。そして、その通路には僕達三人が残されたのでした。 「さてと…行くか」 と歩きだすアレスに僕が言おうと思っていたことをセレネが言いました。 「ねえ。今日のアレス、ちょっと変だよ。いつもなら最後まで傍に置いておくか、ある程度安全な場所まで連れて行く筈なのに今日は同伴にあの頼りないティクノで避難させるなんて…。一体どーゆーつもりなのさ?」 「どーゆーつもりもない。ただ、ここは地下だ。地下にいれば、俺達の攻撃をまともに食らうこともあるだろう。それを未然に防ぐためにそう言ったのさ」 「ふぅん…」 と言い放つアレスにセレネは納得できていないような返事をしたのでした。そして、そんな状況の中、僕達は明かりがある方へ進んで行きました。行った先には脈打つチューブ、人間らしき人が入ったいくつもの水槽、試験官などが無造作に置かれ、中央には最初に会ったときの笑顔が消え、怒りに満ちたヨシュアさんが僕達を出迎えたのでした。 「……ヨシュア…さん……」 「よくも…よくも僕のおもちゃを逃がしたな。今まで野放しにしてたけど、もう許さないんだから……!!」 「おもちゃか。元々おまえもあいつらと同じ人間じゃないか」 「あいつらと一緒にするなぁぁぁぁぁっ!!」 とアレスの言葉に怒りを露にするヨシュアさん。近くにあった試験官を振り落とし、音を立てて砕け散り、地面に散らばりました。 「僕は選ばれた者なんだ!!あんな無能力者をどう使おうが僕の勝手だろ!!」 「何を言うかと思えば、そんなことか。おまえだって博士から実験の話が舞い込んでくるまで、あいつらと同じ無能力者の仲間じゃないか」 「そーそー。そして実験に失敗して吸血鬼になったくせに何偉そうなことを言ってるのよ。この、失敗作」 と次々に言うアレスとセレネにヨシュアさんはただ怒るのでした。 「失敗作じゃない!!実験は成功したんだ!!僕は超能力を手に入れ、今まで散々僕のことを馬鹿にしてきたあいつらに復讐することができたんだ!!」 「復讐……」 彼が博士の実験に参加したのは、彼の醜い姿を馬鹿にした人々に復讐をする為だったのですね。そして、失敗したことを認めず、博士の元から逃げ出し、この地で生贄とおもちゃと称して数々の実験を行い、それを無能力の人々に散布し、苦しませる。彼はそこまでして何を得ようとしたのでしょうか?絶対的の王の力?それとも……。 「もう怒ったぞ!!僕のおもちゃで一発お見舞いしてやるぅ!!」 ヨシュアさんはそう言うと、何かのスイッチを押しました。すると、近くにあった円形の水槽から液体が流れ出し、そこから元人間がモンスターという形になって僕達に襲い掛かってきたのでした。 「ぐるおぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 「ちぃっ!!」 アレスは舌打ちをすると、腰に携えていた剣を引き抜き、襲ってくるモンスターを真っ二つに切りました。しかし、モンスターはその一撃で倒れなかったのです。切れた側面からコードみたいなのが飛び出てお互いを繋ぎ合わせたのです。 「き…気持ち悪いぃぃぃぃ〜〜〜っ!!」 その光景を見て、一番に気持ち悪がったのは言うまでもなくセレネでした。鳥肌まで立たせてじたばた逃げ回ります。しかし、そこはセレネ。逃げ回りつつもちゃんと他のモンスターに攻撃をしていたりします。 ……セレネ凄いです。 「はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 セレネは逃げつつ、剣をヨシュアさんに向かって振り下ろします。しかし、剣はヨシュアさんのお腹のぜい肉で食い込んでしまい、ストップしてしまいました。 「ありゃ……」 「じゃあ、今度はこっちの番だね♪ファイアー♪」 ヨシュアさんはそう言うと、セレネに向かって口から炎を吐き出しました。 「ちょ…室内で口から炎を出すなんて反則よぉぉぉぉぉっ!!」 ちょっと真っ黒焦げになりながらセレネはそう叫びましたが、ヨシュアさんの耳には届かず。ヨシュアさんは次々にスイッチを押して、水槽に入っているモンスターを外に放ちます。僕もまたそのモンスターに苦戦を強いられるのでした。 ……元人間なのに、とても強いです。ヨシュアさんはこれらにどういった物を施したのでしょうか。 「るおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 そのとき、一体のモンスターが僕に襲ってきました。僕は避けつつ、モンスターの頭に手をかざしました。 「眠り滅べ(プシュペ)」 ばしゅんっ!! 呪文を唱えると、モンスターは千切れるかのように切れ、消えていきました。そして、もう一体が再び僕に襲い掛かりましたが、そのモンスターもまたあっさり避けると、攻撃場所を失ったモンスターはとある装置に攻撃をしたのでした。そして、そこから爆発が起き、火の粉が辺りに飛び散ります。それを見たヨシュアさんは絶望の声をあげました。 「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!僕の傑作の装置がぁぁぁぁぁぁぁっ!!おのれぇぇぇぇぇぇっ!!」 そう言うヨシュアさんに僕は手をかざし、力のある言葉を言いました。 「呪われた儀式により人道から外れた愚か者よ 汝 我が裁きを与えし者の名により 汝のあるべき姿を捨て 汝が帰るべき地へ帰りたまえ」 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 と悲鳴をあげるヨシュアさん。しかし、ヨシュアさんは砂にならないのでした。 砂になりません!!この術は吸血鬼をこの地に返す作用があるのに!! 「僕は死なない!!無能力者を滅ぼすまでは……!!」 これは……一体……。 そう思ったそのときでした。地響きと共に、僕達がいる地下の壁にひびが入り始めました。それを見たアレスは僕の手を引き、言いました。 「クルス!!ここはもうもたない!!とっととずらかるぞ!!」 「でも、まだヨシュアさんを仕留めきれていませんよ!!」 「そんなことしなくていい。どうせ、あいつはもうもたないんだから!!それに奴の姿をよく見てみろ!!」 「え?!」 僕はアレスに手を引かれながらヨシュアさんのほうに視線をやってみると、そこには思いもよらない光景になっていたのでした。ふくよかだったヨシュアさんの体は腐敗し、ぼとぼとと肉が落ちて行くのです。そして、顔の肉もすっかり剥げ落ち、そこには髑髏が浮かび上がっていたのです。 「僕は死なない……。僕は永遠の支配者なんだ……!!」 髑髏になりつつ彼はそう言いながら、瓦礫の中に消えていったのでした。 僕達は外に避難し、崩れていく屋敷を静かに見守っていました。先に避難していた皆さんも全員無事だそうです。 「………終わったね」 セレネが崩れていく屋敷を見ながら静かに言いました。 「ああ。終わった。ここにもやっと平和が訪れたな」 「いんや。まだ訪れてやしないよ!!」 『?!』 聞きなれた言葉に僕達は目が点になりました。 こ…この声は………。 「アサガさん?!」 そう。この声の主こそアレスが避難を促し、従ったアサガさんでした。アサガさんの後ろには申し訳なさそうにティクノがこちらの様子を伺っていました。 どーやら、ティクノはアサガさんの押しに負けてしまったようですね。 「クルス!!セレネ!!約束をちゃんと守ってもらうよ!!あたいにそのかっこいい男性の妻にするよう言いなよ!!」 「はぁ?!」 とアサガさんの言葉に当然の如くアレスは驚きました。そして、僕達に向かって問い詰めたのです。 「……おい。一体全体どうなってるんだよ?俺がアサガの夫になれ?おまえら、一体どうやって説明したんだ?」 「いえ…。僕達はアレスじゃなくて別の人をご紹介するつもりだったんです……。アサガさんはそれをアレスだと勘違いして……」 「勘違いぃぃ?!あのな、俺にはれっきとしたシルヴィという恋人がいることはおまえも百も承知だろーが」 「だから、言葉の理解の食い違いですよ〜」 と僕は必死にアレスを宥めましたが、アレスはカンカンに怒るのでした。 まあ、分からないでもないですが……。 そう思ったそのとき、頭上に人の気配がしました。僕達は頭上を見てみると、そこには崖があり、その上にシルヴィさんと30代前半の貴族の男で、僕達とは縁があるフロイト 小父 さんとじぃやが立っていました。 「そこの平民。アレスは私の夫ですよ。汚い手で触らないで!!」 とアサガさんに対して喧嘩を売るシルヴィさん。それに黙っていられないのがアサガさんです。シルヴィさんに対して思い切り噛み付いていきました。 「何だって?!こいつの妻になるのはクルス達が承知しているんだよ!部外者は黙ってな!!」 「そうなのですか?クルス?」 とこっちに振るシルヴィさん。僕とセレネは少々困り果てながら答えました。 「……いえ。あたし達はアレスを紹介するのではなく、フロイト小父さんに紹介しようかと思っていたの」 「でも、どーゆーわけか、向こうはアレスが夫だと勘違いしてしまって……」 「そう。だったらあなたの方が部外者ではありませんか!!」 と勝ち誇るシルヴィさんでした。そこにフロイト小父さんが崖から滑り降りてきて、アサガさんの手を取り、甲の部分に軽くキスをしたのでした。 「私がクルス達からの紹介にありました、フロイトと申します。マドマゼル」 と言うフロイト小父さんにアサガさんはみるみるうちに頬を赤くしていきました。 「話はクルス達から伺っています。是非、私の妻になってください。私はあなたのような勝気な女性が大好きなんです」 とフロイト小父さんは会って間もないアサガさんに他人がいる前で堂々とプロポーズしたのでした。その場にいた僕達は恥ずかしくて他人のフリをしてたのですが、フロイト小父さんは僕達の努力を知ってか知らないでか、僕達の目の前でアサガさんにキスしたのでした。 それを見てうっとりしたのは言うまでもなく、セレネとシルヴィさんの女性陣でした。 「いいなぁ〜。あたしもあんな風にプロポーズされてみたいなぁ……」 「私もアレスにああいう風に言われてみたいですわ」 と二人はそう言いつつ、僕とアレスのほうを見たのでした。それをやられた僕達は必死に目線を合わせないように視線を泳がせました。 「あ〜っ!!二人とも乙女の願いを聞き入れないって言うの?!」 「酷いですわ、アレス!!」 とラブラブのフロイト小父さんとアサガさんを尻目に僕達の行動に怒る二人でありました。 「だったら、私にも考えがありますわ!!私もこの旅に付いて行きます!!」 『でえぇぇ?!』 と突然の爆弾発言にセレネも含め、僕達は叫びました。 「おまえな、俺達がする旅は遊びじゃないんだぞ!!俺達は博士の失敗作の始末をしなきゃならないんだぞ!!危険すぎる!!」 「そんなこと百も承知ですわ。もうここで一人で待つのはイヤですもの。私も旅に付いて行きます!!」 とアレスの言い分に一歩も譲らないシルヴィさんでした。それに対してアレスはすっかり困り果てていました。更にそこにじぃやもまたとんでもないことを言い出したのです。 「では、じぃやもシルヴィ様と共に付いて行きますぞ。執事がいなくては生活が成り立たないでしょう」 「じぃやまでそんなわがままを言うな!!」 「いいではありませんか。旅は道連れ、世は情け。これが運命というものですよ」 「全然意味が違うから……」 とツッコむアレスでしたが、じぃやには効果がないようです。 結局二人は僕達の言葉を無視してついて来ることになったのでした。 これからの旅一体どうなることやら……。不安でいっぱいです……。 |