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ACT6 クルス−@ |
| 『ええええええっ?!』 捕まってからしばらく日が経ち、個々の生活にも慣れはじめたある日の朝のことでした。僕とセレネはアサガさんと他に捕まった女性たちと一緒に朝食を取っていたときに、捕まっている女性一人からとんでもな話を聞かされて驚いて悲鳴に近い声をあげてしまいました。 「声がでかいよ!!」 アサガさんがじろっと睨みつけ、僕達は小さくなりました。 半場無理矢理といって良いほどアサガさんを仲間として引き入れに成功した僕達に副産物としてたまたまリーダー的存在だったアサガさんがここに捕まっている人たちに僕達の事情を話し(女装していることも)、捕まっている人たち全員の仲間入れに成功しました。 思いもよらない副産物です!! ヨシュアさんは吸血鬼の習性で朝は起きることができず、夜まで寝ています。そして、夜になると活動をし始めるんですが、深夜になると皆さんは寝始めてしまい、僕とセレネがヨシュアさんの話し相手を務めています。 おかげでちょっと寝不足気味ですが、こうやって公で皆さんたちと情報交換することができますし、昼は男の格好をしていても平気です。 まぁ…夜になったら嫌々でも女装せねばなりませんけど……。 「あのぉ〜…本当なんですか、それ?」 小声で僕はこの話をしてくれた赤髪二つに三つ網をして顔にはそばかすのあるカナンさんに尋ねた。 「本当よぉ。二週間に一度、ここに捕まっているうち数人が忽然と姿を消すの。それも煙に巻かれたようにね。 でもつい二週間前の時に消えた人たちは悲鳴をあげてたわ」 悲鳴をですか……。 これはヨシュアさんと何か関係があるのでしょうか。 「あたいはそんな悲鳴知らないねぇ〜」 「そりゃあんたー爆睡してたじゃないのさー」 アサガさんの言葉に他の女性がツッコミを入れると、皆さんはどっと笑い出し、僕も皆さんと同様に笑ってしまいました。 こんな辛い状況下にいるのに皆さん明るいですね。 「ともかく今日はその二週間目にあたるんだ。気を引き締めて夜を迎えないとならないね」 「そうですね」 色々な情報を手に入れてからヨシュアさんの本性が明らかになってきました。 アレスからの情報だと僕らが囚われた日に街全体にゾンビが現れたと言っていました。そのときヨシュアさんは『僕のおもちゃ』と言っていたそうです。『僕のおもちゃ』ということはヨシュアさんが地下室でゾンビを制作していることになるのでしょうか。 今回は慎重さが重要視されますね。 失敗して攻撃を食らった場合、僕とセレネは再生能力が備わっているからなんとかなりますが、他の皆様はそれは備わっていないので、この人たちに矛先を向けられたら守りきることができるでしょうか。 いいえ。守りきれなければなりません。それが皆様とお約束したことですから。 「………ヤ……ボーヤ!!」 「あ、はいっ!!」 アサガさんに体を揺すられ僕は慌てて我に帰りました。 「ど…どうしたんですか?」 「どーしたも、こーしたも。ボーヤが急に黙り込んじゃったから心配したんじゃないのさ」 「すいません。ちょっと考え事をしてて……」 「まーた考え事かい? セレネはあんたと違って何も考えやしやいのに、ボーヤは何かというとすぐに考え込んじまうんだから。そんなことしてたら近いうちに体がまいっちまうよ」 「ちょっと、あたしだってちゃんと考えてるわよ!!」 アサガさんの言葉に反論するセレネ。 しかし、アサガさんも負けじと言い返します。 「どこがだい?今までの作戦会議だっていつも寝てたじゃないのさ」 「う…っ」 「そーいえば、そうよねー。セレネは何かとぐーぐー寝てたし」 「う…うっるさいなぁ!!」 「ほーら反論できないとすぐ怒るー」 と皆から遊ばれるセレネでした。 「でも冗談抜きであんたは少し羽を伸ばす機会があったほうが良いよ」 と真剣な表情で言うアサガさん。 そんなに僕は考え事が多いのでしょうか。 「あ、そういえばさっきのカナンさんが言った悲鳴ってどこから聞こえてきたんですか?」 「詳しくは分からないけど、私は真下から聞こえてきたわよぉ」 「真下と言うと………」 「そ。あんたたちが睨んでいる書斎からだよ」 書斎ですか。なら話の筋が通りますね。ヨシュアさんはさらった人を使ってゾンビを作り、町の人々にばらまいて人々の恐怖を見て楽しむ。ということはアレスたちを襲ったというゾンビはここから出ていると言うことになりますね。 「じゃあこれから僕とセレネは各部屋に罠を仕掛けますから、皆さん自分の部屋でいつでも部屋の外に逃げられるようにシーツなどでロープを作ってください。 もし夜中に何者かが襲ってきた場合速やかに外に逃げ、外から僕達に知らせるかもしくは僕達がいる部屋直接に来てください」 『あいよ!!』 と皆さん威勢の良い掛け声と共に自分たちの部屋に戻っていきました。そして僕達も遅れてリビングから出て行きました。 今夜、あのヨシュアさんがとうとう動き出します。これが最初で最後のチャンスかもしれません。 焦りは禁物。 しかし、今の僕は焦っています。今まで獲物がすぐ目の前にいたのに狩ることができず、ずっと我慢してきました。そのせいで焦りが出やすくなったのかもしれません。 僕はぎゅっと服を強く掴みながら部屋に向かいました。 焦ってはダメです。 そう自分に言い聞かせながら……。 |