感謝


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 クラシックを素材に演奏したローランド・ハナの最後の録音。見事にジャズだと云うが、クラシックの名曲が普段ジャズばかり聴いていた僕には、新鮮でまた懐かしさも相まって心地よく聴ける。これがハナの最後のものということには、あまり頓着しない。人間最後に良いものを残せるとは限らないし、自ら死を予感して演奏などするものだろうかとも思う。
 余談になるけれど、阿部薫のラスト・レコーディングというのを聴いた時、僕は先入観もあってその壮絶なソロに言葉もなかった。キーキー云うフリー・キー・トーンが延々と続く演奏に、いったい彼はこのとき自分の死が間近にあるのを思って演奏していたのだろうかと、暗澹としたものだ。
 ところが、このハナのものを聴くとまるで、華やかで気力に溢れ艶やかで、「死」など冗談にしか思えない。ただただ聴いて愉しくくつろぐことが出来る。この人のものを聴くようになったのは、ほんの最近のことでしかないから、嘗てどんな経緯であったかなどまるで知らない。しかし、実に柔和な人なのではないかと思った。これまた、人の性格が演奏に出るとも限らないとも思う。だから、わからないけれど、きっとそうなんだろうなと顔写真など見ながらそう思っただけである。
 やはり選んだ曲がどれもくつろぎをもたらす良いものばかりだろう。嘗てジャック・ルーシェというバッハばかり演奏するジャズ・マンがいたが、面白いには面白いが何か遊んでいるようで今は聴きたいとは思わない。ハナのようなセンスのある人にはこういう素材はありがたいものだ。曲の良さを引き出し適度な味付けになっていている。こんな風に聴いて愉しめるからジャズ愛好家も時にはクラシックも聴くと良いなと思った。
 僕は常々、ジャズのことより頭にないジャズ・マンなどいないのだろうと思っている。それは、クラシックを聴くとかそういうことではなくて、日常当たり前のように、本も読むだろうし、他の芸術に触れるのだと思えば、いたって自然なこととしてこういうものも出てくる。聴く側にしたって同じことが言える。ジャズのことより頭にないというも、どんなものか。
 それはさておき、やはりタイトル曲の『夢のあとで』が秀逸だ。あまり言葉を足していくとかえって良くない。胸に迫ってくる。秀逸だ。
 『家路』などは、リズムが生き生きしていて良いと思う。面白いことに、レッド・ガーランドのラストアルバムでもこれをやっている。しかし、ガーランドのほうは、テーマが繰り返し出てきて何かもう情けないという印象が拭えなかったが、ハナのこの演奏は躍動感に溢れていて愉しめる。
 難を云えば、ロン・カーターのベースが単調で別のベイシストだったらもっと聴き所もあったろうにとも思う。でも、類は友を呼ぶというから、何とはなしにそういう人選になったのかも知れない。
 ともかく、ハナの冥福を祈ると同時にこんな素敵なアルバムを残してくれて感謝したい。

ROLAND HANNA / APRLES UN REVE

ROLAND HANNA:p
RON CARTER:b
GRADY TATE:ds
Venus
Sep 22,2002
1.Serenade
2.Apres un Reve
3.This is my beloved
4.Prelude
5.Like Grains of sand
6.Melody in F
7.Elvira Madigan
8.Going Home
9.Based on Gustav