「フリングス少将!」

「ご苦労だった。彼らは此方で引き取るが、問題ないかな?」

「はっ!」

 

フリングスと呼ばれた男が、俺の方に寄ってきた。

 

「ルーク殿ですね。ファブレ公爵のご子息の」

「どうして俺の事を?」

「ジェイド大佐から、あなた方をテオルの森の方へ迎えにいって欲しいと頼まれました」

 

…方へって、ジェイドのやつは結構アバウトに説明したんだな。

 

「その前に森へ入られたようですが…」

「すまない。マルクトの兵士が殺されていたから、このままでは危険だと判断させていただいた」

「いえ、お礼を言うのはこちらの方です」

 

ほう、中々しっかりと物事を見抜く男じゃないか。

 

「ただ騒ぎになってしまいましたので皇帝陛下に謁見するまで、皆さんは捕虜扱いとさせて頂きます」

「そこらへんは任せる。それより、仲間が一人倒れたんだ…。

イオンが言うには、カースロットだっけ?それにかけらてているらしいんだ。

しかも抵抗もろくに出来ないほど侵食されていてな」

「どこか安静に出来る場所を貸して下されば、僕が解呪します」

 

イオンがそう言い、フリングス少将に願い出た。

 

「何とか出来るのか?」

「というより、僕にしか出来ないでしょう。これは本来導師にしか伝えられていないダアト式譜術ですから」

 

ダアト式譜術ね…。

便利のいい術もってるなー。

 

「わかりました。城下に宿を取らせましょう。しかし陛下への謁見が…」

「皇帝陛下にはいずれ別の機会にお目にかかります。今はガイの方が心配です」

「わかりました。では部下を宿に残します」

「私も残りますっ!イオン様の護衛なんですから」

 

アニスは立場上イオンにつくか。

 

「…ルーク。いずれわかることですから、今、お話しておきます。

カースロットというのは、けして意のままに相手を操れる術ではないんです」

「どういうことだ?」

「カースロットは記憶を揺り起こし、理性を麻痺させる術。

つまり…元々ガイにあなたへの強い殺意がなければ、攻撃するような真似はだきない。

…そういうことです」

「…ふーん」

「解呪がすむまで、ガイに近寄ってはいけません」

 

あの、イオンさん?

今、ガイを抱えてるのは他ならぬワタクシなんですが(汗

とまぁそんな訳で、兵士にガイを運ばせて、俺はガイから距離をとることになった。

 

「よろしければ、しばし城下をご覧になってはいかがですか?

街の外には出られませんが、気を落ち着けるにはその方が…」

「あぁ、そうさせてもらうぞ」

「わかりました。それでは我々は城の前で控えていますので、声をかけて下さい」

 

フリングスとはこの場で別れた。

 

「…ガイに殺意ね」

 

…はて、心あたりが多すぎて何とも言えないんですが(汗

 

「すまないが、少し一人にしてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルークっ!」

「ん?どうしたティア」

 

なにやら焦った様子で走り寄ってくるティアさんがいらっしゃいました。

 

「ミュウから聞いたわっ!」

「何を慌ててるんだ?そもそもミュウから何を聞いたかすら俺には分からないんだが」

「背中から血が出てるのよっ!」

 

…ん?

背中とな?首を捻って見るとそこは赤い世界が広がっていた。

 

「ぬおっ!」

 

俺の背中が血だらけジャン!

 

「なんじゃこりゃー!ですの」

 

お前が言うのかよミュウ。

 

「どうしてこんなになるまで放っておくのよっ!」

 

そもそもガイ優先だったから。放って置いた訳じゃないんだが…

 

「あなたバカ?」

 

ひでぇ(泣

 

「あなた約束を全然守ってないじゃない。

クリフォトで私とした約束の意味がないじゃない!」

 

ごもっとも

 

「すまん。無理してるつーか、忘れてたっつーか。

まぁ、とりあえず治療してくれないか?ってイタタタタッ!」

 

わざと傷口触ってるでしょっ!?

 

「…あ、そういえば」

「どうしたの?」

「いや、ガイを背負って来たわけだから、ガイにもべっとりと血がついてるかなーっと」

「…別に怪我してるわけじゃないからいいと思うわ」

 

そーかな〜

 

 

 

…空想

 

「イ、イオン様っ!ガイが大量出血してますよ〜っ!」

「いけませんっ!早く治療を…っ!」

 

…空想想終わり

 

 

 

な〜んて事になってたり…?

 

 

 

…現実

 

「あ、イオン様。ガイが大量出血してますよ〜?」

「大丈夫です。ガイですから」

 

…終わり

 

 

 

ま、いいか(ぁ

 

「…終わったわ」

「サンキュー」

「ルーク」

 

そっと俺の背中に手で触れるティア。

 

「もう、あまり心配させないで…」

「うい」

 

ティアの表情は見えない。…泣いてないよな?

 

「さ、ナタリア達と合流して皇帝に会いに行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員がそろい、リフングスと落ち合い直ぐに皇帝との謁見に入った。

 

「よう、あんたたちか。俺のジェイドを連れ回して帰しちゃくれなかったのは」

 

何か、妙にフレンドリーな皇帝だな。

 

「こいつアンチフォンスロットなんて喰らいやがって。使えない奴で困ったろう?」

「いえ、そんなことはないとかと…」

「陛下。客人を戸惑わせてどうされますか」

 

初めからフレンドリーなのは久々で戸惑っていると、ジェイドから助け舟が出された。

 

「ハハッ、違いねぇ。アホ話してても始まらんな。

本題に入ろうか。ジェイドから大方の話は聞いている」

 

それは結構。

 

「このままだとセントビナーがクリフォトに崩落するの危険があります」

「かもしれんな。実際、セントビナーの周辺は地盤沈下を起こしているそうだ」

「では、街の住人を避難させなければなりません」

「そうしてやりたいのは山々だが、議会では渋る声が多くてな」

 

…まぁ、このタイミングだからな。

 

「何故ですの、陛下。自国の民が苦しんでおられるのに…」

「ナタリア、キムラスカからの圧力があるんだろ」

 

うかつには動けないのは重々承知してるんだがな〜。

 

「キムラスカ・ランバルディア王国から声明があったのだ。王女ナタリアと第三王位継承者ルークを亡き者にせんと。

アクゼリュスごと消滅を謀ったマルクトに対し、遺憾の意を表し、強く抗議する。

そしてローレライとユリアの名のもと、直ちに制裁を加えるであろう、とな」

 

…はぁ、宣戦布告か。

 

「父は誤解しているのですわ!」

「果たして誤解であろうか、ナタリア姫。

我らはキムラスカが戦争の口実にアクゼリュスを消滅させたと考えている」

「我が国はそのような卑劣な真似は致しません!」

「ナタリア、落ち着けよ」

 

ナデコナデコ―― 場も考えずにナデナデ発動(ぁ

 

「ル、ルークっ!何もこのような場で」

「ナタリア、どうせジェイドが事情を全部話してる。噛み付いたって同じ事だぞ。

それに…、本当にキムラスカが戦争のためにアクゼリュスを消滅させたのかは重要ではない。

セントビナーの地盤沈下がキムラスカの仕業だと、議会が思い込んでることが問題なんだよ」

「…ルーク。アナタはそこまで頭が回っていたんですねぇ」

 

ジェイドさん。俺っちよほどアフォキャラ固定だったんですね(泣

 

「どうせ住民の救出に差し向けた軍を街ごと消滅させられるとでも思ってるんだろう?」

「えぇ、そういうことです」

 

まぁ分からんでもないが…

 

「ジェイドの話を聞くまで、キムラスカは超振動を発生させる譜業兵器を開発したと考えていた」

 

まぁ地盤沈下なんて超振動クラスの力じゃないと出来ないからなぁ〜。

 

「少なくともアクゼリュスの消滅はキムラスカの仕業じゃない。

仮にそうだとしてもこのままならセントビナーは崩落する。

それなら街の人を助けたほうがいいと思うが?

……軍が動かないなら俺が動く。不測の事態が起きても、それならマルクト軍への被害はない」

「驚いたな。どうして敵国の王族に名を連ねるお前さんがそんなに必死になる?」

「敵国って概念で考えてないからさ。少なくとも庶民達は当たり前のように行き来してるじゃないか。

大体、今回の事は俺の爪の甘さが引き起こしてるようなもんだからな。

それに、助けられる命を放っておくほどアフォでもない」

「と、言う事らしい。どうだ、ゼーゼマン」

 

隣のおじいちゃんに話をふる皇帝。

しかし、ゼーゼマンとは凄い名前だ(ぁ

 

「お前の愛弟子ジェイドもセントビナーの一件に関しては、こいつらを信じていいと言ってるぜ」

「陛下。こいつらとは失礼ですじゃよ」

 

確かに失礼だな。

ま、陛下だからな(ぉ

 

「セントビナーの救出は私の部隊とルークたちで行い、北上してくるキムラスカ軍はノルドハイム将軍が牽制なさるのがよろしいかと愚考しますが」

「小生意気を言いおって。まぁよかろう。その方向で議会に働きかけておきましょうかな」

 

ジェイドの提案は無事通ったようだ。

 

「恩に着るぜ、じーさん」

「じゃあ、セントビナーは見殺しにしないんだな」

「無論しないさ。とはいえ、助けに行くのは貴公らだがな」

 

そう言って陛下は、態々椅子から立ち上がり俺の前に来た。

 

「…俺の大事な国民だ。救出に力を貸して欲しい。頼む」

「全力を尽くします」

 

…キムラスカの王とは違って、いい眼を持つ者だな。

こんな皇帝なら、皆もついてくるだろう。

 

「俺はこれから議会を招集しなきゃならん。あとは任せたぞ、ジェイド」

 

こうして、セントビナー周辺の人々を救出する手はずが整った。

 

「やれやれ、大仕事ですよ。

一つの街の住人を全員避難させるというのは」

「どうすればいいと思う?

陛下の話にもあったげどよ、アクゼリュス消滅の二の舞を恐れて軍が街に入るのを躊躇ってるんだろ?」

「えぇ、そうです。ですからまずは我々がセントビナーへ入り、マクガバン元元帥にお力をお借りしましょう」

 

と言う事で、ガイたちの居る宿に戻る事に…

 

 

 

 

 

 

宿に戻ると、兵士が立っていた。

その兵士によると、無事解呪は成功したそうだ。

 

「ぃょぅ、ガイ。お目覚めか?」

「…ルーク」

「さて、俺はお前にかなり嫌な思いをさせて訳だが」

「ははははっ、なんだそれ」

 

笑い事じゃねぇ、こっちは背中きられたんだぞ?

 

「…お前のせいじゃないよ。

俺がお前の事を殺したいほど憎んでたのは、お前のせいじゃない」

 

すまん。何を言ってるんだ?

俺のせいじゃないのに俺を憎むのガイの思考が分からんのだが…

 

「俺は…、マルクトの人間なんだ」

 

…へ?

 

「俺はホド生まれなんだよ。で、俺が五歳の誕生日にさ、屋敷に親戚が集まったんだ。

んで、予言士が俺のスコアを詠もうとした時、戦争が始まった」

 

…ホド戦争か。

 

「…そうか。ホドを攻めたのはファブレ公爵、つまり俺の親父だったな」

「そう。俺の家族は公爵に殺された。家族だけじゃねぇ。使用人も親戚も。

あいつは、俺の大事なものを笑いながら踏みにじったんだ。

……だから俺は、公爵に俺と同じ思いを味あわせてやるつもりだった」

「お前が公爵家に入り込んだのは、復習のため、か。ガルディオス伯爵家。ガイラルディア・ガラン」

「…っ!…ルーク、お前知ってたのか」

「まぁな。ちょっと気になったから、調べたんだ。ガイの剣術はホド独特の盾を持たない剣術。アルバート流だからな」

 

そして、ヴァンも…な。

 

「…で、お前に聞きたいんだが、俺の傍にはいたくないんじゃないか?まぁ、所詮レプリカだが、ファブレ家の人間だしな〜」

「そんなことねーよ。そりゃ、全くわだかまりがないと言えば嘘になるがな」

 

ほんと、どこまでいい奴だな。

 

「おまえが俺についてこられるのが嫌だってんなら、すっぱり離れるさ。

そうでないなら、もう少し一緒に旅させてもらえないか?

まだ、確認したい事があるんだ」

「……そうか、ガイの事を信じるさ。いや…、ガイ、信じてくれ。…だな」

「はは、いいじゃねえか。どちだって」

 

それもそうだな。

 

「さて、いい感じに落ち着いたようですし、そろそろセントビナーへ向かいましょうか」

「あぁ、使者のからから聞きました。セントビナーに行くって。

でもイオン様はカースロットを解いてお疲れだし、危険だから私とここにのこります」

「アニス。僕なら大丈夫です。それに僕が皆さんと一緒に行けばお役に立てるかもしれません」

「イオン様!?」

「アニス。それに皆さん。僕も連れて行ってください。お願いします」

 

…なんだろう。イオンの奴、随分力入ってるな〜。

 

「ヴァンがイオンを狙ってるなら、何処に居ても危険だからな。いいだろう、みんな」

「目が届くだけ、身近の方がマシということですか。しかたないですね」

 

ジェイドの許しもでたし、全員でセントビナー行きが決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急いでセントビナーに来た俺達は、マルクト軍基地内にいるマクガヴァンのところに向かった。

 

「ですから父上、カイツールを突破された今、この街を離れるわけにはいかんのです」

「しかし民間人だけも逃がさんと、地盤沈下でアクゼリュスの二の舞じゃ!」

「皇帝陛下のご命令がなければ、我々は動けません!」

 

部屋に入ると、グレンと老マクガヴァンの親子喧嘩が始まっていた。

 

「ピオニー皇帝の命令ならでたぞ」

『!』

 

二人が驚き、俺達のほうを向いた。

 

「カーティス大佐!?生きておられたか!」

「して、陛下はなんと?」

「民間時をエンゲーブ方面へ避難させるようにとのことです」

「しかし、それではこの街の守りが…」

 

そんな事を言ってる場合じゃない。この辺り、すでに崩落が始まってるだろ。

 

「街道の途中で私の軍が民間人の輸送を引き受けます。駐留軍は民間人移送後、西へ進み東ルグニカ平野でノルドハイム将軍旗下へ加わってください」

「了解した。…セントビナーは放棄するということだな」

 

ジェイドの言葉に何とかなっとくしてもらえた。

 

「よし。わしは街の皆に、この話を伝えてくる」

 

老マクガヴァンは急いで外へ出て行った。

 

「俺達も手伝いに行くぞ」

 

俺達も分散して誘導に入った。

 

 

 

 

 

民間人を誘導の途中、突然譜業ロボ目の前に現れた。

 

「逃げなさい!」

 

ジェイドが結界を張り、譜業ロボの攻撃から民間への被害を食い止める。

 

「ハーッハッハッハッハッ。ようやく見つけましたよ、ジェイド!」

 

…ディストかよ。

 

「この忙しいときに…。昔からあなたは空気が読めませんでしたよねぇ」

「何とでも言いなさい!それより導師イオンを渡していただきます」

「断ります。ソレよりそこをどきなさい」

 

会話になってるようでなってないな…

 

「へぇ?こんな虫けら共を助けようと言うんで「うるせえよ。虫以下が」…今、な〜んと仰いまし「Der Freischutz High-end」…した?」

 

ドンッ!―― ディストの譜業が視界から消えた。んでもってその場には穴が出来ていた。

 

「わ、私の譜業ロボ、カイザーディスト号を何処にやりやがりました!?」

「さぁ、クリフォトにでも落っこちたんじゃないか?ほら、ここら辺の地面が緩いしな」

「ルーク、幾らなんでもやりすぎですわ」

「ナタリア、こういうアフォは口で言っても説得できんぞ」

「だからと言って、あなたが武力に回ったらこのTOA性格改変の内容のバランスがずれるでわありませんか!」

「…そだな」

 

いやー、失礼(テヘ

 

「…コホン。覚えてなさい!今度こそお前達を、ギタギタにしてやりますからねっ!」

 

あ、逃げてった。

 

「無駄だとは思うが、念のため追跡しろ」

「はっ」

 

ジェイドの指令で兵士が追跡して行った。

ズガガガガガガッ―― 更に狙ったようなタイミングで激しい地震がセントビナーを襲う。

地面が割れ、セントビナーは完全に離れ小島常態に陥った。

その隔離された場所にはまだ人々が残っている。

 

「ちっ、まだ人はいるぞ」

「待ってルーク!それなら私が飛び降りて譜歌を詠えば…!」

 

俺が飛び出しそうなところで、ティアが止めに入ってきた。

 

「待ちなさい。まだ相当数の住人がとり残されています。アナタの譜歌で全員を守るには難しい。確実な方法を考えましょう」

 

更にティアを止めるジェイド。

確かにジェイドの言うとおり、今のティアは全員を守るほどの力は無い。

 

「わしらの事は気にするなーっ!それより街の皆を頼むぞーっ!」

 

老マクガヴァンが此方にそう叫んできた。

 

「どうにかできないものか」

「空を飛べればいいのにね」

 

アニス、何で俺を見ながら言うのですか?

 

「空か。……ジェイド。今からシェリダンに向かう余裕はあると思うか?」

「シェリダンですか?」

「そうか!ルークの考えてる事が分かったぜ。飛行実験の話のことだろ」

 

流石自称音機関好きで女性恐怖症のガイ。

少し有名になったからな。

 

「飛行実験?」

「確か教団が発掘したっていう、大昔の浮力機関らしいぜ。

ユリアの頃はそれを乗り物につけて、飛んでたんだってさ。

音機関好きの間で、ちょっと話題になってた」

 

とガイが詳しく説明する。

 

「確かにキムラスカと技術協力するという話に、了承印を押しました。飛行実験は始まっている筈です」

 

イオンにも心当たりがあるらしく、希望の光が見え始める。

 

「それじゃ、その飛行実験に使ってる奴を借りてくるか。急げば皆を助けられるぞ」

「しかし間に合いますか?アクゼリュスとは状況が違うようですが、それでも…」

「兄の話ではホドの崩落にはかなり日数がかかったそうです。

クリフォトと外殻大地の間には、ディバイディングラインという力場があって、そこを越えた直後、急速に落下速度が上がるとか…」

 

ジェイドの疑問は同意だったが、ティアの説明で時間を稼げる事が判明した。

 

「やれるだけやるぞ」

 

こうして、飛行実験で使っているモノを借りるため、シェリダンへ向かうことに。