哀切


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 北海道に住む者が残暑などというのは、おかしいが久しぶりに暑い日で秋空がさえ渡り清々しい日、休みだったので、ベランダのカーテン越に風が入ってくるのを感じながら、『西行』を読んでいた。
 西行は高野山に30年間住んでいたが、修行に明け暮れるなどという人ではなく、人恋しさに京に出向いたりあちこち放蕩をするという具合で、その間に多くに和歌をよんだ。桜きちがいで桜の歌ばかり多いが、その他にも心を交わした人とのものも多くあり、その中に能の『江口』、歌舞伎の『時雨西行』に脚色されたある遊女との物語があって、白洲正子はそのことを「江口の里」という章に書いている。これが実に哀切極まる交情が描かれたものだった。
 天王寺へ参った折りに雨が降ってきたので、江口という所に宿を借りようとしたが断られた。
 
 世の中を厭ふまでこそ難(かた)からめ
 仮のやどりを惜しむ君かな
    返し
 家を出づる人とし聞けば仮の宿に
 心となむと思ふばかりぞ

 これは---世の中を厭わしく思って、出家することは難しいであろうが、かりそめの宿を惜しむのはつれない君であるよ、となじったのに対し、女は
  ---出家をした方ならば、仮の宿に執着なさる筈はないと思って、それでお断りしたのです、と。
 これには遊興の地の勃興の変遷の歴史が背景にあるのだが、それは省くとして、この遊女の来し方行く末と西行との短くも哀しい話しに繋がっていくのだ。
 そのことに触れたいのはやまやまだが、ともかく数奇に生きた西行が遊女と心交わした哀切な和歌とこのアルバムの詩情とが重なる。惜しいからその歌だけ記して置こう。西行が遊女の昔年の想いを語り泣きじゃくったやりとりの後、再び逢おうと約束したが、会えなくなり消息を人に託し
 
 かりそめの世には思をのこすなと
 ききし言の葉わすられもせず
 
 と送る。すると 返事が来て

 わすれずとまづきくからに袖ぬれて
 我身はいとふ夢の世の中

 と書いて尼になりましたが、心はまだ思うようにはなりません、と記した後に、

 髪おろし衣の色はそめぬるに
 なほつれなきは心成りけり
 
 とあった。
 

CHARLIE HADEN & PAT METHENY / BEYOND MISSOURI SKY

CHARLIE HADEN:b
PAT MEHENY:g
1996
Verve

1.WALTZ FOR RUTH
2.OUR SPANISH LOVE SONG
3.MESSAGE TO A FRIEND
4.TWO FOR THE ROAD
5.FIRST SONG
6.THE MOON IS A HARSH MISTRESS
7.THE PRECIOUS JEWEL
8.HE'S GONE AWAY
9.THE MOON SONG
10.TEARS OF RAIN
11.CINEMA PARADISO
12.CINEMA PARADISO
13.SPRITUAL