今日はクリスマスイブだというのに、俺――――相沢祐一はバイトを終えて帰宅。
 家には誰もいない。親は仕事だ。息子がグレてんのに。
 かといって、喧嘩なんてしないし。酒と煙草はやってるけど。まぁ、好奇心でやっちゃう日本高校生男児も少なくないって。たぶん。

「たーだいま」

 しーん。
 だから誰もいねぇっての。
 俺一人だってのに無駄にでかい自宅。俺の部屋は二階ってことで、階段を上がっていく。

「はー。サンタでもきてくんねぇかな」

 愚痴。もちろん、無駄だってわかってる。ずっと一人で居たら人が恋しくなるのさ。……ガラじゃねぇか。
 ガチャ。引きドア。

「おかえりなさいっ」

 バッターン!!押し戻しドア。
 幻覚だ。間違いない。そうでなけりゃ俺の部屋にサンタクロースのコスプレした姉ちゃんなんていない。うん、そうだ。
 ガチャ。

「どうして閉めるかなぁ?」
「……」

 バッターン!!

「はー。疲れてるな俺。すーはーすーはー。……オーケィ。いつもの俺だ。いくぞ相沢祐一」

 深呼吸は完璧だ。文句のつけようもない100万点。さぁ、寝るか。
 ガチャ。

「うぅ……あたしのこと嫌いなのかな君」

 再び迷わず扉を閉めようとする。

「あぁっ、待ってよっ」

 のを理性で押し止めた。
 そりゃ半泣きのお姉ちゃんに引き止められたら否応にも体を硬直しちまう。
 あー、なんだこれは。厄介ごとか。そんなのごめんだ。

「……そうか。現実か。疲れてるわけでもなかったか。そりゃそうだ。あれほどの完璧なる深呼吸をしても消えぬ幻覚なんぞリアルに決まっている。で、アンタ誰だ!」
「わっわっ!えっと、ここ近辺を任されているサンタクロースですよぉ」
「寝言は寝て言え。で、誰だコラ。不法侵入か。110を押す練習を毎日してるんだ。一秒で警察繋がっちゃうぜ」

 本当のことを言わせる為、可哀相だと思うけど脅す。警察ほどうっとーしいもんはねぇだろ。

「わーっ!本当ですよぉ。あたしサンタクロースです!」
「……はぁ。わぁったよ。アンタはサンタ。で、サンタが何のようだよ……」

 何かもかもがめんどくさいのでこの意味がわからん現状は受け止めることにした。もうどうにでもなれっ。

「プレゼントを持ってきましたっ」
「はぁ?」
「あ、あのっ、ほんとですよぉ?」

 なんと高校一年生の日本男児相沢祐一に、身長は170前後でショートの髪に赤いサンタ帽子をかぽっと被り全身真っ赤サンタ衣装の可愛い系お姉さんはプレゼントを持ってきたらしい。

「はー。で、そのプレゼントとやらはどれだよ」

 くれるものは貰っておく。いつの時代も学生は貧乏なのだ。

「あたしですっ」

 あぁ、もう、どうにでもなれっ。






クリスマスプレゼントは恋の夢








「おはよーございますっ。朝ですよ、祐一くんっ」

 そんなソプラノボイスとカーテンが開く音。ぬお、眩しい。
 瞼を硬く閉じてるのにこの眩さ。

「今日は地球が蒸発する日か。歴史の教科書に載る出来事じゃねぇか」
「……?寝ぼけてるんですかー?あーさーだーよっ」

 むくっと起き上がればほぼゼロ距離に全身真っ赤衣装なサンタさんのお姉さんがいた。

「……誰だ。あー、夢だ。違いない」
「ゆ、夢じゃないですよぉ!」

 唇にお姉さんの吐息がかかった。リアルな夢だ。俺がちょっと顔を前へ向ければキスっちゃうじゃねぇか。
 試しにやってみた。

 ちゅっ。

「にゃっ!?」

 サンタ姉さんが逃げた。そしてすげー柔らかかった。ファーストキスが夢の中か。まぁ、いいや。どーせ目が覚めれば夢なんて覚えてねーだろーし。

「なななななっ。寝ぼけ面でキスされても嬉しくないですっ」

 あ、泣きそう。なーんか見たことある半泣き表情。確か、昨日帰ってきて、サンタがいて――――あれ?

「……ディスイズリアル?」
「いえすいえすっ」

 発音がなってねぇ。Yesだ!

「……今俺は何やった」
「あたしに……キスを」
「リアリィ?」
「りありー」

 だから発音が……って、待て。ファーストチッスが、寝ぼけ状態で終わったと?

「ノオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
「わわわっ!ゆ、祐一くんっ!?」

 ほとんど記憶にないよっ。唇やわらけーってことしか覚えてねぇ。

「てことでもう一回キスを要求する」

 思春期純情ボーイ相沢祐一。

「えぇっ。……い、いいですよぉ?」
「やり直しはダメ……え?い、いいの?」

 予想外の答えでうろたえる。
 おろおろ。

「は、はいっ」

 あ、目を閉じちゃった。
 これは引くことは許されないようだ。漢だろ、祐一!覚悟を決めてさぁ行くぞ!
 なんとなく肩に手を置いた。ビクっと揺れたけど、もう止まらない。
 ゆっくり薄紅色のサンタ唇に自分の唇を近づけてゆく。

 どきどき。

 やべ、キスってこんな緊張するのか。
 うお、吐息がくすぐってぇ。

 ちゅっ。

 唇が繋がったのは一瞬で、柔らかくて暖かい――――久しく感じた温もりだった。
 唇が離れても俺は肩の上に手を乗せたまま、見つめ合う。

「……あー今更だけど良かったのか?俺なんかとキスして」
「は、はい……。『あたし』がクリスマスプレゼントですからっ!」

 そういえばこのサンタはそんなこと言ってたっけ。てことはあんなことこんなことをしても良いってことでしょうか?

「……祐一くん?なーんか目がやらしいなぁ?」
「はっ。んやー?エッチなことなんてこれっぽっちも考えてねぇぞ」

 ごめんなさい。妄想全開でした。

「ふふっ。あたしはかまわないけどねっ」

 それで冷静になれた。いつものコドッキー【孤独引き篭もり】『相沢祐一』へとスイッチが切り替わった。

「はっ。自分をそんな安く売るんじゃねぇよ阿呆」

 あぁ、なんて冷たい声。いつから俺はこんな嫌な声を出すようになったのだろうか。

「うぅ。ご、ごめんなさいっ」

 げ、また泣きそうだ!
 切り替わったスイッチが再び戻された。

「ま、待てっ。俺も言い過ぎた。すまん!
 お?何かいい匂いがするぞ!?」

 無理矢理話を変えちまうに限る。

「あっ。朝ごはん作ったんですっ。食べましょう!」
「お、おう。食べようぜ!」

 ほっ。
 笑顔になってくれて嬉しい。
 アンタの泣き顔は酷く心に刺さりやがる。こんなことは、

「ささっ。早くリビングへ行きましょうっ」
「ああ……着替えてからすぐ行く」
「はいっ」

 今までなかったことだ。












「素晴らしい朝飯だった」
「えへへ。ありがとぉ」

 はにかむサンタ。不思議なことに空っぽのハズの冷蔵庫が食料いっぱいになってたんだけど、サンタだしなんでもありだろ。つか、もう考えるのめんどくせぇ。

「はいっ、お茶です」
「ああ、さんきゅ」

 寒い冬はコタツでぬくぬくして熱い茶を飲む。これが日本人。つかサンタって日本人じゃねぇだろ。
 ちらっとサンタを見たが、どっからどー見ても日本人だ。
 クリスチャンの日本人がサンタになったんだ。それで納得しとけ俺。

「何ですかぁ?」

 む、ちら見のつもりがそのまま見入ってしまってたらしい。まぁ、可愛いし仕方が無い。

「や、何でもない。そういえばー、俺は何て呼べばいいんだ?」
「あたしですか?サンタでもサンタさんでも好きなように呼んでくださいっ」

 好きなように呼んでいいらしい。じゃ、お言葉に甘えて。

「殺村」
「い、嫌ですっ」

 拒否られた。好きに呼んじゃダメと。矛盾してるぞ。

「そーだな……」

 真面目に考える。彼女に合う名前、か。

「……有希【ユキ】。希望が有るで有希。どうだ?」

 最初は雪が思い浮かんだけど、それじゃ捻りがない。
 君は俺に、希望を与えてくれる……そんな気がするんだ。
 これはただの直感。この子と過ごすことで、

「わぁっ!有希……良い名前ですね……ありがとぉ、祐一くんっ」

 俺は何か変われるキッカケを掴める。

「ああ……お前にゃピッタシの名前だ、有希」

 そのキッカケを、探そう。












 折角のクリスマスだ。家でごろごろしているのは勿体ない。
 てことで、有希と家を出る。

「なー」
「はいっ?」
「その格好寒くねぇのか?」

 粉雪が舞うこの街。
 サンタ服はどうみても寒そうだ。でっかいコート一枚だけに見えてしょうがない。
 や、もしかしたらあの下にババシャツとか着てるかもしれない。

「はいっ。雪国育ちですからっ」

 なんて笑顔で言いやがった。

「……その中にシャツ着てるとか?」
「へ?ブラとパンツだけですよぉ?」

 ブラとかパンツとか言うな。ちょっと興奮しちゃったじゃないかっ。
 にこにこと自分の言った言葉の大胆さもきっとわかってないだろう。

「どうしたんですかぁ?祐一くーん」

 ぜってぇわかってねぇぞコイツ。

「……何でもねーよ。年末は金ねぇんだ。わりーけど商店街ブラブラでいいか?」

 自分でもかっこわりー台詞だってことは重々理解しております。しかし、親の金は学費以外には絶対使わないと意地になってる故にバイト代はご飯で消えるのです。

「いいですよぉ。祐一くんと一緒ならどこでもっ」

 真冬の雪降る世界に、向日葵の笑顔が咲く。それが酷く愛しく感じて。

「あっ……」
「え?……む」

 気づけば有希と手を繋いでいた。この気温の中でも、何故か有希の手は暖かくて。

「えへへっ」

 その笑顔はとても眩しい。
 きゅっとお互い握り合う。どきどきが止まらない。ったく、忙しいな。俺の心ってやつは。

「……あったけーな」
「はいっ」

 こーゆうのを、幸せって言うんだろう。そう、思った。












 ブラブラと見るだけの冷やかし行動【ウィンドウショッピング】をして、色気もへったくれもないファミレスでご飯を済ませた。
 有希と一緒は楽しすぎて時間はあっと言う間に流れてしまう。
 もっと有希と居たい。彼女と共に、歩みたい。彼女と……繋がりたい。
 あぁ、なんてことだ。

「わーっ。辺り一面銀世界、ですねっ」

 雪が降り積もった人気のない公園。まったくもってその通り、銀世界だ。雲の隙間から顔を除かせる月の光が、反射している。

「相沢祐一は――――」
「……祐一くん?」

 きょとん。と何を言うんだ?という表情の有希。
 なんてこと。紡ぐ言葉なんて考えてないのに。

「有希、お前が――――」
「……嫌だよぉ。言わないで……」

 勝手に、紡いでしまう。もう止まらない。止める気はない。ここで言わないとぜってぇ後悔する。

「好きになっちまったらしい」
「……祐一、くん……」

 それが、クリスマスプレゼントという夢だとしても。

「あ、はは……もぉ……嫌だって言ったのに……」

 有希が、泣いている。ぼろぼろと大粒の涙を、銀の雪に降らしている。
 あー……ついに完璧泣かせちまったか。

別れきえるのがつらくなっちゃうよぉ……」

 でも、此処で言えずに終われば、俺は後悔してしまう。
 それだけはぜってぇ許さねぇ。

「……俺は、有希と過ごした時間を、胸に刻みたい。有希が俺のこと好きかどうか……それによるけどな」

 正直、怖い。相沢祐一、約16年生きてきて怖いという感情を感じたのは初めて。一秒がとてつもなく長いってのはこーゆうことか。
 大粒の涙を流しながら、笑顔になって。

「あたしも、好きだよぉ……。だから……祐一くんを、あたしに刻んで。祐一くんだけの有希に……して」

 想いが繋がった。一夜限りの夢なんかじゃねぇ……この想いは本物だ。此処に俺はいて、有希もいる。

「有希……何処にも行くな」
「うんっ……あたしは、ずっと祐一くんといるよ」

 それは矛盾した会話。だが、今だけは一生歩んでいけれると信じて、唇を合わせた。












 近くにあったベンチ。雪のベッドで肌を重ねる。
 冷たいとは感じない。むしろ、暑い。汗も出てるらしい。
 思ってたよりも体力使うぞこりゃ。
 暢気な考えとは裏腹に、どきどきは最絶頂。今日の朝初キスをしたばかりなんだぞ。展開が速すぎる。つーか俺の惚れるのが早すぎるのか。

「は、う――――祐一、くぅん……」
「あぁ……有希」

 ホワイトクリスマスという聖なる夜に、二人は繋がり――――午前0時へと、夢の終わりへとカウントダウンは開始された。











「んーあー?」

 起き上がれば自分の部屋だった。
 なんか、すげー幸せで切なく儚い終わりを迎えて――――それでもやっぱ幸せな夢を見てた気がする。
 だが、欠片も思いだせねぇ。
 でも無理に思い出す必要はないだろう。幸せな夢だった。それでいい。

「9時か。……げ、バイトじゃねーか!」

 起き上がって急いで着替える。
 さみさみーと言いながらリビングへと。

「あー?なんでリビング来てんだ?」

 バイトに遅刻するかもしれんのに何やってんだ俺は。

「早く行かねーと……んー?」

 リビングを出ようとしたときに、テーブルの上に置かれたMD【Mini Disc】くらいの大きさの紙を見つける。
 そこには、綺麗な筆記体で英語が書かれている。


  Merry Christmas.
  To you whom I love...



        From Yuki


「ユキ……まぁ、いいか」

 これは捨ててはいけないものだと直感で感じ、大事に持つ。これは、俺とユキという子を繋げるものなのだ。根拠はねぇけど、そう思った。

「さって、いってきます」

 いつも言わない言葉。誰もいねぇ家に言うと独りなんだと実感してしまう。でも、今日は違った。
 あぁ、今日は特別だ。

 ――――いってらっしゃいっ。


















 メリークリスマスっ!


あとがき
 メリークリスマス(現在12/26)
 間に合ってないっ。まぁ、些細なことは気にしません。
 サンタさんとカップル。一度やってみたかったのです。
 聖なる夜の下に――――乾杯。

 別れる【消える】ルビが潰れてて良く見えなかったので一応。

 Merry Christmas. 【メリークリスマス】
 To you whom I love...【私の愛する貴方へ……】
 From Yuki【有希より】

 2005/12/26 つきみ

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