ACT9:アレス−A

 

「ティクノ!!早く走れ!!」
 俺は走りながら後ろでのたのたと走るティクノに向かって叫んだ。何故、俺達がこんな風に走っているかと言うと、クルスからの連絡で応援をよこしてきたからである。そのため、俺はじぃやにシルヴィを預け、ティクノと共にクルスがいる吸血鬼屋敷を目指して走っているのだ。本来なら魔法を使えば簡単だが、どーゆーわけかこの辺り一帯魔法を封じる結界を張られてしまっていてなくなく走って屋敷に向かっているわけである。ティクノもまたそうである。魔鳥に戻ろうとした際、魔法が使えず魔鳥になれなくなってしまったのである。
「ちょっとぉ〜!!もう少し待ってよ〜!!」
 とふらふらと走りながらティクノは言った。それに対して俺は
「何言ってるんだ。早く行かないとおまえの大切なクルスが吸血鬼の餌食になっちまうぞ」
「そんなこと言われても〜…。僕の体力既に限界超えてるんだよ〜!!」
「そこを何とかして走れ!!もう少しで屋敷に着くぞ!!」
「ふぇ〜…?!」
 と脱力の声をあげるティクノ。俺はそれを無視して走っていくと、目の前に大きな屋敷が顔を出した。
 あれがクルスが言っていた屋敷か。ん?
 俺は屋敷の前にいる女性だらけの群集に気がついた。
 あれは今まで生贄として出された者達か?
「おい」
 と俺が声をかけると、その群集はいっせいに俺のほうに向くと、いきなり黄色い声をあげた。
「きゃ〜っ!!こんなかっこいい人が助けにきてくれるなんて〜!!クルスが言っていたことは本当だったんやね〜!!」
「本当やね〜!!こんな美形なにーちゃんが来てくれるなんて〜!!」
「ほんと、ほんと〜!!」
 はい?
 俺は彼女らの言葉に理解不能になった。
 クルスは一体なんて説明してこいつらを仲間にしたんだ?すごく謎だ。
「………クルス達はどこに行ったか知っているか?」
 俺は少々動揺しつつも、彼女らに尋ねると、彼女らは目をらんらんにして
『書斎!!』
 と大きな声で言ったのである。
 俺は一応軽く礼を言いつつ、やっと着いたティクノを引きずって屋敷の中に入っていったのである。その入り際に女性たちは声を揃えて
『頑張ってくださいね!!私の王子様!!』
 こけけっ
 俺は彼女らの言葉にその場でコケた。
 私の王子様ぁ〜?本当にクルスは何て説明したのか知りたいくらいだな。
 俺はそう思いつつ中へ入っていった。中は静まり返っていて、夜だけに暗かった。俺は呪文を唱え、ライトを灯すと、屋敷の内部にも光が灯され、内部がはっきりとなった。しかし、内部はすっかりぼろぼろで荒らされていたのである。俺は慌てて書斎を探し、そこへ行くと、書斎には誰もいなかった。ただ本が荒らされている状態が残っていた。
「あれぇ〜?!ここにクルスがいるって言ってたのに肝心のクルス達がいないじゃないのさ!!」
「そのようだな。どうやら俺達はすれ違いしちまったらしい。さて一体どこへいったのやら」
 と俺はため息をつきながら書斎に寄りかかった。その瞬間、その書斎がぐるんっと回転し、俺は抵抗することも無くその回転に巻き込まれた。
「あたたた……。一体どこだ?」
 俺は辺りを一体見渡したが、真っ暗で分からなかった。
 ひょっとしてここは隠し部屋に繋がる隠し通路か?
 そう思ったそのとき、向こう側にいるティクノが書斎を叩いた。
「アレス!!アレス!!」
「大丈夫だ。ここはどうやら隠し通路だ。ちょっと力を入れて入ってこいよ」
 俺がそう言うと、ティクノは言われた通り書斎を押して入ってきた。それと同時にその通路に光が入ってきた。
「もしかしたら、クルス達はこの奥に行ったんじゃないの?」
「かもしれんな。どちらにしろとりあえず俺達は奥に進もう。もしかしたら親玉に会えるかもしれん」
「会ったらどうするのさ?」
「無論戦うに決まってるだろ」
「え〜っ?!僕はヤダ〜!!」
「ヤダって言っても戦うしかないだろうが!!さっさと行くぞ!!」
 俺はそう言い切り、嫌がるティクノを連れて奥へと進んで行った。
 しかし、随分と時代がかかった通路だな。血まみれだし、コケも多少残っているし……。
「あ〜っ!!アレスだ〜!!」
 と聞き覚えのある声が通路に響く。その先にはクルスとセレネ、そして見知らぬ女性が数名いた。
「クルス、セレネどうしてここに?」
「それが、ひょんな拍子でここにセレネが入っちゃったらここに……。それでダメ元でこの中に突き進んだって分けなんです。最初からここには隠し部屋があったのは知っているんですけどね」
「なるほど。最初から知っているからこの中を進んでいるわけだ。だったら話が早いな。このまま奥に進み、ここの親玉を倒していこう」
「そうですね。そのほうが効率がいいですから。でもその前にアサガさん達を安全なところへ連れて行ったほうがいいと思いますが……」
「でも今更元きた道を返すのも危険じゃないの?」
「あ、そうでした」
 とセレネの言葉にクルスは思い出したように手を打つ。
 しょうがない。話がややこしくなる前にこいつらを連れてさっさと奥へ進んだほうがいいか。いざとなったらこいつらを盾代わりにすればいい。だが、クルスの場合は俺の考えとは逆だろうな。何が何でもあいつらを守るはずだ。
 クルスは優しすぎる。それが仇になって自分が傷つくことが分かっているくせにクルスは人を庇うことをやめない。俺はそれを理解することができない。
 博士は何故、こんな性格を作り出したのだろう。皆、同じ性格にしてしまえばこんな理解不可能なことも起きないのに……。