クラークのシングル・トーン


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 はじめから聴く気をそがれるものってある。ふざけんなよっと云いたくなるヤツ。それにこのジャケット。バルタン星人かと思った。よくよくみればモブレーがサングラスをかけて、テナーを少し持ち上げ気味に吹いているのを少し下から写したもののようだ。しかし、どうもこの構図はバルタン星人である。僕がこんなことを云うのを変だと思うかも知れないが、怪獣ブームというのは入江徳郎氏が朝日新聞の天声人語を執筆していた当時に始まる。1960年代後半のことだ。この時代は激動の時で、大学紛争が激化し巷ではパンチ族というのが闊歩していた。何故パンチ族なのかと云えば、語源は今は絶版となった週刊誌『平凡パンチ』に当時のファッションであるアイビー・ルックが盛んに載り、アイビーで固めた学生がそれを持ち歩くのが格好よかったのだ。このパンチ族と対照をなすのが、”サンパ”である。つまり学生運動を進める「三派」だ。それから「ババぬき」という言葉が当時の世相を反映した言葉として流行った。これは、「家つき、カーつき、ババ抜き」の一部としての「ババ抜き」である。当時の結婚の条件と姑と同居しないことが声高に言えるようになったと言う意味では、自由な風潮が横溢していたのだろう。日本はアメリカなどから比べれば、何事につけ10年以上は遅れていたと思う。
 さて、このアルバムが出たのが57年だが、当時の若者にとってブルーノート盤自体が凄く新鮮な本場アメリカのジャズの雰囲気を伝えるものとして聴かれたのではと想像する。アイビー・ルックでジャズ喫茶に通い、ブルーノートを聴く。これは想像しただけでもかなり格好の良いことだったんじゃないだろうか。60年代後半と言えば、また、ビートルズが世界を席巻したころでもある。ジャズがロックに取って食われるにはもう少し後のことだろう。ジャズ喫茶は当時全盛であって、さっき云った「サンパ」などは暗がりの中でコルトレーンなどを聴くというのがインテリな雰囲気で、ブルーノート盤などは寧ろ軽薄だったのかも知れない。
 話がかなり飛躍してしまったが、ことの始まりはこの盤の出だしのことだった。どうも、これは当時日本人が映画に出ると、何故か中国風であったなんてことを連想する。だから、「ふざけんなよ」が口をついて出てしまった。それだけのこと。
 このアルバムは3管編成でモブレーの名が冠してある。しかしこれ、他の2名+1のブルーノートデビュー盤なのだ。つまり、カーティス・ポーター、ビル・ハードマン、それにソニー・クラークである。へえ、そうかなと思うかも知れないが、ホントにそうなのだ。
 聴き所は、やはりソニー・クラークの味のあるピアノだ。あの「朝日のごとく爽やかに」を連想するシングル・トーンがいたるところで聴ける幸せ。これにつきる。

HANK MOBLEY / HANK MOBLEY

BILL HARDMAN:tp
CURTIS PORTER(as,ts)
HANK MOBLEY:ts
SONNY CLARK:p
PAUL CHAMBERS:b
ART TAYLOR:ds
1957.6.23
BLUE NOTE 1568
1.MIGHTY MORE & JOE
2.FALLING IN LOVE WITH LOVE
3.BAG'S GROOVE
4.DOUBLE EXPOSURE
5.NEWS