下手物
SONNY CRISS with GEORGE ARVANITAS / LIVE IN ITALY



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 子供の頃、見た目の悪い下手物というのが、どうも苦手だった。例えばウニとか牡蠣。加えて鳥の足とか実は椎茸なんてのも嫌いだった。ウニや牡蠣はなんとなくわかって貰えるだろうが、鳥の足とか椎茸が何故と思うだろう。鳥の足には骨がみたくないと思ってもついてくるからだし、椎茸を裏返すとあれがわらじ虫がひっくり返った時に見えるのを想像してしまうからだ。
 大人になってそれらはクリアー出来るようになった。椎茸が下手物ぶるいに入るなんてのは全く個人的な想像力の問題に過ぎないが、そういうことは音楽の世界にもある。
 ビリー・ホリディの嗄れ声、セロニアス・モンクのピアノ、そしてこのソニー・クリスの臭いアルト。これは僕が勝手に思っていたジャズ三大下手物と思った時期があった。ところが、子供の頃みるのも厭だったウニとか牡蠣のように、今じゃ大好きなものに入る食材なのだから、大人になるというのは不思議な現象であるなと思う。
 「美人は三日で飽きるが、ブスは三日で慣れる」という失礼な話があるが、そういうこととは幾分ニュアンスが違うのだが、これらジャズ三大下手物をクリアーすれば大抵のものは聴けると思っている。
 ソニー・クリスの臭さは、ポットン便器から匂う臭さというか、田舎のチャーリー・パーカーという風情であって、以前は彼の吹くサマー・タイムを聴いて、いっぺんで嫌いになったもんだ。ここでもやっている。
 ところが、この臭さに慣れるというのか、やめられなくなることがあり得るのだから、人間て不思議な動物である。いっぺんはまると、次から次へと買い込む。これが僕の悪い癖なんだが、「とにもかくにもソニー・クリス」の時期があった。あのスクーターに美女を乗せているジャケットのGO MAN!などは、辺り一面彼の吹く臭いアルトの音で空気の色が変色してしまっていても聴き続けたのだから、おかしなものである。
 さて、このジョルジュ・アルバニタとやったアルバムだが、こりゃあ凄い組み合わせだと有無をも言わず買い込んだ。ところが、ありゃ暗い・・・。まるでジャズ喫茶だ。それまで聴いた便所の100ワットのような無駄な明るさを放っていたクリスのアルトがやや暗い。そのかわり、艶が少しなくなって乾いた臭さに変わっている。
 彼が亡くなったのは77年だから、もう最晩年と言って良いだろう。そうか枯れちゃったんだ・・・とは思ったが、いやいやそんじょそこらの下手物とは訳が違う。ミュージシャンの晩年なんて、叩き潰しても死なない虫みたいなもんで、死ぬ寸前まで勢いを失わない。実に畏れ入る迫力で吹いている。3曲目SONNY'S BLUESなんて凄すぎる。観客は、クリスが思い切り吹ききったところで、思わず「イエー」が出る。
 僕はラバー・マンのベストはジャッキー・マクリーンのジュビリー盤だと信じて疑わないが、あれは彼のデビュー盤だからそれとこのクリスを比べるのも酷というものだが、僕はこの曲が好きで堪らないから、上手く吹いてくれと願うのだが、これがなかなかなのである。強弱をつけ、思い切り吹くところと囁くようにかすれ気味に吹くところがあって、情緒綿々たるクリスのアルトに拍手を送ってしまった。だって、クリスに強弱なんてありゃしない。最初から最後まで抜け抜けの底抜けに伸びきったのしか印象にないからこれは、流石に枯れた味が堪らなく良い。
 まあ、いっぺん試されたし。

SONNY CRISS:as
GEORGE ARVANITAS:p
JACKY SAMSON:b
CHARLES SAUDRAIS:ds
Jam 28,1974
FRESH SOUND
1.TIN TIN DEO
2.LOVER MAN
3.SONNY'S BLUES
4.SUMMERTIME
5.WILLOW WEEP FOR ME
6.SUNNY
7.HOOTI'S BLUES
8.UNTITLED BLUES