ACT8:クルス−C

 

 ……変です。セレネがとてつもなく変です。
 アサガさんの部屋にいた化け物を退治してからずっと無口で無表情なんです〜!!これほどまで静かなセレネは見たことありません!!しかも、彼女のおかげで微妙に空気が重いです。
 僕たちは自分たちの部屋から離れ、一番怪しいと目をつけていた書斎に行き、皆さんと一緒に書斎内にある隠し部屋を探すことにしましたが、なかなか見つかりません。確かにここに隠し部屋に行くための通路があるはずなんですけど……。
 そう思った矢先、セレネが重々しく口を開きました。
「……吸血鬼ってさ、どうして一般民を巻き込むんだろうね」
 その言葉に僕たちは動かす手を止め、いっせいにセレネを見ました。そしてその言葉にアサガさんが答えました。
「吸血鬼は他人の血を吸わなくちゃ生きてはいけないんだろ。だから罪もないあたいらを捕まえるのさ」
「でもさ、それって単なる我儘だと思うんだ」
「そりゃ、確かに自分勝手な行動だと思うさ。それよりいい加減にその暗くなるのをやめたらどうだい。あたいらまで暗くなっちまうじゃないか」
「う〜…」
「暗くなってる暇があったらさっさと隠し部屋に繋がる通路を見つけ、これ以上被害者を増やさないっていうのがあたいらにできる最善の行為だと思うよ」
 そうですね。アサガさんの言う通りです!!
 そう思っていると、セレネは立ち上がり、
「そうだね。あたし達が食い止めればこれ以上被害者は出ないんだよね!!よぉ〜っしがんばるぞ〜!!」
 と張り切り、元のセレネに戻るのでした。そのときアサガが近づき、思いっきりセレネの背中を叩くと、その拍子にセレネは吹っ飛び本棚に叩きつけられそうになりましたが、その本棚は回転し、その中にセレネは吸い込まれていったのでした。
「えええっ?!セレネぇ〜!!」
 僕達が慌てて追いかけると、その本棚は回転して中に入ることができました。中はとても静かで視野が暗くて何も見れない状態でした。
「あたたたた……。本に仕掛けていたのではなく、本棚自体に仕掛けてたんですね」
「それにしても随分真っ暗じゃないか」
 と真っ暗の中不機嫌そうな口調で言うアサガさん。
 僕は呪文を唱えると、手のひらにこぶしサイズの明かりが灯されました。灯されると、通路の状況がはっきりと映し出されました。その通路は幅5メートルぐらいあり、レンガ造りでその先は血まみれになっていました。
「不気味なところだね〜」
 そうしみじみと感想を述べるセレネ。そして、僕たちはお互い手をつなぎ奥に進んでいきました。その矢先、隣りにいたはずのアサガが消え、どこに行ったのやらと思っていたら、あろうことか僕の体にぴったりとくっついていたのでした。
「あ……アサガさん〜〜〜っ?!」
「気にするんじゃないよ!!あたいはこーゆーのが苦手なんだよ〜〜!!」
「だったら来なければよかったじゃないですか〜!!」
 と思わず僕はツッコミを入れてしまうのでした。そのとき後ろのほうで何かが落ちる音がして、僕たちはいっせいに後ろに振り向くと、そこには緑色と赤色のスライム状のものが蠢いていました。
 あれはなんでしょうか。もしやヨシュアさんが新たに開発したおもちゃというのものでしょうか。
 そう思ったとき、そのスライムみたいなのがいっせいに噴き出て、人型になると、いきなり僕たちに向かって攻撃してきました。僕は僕にぴったりついているアサガさんと隣にいたマーシャルを連れて避けました。その一方セレネも他の二人を連れてどうにか避けきれたようです。
「な……ななななな…なんだいあれは!!早く倒しておくれよ!!」
「そう言うんでしたら、僕から離れてください!!動き辛くてどうにもできませんよ〜!!」
 と思わず叫んでしまうのでした。そしたらアサガさんはようやく僕から離れてくださいました。そのおかげでやっと思うように動けるようになりました。
「侵入者ハッケン……。コレヨリ侵入者ヲ攻撃スル」
 とスライムの一つ・緑色のがそう言うと、双方は手を刃に変形しました。
 あくまで接近戦というわけですか。ならこちらは魔法攻撃でいくまでです。
「セレネ」
「わかってる。あれは接近戦タイプの奴みたいだね。あたしが接近攻撃タイプになるからクルスは魔法でサポートして」
「わかりました。ではミッション開始といきましょう!!」
 と試合開始になりました。セレネはどこから手に入れたのか剣を引き抜き、緑色の奴と剣を交えました。そこに僕が隠し武器を投げ、それにセレネは魔法を上乗せして攻撃すると、見事に腕を引きちぎることに成功しました。しかし、その束の間、そのちぎれた先から再び腕が再生しだしたのでした。
 う〜ん。やはりそう簡単にやられてくれませんか。
 そう思ったとたん、赤色のスライムが僕に攻撃を仕掛けてきました。僕は大きく後ろに飛び、魔法を仕掛けました。
雷よ(サンダー)!!」
 ばちばちばちばちっ!!
 と赤色のスライムに一本の雷を落とすと、そのスライムは蒸発してしまいました。
 もしや、このスライムの弱点は電撃系のようです。
「セレネ!!このスライムみたいなのは電撃系に弱いみたいです!!」
「ホント?!ならこっちも雷よ(サンダー)!!」
 と僕に真似するように雷を落とすと、緑色の奴も蒸発して消えていきました。
「今回は随分と楽に倒せたわね」
「そうですね。でも、なんかこの先が嫌な予感がします。いろいろな罠が待っているかもしれませんね」
 と先を見つめる僕とセレネでした。