「ぐるるるるるるるる…っ」
「あ〜んっ!!折角直したのに、また戦闘で壊されることになるなんて〜〜〜!!」
 魔獣と化した赤ん坊を見て、北都は武器を構えながらも、泣き言を言う。俺やレスカも臨戦体勢となるが、紫さんが俺の身体から離れようとしないため、戦闘に参加できず…。
「紫さん、ちゃんと説明して。とっくに死んだ人間がなんでここに???」
「あれは…人間なんかじゃない……。あれは俺の妹だ……。
妹が俺を…世界を恨んでいるんだ……!!」
 はあ、としか俺はとぼけると、紫さんは続けて言った。
「だけど、あれは妹であって妹じゃない…。この地に封印された獣が妹の遺体を媒体にして世に復活しているだけどな…。それを俺はあの白無垢に封印した…。あの白無垢はあの獣が唯一恋した少女が着るはずだったものだから…」
「それはどれぐらいの前の話?」
「確か1500年前だな」
「結構日が経ってるんだね。」
「ああ…。獣自体は別にどーでもいいんだけどな…」
「じゃあ、なんで紫さんそんなにビビってんの???」
「………………………………………おまえわ。俺が親しい死者でも物怖じしないと思ったか?!」
『もちろんっ!!』
「あほかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 すぱぁぁぁんっ!!
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
 いつの間にか聞いていたのかは知らないが、途中参加の二人と共に迷わず言う俺たちの言葉にぶち切れた紫さんは、怒り任せに敵もろとも全員を吹き飛ばした。
 さっきのビビり具合は一体どこに消えたんだ?
 吹き飛ばされてのびた俺たちの目の前にごすっと土を踏みつけるように仁王立ちで立ち構える紫さん。
 そして、怒りのあまり、獣と化したのむんずっと持ち上げて、岩壁に向かって投げて叩きつけた。それだけではない。連打で殴る、蹴る、タックルする。
「おらおらおらおらおらおらおらおら!!おまえら!!」
 がすっ!!
「俺を!!」
 ぼきょっ!!
「一体何だと思っているんだぁぁぁぁぁっ?!」
 ぼきゅるっ!!
『おおおおおっ!!』
 ぱちぱちぱちぱち…
 いい具合に紫さんのカウンターが入り、獣はほぼ戦闘不能状態に近くなったので、俺たちは思わず紫さんに向かって拍手してしまった。すると、肩で息をしながら立ち尽くしていた紫さんははっと我に返り、その場に倒れてしまった。
「はう…っ」
『さっきまでの迫力はどこ行ったんすか???』
「ほっとけっ!!」
 倒れた紫さんに容赦なく俺たちはツッコミを入れると、紫さんはぴょこんっと起き上がり、言い返した。



「さて…
一応おまえらのおかげで、コレに対する畏怖というのはすっかり消えたが、始末が面倒だなぁ…。再び封印するのは体力がいるし、かといって放置すればここが荒らされるし…」
 ぴくぴくと痙攣する獣の前で、腕を組んで仁王立ちする紫さんと、その後ろで控える俺たち。そこに北都が何かを思いついたように紫さんに尋ねた。
「一応これは亡き妹さんの身体を媒体にして現代にいるんでしょう?」
「一応は…な」
「その媒体を火葬すればいいんじゃないですか?」
「ていうか、遺体は死んだときに火葬するもんじゃないの?」
 俺の質問にレスカははあと溜め息をついて、説明してくれた。
「あのなぁ…。竜族の基本的に埋葬の仕方は土葬なの。火葬っていうのは、よっぽど能力が高くて、媒体にされちゃ困る人しかしないんだよ」
「そーなの?」
「そーなの!!
 しかし、紫さんの妹さんの身体を媒体して現代にいるんじゃ、手の出しようもないよ…」
「大体この魔獣はなんでここにいることに執着してるんだろう…」
「そこなんだよなぁ…。妹さんを媒体して封印されようが、ここに対する執着する必要性も…」
「必要性はあるぞ」
『え???』
 俺たちの会話に真剣な表情で割って入ってきた紫さん。驚く俺たちに続いて、静かに言った。
「あの獣は探しているんだ」
「探している?何を?」
「何者にも染まらない純粋無垢の乙女だ…」
「それを探してどーすんの?」
「あの頃に………戻りたいのだろうな…」
「あの頃?」
「ま。俺が
正真正銘の乙女だからな!!他に被害は行くことはな…」
『どこが?!』
 自信満々に言う紫さんに俺たちは凄い嫌そうな顔で、きっぱりとつっこんだ。
「ほっほ〜〜〜???つまり、おまえらにとって、俺は乙女じゃないって言うのかなぁ???ほれほれほれっ!!」
 ぐりぐりぐりぐり…っ!!
『あだだだだだだだ…っ!!』
 気配もなく、いきなり俺たち三人をまとめて梅干する紫さん。
「紫さんの場合…、もう奄師匠と結婚してるじゃないっすか〜〜〜〜〜〜!!」
「……………………それもそうだな」
 北都の言葉に納得して突然離す紫さん。
「火葬するのも嫌だしなぁ…」
「そうだ!!時間神!!」
 と北都が何かに思いついたように叫んだ。
「レスカの時間神の力を使えば、この魔獣をなかったことにできるんじゃないのか?!」
「無理だな」
 と、北都の提案を間を置くことなくあっさり却下するレスカ。
「理屈では分かるけど、時間神ほどややこしいものはないぞ。第一俺は時間の力を容易く操れるほどの技量は持っちゃねーよ…。失敗したらおまえらが無事っていう保証もないんだぞ…」
「おまえが無理でも歴代の誰かと替われば何とかなるんじゃないの?」
「やれないことはないかもしれないけど、今までそんなに交流があるわけじゃないから応えてくれるか分からない…」
「え?!そーなの?!俺しょっちゅう現れては話してるよ」
 俺が割って入った言葉に、北都とレスカは「え?!」という驚いた表情になる。
「おまえ、しょっちゅう歴代の天竜王と話してるの?」
「しょっちゅうというわけでもないけど、ピンチになれば力を貸してくれるし、助言もしてくれる。ザガル行ったときや、ティーラのときだって歴代の人たちが助けてくれたんだよ。二人ともそーゆー交流はないわけ?」
「ないな…」
「俺もないなぁ…。初めて会話したのだって、即位してからの1ヶ月ぐらいだし、活発じゃないよ?」
「そうなんだ。でも、こっちから寄ってけば逃げないんじゃないの?レスカも歴代の地竜王に話し掛けてみなよ。できないって分かりきったことにしないで、やってみないと分からないジャン?」
「それもそうだけど…。どうやって話し掛ければいいのか分からないし…」
「そっと呼びかけてみるんだよ。そしたら…」
 
ごいぃんっ!!
「あう…っ!!」
「な…っ?!」
 俺が言い終わるより前に、北都がいきなりレスカの頭をぶん殴り、そのまま気絶させた。
「北都ぉ〜?!」
「こーやったほうが、話しやすいだろ?」
「話しやすいのかは分からないけど、なんでいきなり前触れもなく!!」
「え?!だって昔、俺こーやってたし…」
 そんな理由かよ…。
 さらりと言い放つ北都に俺は思いっきり脱力したが、途端にレスカがむくりと起き上がった。
「………レスカ?」
「それはこの身体の持ち主の名前ですか?」
 と突然女性の声でレスカは言い返してきた。
「えーっと…あなたは?」
「私は犀(さい)。10代前の地竜王です。この身体の持ち主の必死の呼びかけに応えたのですが…。いきなり現れてこんなことを言うのは失礼かもしれませんが、状況が分からないので、状況説明していただきたいのです」
「そうなんだ。それはご苦労様です。実はですね〜…」
 と一通りその犀さんに俺と北都で状況説明すると、犀さんは頷いて口を開いた。
「そうなのですか。それなら私の力で、なんとか致しましょう。ですが、それをする際、妹さんの存在もなかったことになってしまうのですが、よろしいのでしょうか?」
「妹の御霊はどうなってしまうのだろうか?」
「それは…生まれ変わりになるでしょうね。死海宮の状況があまり把握できないので、後のことは保証できません。なれど、今はこの獣を何とかしなくてはなりません。
 最悪の場合、誰かに子をなしてもらわなければならないと思いますよ」
「なら、簡単ジャン」
「どこが簡単なんだ?」
「紫さんまだ子供産める年齢じゃん。だったら…」
「俺が11人目の子供を産めと?」
「ダメですか?」
「いいよ。久々に女の子が生まれるのか〜…。こりゃ面白いことになりそうだなぁ〜」
 と、意外にもうきうきする紫さんに俺たちは呆気に取られた。
 あのさ…ノリ気であることはいいんだけど、最悪の場合だってこと分かってるのかなぁ?
「じゃあ、いきますよ」
 そう言って犀さんは手をかざすと、しゅるしゅると音を立てて、獣がもがくこともなく消えていってしまった。
「はい。これで終了ですよ。本来ならこれは水竜王の専門職なんですけどね。私も使えるのは一日一度きりなんです。今度からは水竜王に頼んだほうがいいと思いますよ。それに、私ならまだしも、他の地竜王は結構気まぐれ屋が多いですから」
 そう言って犀さんの気配が消え、再びレスカの人格が現れた。
「お。どうやら、解決したっぽいね」
「まあね…。あっちゅう間に終わって、何も言えなかったよ」
「天竜王様!!地竜王様!!」
 と、どこからともなく女官がやってきた。
「どうしたの?こんな泥んこのところへ来て…」
「先程、中務省と式部省から連絡がありまして、即位式の日取りが早まったそうです。吉日が明後日しかない故、明後日式を執り行うそうです」
『え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?!』
 女官の言葉に全員が驚いた。
 急に日取り変更だなんて聞いてないよ〜!!

 

続く→