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 平成 日本 ―――――新宿 P.M.4:49

「やれやれ…。いっくら誕生日だから好きなのあげるわよ〜って言ったからって、詩澄紅ったら、要望多すぎ…。
 おまけにブクロでしか手に入らないモノまで頼んで〜〜〜〜〜!!」
 と新宿駅前のアルタ前の信号を青信号になるのを待ちながら一人の少女がキレイにラッピングされた大きな荷物を抱えてぶつぶつと文句を言っていた。
 紺色のブレザーとハイソックス、赤い大きなリボンを襟首で結び、白いブラウス、赤のチェック柄のスカートを膝より10センチ以上あげていた。そして、ぱっと見美少女でありながら、茶髪にピアスをつけた今時の女子高生らしい格好をしている。女子高生にしては全くもって似合わない荷物を持っているのはいささか違和感がある。
 彼女の名前は巽 優姫。何の変哲もないただの女子高生である。
「こんだけいいモン買ったんだから、きっと詩澄紅も喜ぶだろうな〜〜〜〜〜♪な〜んせあったしが選りすぐりして選んだんだから!!これで文句言ったらプロレス技かけちゃる!!」
 と意気込んでいると、彼女の横を小学生ぐらいの女の子が通り過ぎていった。
「え?!」
 その女の子は信号が赤にもかかわらず、何の躊躇いもなく信号を横切ろうとした。
 しかし、その女の子の行動に周りはまるでその女の子が見えていないかのように全くの無反応だった。
(え?!なんで他の人止めようとしないの?!)
 優姫は周りの反応に驚きつつも、誰も止めないようとしないので、荷物を放り投げて、慌ててその女の子の後を追った。車がくることを確認しないで―――。
 ききききき〜っ!!
「?!」
 優姫の目の前に写ったのは赤い車。そして―――
 どんっ!!
 鈍い音とともに優姫の身体が宙を舞い、そして何かが潰れるかのような音ともに身体は地面に叩きつけられ、叩きつけられたところから鮮血が流れた。そして、彼女がはねられてことにより、ようやく周りの時が動き出した。
(詩澄紅……)





 平成 日本 ―――――品川 P.M.4:50
 新幹線が開通して、人々の動きが益々活発となり、駅前にも駅ビルが立ち並び、活性化した品川。
 汗を流しながら、もしくは冷房が効きまくった室内で震えながらも仕事の勤しむサラリーマンやOL。ショッピングを楽しむ主婦。学校に通ったり、授業を終え、ショッピングを楽しむ中高生や大学生。
 色々な人が行き交い繁華街の代表になった品川である。そんな品川の一角の道路脇で、二人の男子高校生が歩きながら他愛もなく、話していた。二人とも瓜二つのように髪型や格好が似ている。
 二人ともピーチブラウンのショートヘアに、お互い左耳にカフスとピアスを1つずつつけていて、黒の学ランを第二ボタンまで開け、顔立ちも美少年だった。
「だからさ、おまえもあのクラブ行った方が絶対いいって!!」
「めんどくせーよ…。大体女いてもギャルばっかだろ?」
「そこのクラブはギャルいねーっての!!」
「俺は今週高尾山に行くんだっつーの!!」
 とじゃれ合いながら歩いていた。薦めている少年は鏡 冬羽。薦められている方は勅使川原 依澄という。
「依澄ってホント外見とは裏腹に自然大好き少年だよな〜〜〜。俺には信じられん」
「うるせ〜。俺は自然の風景が大好きなの!!さしずめ俺の傷ついた心を癒してくれるオアシスとでも言うな」
「うえ〜…。きしょい…っ!!たまにはナンパとか付き合えよ〜〜〜」
「また今度な」
「そう言って前も付き合ってくれてねーじゃんかよ!!」
「あはははははっ!!」
「笑い事じゃねーっつ………あれ?」
 と冬羽は足を止めて目の前を凝視していた。依澄も冬羽につられて足を止め、前を見るが、何もなかったので、不思議でしょうがなかった。だが、冬羽はぽかんと見入っていた。冬羽の目にはおかっぱ頭の5歳ぐらいの赤いワンピースを着た女の子が玉つきをして遊んでいるのである。普段なら気にも留めないことなのに、このとき何故か気になってしょうがなかった。
(あんたがたどこさ ひごさ ひごどこさ…)
 女の子は楽しそうに遊んでいる。だが、どこか違和感が漂っていた。普段なら気にも留めないことなのに、何故冬羽自身気に留めたのか。それは女の子の足元にあった。彼女は靴を履いておらず、ごつごつとしたアスファルトの上で平気な顔をして遊んでいた。
 今の現代は確かに不況だが、靴も履いていないというのは異質に近い。だが、それだけじゃなかった。彼女の周りの空気はどんよりとしていて、何かが蠢いていた。
「なあ、冬羽。なんかいんのか?」
「おまえ目の前にいる女の子見えないのか?!」
「はあ?!んなもんいるわけねーじゃん!!」
「よ〜っく見てみろ!!5歳ぐらいの女の子がボールをついて遊んでるだろ!!」
 そう言って、冬羽は依澄の顔を両手で掴んで前を無理矢理見せさせる。だが、依澄の目には女の子すら映っていなかったのである。依澄は冬羽には見えて自分には見えない存在が気持ち悪くて仕方がなかった。だが、目の前には異質と思える雰囲気が漂っていることは自分でも分かっていた。心の隅でこれは危険なことが起きる、逃げたほうがいいと警鐘している。それでも、目の前の見えない存在から目を離す事が出来なかった。
「危ない!!」
 突然遠くから叫ぶ声に二人は我に帰ると、ブレーキでタイヤが地面との摩擦で甲高い音をたてながら、木材を積んだ2トントラックが迫ってきた。トラックはそのまま、二人の目の前にあるガードレールに向かって傾き、鈍い音をたてて突っ込み、荷台に乗っていた大量の木材が雹が落ちてくるように二人に向かって落ちてきた。
 二人が気を失うまで見て聞いたものは闇と悲鳴だった。

 二人の周りでは悲鳴と焦り声が入り混じり騒然としている。しかし、二人の周りは真っ暗の闇だった。そんな中で依澄は意識を取り戻した。
「?」
(痛くない…)
 依澄は大怪我を覚悟していたが、痛みの感覚が全くなかった。これが大怪我したときの感覚なのかと客観的に自分の置かれた状況を把握しようとしていた。
(そうだ。こんな状況なら冬羽もこの木材に埋っているはず。これじゃあ二人揃って新聞に載るんだろうな…)
 ふとどれぐらい経ったのだろうと思った矢先だった。依澄の目に一筋の光が入ってきた。
(?)
「被害者1名確認!!担架を!!」
 闇に光が差し込み、そこからオレンジ色の防護服に身を包んだレスキュー隊員が叫んで、人が集り、光が徐々に広がっていく。
(あ…。俺が先に助かったのか…。冬羽は―――――――――――――…)
 しかし、依澄が光によって見たものは、親友の無残な姿だった。足があり得ない方向に折れ、手や頭や口など至る所から鮮血がほとばしり、まるで依澄自身を庇うかのように依澄に覆い被さっていたのだ。そして、依澄はその親友の血を頭からかぶって血塗れになっていた。
「あ…あああああああ…」
 目の前の現実に助け出された依澄は親友の無残な姿と、自分が浴びた血を見て小刻みに身体が震えた。
「わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 現実についていけず、依澄は冬羽の身体を目の前に泣き叫んだ。



 これがもうすぐ始まる二人の物語……。何が起こるのか分からない。分かるのは…神さまぐらいだろう…。