ムーンライトでスターダストな世界
LARS JANSSON / A WINDOW TOWARDS BEING



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 稲垣足穂=イナガキ・タルホという作家がいた。とても珍妙な文章を書く人なのだが、とてもムーンライトで、スターダストなものを書くのだ。何のことかと言えば、「一千一秒物語」というのでは、月やら星が人間と言い合いをしたり喧嘩をしたり、嘘をついたり、騙しあったり、そんな様な短い文章を書くのだ。例えば、「黒猫のしっぽを切った話」というやつ。
 『黒猫のしっぽを切った話』
 「ある晩 黒猫をつかまえて鋏でしっぽを切るとパチン!と黄色い煙になってしまった 頭の上でキャッ!という声がした 窓をあけると 尾のないホーキ星が逃げていくのが見えた」
 なんて言う感じでである。こういう詩だか短文だかわからない様な具合なのだが、まるでサン・テグジェペリの「星の王子様」風な気持ちになる。テグジェペリの絵本のなかに、帽子が地面に落ちているような絵があって、実はそれが蛇が象を呑み込んだものだったというのだが、これなども実に素晴らしいセンスだなと思う。
 こういうのを一括して、ムーンライトでスターダストな世界と勝手に思っている。
 さて、ラーシュ・ヤンソンのこのアルバム。彼もアルバムのブックレットに詩編を必ず載せるらしい。それが「音」になって展開する、まさにムーンライトでスターダストな世界・・・。そう思って聴くと素敵な気分になること請け合いである。ピアノとベースとドラムの絡み具合が、月や無数の星や流星が満天に広がって、「ほーっ」と見上げるというような感じで、悦に入るわけだ。それが最初の出だし。
 ところがどっこい、月が喧嘩を売って来た。シェルベリのドラムがはじけ飛び、ダニエルソンのベースが呻りをあげる。ヤンソンは躍起になってその喧嘩をなだめようと、メロディックに奏でるが、とうとう最後まで殴り合いという2曲目。
 とても透明感があるヤンソンのピアノに覆い被さるようなダニエルソンの重量級のベースと他のアルバムでは鳴りを潜めていたシェルベリが今回のは暴れること、暴れること。ドラム好きにはたまらないが、ベース贔屓だって喜んでしまうに違いない。勿論ピアノの美麗フレーズ好きもだが。
 5曲目THE EYE OF CONSCIOUNESSはオーボエとパーカッションの鳴り物入りで、幽玄な雰囲気とアグレッシブなヤンソンのピアノとが交差するのは、ちょっと聴きものだ。が、メインはやっぱりこのトリオの物語を聴こうじゃないか。
 煌めく星明かりを散歩していたら、思わず暗闇に入り込んでしまって抜けられなくなった。ところが何かに蹴躓いて振り向くとさっきキラッと光った星が落っこちて死んでいた。・・・いやいや、タルホの真似をしようと思ったのだが、噸だお粗末だ。ともかく・・・そんなようなお話を思い浮かべるのも一興かと。
 キース・ジャレットのスタンダーズ・トリオの二番煎じなんて思って聴いたら味気なくなる。確かに、それぐらいの貫禄と説得力はあるが、あくまでムーンライトでスターダストな世界を胸に鏤めて聴くべしと思うが如何。

LARS JANSSON:p,sequnceprog
LARS DANIELSSON:b
ANFRES KJELBERG:ds,perc
BRYNJAR BUFF:oboe*
Feb 1991
IMOGENA
1.MORE HUMAN
2.I SEE BETTER WITH MY EYES CLOSED
3.TO THE LITTLE MAN
4.A WINDOW TOWARDS BEING
5.THE EYE OF CONSCIOUSNESS*
6.CONSOLATION
7.MARIONETTE
8.THE MAN WITH THE CUCUMBER
9.THE FACE
10.THE INNER ROOM
11.TO THE MOTHERS IN BRAZIL
12.MA*
13.ATLANTICO*