ACT7 セレネ−A

 

 日が沈み、ついにヨシュアが活動しだす夜が来た。
 全員自分たちの部屋で日が昇っているうちに作っておいたロープと罠を構えて待機していた。あたしもクルスも女の格好ではなく、動きやすいよう男の格好をして部屋の中で息を殺して奴が来るのを待っていた。
 今回はアレスがいないし、クルスは罠とここに張った結界の制御で精一杯。あたしがなんとかしなくっちゃ!!
 あたしは自分に言い聞かせた。
 ちょうどその時だった!!
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!」
『?!』
 この悲鳴は?!
 あたしは思わずドアを開くと、そこから恐怖に怯えてパジャマ姿のアサガとアサガと同室のイーリア、デリア、マーシャルが飛び込んできた。
「どうしたの?!」
「あ…あああああたいたちの部屋に化物が来たんだよ!!それも物凄く大きいだ!!助けておくれよ!!」
 クルスの服にしがみつき、あたしとクルスに泣きながら必死に助けを求めるアサガ。あたしは有無を言わずに部屋から飛び出し、アサガ達の部屋に向かった。
 ヨシュアが動き出す前に化物が動き出すなんて早すぎる!!
 クルスの予想が大きく外れた!!また再編成しなおさなきゃならないわね!!
 あたしはそう思いつつ、アサガ達の部屋につくと、目の前の光景に絶句した。クルスとあたしが仕掛けた罠には腕のところに人間の顔があったり、足があったりととにかく色んな人たちがめちゃくちゃに引っ付きあった動く肉塊の人形だった。
 ひょっとしてこの中に取り込まれている人たちって今まで姿を消してしまった人達?!なんて酷いことを!!
「………こ…殺して………」
 へ?!人形が喋った?!いや違う!!人形に囚われた人たちが喋ったんだ。
「…お願い。私たちを殺して」
「死なせて」
「苦しみから解放して」
 囚われた人達は涙を流しながらあたしに懇願した。
「どうしてあなたたちはそうなってしまったの?」
 あたしは半分ダメ元で人形に囚われた人たちに尋ねた。
 しかし殆どが悲鳴をあげ、死を望み叫ぶ者ばかりで人の話を聞こうとしない。そんな中で一人だけあたしの質問に答えてくれた。
「吸血鬼に地下室へ連れて行かれ、生きたまま生体実験にされ、散々私を実験した挙句、このような人形の一部にされてしまったのです」
 うげっ!!生体実験?!
 あたしは話を聞いてちょっと想像してみたが、あまりにも気持ち悪すぎて吐き気がしてきた。
 う―――…気持ち悪い……。
「じゃあ、なんで吸血鬼はあんたたちを連れ去ったの?」
「この国を自分だけの遊び場にするために飽きない道具を作りだすのため」
 な…なんですってぇぇぇぇぇ?!この国を自分の遊び場にするぅ〜?!
 冗っ談じゃないわよ!!なんでたかが吸血鬼の分際であるあいつの遊び道具に国民がなんなきゃいけないのよ!!
 絶対あたしが国王様のためその行為を止めてみせる!!
 とは言うものの、あいつには魔法を吸い込まれちゃったしなぁ〜。
 まぁそれは後でクルスと話し合えば済むことだし、とりあえずこの人たちを解放してあげよう。
「ありがとう。
 あなたの好意に感謝してあなた達を戒めから解放してあげる」
『おおおおおお……』
 あたしの言葉に感嘆の声をあげる人たち。
 その時だった!!
 ざんっ!!
「?!」
 突然人形の腕があたしに振り下ろしてきた。あたしはとっさに横に飛んで難を逃れた。
 体は死を望むが、意識はあくまでも人間を攻撃するつもりか!!
 だったらこっちも攻撃するのみ!!
 あたしはにっと不適な笑みをこぼし、肉弾戦の構えをした。
 剣が無いのが心細いけど、肉弾戦と魔術戦を駆使すれば一撃で終わるわ!!
「はあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 先制攻撃したのは人形ではなく、あたしだった。
 人形はあたしの動きを止めようと、両手であたしの体を捕らえようとするが、あたしの方の動きが早く、あたしはたんっと軽快よく地を蹴って宙を飛び、まず人形の頭に一撃食らわせ、さらに人形の頭を掴んで再度中に舞う。そして、奴の頭にフィニッシュとして踵落しをし、一回転をして床に着地して構えた。
 効いたか?!
 あたしは人形の頭を見たが、奴にはゲガ一つもしていなかった。
 こいつ…なんて固い奴なのよ!!
 どうする?!ヨシュアと戦うため、できるだけ体力消耗は最小限で抑えたいが、物理攻撃が効かないということは肉弾戦は一切無理!!となれば魔法しかないか。
 あたしは肉弾戦の構えをやめ、術を唱える構えに変更した。
「があっ!!」
「?!」
 突然人形が襲い掛かり、身構える暇が無かったあたしは人形の攻撃をまともに食らい、大きく吹っ飛び、壁に叩きつけられた。
「ぐ……っ」
 あたしは呻き声をあげ、そのまま地面に倒れこんだ。
 立たなきゃやられる!!
 あたしはとっさにそう判断し、よろよろとしながら立ち上がった。
 ちっ!!今の攻撃であばらが一本折れたわね。
 あたしは舌打ちをしながら次にどう出るか考えようとしたが、先に奴の攻撃に避けられなかった自分の屈辱が拭いきれず、怒りが込みあがってきた。
 くっそー!!ムカツク!!あんな奴の攻撃をまともに食らうなんて!!くやしい〜!!
 ヨシュアがいなければ、本気を出して余裕しゃくしゃくで一発で倒せるのにぃ〜!!
 だけど、前からクルスに本気は出すなって言われて魔力をある程度耳につけているピアスに封じられてるからなぁ〜。これにはどうしても逆らえない。逆らえば、電流が流れてくるようにされてくるからさすがのあたしもぞっとくる。
 これじゃ〜どうやって戦えばいいのよぉ〜!!
 おっ?!あれは…?!
 頭を抱えて悩んでいたあたしは人形の後ろにあるベッドの横に立て掛けてある剣に気がついた。
 ラッキー!!やっぱ正義には必ず幸運がついているのね!!
 あたしは素早く動き、ベッドの横に立て掛けてあった剣を手に取り、鞘から剣を引き抜いた。
 これだけじゃ肉弾戦と同じであいつには傷一つつけられない。だけど、この剣に魔力を上乗せすればこいつを倒せる。
 あたしはそう確信し、呪文を唱え始めた。
 あーあ、これを使うんだったら、来る前にクルスから隠し武器を借りてくればよかったなぁ。あの武器には最初から魔力が込められているからいちいちこんなことしなくて済むのにな。
 あたしは呪文を唱えながらそう思った。
魔力の剣よ(スピールソード)!!
 空中にあたしの魔力が風に乗って渦巻く。そして魔力は電流を帯びながら剣に吸い込まれ、銀の刃が、真っ黒い刃に変化した。
 心を無にして叩き切る!!
 ひゅおっ!!
 空を蹴り、あたしは人形を真っ二つに切り、床に肉片が飛び散り、人形は崩れ倒れた。
 ふっ。こーゆーのには決めゼリフがあるのが普通よね。
 あたしはそう確信し、切りつけた格好のまま、決めゼリフを考えた。
 うーん。我が手によって悪は滅びた…じゃあ悪人っぽいし、あたしに勝とうなんざ100億年早い!!…じゃあありきたりだからなぁ…。
 おっ!!ジパングみたく俳句にしてみようかな!!えーっと確か俳句って五、七、五よね。
 あたしが俳句を考え始めていると、肉片の一部が、あたしに襲いかかってきた。あたしは剣でなんとか奴の攻撃を防いだ。
「くぅーっ!!人が決めゼリフを考えているっていうときにぃ!!もうちょい融通の効く人形を作りなさいよ!!
 もういいっ!! 全部あたしが やっつける!!」
 あたしはそう叫びながら次々に襲い掛かってくる肉片を叩き切っていった。
 んも――っ!!これじゃあキリがないっ!!こーゆーモンには必ずどこかに操作できる核(コア)があるはず!!
 あたしは切りつけながら肉片をくまなく探したがない。
 どこ?!どこにあるの?!
 あたしは次第に焦り始めていた。
 焦り始めると思考が鈍る。あたしの思いとは裏腹に焦りは止まる事はなく、波のように襲いかかってくる。
 マズイ!!
 そう思っていたその時、
「…………ここ…………」
 さっきあたしの質問に答えてくれた声が聞こえたと思ったら、目と鼻の先にあった肉片がぽぅっと明々と輝きだした。
 もしかしてあれが核(コア)?!
 あたしは慌ててその肉片に近づき、その肉片に剣を突き立てると、さっきまであたしに襲いかかってきた肉片はぼとぼととその場に落ち、それからぴくりとも動くことはなかった。
 ……………終わった。
 あたしは剣を突き立てたまま脱力した。
 こんなに苦戦するなんて……ヨシュアと戦ったときどうするのよ………。
 今回はあの声で助かったけど、これじゃあマズ過ぎる。
 もっと…もっともっと強くならなきゃ……。
 アレスたちの足を引っ張らないように、アレスたちに少しでも楽になれるように……。
 あたしは決意を新たにしたのだった。