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*聞く(聴く)力-その3*
 
 
(前回からの続き)喋りなれてくると、いくらでも口から言葉がポンポンと飛び出す。でも、どうも今の若者のお喋りとは少し違う。相手の言っていることは、きちんと受け止められる。相手が言わんとしていることは、とことんはき出させてからでも、遅くはないと思っている。で、この話の一番先にした医師のことに戻るが、ああいう聞き上手というか、聞くプロに出会うと、益々、「聞く」ことの大事さを実感するのだ。

 それともうひとつ、僕が喋れるようになった大事な要素に「読む」ということがある。これは、今では「聞く」と同機軸なことだと思っている。相手の言わんとしたことを、聞くかわりに、文章化したものを「読む」。これは自分に自信をつけさせるための理論武装のつもりだった。ところが、そういうのは、うまく効果しないことに気づくことになる。つまりは、未整理な言葉のがらくたがいっぱい頭の中に散らばっているだけで、なかなか表にでてこないのだ。出そうとすると、非常にぎこちない言葉となる。これらはまだ自分の言葉じゃないからだ。

 そこで「書く」ということをしてみる。今まで読んだものからテーマを拝借して、自分の身近な事柄から感じたものを、書き綴ってみると、自然が読んできたものの蓄積の中から、繋がってくるものが出てくるのだ。それで、やっと自分のものになってくるわけだ。この作業が、割と効果を発揮することがわかってきた。

 生来書くことが好きだったから、何か書きたいという衝動はいつもあったわけで、そこにあるテーマを持ってくることで、形となる。誰それが言わんとしたことが、初めてすとんと腑に落ちるのだ。

 こうなると、自然と口からも出やすくなってくるという相乗効果があったのだ。

 つまり「聞く」を土台にして、読んだり書いたりすることで、自分自身の語りができてくるのだ。

「きく」にはもうひとつ「聴く」がある。これは、今まさに集中して行っていることだ。そして、聴くを土台に、主観的にであれ聴いたことから受ける印象を書き綴る。聴くことを写実的に書くことが、全くではないが困難なことだと気づいた時、受け取った自分の感性から、イメージを膨らませてみることで、一旦離れた客観性が、そのイメージの中で新たな形となって再現される・・・のではないかという、漠然とした見通しを抱いた。例えば、「りんご」という実物をどう表現するか。それは「赤くて、堅くて、表面がつるつるした物体」といっても、別のものが浮かんでこないとも限らない。そういうことではなくて、一旦「もの」としての客観性から離れて、「甘く酸っぱい果肉を囓ると、何か孤独なもの侘びしさが幼い記憶と共に僕の脳裏に広がる」ってな言い方をすることが出来る・・・ということだ。

 要はこれを「聴く」という経験が、その時だけのことではなく、遠い過去の記憶や僕の結びつきうるイメージの中で広げてみることで、より「ほんものらしさ」を得ることが可能なのではないかと気づきだしたわけだ。

 これはコロンブスの卵のような発見(まあ、誰でも知っていることにやっと気づいただけのことだと思うが)だった。
(続く)

Jazz徒然

ブルージーでスウィングするお薦め盤

John Wright:Mr.Soul
Prestige 7233
John Writht::p
Wendell Marshall:b
Walter Perkins:ds
April 10,1962
1.Our Waltz
2.Blue Prelude
3.What's new
4.Everything's gonna work out fine
5.Mr.Soul
6.Shake
7.Sturt
8.Now hang in there

John WrightのPrestige5部作のひとつ。現在入手可能なのはこの盤と以前コメントしたSouth side soulの2枚だけのようだ。Wrightはオリジナルがよいのだそうだが、この盤では6以下の3曲。1〜3は、ブルーなイメージで哀感迫る雰囲気が良い。1のOur Waltzなどはワルツから軽快にスウィングする形だけど、最初はバラードっぽい出だしできていながらそうなるその切り替わりが抜群に心地よい。2のBlue preludeというのは、Gordon Jenkinsという人の曲で、Sonny CrissのGo man!とか、最近のEddie HigginsのBewitchedにも入っている。まさに哀感籠もった良いテーマだけど、これもスウィング感が良いね。彼はGarland系のピアニストだと思うけど、流麗で小粋なシングル・トーンで楚々と弾くかと思えば、そんな具合のグルービーでスウィングするものをやる。4のEverything's gonna work out fineように陽気でファンキーなゴスペル調のをやったりして、おやおやという感じだ。
5のMr.Soulはタイトル通りのソウルフルでブルージーなものだけど、Wendell MarshallのベースとWalter Perkinsのブラシの歯切れ良さ、そしてWrightの少し硬めのシングル・トーンの彩が良いね。
6のShakeは早いテンポでぶっ飛ばすWrightのオリジナル。ゴスペルを基調にした感じだ。8Now hang in thereはまさにグルービー。
そんな風でブルージーで小粋な彼のピアノ・タッチがなんとも言えず愛着を感じさせる。