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第拾章 愛する形 |
| 「千景!!千景!!」 「………ん………」 あたしを呼ぶ常葉の声に惹かれ、あたしはゆっくり目を開くと、目の前には単姿の常葉が心配そうに見つめていた。そして、あたしが目を覚ますと、すぐに安堵の笑みを見せた。 「と…常葉……」 声も出る。呪詛が解けたんだ。 「千景。もう一度俺の名を言ってくれ」 「…常葉」 あたしがもう一度常葉を呼ぶと、常葉は嬉しさのあまり涙を流した。 「よかった。もう戻ってこないのかと思った」 「心配しないで。もうあたしは平気よ」 あたしは常葉の涙を服の裾で拭きながら優しく言うと、常葉はあたしの手を取り。あたしを抱きしめた。 「どれくらい…どれくらいあたしは眠っていたの?」 「今日で一週間が経つ」 げっ。あっちではめちゃくちゃ短かったのに、こっちではこんなに時間が経ってたの?! その時、あたしの脳裏に常葉が四の君の横を通り過ぎるときに言った言葉が甦り、あたしは条件反射で常葉を突き離した。 「千景?」 あたしの予想外の行動に、常葉は目を丸くして驚く。あたしは常葉と目を合わさないように、目を逸らしながら言った。 「………常葉。しばらくあたしを抱かないで」 「どうして?」 「どうしても」 「……………」 あたしがきっぱりと言うと、常葉はしばらく黙り込み、再びあたしを力強く抱きしめた。 「ちょっ?!常葉?!離して!!」 とあたしはもがき、常葉から離れようと暴れるが、常葉は離そうとしなかった。そして、あたしも耳元で、悔しそうな声で囁いた。 「理由もわからず、抱くなって言われて誰が納得できるかよ。理由を言うまで離さないからな」 「離してよ!!あたしは……!!」 「抱かれる資格がないから離せとでも言いたいのか。ふざけるな。俺の体を抱きしめていいのはおまえだけなんだからな!!」 「違う!!あたしは人を傷つけても平気な顔をしている奴に抱かれたくないのよ!!」 あたしは口を滑らせて言ってしまうと、常葉は抱いたままあたしから少し離れ、眉をひそめながらあたしを見つめた。 「…おい。それは一体どーゆーことだよ。俺がいつおまえおを傷つけた」 「あたしじゃなくて、四の君よ。 同じ人間に対して『生まれてこなければよかったのにな』って平気な顔で四の君に言ったでしょ」 「……な…なんでそんな過去の事を知っている?」 常葉はあたしの言葉にひどく驚いた。 「直霊があたしに常葉と四の君の過去を見せてくれたのよ」 「直霊?」 聞きなれない名前に困惑する常葉。 そりゃ、分からないわよね。そんな名前、一度も出したことがないもの」 「あんたが四の君に酷いことを言ったあの日に生まれた四の君のもう一つの人格よ。 そして、今回あたしを襲ったのもあの日に生まれた直霊とは異なる人格がやったものなんだって。あんたのせいで、四の君は多重人格者になってしまったのよ」 「そんな…馬鹿な……」 あたしの言葉に、常葉は信じられないとさらに困惑するのだった。そしてあたしから離れ、起き上がると、頭を抑えた。 「だけど、あれはあいつが悪い。俺のことが好きだなんてごたくを並べるから」 「ごたくなんかじゃないわ。あれは本気よ。本気で常葉のこと愛していたのよ」 起き上がりながら言うあたしの言葉に常葉は少し怒り口調で言った。 「冗談じゃない。俺は昔からあいつの存在が邪魔でたまらなかった。冬輝や薫と遊んでいるときだってくっついてきて、別の家柄の冬輝たちをいつも見下していた。それが原因で冬輝たちはあまり右大臣家にはこなくなってしまったのに…。あいつは自分こそ最高の人物であると思いこんで、自分以外の人間を見下すんだよ!!俺はあいつが憎くてたまらない!! 俺には千景という好きな人がいるにも関わらず、あいつが俺の妻になると聞かされたときは凄くショックだった」 「だからあのときあんな酷いこと?」 あたしの質問に常葉は頷き、 「怒り任せで言った言葉だからな。後々になって少し反省したが、向こうはなんとも言ってこなくなったから良い薬になったと思ってたが、まさかそんなことになっていたとはな」 なんだ…。少しだけでも反省してたんだ。 あたしは常葉の言葉にちょっと安心すると同時に、自分が常葉にぶつけた言葉に深く反省をした。そして、あたしは後ろから常葉を抱きしめると、常葉は驚いて、あたしを見返した。 「……千景」 「ごめんなさい。あんな酷いことを言ってしまって……」 あたしの言葉に常葉はふっと笑い、冗談混じりで優しく言った。 「この代償は高いぞ」 「どれくらい?あたしで払いきれる?」 あたしが首を傾げて尋ねると、常葉はしばし考え、自分にとってはいいことを思いついたらしく、やたら爽やかな笑顔をあたしに向ける。 この不気味な笑顔と雰囲気の流れで行くと、もしかして……。 「俺の子供を今週中に作ろうな」 うわ――――っ!!やっぱりぃ――――っ!! 絶対言うと思ったわよ。たださえ初夜のときも子供が欲しいって連呼してたし…。 「一体何人の子供が欲しいのよ」 「ん―――。最低でもこんだけ」 とあたしに片手の手の平を見せる常葉。 「ご…五人……」 あたしはそれを見て絶句というか呆れてしまった。 最低って言ってたけど、最高何人生ませるつもりなのかしら?もしかして20人とか言わないわよね。あたしはそんなに産むつもりはないんだからぁ――!! でも、あたしは常葉の過去を見て心も体も全て常葉の物になりたいと思った。常葉はあたしの足枷になると言っていたけれど、あたしも常葉の足枷になりたい。ずっと常葉を愛していきたい。 そう思っていると、突然常葉があたしに崩れ倒れてきたものだから、あたしは抑えることもできず、そのまま後ろに倒れた。 「と…常葉…?!」 「……できれば、今日にでもおまえ全てを俺のものにしたいんだけどな。おまえも俺の過去を見たのなら、俺の素性を知っているんだろ。俺がおまえを自分の物にしたいということを。 俺はおまえがその気になるまであのことをするのを控えるつもりだった。まぁ、冗談な行為は何度もしたけどな。無謀なことをしておまえを傷つけるのが嫌だったからだ。 でもどーやら俺は限界が短いらしくてな。俺は今すぐにでもおまえを自分の物にしたいんだ。 たぶん、おまえが目覚めてくれて安心したのと同時に、二度とこんな目に遭わせたくないからこんなことを言っちまうんだろうけどな」 とあたしを抱きながら常葉は苦笑した。 でも、常葉の本心はあたしの中に熱く流れ込んでくる。あたしを愛し、ずっと離したくないって、熱い思いがあたしの中から溢れそうなぐらいあたしの中に入ってくる。あたしはその思いに思わず涙が溢れ出てきた。 こんなふうに正面から愛してるって言ってくれるのは常葉だけだ。初夜のとき苦しんでいるあたしを必死に助けてくれて、尚且つ今回も意識を失っているあたしの傍にずっといてくれた。こんな良い人は常葉以外にどこにもいないのに、あたしは自分のことしか考えてなくてこんな良い人の行為をずっと貶していた。あたし…最低の人間だ……!! 「……常葉!!あたし…あたし……常葉の物になりたい!!常葉のことは結婚する前から好きだと自覚することができてたのに、あたしは常葉の愛情を貶していた。本当はこんなこと言える資格はないんだけど、あたしは常葉の物になりたいの……!!」 「千景!!」 常葉はあたしの言葉を聞いて、あたしの唇をむさぼると、あたしもまた常葉の唇を貪った。そして常葉はあたしの唇を貪りながらあたしが着ているモノ全てを脱がせていく。 ああ、こんなことだったら、お風呂に入ってちゃんと体を綺麗にして最高級のお香を焚いてから言えばよかったかも…。 あたしは常葉に服を脱がせられながらそう思った。 常葉はあたしから唇を離すと、自分も着ている服を脱ぎ、自分が脱がせ、全ての肌が露になったあたしの体を頬を少し赤くしながらまじまじと見つめた。 「そ…そんなに…まじまじと見ないでよ。恥ずかしいじゃない」 あたしは顔を赤くしながら目を逸らすと、常葉は嬉しそうに言った。 「綺麗だよ、千景。まるで天女のようだ」 「あ…ありがと……。常葉の肌も綺麗よ」 あたしがそう言うと、常葉はあたしの体を抱きしめ、あたしの体に自分の体を絡ませた。 「あ……っ」 あたしは常葉の肌を感じて思わず声をあげてしまった。その声を聞いて、常葉はくすっと笑い、あたしから再び離れると、今度はあたしの体を自分の手で一つ一つ丁寧に触れていく。常葉はあたしの体を触れるたびにあたしの名前を何度も何度も呼ぶ。一方あたしは常葉の手の触り心地に何度も甘美の声をあげそうになった。常葉はあたしのその声に反応してか、今度はあたしの体を舐めていく。それをやられたもんだからあたしは我慢できなくなって舐められるたびに思わず声をあげてしまった。 常葉ってやっぱり男なんだ。大きい手、すらっとした体、低い声に甘い吐息。それが今、全てあたしの物になっている。 「常葉ぁ……!!好き……!!大好き……!!だからあたしを……放さないで!!」 「千景!!俺もだ!!」 あたしは常葉に抱かれ、常葉の行動すべてに酔いしれていると、常葉があたしの中に入ってきた。あたしは思わず大声をあげてしまうが、抵抗はせず、ただ常葉に自分の体の全てを預け、一夜を過ごした。 こうしてあたしはこの日を境に心も体も全て常葉の物になり、常葉の本当の妻になったのだった。 |