バタン! ドアを閉める彼。今度こそ屋内だ… 建物の外観では、ドアを開ければすぐに屋内になっているようであるのに、 なぜ「外」だったのか? そしてあの雪の中、コートこそ着ているが 傘もささずに読書している妙な男。あれは一体何者なのか? 恐る恐る一度閉めたドアの外をそっと覗いてみましたが。 誰もいません。 それどころか、そこは1枚目のドアを開ける前の風景、 彼がさっきまで歩いてきた風景そのままだったのです。 雪なんて降ってもいません。 頭の中が混乱しているあなたのもとへ、二つの影が。 お店の女の子です。 「ようこそいらっしゃいませーv」 「この寒い中、ありがとうございまーすv」 |
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| 先程までの鼓動の高鳴りは別のものになりつつありました。 店の中は彼女たち同様クリスマス仕様にしてあり、 色とりどりのイルミネーションが飾られた大きなツリーが 彼を出迎えました。 席に案内され、二人に接待されてくつろぐ彼。 お酒も注がれます。 どうやらこのお店は、彼女たちが二人だけで切り盛りしているようでした。 一人は、身長の高いスレンダー・ボディ、 美人とはいえないけれど人なつっこくてどこか幼い面差しのケンコ。 もう一人は、小柄でくっきりとした二重まぶたの大きな目、 女の子らしくて落ち着いた感じのテツコ。 どちらも魅力的な女の子です。 へぇ、こんないいお店あったんだ…。若いのにすごいなぁ… 彼は感心してしまいます。 話し上手、聞き上手な彼女たち。 そのうち、青年はさっきドアの外であったことを話しました。 すると… 「…あぁ、やっぱり」 …やっぱり? 「えぇ、やっぱり今年も出たのね。彼が」 …はい? 「あのね、毎年クリスマス・イブになると、お客さんから同じことを聞くの。 噂によると…昔この時期、このあたりで亡くなった画家らしいわ」 …えぇ!? 「そう…窓から飛び降りて。遺書には『鳥になりたい』って…」 …えぇえ!? 「もう、やめましょ!クリスマスにこんな話!…ね?」 暗くなった空気を一掃しようと、彼女達は努めて明るく振舞ったので アルコールの入っていた彼はますます気分が良くなってきました。 でもちょっと腑に落ちないことが。 お客はどうやら彼一人みたいなのです。 女の子がこれだけ魅力的、しかもクリスマス・イブなのに、 お客が自分だけというのは、何か不自然なのでは… まぁいいや、楽しいから。 女の子はかわいいし楽しいし、お酒も料理も、なんて美味しいんだろう! これは貸し切り状態だ。結構なことじゃないか! こうしてイブの夜は更けていったのです。 どれぐらい時間が経ったでしょうか。 気が付くと彼の視界に入ってきたのは、白い天井、白い壁… 彼はベッドの上で仰向けに寝ていました。 どうやらここは病院のようです。 ……? ぼんやりしていると、友人が脇にいるのが分かりました。 事情を訊いてみると、友人はこんなことを話し出したのです。 昨夜あの後まっすぐ帰らなかっただろう。 泥酔して廃屋の前で倒れているところを 通りがかりの人が見つけたんだよ。 この寒空の下、もう少し遅かったら確実に死んでいただろう …と。 程なく退院した彼は、コートのポケットに何か入っていることに気が付きました。 カードのようなものです。 それにはこう書いてありました。 「●●様。 イブの夜はとても楽しかったですねv またお会いしたいです。 来年のイブもぜひ、当店へお越しください。 こちらのカードは大切に保管なさってくださいねv ケンコ&テツコ」 |
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彼は恐ろしくなって、カードを破り捨てました。 もうあのお店には行くことはないでしょう。 ただ、夏になった今でも、彼にはとても気になることがありました。 自分が「美味しい」といって口にしていたものは、一体なんだったのか。 でも世の中には知らなくていいこともあります。 次のクリスマス・イブ。 この奇妙な世界へのドアを開けるのは、 あなたかもしれません。 |
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ストーリー・テラー
えせタモリ
3枚のイラスト(最後のもののみ描き下ろし)を繋ぎ合わせたら、
こんな妖怪話みたいになってしまいました。
HYDEさんのは12月25日のみのアップでしたね。
脳内BGMは「世にも奇妙な物語」テーマ曲でお願いします。