|
拾壱 |
| 「おお。洸流!!っと。新天竜王だったな。すまん、すまん」 「そんなことはどーでもいいよ!!なんで式典の日数をずらすのさ!!」 挨拶ナシに俺は中務卿宮様に問い詰めた。 日取りが変わった連絡を受けて、慌てて奄師匠たちが住処とするプリーディムから首都に戻った俺たちは、式典管理する式部省と中務省に向かい、状況説明をしてもらうことにした。そして、中務省に入るなり、職員の静止を振り切って中務卿宮様がいる部屋に出向き、部屋に入るなり出迎えた宮様に即行で問いただしたわけである。 ホントこの人、ナニ考えているわけ?! イライラしている俺に対し、中務卿宮様はとぼけた顔をしつつ言った。 「変わったの知ってたの?知らぬが仏だと思って今まで黙っていたんだが…」 「どこが?!まるっきし筒抜けじゃん!!」 「そうですよ。いくらなんでも隠せてませんよ!!」 「おかげで俺たちの修行期間が短くなっちゃったじゃないですか!!」 「そうなの???」 と、迫る俺たちに対して素っ頓狂な声をあげて驚く宮様に俺たちはムッとなった。 「ナニ、ワザとらしく驚いてるんだよ!!知ってたんでしょ?!」 「いや、ある程度は掴んでいたが、修行が終わっていなかったのは、正直本当に知らなかったんだよ。すまないことをしたね。とりあえず、状況説明するから、そこにかけてくれ」 俺たちに席を勧める宮様に俺たちは渋い顔をしながら言われるがまま、ソファに腰をかけた。すると、宮様は琥珀色をした紅茶を俺たちの前に差し出し、目の前に座った。 「さて、君たちの質問は『何故、式典の日取りを早めに変更したか』だったね」 「うん」 「それを答える前に、まず説明することがある。3日前に襲撃事件があったことは知ってるか?」 「それってプリーディムであったやつ?」 「いや、違うな。実はな王宮付近と刑部省と式部省と魔導庁で同一人物による襲撃があった。しかも、四箇所全て同時刻に襲撃がされている」 「それ…本当なの?同一人物が四箇所を同時刻に襲撃するなんてとても人間業じゃないよ。しかも、同一人物は四箇所ともいたの?」 「ああ。いたな。というより、全てその同一人物が爆発物など道具を使わず全て自ら動いて攻撃してる。今のところ死者は出ていないが、負傷者は4箇所合わせてざっと100人は超えている」 「襲撃された時間は?」 「四箇所ともに午後4時44分44秒だ。防犯カメラに記録が残っているから実証されている」 「その同一人物の犯人による犯行声明は出ているの?」 「午後6時36分42秒にされているな。だが、あれは犯行声明というより、警告に近いな」 「警告?」 その言葉に俺たちは眉をひそめると、宮様は写真を胸ポケットから出し、俺たちの前に置きながら言った。 「この青年が言った。『これは警告だ。これより一週間沈黙を守る。だが、一週間後の竜王即位の儀の時、再び襲撃する。これ以上の破壊をもたらすだろう』と言っていたそうだ。 そのような理由で、竜王と帝の御身を守るため、我らは竜王即位の日程をずらしたというわけなんだよ。 ってあれ???どうした三人とも。顔色が優れないよ?まるで、この青年を知っているようかのようだぞ」 「知ってるも何も…」 「これ…この世にいる人間じゃない。とうに死んでるんだ」 そう。この写真に写っている人物は俺たちは一度会っていて、戦っている。だけど、俺たちが相対するときにはもう既に死人だったんだ。写真に写っている人物は――――竣だった。 「竣なら同時に犯行を犯すことは容易いな…」 「なにせ分裂しているんだから…」 俺たちの言葉に宮様は腕を組み、眉をひそめた。 「三人とも、彼奴がとうに死んでるというのはどういうことだ?」 「宮様も知っていると思うけど、プリーディムでテロ事件があったの覚えてる?」 「ああ。ラブリーなんとかっていうふざけた組織名のアレかい?確か総司令は北都がやってたんじゃなかったけかな?」 「その通り。そのテロ事件のとき、俺が向こうの術で旧水路に落ちたときに奴の遺体らしきものがあった。瓦礫と共に崩れちゃって消えちゃったけど…。崩れる前に奴は自分の魂を7つの災いに転じて自ら分裂して、四方八方に分散しちゃったんだ。そのうち3つはこっちで既に回収してるんだけど、残りの4つはまだ行方が分からないんだ」 「つまり、4つの襲撃全て魂のみの存在がやり、あのような惨状を作ったのか?」 「そういうことになります。回収した内の1つはレスカと洸流が対戦済みですから…」 「北都がそう言うのであれば納得するな。だが、何故現世に留まる必要があるんだ?」 と、北都の言葉に納得をしながらも、俺たち疑問を投げかける宮様に北都が先に答えた。 「恐らく俺達即位した竜王を恨んでいると思います。洸流が言うには、奴は自分こそ竜王になる為に選ばれた器だと自負してた。それなのに竜王が選ばなかった。そのことを約500年近くも恨んでいると思います」 「やれやれ…。単なる逆恨みがここまで続いていると怒りを通り越して呆れるよ。それにしても随分と執着心があるんだなぁ…」 「まあ、我々が呆れてそう言ったって当の本人は真剣なんですから…」 「それに成仏もしてないって事はそれだけ思い入れも深いって事でしょ」 「それもそうだな…」 そう言って、宮様は北都と俺が言ったことに納得をした。そして、ソファに寄りかかり、腕を組んで俺達に言った。 「とりあえず、竣が原因で我々が式典を早めたということは納得していただけたかな?」 「嫌って言うほど納得したよ…。そんで?その式典では基本的に俺とレスカは何をしてればいいわけ?とりあえず民衆に笑顔振り撒いていればいいの?」 「馬鹿。神帝(ヤーウェ)が竜王に授けた神器の継承をしなきゃ即位した事にはならないんだぞ。そのための即位式なのに…」 「や…やーうぇ???」 呆れながら言う北都の口から出された聞きなれない言葉に俺は首を傾げていると、三人は大きく溜め息をついた。 「神帝(ヤーウェ)のことを知らないなんて、おまえはホントにアニマ信者か?」 「え?」 「今度即位するのに神帝(ヤーウェ)の事を知らない竜王なんて、民衆が聞いたら大笑いモノだぞ…」 「えっ?えっ?」 「おまえが天竜王になれたのは、神帝から任免されたようなもんなのに恩知らずな…」 「……………もしかして、神帝って最低限知っておかなきゃいけないもの???」 『当たり前だろ』 困った顔で訊ねると三人綺麗にハモってぴしゃりと言われてしまった…。 う〜ん…。最低限でも知っておかなきゃいけないことだったのか…。記憶にないって事はホントにどうでもいいことだったんだろうな…。 そう思っていると、北都が呆れながらも言った。 「まあ、とやかく言ってもしょうがないから神帝のことを説明しようか。 神帝というのは、俺たち竜王より高位の神でらっしゃる。初代竜王たちに竜神人以上の力を授けてくださった御方でもある。神帝がいなければ、竜王は生まれず、この世界も創り出される事もなかっただろう。そこまでは分かるな?」 「うん。でも、竜王は魂ごと継承されてるんだよ?」 「だが、竜王達はあくまで純血に近い竜神人の末裔に継承される。一部の人間や竜族がいい例だ。しかし、それでも万以上いる純血種に近い末裔の中からたった四人をあっさりと選ぶのはどうするんだろうか?竜王自身が行っているわけでもないだろ?」 「でも、任命する人がいないんだから魂だけでも竜王自身が選ぶんじゃないの?」 「それは出来ないな。竜王の器となる肉体が死ねば、竜王は何も手出しは出来なくなる。つまり、そうなると死者の神・闇竜王も、他の竜王も皆、次の継承するべく存在は竜王以上の存在が必要となる。それが神帝というわけだ」 「てことは、神帝は竜王を束ねることができる唯一の存在になるって事?」 「まあ、一応そうなるな。けれど、神帝が竜王達の暴走を止めたとかって言うのは俺が知る限りでは記録に残ってない」 「………いや…伝承でだけど、一つだけ神帝が暴走を止めてることがある」 と北都の間に入ってレスカが口を開いて言った。 「神帝が暴走を止めたの?!」 「そんなことって!!」 「俺もあんまり信じてないんだけど…毒すら飲んでないのにあんな事できるとは思えないんだよね…。おまけにアレは止めたと言うより………謀反を起こしたから殺したと言った方が正しいのかも…」 「どんなことなの?」 「今から17000年前のことだ。当時の火竜王はとても人道に篤いが激情な方で、慣れない重力神の力を持て余していたらしい。それでも民を思う気持ちはとてもあって治世はそれとなく平穏だったが、ある時砂邪と呼ばれる今はない古の国の王が民を虐げるようになった。 火竜王はその現状に耐えられなくて、感情のあまり抑えていた力がついに暴走。しかも暴走した場所がその国の真上。国王を殺すだけではなく、守るはずの民も多く殺してしまったんだ。それでも暴走は止まらなくてあらゆるものを破壊していった。その当時は一番力を持っていたのが当時の火竜王だったから、力がなかった他の竜王も止める術がなくてただ見守るしか出来なかったと聞く…」 「………北都知ってた?」 と俺は問題の火竜王の後を継いでいる北都に投げかけると、北都は腕を組んだまま表情は硬直しつつも、首だけは横に振っていた。 「その当時の火竜王ってそのあとどうなったんだ?」 「それがね。突如暴走が止まったんだって。誰も止めることが出来ない暴走なのに、何の前触れもなくその暴走が何事もなく止まり、辺りには静けさだけが漂っていた。だけど、火竜王は違っていた」 「違っていた?」 「うん。突如胸を抑えて大地に落ちた。見守っていた他の竜王が慌てて駆け寄ったとき、火竜王の身体からは至る所から血が流れ出ていたという。慌てて竜王たちが助け起こしたところ、火竜王の身体は海綿のようにになり、押さえれば皮膚から血が滲み出た。そのときにはもう火竜王は絶命してたんだ」 「そんな…」 「それだけで済むなら別に伝承するほどでもないさ。竜王は元は生き物だから息を引き取るし、遺体は棺に入れて殯楼宮(もがりのろうぐう)と呼ばれる安置所に安置される。殯の間は堂は封印され、殯が済むと出されてるんだけど、その時は棺の中は遺品以外空っぽになっている。殯の間に遺体は異界に旅立つんだ。そして、この間俺達が見たように御神体像になるんだと思う。だけど、その火竜王はその段階をすべて吹っ飛ばして、いきなり球体になって消えたらしい。 それを見た別の竜王たちが涙を流しながら口々に『覿罪(てきざい)だ…。何もやらず異界に行った』って言ったらしい。竜王は感情のあまり民を大量虐殺してはいけない。それが神帝の意志であると。だから火竜王はそれに反したが故に絶命したのだと。それが俺が聞いた伝承だ」 「それっておかしくないか?」 「おかしいとも。竜王たちは何も分からなかった。なのに、いきなりこうなった。すべての段階をすっ飛ばすなんて大それたことなんて竜王にできるもんか。それなのにやってしまったのは神帝以外いないってことだ」 「なんか…竜王はすべての神さまだからとても偉いと思ってた…。だけどちゃんと目に見えない監視役の御方が居るんだね」 「そうなるな…」 「重苦しい話の中、割り込むようだけどいいかな?」 とすっかり思い空気に浸る俺たちに、宮様が申し訳なさそうに割り込んできた。 「とりあえず、洸流とレスカ君には最初は神官の指示に従っていればいい。あとは適当に動けるから」 「そういえば、即位のとき俺達の格好はどうなるんですか?先に即位した二人も衣装を着るんですか?」 とレスカが話を変えて訊ねると、宮様は途端とにんまりと含み笑いをし、 「ふっふっふ。もちろんだとも。今回は全員揃ったからね。全員の衣装をフルチェンジだ。もうとっくに出来ていてあとは裾合わせすればいいだけだが、今回のは前回の即位式に比べて豪華になるぞ〜〜〜♪」 「はひ?!」 万面な笑みの宮様の言葉に素っ頓狂の声をあげる北都。何気によく見ると、北都の腰は引けていた。 「なぁに。少々冠や服の飾りが増えるだけだ」 「アレだけでも十分多いっすよ…」 「まあ、気にするな」 と北都の言葉をさらりと流す宮様。 「そんなわけで、私の珠喬も呼んで四人全員衣装合わせだ」 『え?!』 「文句は言わせないぞ〜♪」 そう言って宮様はパチンッと指を鳴らすと、宮様専用の着替えさせ隊がどこからともなく出てきて俺達が嫌がるのを無視して次々に用意された衣装を俺たちに着替えさせていくのであった。 |
| 続く→ |