第四章 助言者

 

 あたしはずっと泣き続けたせいか、病に倒れ、寝込んでしまった。
 それからというもの父上は浅葱との関係に追求はしなかった。
 テレパシーで父上の心境を読み取ってると、あの白夜が思い悩んで倒れるなんて天変地異が起きるぞって思っていやがった!!
 父親として普通そう言う?
 そう言いつつも父上は心配してかやれ陰陽師だの、祈祷師だの人が苦しんで寝込んでいるというのに護摩を燃やす匂いがこっちまで漂ってきて治るどころじゃないわよ、まったく。
 そんなとき、冬椰の妹であたしとは親友である沙羅姫があたしの部屋に見舞いにきてくれた。
 普通ならこんなことしたら貴族の人たちに世間知らずとか罵られるところだけど、あたしたちは別にそんなことは関係なかった。
「なんとも無様な格好よね〜。」
 寝込んでいるあたしに沙羅は飄々と言う。
「悪かったわね……あたしは悩みのせいで寝込んでいるのよ……」
「悩みっていつもの超能力のこと?毎回のことでしょ?」
「違うわよ、今回のは……」
「ひょっとして恋煩い?」
 あたしが言いかけたとき沙羅はずばっと言い切った。
 なんでわかったんだろ……?
「一体誰に恋しているわけ?」
 沙羅にそう言われあたしは全ての経緯を沙羅に話した。
「というわけなのよ。」
「ふ〜ん。白夜姉って意外に二股するのね〜。」
「どういう意味よ!!」
 あたしは病だというのを忘れて沙羅に噛みついた。
 沙羅はくすくすと笑い、
「やっといつもの白夜姉に戻ったね。」
 言われてみれば、さっきに比べて苦しいのがないわ。
「ありがとう、沙羅。
 でもあたしはどっちを選べばいいのかな……。」
「白夜姉。すんごく悩んでいるところに釘を刺すようで悪いんだけど、白夜姉って東宮様がすでに結婚しているって知ってたっけ?」
 はい?浅葱が結婚している?
「知らないわよ。」
「えええええっ?!去年、東宮様は白夜姉の姉上様・紗霧様とご結婚したのよ。」
「嘘!確かに姉君は結婚しているけど、東宮なんて一言も……。」
「去年のおじ様、やたら喜んでたじゃない。あれが紗霧様の入内だったのよ。」
 言われてみれば去年の父上はやたら機嫌がよくて宴会だの、歌合せだの言ってたわね。
 ってことはあたしだけ姉君の結婚相手を知らなかったってこと?!
 あたしはそんなことを知らずに浅葱に同情して慰めて恋をしたわけになるのよね。
 んでもってもう少しであたしは姉君を裏切り、東宮の不倫相手になるところだったじゃない!!
 おにょれ、浅葱!人を騙すなんて卑怯じゃないの!!
「…沙羅。あたし東宮のところに行ってくる。」
「え゛っ?!ちょっと行き当たりばったりはよくないってば!!」
 あたしの決意に驚いた沙羅とそばに控えていた楓はあたしの体を引きとめた。
「ええいっ!!離しなさいよ!!浅葱のとこに行って一発ぶん殴らなきゃ気が済まないわ!!
 もうすこしで姉君を裏切るところだったのよ!!」
「白夜様の気持ちは痛いほどよく分かりますが、そんな力任せにやっては余計紗霧様を悲しませるだけですよ!!
 ここはご辛抱なさって、東宮様から文が来られたときに文で嫌味を言ってやればいいじゃないですか!!」
 ……楓。あんたって意外に小癪な考えが思いつくのね……。
「白夜姉は既に自分の姉と結婚している相手と結婚して苦しみ悩むのと、結婚してない好きな相手に対して悩むのとどっちがいい?」
 唐突に沙羅があたしに尋ねた。
「そりゃ、あたしは浮気するような奴は嫌いだから好きな相手に対して悩む方を選ぶわよ。」
 あたしはすぱっと言い切ると、沙羅は微笑み
「今回の恋も同じだと思うよ。
 東宮様のことなんて今じゃなんと言われようが苦しくないんでしょ?」
 言われてみれば、確かに浅葱のことを言われても全然胸が苦しくない。
「さてと…ここから先は白夜姉一人で解決しなくちゃならないことよ。」
「え?どういうこと?」
「それを自分で考えなくちゃダメよ。
 これから先、自分はどうしたいのかどうすればいいのか考えなくちゃ。」
 沙羅はそう言うと、立ち上がり
「というわけで私は帰るわね。」
 と出て行ってしまったのである。
 一人部屋に残されたあたしはただ呆然としているしかなかった。
 これから先あたしはどうしたいんだろう……。
 今考えても仕方がない。
 こういうときはさっさと寝て、明日じっくり考えよう。
 あたしは勝手に納得して寝てしまったのである。