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第六章 再会 |
| 清涼殿に行くと、ちょうど歌合せが始まった。 しかし、始まって一時間が経ってあたしはすでに飽きてしまった。 なんなの、このお互い笑いながら皮肉っている会話わ……。 ここではこの会話が当たり前なのかしら? さっさとこんなところから出て帰りたいわ。 (君もそう思うかい?) といきなり人の心に侵入してきた式部卿宮様。 ちょ…いきなり、人の心の中に入ってこないでください!! (しょうがないだろう。君の心の叫びがこっちまでに響いて来るんだから) う…っ。そう言われると反論できない…。 式部卿宮様はこのような歌合せはどう思われるんですか? (そりゃぁ、こんな自画自賛している輩とやっていたらいい歌なんかできないよ。これをしているんなら、まだ蹴鞠や横笛で遊んでいる方がマシだ。) へぇ〜、皇室の中でもそんな風に思っている人がいたのね。 (そう思っているのは、超能力を持っている私しかいないけどね) 感心していると、式部卿宮様は付け加えた。 やっぱり、心が見えてしまうと楽しくないものよね。 (もっともな意見だよ。 こんな能力があるから人とあまり付き合いたくないんだ) では、同じ能力者である私とも付き合いたくないんじゃないですか? あたしが嫌味で尋ねると、式部卿宮様はちょっと機嫌を損ねた。 (君はどうしてそういう風にしか言えないのかなぁ。私は君に会えて感激しているんだよ。) なんで? (同じ能力者だから) それだけですか。 (それだけのことさ。この際このまま私の妻にしたいところだけど、君は東宮や左近の少将との関係に迷いを感じているようだね。) 式部卿宮様はあたしが悩んでいるところまで読んでいたのか。 それを知っていてあえて言うなんて……。 (妻にしたいのは本音だよ。でも、会ったばかりの男になんぞ君は興味は湧かないだろう?) さあ?浅葱のときはすぐに興味が湧きましたよ。 (ってことは私にも少しは機会があるということだね。) そういうことになりますね。 (ふぅん。なら行動あるのみだ。) えええ?!何するんですか? あたしが驚くと、式部卿宮様はくすくすと笑い (冗談だよ。君の驚いた顔が見てみたかっただけ。 ほら、私と会話しているうちにどうやら歌合せが終わったようだよ。) あたしは式部卿宮様に言われ、顔を上げると、目の前にはなんと浅葱があたしの顔を覗き込んでいた。 え?!ちょ…っ?! 「君と話しているうちに、他の女房や皇后たちは下がらせたよ。ここにいるのは君と私と東宮だけだ。」 と式部卿宮様は微笑みながら言った。 ってことはあたしは帝にも挨拶しないで式部卿宮様と話していたってこと?! 「な…なんでこんなことをするんですか?!これじゃぁあたしはいい恥をかいちゃったじゃない!!」 「大丈夫だよ。サイコキネシスで君をおじぎさせといたから。」 怒るあたしに式部卿宮様はあっさり言った。 あたしは式部卿宮様の行動に唖然となった。 どこまで凄い人なんだろう……。 「白夜、君にずっと会いたかったよ。」 式部卿宮様とあたしの間に割って入ってきてあたしの体を抱きしめる浅葱。 「明日にでも君に求婚しようと君の父上に知らせようと思ったんだけどね。今言ってしまおう。 白夜、僕の妻になってくれないか?」 「イヤよ。」 浅葱の申し入れにあたしは何故か知らないけどきっぱりと断ると浅葱は当然の如く目を点にして驚いた。 一方、それを聞いた式部卿宮様は浅葱の隣りで笑い転げていた。 「ぷはははははっ!!東宮に対してあっさり断るとはさすが姫。肝が据わっているよ。あはははは。」 「式部卿宮様!!」 「何故、僕の申し入れに答えてくれないんだ?あの日会ったときにはずっと一緒にいてくれると言ったじゃないか!!」 「そりゃ、姉君と結婚していなかったらそのつもりでいたわよ。 でも、すでにあたしの姉君と結婚しているじゃない!! 姉妹一緒に入内できるわけないでしょ!!」 「紗霧は政略結婚なんだ!!あの人には愛情なんてない!!」 あたしの言葉に浅葱はいい訳をする。 そんなので通用するとは限らないわよ!! 「あんたがそう言ってもあたしは入内する気はこれっぽっちもないわ! あたしにとって姉君は血が半分しか繋がっていないけど大切な方なのよ!! あたしは姉君を裏切って姉君を悲しませることなんてできない! だから、あんたとは結婚しないわ!!」 「そんなの矛盾している!!姉妹で入内したケースなんて何回もあるじゃないか!!」 あたしの言葉に開き直っている浅葱。 しかしあたしも負けじと言い返す。 「あったとしてもあたしはするつもりなんてこれっぽっちもないわ!! あたしはあたし一人だけを愛してくれる人でなければ結婚したくない!!」 「ならば、僕が紗霧と別れる!そしたら君は僕を愛してくれるだろう?」 くぅ〜!!どこまで自分勝手なの?! 「あんたが何を言おうが、あたしは結婚しないの〜!」 あたしがそう言い切りお互い息を切らして見つめあう。 しかし浅葱はすぐに動いた。 あたしを抱きしめて愛の言葉でも言うつもりか!! そんな言葉にぐらつくあたしなんかじゃないやい!! 「白夜!!」 「ふざけるなぁぁぁぁぁぁっ!!」 ぼきゅるっ 抱きしめようとした浅葱の腹に見事にあたしのカウンターがヒットした。 当たった浅葱はひとたまりもなく腹を抱えてうずくまった。 それを見ていた式部卿宮様は驚きつつも当てたあたしに拍手を贈っていた。 あたしは浅葱を見ないように後ろに振り向いた。 もう疲れた。帰ろう。 「び…白夜……」 浅葱はしょうこりもなく手を伸ばしてあたしが着ている十二単を掴んだ。 「お…お願いだから……僕のそばに……」 「さようなら、東宮様。」 あたしはそう言い切ると、テレポートでその場から去った。 もう、未練なんか一つもない。 でもこんなに悲しいのは何故だろう。 そう思っているとあたしがテレポートして着いた先はなんと自宅ではなく、冬椰の家だった。 あたしの目の前には本を読んでいた冬椰が目を丸くしてあたしを見ていた。 「び…白夜…?!どうしてここに?!」 驚いている冬椰を見て、安心して緊張の糸が切れたのか、あたしは冬椰に抱きついて泣き出してしまった。 「もう…未練なんかないの……。白夜は…もう東宮様と別れたの……。」 あたしは冬椰にすがって泣いてわけ分からないことを言っている自分が情けなくなった。 でも、冬椰は 「わかっているよ。もう大丈夫だよ。」 とこの間のことがなかったように優しくあたしを包み込んでくれたのだ。 あたしは冬椰にひどいこと言ったのに冬椰はそれでもあたしのことを許してくれるの? そう思うと余計情けなくなってさらに大声で泣いてしまったのだった。 |