絶対憂鬱になる朝

私こと遠坂凛は、優等生というイメージを保つ為

身体にひたすら鞭を打って、学園へと行く

『どんな時でも余裕をもって優雅たれ』

完璧で通る為には、苦になる朝でも耐えて笑顔を振り撒く

そうして、学校ではまさに優雅な時を過ごすのだ

最近はへっぽこ魔術師やら腹ペコ獅子やらが居るせいで

『優雅』なんていう言葉は忘れてたけど

たまにこうして一人で来ると思い出す

「やっぱり一人は楽だわぁ」

(凛、そんなことしていると猫が離れていくぞ?)

「いいのよ。誰もいないし」

(いや、いないこともないんだが?)

「え?」

霊体化させてるアーチャーの言葉に、辺りを見回す



「あ、遠坂さんだ」

「うわっ、遠坂かよっ」

陸上三姉妹のうち、三枝さんと蒔寺さんの姿が見えた

今日は氷室さんは一緒ではないらしい

「お早う御座います、お二方。部活動のお努め、ご苦労様ですわ」

「あ、おはようございますっ」

「由紀っち、こんなのに丁寧に返さなくてもいいんだよっ!」

「こんなのは、は失礼だよ、蒔ちゃん」

いつもながらに仲が良い2人

「……………………」

私はその会話を聞きながら、窓の外を見ていた……










昼休み

いつもどおり士郎を誘って屋上へ

士郎の作ってくれたお弁当は美味しいからねー

「お弁当だけは敵わないものねぇ……」

「いや、そうでもないだろ」

特に話すこともなく、手を動かし口を動かす

あぁ、ほんとに美味しいわ


ぎぃぃ……


ふいに、屋上の扉が開いた

あまり予想していないことに、士郎と私は慌てる

そこに現れたのは、一人の少女

確か……さんだったと思うんだけど

「確か、さんでしたよね?」

「あ、はい。ども」

やっぱり

あの綺麗な翠髪は、目立つので覚えていた

碧眼と相俟って映える容姿は、結構羨む娘も多いだろう

「それで、どちらに御用でしょうか?」

「えと、遠坂さんでいいや」

いや、『いいや』って、特に誰でもいいのか

「遠坂さん。ついでに衛宮君」

そして、私たちは驚くことになる

その言葉は、私たちにしては禁忌に値するものだから

「────貴方達、魔術師?」










* * * * *










「────貴方達、魔術師?」

そう訊ねると、遠坂さんの表情が一気に崩れた

衛宮君の表情も険しいものだ

「あ、あれ、勘が中ったって感じ……?」

私自身も驚きだ


「周りに一人は、魔術師がいる」


そんな言葉を言われて、本当かを確かめようとして

魔術師っていうなら、なんか不思議な雰囲気を持った人なんだろうと思って

なら、学園一の令嬢と名高い、遠坂凛嬢に当たりを付けて

話し、かけて、みたんだけど……

「貴女、何者?」

鋭い視線を向けてくる遠坂さん

い、いや、なんか怒ってませんか?

「何者って……私立穂群原学園の一生徒、ですけど」

「……ちょっと嘗められてる、私?」

うわっ、なんかすっごいいい笑顔をくれてる遠坂さんがいる

後ろにいる衛宮君、なんか震えてるし

「えぇ、ここなら人が来ないでしょうしね。──やってやろうじゃないの!」


──遠坂さんが私に人差し指を向ける

──遠坂さんの腕が、光る

──空気が痺れる、揺れる


「うっ……」

気分が、悪い

脚がふらつく、頭が呆とする

だんだんと視界が揺れ始める

苦しい、苦しい、苦しい、苦しい

渇望するように叫ぶ声は、あの時とまるで同じだ

なら、この後の結果も同じ

「──……! ……っ!!」

「──……? !! ……っ!」

何か叫ぶ声が聞こえる

でも、聞こえるのは『苦しい』という身体の悲鳴

ひんやりとする、多分、コンクリート

そして、視界は、クロに染ま────










「遠坂! その娘、何かおかしいぞっ!」

「えっ!?」

士郎に後ろから叫ばれる

それと同時に、さんの身体が崩れ落ちる

え、まだ、撃ってないのに……

「大丈夫か! 大丈夫か、君っ!!」

士郎が近寄り、声をかけるが返答は無し

気を失ってるようだ

「遠坂。まさか、本気で撃った、とか?」

「えっ!? いや、どう見ても撃つ前だったじゃないっ!!」

「そうだよな……」

一体、何が起きたっていうのだろう

「とりあえず、保健室に連れて行こう」

「そうね。私が担任に言っとくわ」

「よろしくな」

とりあえず、放課後にでも訊ねてみよう……