Copyright(c)
2001.9.1-2003
JAMAL.
All Rights Reserved

宮本輝の短編
 僕は最近宮本輝の小説を読み返し始めたんだ。彼のものは殆ど読んだけれど、このところ小説でまともに読み終えたのは壇一雄の「火宅の人」だけ。じゃあ他に何を読んでたかといえば、ジャズ関連の書籍や沢木耕太郎のもの、あるいはタイトル的に面白そうなのをやたらめったら読み散らかして、まともに完読したものなど殆どないに等しいわけ。小説などホントに久しぶりで衝動的に「ああ、小説が読みたい」となった時に、そうだもう一回宮本作品を読み直そうと思い立ったんだな。で、彼の小説は流転の海の三部作ということで、「地の星」「血脈の火」と続く。で、まだ新潮で連載していて出版されていない続編があるってことで延々と続くようだ。もう彼のライフ・ワークと言っていいだろう。題材は彼の父(作品の中では熊吾という名前ででてくる)が主人公となって物語りは進められる。大阪出身の彼は大阪を舞台にしたものが多いけれど、これは大阪もそうだけど、戦時中四国の村に疎開していた頃のものもある。で、再び大阪に戻ってのものという具合なんだ。(確か)で、これはECCE HOMO JAZZで少しジャズから離れて一休みしてIkkoh氏(彼も大阪だった)とお互いの好きな作家や読んでいる本の話をしているんだ。そこでも書いたけれど、彼の作品は殆ど必ずと言っていいほど人が死ぬ。しかも酷い死に方ばかりだ。銃で頭を撃ち抜くとか、列車にひかれてバラバラになってしまうとか。なんでこんなに彼は「死」に注目するのかと思ったこともあったけど、結局死と裏返しの生の重みを強調したかったのだろうと思っている。ストーリーを読み進めるほどに生の不思議、生の歓喜等が死と隣り合わせになって描かれているところが特徴に思えたんだ。読み応えという点ではぐっと来るものがあった。割と軽めの素材でも読み終えた充足感は充分に感じられる。これで彼の作品の特徴を本当に言い当てているかどうかは不確かだけど。
 で、つい先日読み終えた短編もので「幻の光」というのがある。これは映画化されていて江角マキコのデビュー作だった。ビデオでみた感じ淡々としたものではあったけれど、何か暗示めいたものを感じた憶えがある。この話は、主人公の独り言という設定で綴られている。このストーリーについては色んなサイトで紹介されているので敢えて書かないけれど、理由のわからない夫の自殺という謎が、ある日再婚相手の一言によって漠然とだけれどわかるんだ。つまり「人間が精が抜けると、死にとうなるんじゃけ」と。
で、主人公は
「・・・確かにこの世には、人間の精を抜いていく病気があるんやと、あれ以来わたしは考えるようになった。体力とか精神力とか、そんなうわべのものやない、もっと奥にある大事な精を奪っていく病気を、人間は自分の中に飼うてるのやないやるか。そうしみじみ思うようになったのでした。」
 と、綴られていた。これは正直言ってわかったようなわからないような言葉だった。
でも、その後の
「そして、そんな病気にかかった人間の心には、この曽々木の海の、一瞬のさざ波は、たとえようもない美しいものに映るかも知れへん。春も盛りになり、濃い緑色に変色してきた曽々木の海の、荒れたり凪いだりしてるさまを眺めて、わたしはひとりうっとりとしていく。」
というくだりで漸く僕もストンと心のツボに落ちた気がしたんだ。こういう短編ものでも他に宮本作品にはいいものが結構ある。で、落としどころが実に旨いなって思う。
これからそれらをまた読みたくなった。

Jazz徒然
アグレッシブさとフリーな異空間サウンドに引き込まれるライブ

Masahiko Togash & J.J.Sprits
Live
Verve
July 26 1992 Live under the Sky "'92"
Masahiko Togashi:per
Pasahiko Satoh:p
Kouske Mine:ts
Nobuyosi Ino:b

1.Action
2.Bonfire
3.Memories
4.Palladium
5.Scrollin'
6.Monk's hat Blues
今週は二転三転してこれに決めた。暫く日本ものをやってなかったということもあるし、一度決めかかったものがいまいち僕のやる気を起こさせないものだったから。で、これはまさに書く気にさせる一物。このメンバーを見てまさに日本ジャズの大御所といったメンバーによろこびを隠せない。聴けば尚更のこと。アグレッシブさが心時めかせる。誰が凄いって揃って凄い。ゴングから入るActionは富樫のソロを導入にしたこのユニットが良く扱う曲だ。富樫のオリジナル。井野の重いベースと富樫のシンバルに乗ってテナーを吹く峰。富樫の叩くのはドラムと言わずパーカッション。車椅子から信じられない曲芸的なパーカッションを繰り広げる。
音の洪水のBonfireなんかホントドシャメシャの大狂乱。まさにフリー・ジャズだ。峰の吹くテーマだけが漸くメロディを保つけれどあとは、パーカッションとピアノとベースが繰り広げるおどろおどろしいまでの音の渦。僕もかなりこういうのに免疫が出来た。寧ろ歓迎している。やってくれ、やってくれ、地獄をみせろみたいなアグレッシブ嗜好が定着してきた。こういうのを聴けば藤井郷子のやるフリー・ジャズなんて割とフォーマットのしっかりしたものに聞える。最後の終わり方がユーモアだ。
一転してダークなイメージのバラードMemories。峰の吹くテナーがいい。ぐっと胸に染みる。彼は曲によってはDexter Gordonを彷彿とする時があるけれど、ここではそれはない。まさに峰節。佐藤のピアノもセンシティブ。中山千夏の旦那だったけど今でもそうかな。80年代以降彼の大活躍した時代がそう言えばあった。今あの人はって感じ。それにしても峰のテナーは男を感じさせるね。ここでは哀愁感もあっていいないいなって思うよ。
佐藤のオリジナルでPalladiumとScrollin'。峰のうねるテナーがいいね。おおよそActionに似た感じの演奏だ。Scrollin'の方はアグレッシブさが勝っている感じだ。かなりフリーで壮絶だな。井野のアルコでやってるソロのあたりはもうどうでもしてくれみたいなもの凄さ。異空間に引きずり込まれたような雰囲気だね。
最後はユーモアのある演奏ながらこれまたドシャメシャ。短いエンディングだった。